貧乏びんぼう)” の例文
そのわたしの一貧乏びんぼうをして、わたしは、興行師こうぎょうしられましたが、自分じぶん不幸ふこうおもうにつけて、おつたがかわいそうになります。
二人の軽業師 (新字新仮名) / 小川未明(著)
むかし、大和国やまとのくに貧乏びんぼう若者わかものがありました。一人ひとりぼっちで、ふたおやつま子供こどももない上に、使つかってくれる主人しゅじんもまだありませんでした。
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
貧乏びんぼうながら、こせつかずにくらしてゐたことはとぼしきまゝのうたて、いかにもひとなつかしい、善良ぜんりようなこの歌人かじん性質せいしつおもはれます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
木こり夫婦ふうふはたいへん貧乏びんぼうで、その日その日のパンもなく、子どもになにを食べさせたらよいか、とほうにくれるほどでした。
君の様な暇人ひまじんから見れば日本の貧乏びんぼうや、僕等の堕落だらくが気になるかも知れないが、それは此社会に用のない傍観者にして始めてくちにすべき事だ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
わが同胞どうほうはだいたいにおいて貧乏びんぼうであるから、富貴ふうき誘惑ゆうわくなるものを知らない。貧乏人びんぼうにんが金持を批評することは、とかく見当が違うことが多い。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
おれの祖先は、わたり者かも知れない。魚をってカツカツ食って行ったのであろう」そういいながらも、貧乏びんぼうをして何日も飯が食えぬと私を叩き
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
いざ入ってみるとそこは、あまり小奇麗こぎれいとも言えぬ手狭な一間で、貧乏びんぼうくさい家具のならかたも、まるで急場しのぎにやってのけたといった様子だった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
昔、しなの都に、ムスタフという貧乏びんぼうな仕立屋が住んでいました。このムスタフには、おかみさんと、アラジンと呼ぶたった一人の息子むすことがありました。
そこで宿の主人はその出入りの古着商をたずねて行きますと、その人は、あの布団は、町の場末ばすえにあるひどく貧乏びんぼうな商人から買ったのだと言うのでした。
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
そのなかでもとりわけ立派りつぱ總縫模樣そうぬいもやう晴着はれぎがちらと、へいすきから、貧乏びんぼう隣家となりのうらにしてある洗晒あらひざらしの、ところどころあてつぎ などもある單衣ひとへものをみて
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
ある日、そんな風にやっとの努力で渡って行った轍の音をききながら、ほっとして欄干らんかんをはなれようとすると、一人ひとりの男が寄ってきた。貧乏びんぼうたらしく薄汚い。
馬地獄 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
貧乏びんぼうなればこそしゞみかつがせて、此寒空このさむそらちいさなあし草鞋わらじをはかせる親心おやこゝろさつしてくだされとて伯母おばなみだなり。
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ですから、おあにいさまは三年のうちに必ず貧乏びんぼうになっておしまいになります。そうすると、きっとあなたをねたんで殺しにおいでになるに相違ございません。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
その着物に、家の中のあの貧乏びんぼうのにおいや、ポンツクのなまぐさいにおいをつけて、学校へやってくる。そのうえ、注文されなくてもかれは、ときおり放屁ほうひする。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
こうして、じぶんのものも、ちっともだいじにしませんでしたから、貧乏びんぼうになっても、平気でいました。
清兵衛せいべえのような貧乏びんぼうな者が、馬をもとめたとは、あっぱれな心がけ、武士はそうありたいものだ」
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
「よう、ご健康を祝します。いい酒です。貧乏びんぼうぼくのお酒はまた一層いっそうに光っておまけにかるいのだ。」
チュウリップの幻術 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
要吉は、そんなことを思いだすと、みすみすすてるもんだとは思いながらも、貧乏びんぼうなおばあさんや子どもにたいしても、みかんひとつまけてやることができませんでした。
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
この小さい男がもどってると、思いがけなくなにもらえるので、子供たちはうれしがった。彼は貧乏びんぼうだったけれど、どうにか工面くめんして一人一人ひとりびとり土産物みやげものを持っててくれた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
あの貧乏びんぼう百姓ひゃくしょうの、やさしい、まるで母親ははおやのようなほほえみだの、おいのりの十のしるしや、あのくびよこにふりながら、「ほんに、さぞたまげたこったろうになあ、なあぼう
ミハイル、アウエリヤヌイチはもとんでいた大地主おおじぬし騎兵隊きへいたいぞくしていたもの、しかるに漸々だんだん身代しんだいってしまって、貧乏びんぼうし、老年ろうねんってから、ついにこの郵便局ゆうびんきょくはいったので。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
其處らには赤くびたブリキのくわんのひしやげたのやら貧乏びんぼうとく利の底の拔けたのやら、またはボール箱の破れた切ツ端やら、ガラスの破片かけらやら、是れと目に付くほどの物はないが
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
そしてたいへん慈悲深じひぶかくて、なんでも貧乏びんぼうな人たちにめぐんでやり、自分は、弟子でしわかいおぼうさんと二人きりで、大きな、ぼだいじゅのそばの小さな家に、つつましくくらしていました。
活人形 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「変わりたくもなろうじゃございませんか。こんな貧乏びんぼう暮しをしているんですもの」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
江戸えど時代には、金魚飼育というものは貧乏びんぼう旗本のていのいい副業だったんだな。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「金持ちが金をのりこえる。必ずしも貧乏びんぼうになることではないだろう。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「実はその——貧乏びんぼうなんです。」
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
貧乏びんぼうぐるま
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さむゆきくにまれたものが、あたたかな、いつもはるのような気候きこうくにまれなかったことをい、貧乏びんぼういえまれたものが
小さな赤い花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
百姓ひゃくしょうのおとうさんは、やはりいつまでも貧乏びんぼうで、あいかわらず長者ちょうじゃの田をたがやして、ねんじゅう休みなしに、かせいでいました。
たにしの出世 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「千円で何とかならねえか、産婆さんに聞いてみな……貧乏びんぼうなンだから、これより出せねって云えば、どうにかしてくれねえものでもねえぞ……」
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
バクダッドの町に、ヒンドバッドという、貧乏びんぼうな荷かつぎがいました。荷かつぎというのは、鉄道の赤帽あかぼうのように、お金をもらって人の荷物を運ぶ人です。
そして、じぶんがだまされたことを知って、親類しんるいの人たちにあやまりました。親類の人たちは、きたときとおなじように、貧乏びんぼうのままでかえっていきました。
彼女かのじょはたちまち手形の話をやり出して、溜息ためいきをついたり、自分の貧乏びんぼううったえたり、『おねだり』を始めたりするのだったが、礼儀れいぎも作法もさっぱりお構いなしで
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
白粉おしろいつけて衣類きものきてまよふてひとれかれなしにまるめるが人達ひとたち商買しやうばい、あゝれが貧乏びんぼうつたからかまいつけてれぬなとおもへばなんことなくすみましよう
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
も一ぺんほざいてろ。そのままにやしておかねえぞ、虚榮きよえいかたまりめ! 貧乏びんぼうがどうしたつてんだ。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
屋敷やしきまわりの大きな杉林はきりはらわれ、米倉こめぐらはとりこわされ、馬もいないうまやと、屋根に草がぼうぼうにはえた納屋なやがあるきりの、貧乏びんぼう百姓ひゃくしょうとなっていました。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
いひつたへでは、たいへん貧乏びんぼうくらしをしてゐて、しかも國學こくがくうたたのしみをてなかつたひとであります。このひとにも、諸平もろひら同樣どうようおなをはじめにゑてんだうたがあります。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
清ならこんな時に、おれの好きなまぐろのさし身か、蒲鉾かまぼこのつけ焼を食わせるんだが、貧乏びんぼう士族のけちんぼうと来ちゃ仕方がない。どう考えても清といっしょでなくっちあ駄目だめだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところが、カラスの数はふえてきますし、それに、だんだん、貧乏びんぼうになってきました。
また実業家を志望する人に聞けば日本は貧乏びんぼうであるときまりきった議論を述ぶる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
川音清兵衛かわおとせいべえはねごとのように、馬がほしいといいつづけたが、身分は低く、年はわかく、それに父の残した借金のために、ひどく貧乏びんぼうだったので、馬を買うことは、思いもおよばなかった。
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
よくよく貧乏びんぼうしたので、蝶子が小学校をえると、あわてて女中奉公じょちゅうぼうこうに出した。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
ターコール僧正そうじょうは、お金をたくさんもらっても一もんも、もらわなかったときと同じように、べつにふしぎがりもしませんでした。そしてそのお金をみんな、貧乏びんぼうな人たちにめぐんでやりました。
活人形 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「どうも出来ません。僕あ、どうせ来月から貧乏びんぼう老朽親爺ろうきゅうおやじに代って場末のエナ会社の書記にならなけりゃならないし、小初先生は東京の真中で贅沢ぜいたくらさなけりゃならない人なんだもの」
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「だけど、貧乏びんぼういやだわ。」とお房は、臆病おくびやうらしく投出なげだすやうにいふ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
そうすると、命の田からは、毎年どんどんおこめが取れるのに、おあにいさまの田には、水がちっとも来ないものですから、おあにいさまは、三年の間にすっかり貧乏びんぼうになっておしまいになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「まったく、おじいさんの、おっしゃるとおりです。かねが、あるために、貧乏人びんぼうにんをつくり、また、貧乏びんぼうが、人間にんげん卑屈ひくつにするのです。」
かたい大きな手 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「なんだ、獅子ししさん、たいそういばったが、それだけのことか。ごみのようにばされるどころか、このとおり貧乏びんぼうゆるぎもしないよ。」
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)