かめ)” の例文
かめの薄紅梅、もう満開をすぎました。散りはじめて、火のない火鉢の上にのせてあるナベの水の面に花弁が二片三片おちて居ります。
ただ黒いかめを一具、尻からげで坐った腰巻に引きつけて、竹箆たけべら真黒まっくろな液体らしいものを練取っているのですが、粘々ねばねばとして見える。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「魏延! 野望を持つもいいが、身の程をはかって持て。一斗のかめへ百こくの水を容れようと考える男があれば、それは馬鹿者だろう」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
順作の驚いたのは昨夜じぶんの手でかめの下へ伏せた父親が一昨昨夜いっさくさくや死んでいると云う奇怪さであった。しかし、それは云えなかった。
藍瓶 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
まとまつた大金は、かめに入れて大地に埋めるか、ボロ片に包んで屋根裏に忍ばせるほかには、安全な隱し場所がなかつたわけです。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
遺骸を拾い、かめに納め、幸阿弥陀仏に預けて置いて、その後二尊院の西の岸の上に雁塔がんとうを建ててそこへ遺骨を納めることとした。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しばらく好きな書籍の顔も見ずに暮していた捨吉のえた心は、まるで水を吸う乾いたかめのようにその書籍の中へ浸みて行った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
室のすみに一つのかめがあってい酒を貯えてあったので、それを取って飲んだが、すこしすくなくなると渓の水を汲んで入れた。
翩翩 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
この木彫きぼり金彫かねぼりの様々なは、かめもあれば天使もある。羊の足の神、羽根のあるけもの、不思議な鳥、または黄金色こがねいろ堆高うずたかい果物。
その頃いつも八重さくらがさかりで、兄はその爛熳らんまんたる花に山吹やまぶき二枝ふたえだほどぜてかめにさして供へた。伯母おばその日は屹度きつとたけのこ土産みやげに持つて来た。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
なにどうせ幾度も汲みにくんで、うちの姐さんは清潔家きれいずきでもってかめの水を日に三度ずつも替えねえと孑孑ぼうふらが湧くなんてえ位で
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
僧は水をもとめて噴きかけると、神授はたちまち小さいあかい蛇に変った。僧はかめをとって神授の名を呼ぶと、蛇は躍ってその瓶のうちにはいった。
「君と僕とは生前にも寝食をともにしていたが、見ればかめも並べてある。死んでからも隣同士話が出来そうじゃ」と云った。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
水の講釈にかけては人一倍やかましい茶人達の事とて、あつちこつちの名水をかめに入れて各自てんでに持寄りをする事にきめた。
掘出ほりいだし候ところかみへも御屆申上げずひそかに自分方へ仕舞置しまひおき候旨をば訴へに及びたり役人中此由を聞き吟味の上兵助を役所へ呼寄よびよせ其方事此度はたけより古金のかめ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
尺を取ってみたら二間あった。右の方に、赤い模様のある瀬戸物のかめえて、その中にまつの大きなえだしてある。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かめで水を汲んでいる娘とがいましたが、それを見ると、彼は立止まって、水を一杯御馳走して下さいと頼みました。
それで狩獵しゆりようでとつてけだものにくは、つぼなか鹽漬しほづけとして保存ほぞんされるし、みづやその流動物りゆうどうぶつかめれて、自由じゆうはこぶことも出來できるようになりました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
かのかめにうつしたるはらゝごを沙石しやせきのまゝさけのうみつけたる如くになしおき、此川にてさけいでくとも三年る事を国禁こくきんあらば鮏をしやうぜんもしるべからず。
さぶは蝋燭ろうそくに火をつけ、仕事場の一隅にある揚げ蓋を開き、縁の下にある五つのかめを示した。水瓶よりちょっと小さい物で、その下半分は土に埋まっている。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「は」と才蔵は立ち上がりそのまま奥へ引っ込んだが、間もなく素焼すやきのかめを持って静かに再び現われた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかも私にはその周囲さえ、決して頼もしい気は起させなかった。私のうしろにあるとこには、花もけてない青銅のかめが一つ、かつくどっしりと据えてあった。
疑惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この痛み、もう大きの、参りますならば、多分私は死にましょう。私死にますとも、泣く、決していけません。小さいかめ買いましょう。三銭あるいは四銭位です。
御存じだと思うが、仏教の方で瀉瓶しゃへいと云う言葉がある。かめの水をうつえるように、すっかり伝えてしまうことである。貴殿に対する拙者の人相教授も瀉瓶だった。
奉行と人相学 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
私は鋸でその首を切断して、その首が楽に這入るほどの大きなかめにナフタリンと一緒に詰込み、更に白木の小さな箱棺に納め、女房の墓と並べて葬ったのであった。
酒はそれ以前には酒甕さかがめの中で造っていた。『更級日記さらしなにっき』の文にも見えているように、その甕は土中に作り据えてあって、酒を運ぶにはさらに小さなかめを用いていた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ある日も親爺が見番で将棋を差しているすきに、裏通りをまわって栗栖の家の門を開けた。栗栖はちょうどかめに生かったチュリップを、一生懸命描いているところだったが
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
肥料にするかせぬかわからぬが行きさえすれば呉れるから、それをドッサリもらって来て徳利とくりに入れて、徳利の外面そとに土を塗り、又素焼の大きなかめを買て七輪にして沢山たくさん火を起し
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
而して、床の上に其等それらの人々が使っていたかめや、びんや、食器が転っているばかりだと思う。
日没の幻影 (新字新仮名) / 小川未明(著)
私の頭の中はかめのように空虚になって居て、石ころが二つ三つ入れてあるらしく、それが頸を振る度毎に中で彼方此方へゴロゴロ転がり廻った。体中が汗でべと/\して居る。
The Affair of Two Watches (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
獅子獣小さしといえどもり食らう事塵土じんどのごとし、大竜身無量にして金翅鳥こんじちょうたる、人身長大にして、肥白端正に好しといえども、七宝のかめに糞を盛り、汚穢おわい堪うべからず
その広間はどこの居酒屋いざかやにも見られるようなもので、食卓、すずかめ酒壜さけびん、それから酒を飲んでる男や、煙草たばこをふかしてる男、中はうす暗くて、しかも騒然たる音を立てていた。
筧の水というものはこの崖から絞れて落つる玉のような清水を集めて、小さい素焼きのかめに受けたので綰物まげものの柄杓が浮べてある。あたりはすすきが生いて、月見草が自然に咲いている。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
亀の年という甘いお酒(瀬戸物の大きなかめのかたちの器にはいっていた)をのませたのでその名をよく覚えてしまって、ある時、お前はの年、お前はの年と年寄りが言っていたらば
見よ、サマリヤの婦人はゆびさし、基督は目して居玉ふなり。直ぐうしろなるエバルの山の山つゞきには、昔のスカル今のアスカルの三家村さんかそん山にりて白し。かめを忘れて婦人の急ぎ行く後影うしろかげを見よ。
ゴボッゴボッという、かめの口から水の出る時の様な、一種異様の音であった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これが荷物にもつるもあり、御懇命ごこんめいうけまするお出入でいり人々ひと/″\手傳てつだひ手傳てつだひとて五月蠅うるさきをなかばことはりてあつまりしひとだけにかめのぞきのぬぐひ、それ、とつてたまへば、一どう打冠うちかぶ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かめの水がゆるがされて打ちふるえる水の輪がふちに寄ってやがて静まるとおなじように、すべての乱れはこういうふうにたちまちやわらかに熨斗のしをかけられたようにおさまってしまうのである。
翌日その茄子を出して今の塩水の中へこうじを五合に芥子を二合五勺溶いて入れてかめの中へその水で茄子を漬け込んでよく攪き混ぜてよくならして紙を一枚載せて上等の酢をその紙へ振りかけます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
かめにさす藤の花ぶさみじかければたゝみの上にとゞかざりけり
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
かめさせて、ひさしの柱の所へ出しておしまいになった。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
野稗の穗かめにさしつつうらさぶしかくのごとくや人の坐りし
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
天井も、卓も、かめの花も
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
かめの身は砕けてちりて
如是 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
きんかめがとろける。
一枚戸を開きたる土間に、卓子テエブル椅子いすを置く。ビール、サイダアのびんを並べ、こもかぶり一樽ひとたる焼酎しょうちゅうかめ見ゆ。この店のわきすぐに田圃たんぼ
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、ここに好漢おとこ同士の刎頸ふんけいの交わりがまた新たに結ばれ、銘酒“玉壺春ぎょっこしゅん”の泥封でいふうをさらに二たかめも開いて談笑飽くなき景色だった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かめ一パイのかねだ相ですよ親分、——先代が何處かに埋めてあるに相違ありません。中に伯父の遺言ゆゐごんも一緒に入つて居る筈です。
東の方は手児名てこなやしろ、そのうしろかめより水が流れ、これより石坂を登ると、弘法寺の堂の前に二葉の紅葉もみじ、秋の頃は誠に景色のい処でございます。
かめを見てもあいにく——外のかけひは氷っている、やむを得ず、谷川まで御苦労をしたと思えば思えないこともない。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)