湯気ゆげ)” の例文
旧字:湯氣
(雷と夕立はをんさいのからくり也)雲は地中ちちゆう温気をんきよりしやうずる物ゆゑに其おこかたち湯気ゆげのごとし、水をわかし湯気ゆげたつと同じ事也。
、いったところであるから、みちまよ心配しんぱいもなかった。二のすずめは、やまえて、湯気ゆげのぼ温泉おんせんへついたのでした。
温泉へ出かけたすずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかも、そこには、おなかにスモモやリンゴをつめて焼いたガチョウが、ほかほかと、おいしそうな湯気ゆげを立てているではありませんか。
半ば眠れる馬のたてがみよりは雨滴しずく重くしたたり、その背よりは湯気ゆげ立ちのぼり、家鶏にわとりは荷車の陰に隠れて羽翼はね振るうさまの鬱陶うっとうしげなる
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
家々では大提燈ちょうちんを出して店の灯を明るくした。酒屋はせわしげで、蕎麦屋そばやは火をおこし、おでんの屋台はさかんに湯気ゆげをたてた。
山中の茶店などであろうか、蒸し上った饅頭の湯気ゆげが、濛々と春日の空へ立騰たちのぼる、あたりに桜が咲いている、という光景である。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
先生はこの日あたりのへやの中へ大きな火鉢を置いて、五徳ごとくの上に懸けた金盥かなだらいから立ちあが湯気ゆげで、呼吸いきの苦しくなるのを防いでいた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
といっているとき、部屋の中からは、一人の役人が、頭から湯気ゆげを立てて、まるでだこのような真赤な顔で飛び出してきた。
手許てもと火鉢ひばちせた薬罐やかんからたぎる湯気ゆげを、千れた蟋蟀こおろぎ片脚かたあしのように、ほほッつらせながら、夢中むちゅうつづけていたのは春重はるしげであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ふところに抱いてぬくめたがそれでも容易に温もらず佐助の胸がかえって冷え切ってしまうのであった入浴の時は湯殿ゆどの湯気ゆげこもらぬように冬でも窓を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そしてそのままじっと鉄びんから立つ湯気ゆげが電燈の光の中に多様な渦紋かもんを描いては消え描いては消えするのを見つめていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
まん中の大きなかまからは湯気ゆげさかんにたち、農夫たちはもう食事しょくじもすんで、脚絆きゃはんいたり藁沓わらぐつをはいたり、はたらきに出る支度したくをしていました。
耕耘部の時計 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
つまり紙の上に載っていた緑茶の精気が、紙を透した湯気ゆげされて、白湯の中に浸み込んでいるのだそうですが……。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それから三日目、はじめて弁当をもって本校へゆく松江は、納戸なんどにねている母親に注意されながら、湯気ゆげの出ている御飯を釜から弁当箱につめた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
小桶からは湯気ゆげが立ちのぼっている。縁側えんがわを戸口まで忍び寄って障子を開く時、持って来た小桶を下に置いたのであろう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ゆめらすやうな、朦朧まうろうとした、車室しやしつゆかに、あかち、さつあをふさつて、湯気ゆげをふいて、ひら/\とえるのを凝然じつると、うも
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この両個ふたつは毎日、頭から湯気ゆげを出して——これは形容ではない、文字通り、その時は湯気を出していたのでしょう——高さにおいての競争で際限がない。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そして、彼女等は、擂鉢の底の湯気ゆげの中を、バチャバチャと跳ね廻りながら、あののどかな歌を合唱するのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
良人をつとも自分に云つて居た。マカロニが湯気ゆげを立てて来た。星が踊場をどりばのやうに上に白く数多く輝いて居る。そしてそれの余り遠いのを笑止に思つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
といって、いて行きました。小僧こぞうはふろしきづつみをげてみますと、中からあたたかそうな湯気ゆげって、ぷんとおいしそうなにおいがしました。小僧こぞう
和尚さんと小僧 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そのとなりで、赤くゆであげられた海老えびのようなものが威勢よくはさみをのばし、山蘭やまらんの花をうかせたどろりとしたスープがコップの中で湯気ゆげをあげている。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そこへ客か何か来たのであろう、つるよりも年上の女中が一人、湯気ゆげの立ちこめた硝子障子ガラスしょうじをあけると、石鹸せっけんだらけになっていた父へ旦那様だんなさま何とかと声をかけた。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
横腹は破れ、殺されてもなきにや、そこよりはまだ湯気ゆげ立てり。祖父の曰く、これは狼が食いたるなり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さて、これまで申したことは、ついこないだ、それこそ湯気ゆげの立つほやほやの口からきいたお話ですよ。
そこでわたしはふんどしひとつになって仕切りのガラス戸を明けると、窓が閉めきってあるから湯気ゆげが立ちこめていて、陽射しがもやもやした縞模様をつくっていました。
浴槽 (新字新仮名) / 大坪砂男(著)
テーブルの上には湯気ゆげが立つスープ、コーンビーフ、小鳥やき、チーズ、ゼリー、水をわったぶどう酒などがある。一同は腹がはちきれるまで食べたり飲んだりした。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
へとへとになった馬のからだからも、あついきをはく馬のはなからも、こおった湯気ゆげがふうふうたっている。かさかさした雪をふみしだく蹄鉄ていてつが、敷石しきいしにあたってりわたる。
そのふたを開けた時にでも通りかかると、そこら中は湯気ゆげで、ちっとも見えません。それくらい量が多いのです。お酉様は早くから参るのですから、前日から支度をします。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
檜谷ひのきだにいちめんの暗緑色あんりょくしょく木立こだちのあいだから、白い硝煙しょうえん湯気ゆげのようにムクムクと大気たいきへのぼる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
当惑とうわく顔を突き合わせていると、ちょうど湯殿のうらで、櫺子窓れんじまどの隙間からほのぼのと湯気ゆげが逃げて誰か入浴はいっているようす、ポシャリ、ポシャリ、忍びやかに湯を使う音がする。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
登山してから三日目の夕刻、一同はある大樹たいじゅの下にたむろして夕飯ゆうめしく。で、もうい頃と一人が釜のふたを明けると、濛々もうもうあが湯気ゆげの白きなかから、真蒼まっさおな人間の首がぬツと出た。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
女房が新兵衛と顔を見合わせて笑うようすは、直覚的ちょっかくてきに自分の満足をそそるのであった。鉄瓶てつびんの口から湯気ゆげの吹くのを見て女房は「今つれて来てあげるからね。」と笑いながらたった。
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
それは後悔こうかいでもあり、自嘲じちょうでもあり、いかりでもあった。かれは浴室に立ちこめた湯気ゆげの中にじっと裸身らしんえ、ながいこと、だれの眼にも見えない孤独こどく狂乱きょうらんを演じていたのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
湯気ゆげを強く吹かせて火を消さうとするときに火を消してしまはない、そして火を細めてから三十分間放置しておくと、鍋の底は少しくきつねこげに焦げて飯は誠に工合よく出来あがるのであつた。
日本媼 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
この黒い物を撮み上げた小栓はしばらく眺めているうちに自分の命を持って来たような、いうにいわれぬ奇怪な感じがして、恐る恐る二つに割ってみると、黒焦げの皮の中から白い湯気ゆげが立ち
(新字新仮名) / 魯迅(著)
せたかた湯気ゆげが立つ。ピシ、ピシとたたかれ、悲鳴をあげ、空をみながら、やっと渡ることができる。それまでの苦労は実に大変だ。かれは見ていて胸が痛む。轍の音がしばらく耳をはなれないのだ。
馬地獄 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
らんの根もとにはたまごのからがふせてあって、それに道のほこりがつもって、うそ寒いように見えました。しかし、店の中は、すりガラスでよくは見えませんが、あたたかそうな湯気ゆげがたっています。
いぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
まもなく、あたたかいおつけとごはんをおかみさんがもって来てくれました。清造は、なん日目かというより、もういく月目かで、そんなにあたたかい湯気ゆげの立つ、おつけのおわんを手にしたのでした。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
雪ふかしここの谿間たにまの湯の宿の湯気ゆげのこもりによくぬくもらむ
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
湯気ゆげこもったせまい銭湯の中で、村の人々はこうしたうわさをした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
湯気ゆげがやはらかに、顔にかかれり。
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「みんな湯気ゆげになってしまった」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
立ちのぼ茶碗ちゃわん湯気ゆげ紅葉晴もみじばれ
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
汽笛の湯気ゆげは今いづこ
その傍に居る人の衣服がポッポッと湯気ゆげを出して乾燥中であるために殆んど飽和状態に近い湿度を記録したのでありましょう。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ちいさな火鉢ひばちにわずかばかりのすみをたいたのでは、湯気ゆげてることすらぶんで、もとよりしつあたためるだけのちからはなかった。
三月の空の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
じくじくと考えている彼の眼がきゅうに輝きだして、湯気ゆげを立てんばかりな平べったい脂手が、空を切って眼もとまらぬ手真似の早業はやわざを演ずる。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そんな、めうがあつた。それだのに、なまめかしい湯気ゆげかたちは、はなのやうに、かすかゆすれつゝのまゝであつた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その中に湯気ゆげのたっているおにぎりが三つと、ハムと、なま卵と、お茶のびんとが、ならべてありました。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そっとのぞいてみたら食物をぜんの上にあけて、口をつけて食べていたからというのがあり、また湯殿ゆどの湯気ゆげの中から、だらりと長い尻尾しっぽが見えたからというのもある。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)