まさ)” の例文
そして今にあれで地球磁気の原因が分るはずなんだと言うと、中には「まさ団栗どんぐりのスタビリティを論じて天体の運動に及ぶたぐいだね」
億圓おくゑん正貨せいくわたことは、輸入超過ゆにふてうくわ日本にほんつては出來過できすぎであると批評ひひやうがあるが、それはまさしく左樣さやうであらうとおもふ。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
これはまさしく男のなりき。同じ村山口なる佐々木氏にては、母人ひとり縫物ぬいものしておりしに、次の間にて紙のがさがさという音あり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
今時分いまじぶん不思議な事と怪しむ間もなく、かの金棒の響はまさしく江戸町々の名主なぬしが町奉行所からの御達おたっしを家ごとに触れ歩くものと覚しく
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
蘇東坡そとうばの詩に「竹外桃花三両枝。春江水暖ナルハ鴨先蔞嵩ろうこうチテ蘆芽短まさ河豚スルノラント時」
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
相手に種々と相談さうだんに及びけるに兩人もこれまさしく殿とのの御考への通り伴建部と申し合せお島の手引にうたがひなしとの事ゆゑ夫れよりお島を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
だから鏡の中からこっちをじろじろみているあのきざな釣針ひげのおとなこそまさしく二十年としをとった僕のすがたなのであろう。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
まさに死に墜ちる瞬間の、物凄い形相が、画面からぞわぞわと滲出にじみでて、思わずゾッとしたものが、背筋をはしるほどの出来栄えだった。
魔像 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
しかしともかくも出発点における覚悟と努力の向け方においては自分が本当の南画の精神要旨と考えるものにまさしく適合している。
やっぱり今まで歩いて来たそのはばの広いなだらかな方がまさしく本道、あと二里足らず行けば山になって、それからが峠になるはず。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先棒さきぼううしろとのこえは、まさに一しょであった。駕籠かご地上ちじょうにおろされると同時どうじに、いけめんした右手みぎてたれは、さっとばかりにはねげられた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ひどい神経衰弱から、僕は絶望的な自暴自棄に陥ったので、折角まさに出版を待ってる著作を、自分から怠惰に投げ出してしまった。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
これはまさしく釘勘がまさかと思った方が常識で、恐らく金吾自身としても、この瞬間の自己の気もちは分らないのではありますまいか。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
巡査は如何いかに驚きけんよ、かれもこれもおのおの惨としてあをおもてに涙垂れたり——しかもここは人の泣くべき処なるか、時はまさに午前二時半。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
今日世界における二つの大乗仏教国が互いに相知り相まじわって世界に真実仏教の光輝こうき発揚はつようするの時機はまさしく来ったのであります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
お見うけするような御仁ごじんでございましたので、私たちにいたしますれば、まさしく、一つの事件には相違なかったのでございます。
両面競牡丹 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
貴樣達きさまたちはあのとき中根なかね行爲かうゐわらつたかもれん。しかし、中根なかねまさしく軍人ぐんじんの、歩兵ほへい本分ほんぶんまもつたものだ。えらい、えらい‥‥」
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
まさちゃん正ちゃん。」と、お庄が手招ぎすると、一番大きい方の正雄は、姉の顔をじっと見返ったきり、やはりそこに突っ立っていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼奴あいつは何をいったのかと思ってつくづくと読んで見ると、それはまさしく、私は心からあなたを愛するという意味の言葉であった。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
と、私は、その三野村が女をる眼にかけては自分とまさしく一致していたことを思うにつけても、なるほどとうなずけるのであった。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
兄は父が気が衰えたと云ったが、まさしくそのとおりであろう、まえにはあんなではなかった。あんなめめしいことを云う父ではなかった。
あるのこと、まさちゃんは、大将たいしょうとなって、近所きんじょちいさなヨシさんや、三郎さぶろうさんたちといっしょにはらっぱへじゅずだまりにゆきました。
左ぎっちょの正ちゃん (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたし其時そのときまさに、日本國にほんこくといふ範圍内はんゐないつては、同郷どうきやう同藩どうはん同縣どうけんなどいふ地方的偏見ちはうてきへんけんから離脱りだつしたコスモポリタンであつた。
そうして大寺一郎は、まさしく小田清三、同道子に対する殺人被告人として、公判廷に立たねばならぬのだという事を知ったのでありました。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
まさにあたたかい柔かい、スヤスヤと呼吸する白大理石の名彫刻である。ラテン型の輪廓美と、ジュー型の脂肪美と併せ備えた肉体美である。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
『オヤ、其處そこれの大事だいじはなあるいてつてよ』通常なみ/\ならぬおほきな肉汁スープなべそばんでて、まさにそれをつてつてしまつたのです。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
まさしく盗む事も不道徳ではないと思えた。帰って今夜はいいものを書こう。コウフンしながら、楽しみに私は夜風の冷たい町へ出て行った。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
真先まっさきに立ちたる未醒みせい君、立留たちどまって、一行を顧みた。見ればまさしく橋は陥落して、碧流へきりゅういわむ。一行相顧みて唖然あぜんたり。
盗賊の道の附入りということを現在には為したのなれど、癇癖かんぺき強くてまさしく意地を張りそうにも見え、すべて何とも推量に余る人品であった。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その細君を、他人に(まさしく云えば自分自身にだが)奪われたかと思うと、くやしさは一通りではない。細君がぼんやり物思いにふけっている。
一人二役 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かすかな幽な声で転がすようにうたった。まさしく生ているおりなら、みくずれるほどに笑ったのであろう。唇をパクリとした。
まさにこれ百万の妖鯨ようげいなみを蹴りて飛ぶ。英国が戦勝の威に乗じて、我くにに来りせまるは、特に識者を待ってこれを知らざるなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「もう大丈夫だいじょうぶですね。邪魔じゃまものは追っ払ったから」まさしく野だの声である。「強がるばかりで策がないから、仕様がない」これは赤シャツだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ベルグソンのいう純粋持続に於ける認識と体験はまさしく私の個性が承認するところのものだ。個性の中には物理的の時間を超越した経験がある。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
何故なれば、君の感情は恐怖の一刹那に於て、まさしく君の肋骨の一本一本をも数へ得るほどの鋭さを持つてゐるからだ。
月に吠える:01 序 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
私が江戸に来たその翌年、すなわち安政六年、五国ごこく条約とうものが発布になったので、横浜はまさしくひらけたばかりの処、ソコデ私は横浜に見物にいった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
唄の声はまさしくお葉であった。重太郎は枯柳にひし取付とりついて、酔えるように耳をすましていた。雪はいよいよ降頻ふりしきって、重太郎も柳も真白まっしろになった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おびただしく流れたるが、見ればはるか山陰やまかげに、一匹の大虎が、嘴に咬へて持て行くものこそ、まさしく月丸が死骸なきがらなれば
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
海蛇ショウ・オルムくび飾りを奪った犯人は、まさしくこのステーセン伯爵である。伯爵は殿下の随員を装って、公爵邸へ紛れ込んだ。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
彼はその物音ではっと我れにかえったが、懐中時計を出してみると、まさに四時——もうぐずぐずしてはいられない。
空家 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
彼にはまさしく伯父に当る高齢の人を、うやまいいたわるのに不思議はないようなものだけれども、菅公かんこうを失脚せしめて以来、ひとしお態度が驕慢になって
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そうして「いき」はまさにこの変位の或る度合に依存するものであって、変位が小に過ぐれば「上品」の感を生じ、大に過ぐれば「下品」の感を生ずる。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
まさしく、彼でない或るものが。そのものが彼に宿る時、彼は、ブランコで大きく揺上げられる子供の様に、恍惚こうこつとして其の勢に身を任せるほかはない。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
おや/\とおもひながら、またツヽくと、はなあなさへ二ツひらいた。まさしく土偶どぐう顏面がんめんなのであつた。(第壹圖ロ參照)
乾いた畑の土は直ぐちりに化ける。風が吹くと、雲と舞い立つ。遠くから見ればまさに火事の煙だ。火事もよくある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
いかさま「日本娘の寵神フラッパア・アイドル——カブキの偶像」がまさしくひげをそっているとみえて、水の音が長閑のどかにきこえてくる。
まさしく人も居ない死体室からなので、慄然ぞっとしたが、無稽無稽ばかばかしいと思って、恐々こわごわとこへ入るとまたしきりそれが鳴り出して、パタリと死体室の札が返るのだ。
死体室 (新字新仮名) / 岩村透(著)
「しかし心配はいらんて。君子は悪い場所においてもまさしい人間である事によって善い事が出来るものじゃ」
二年の名誉を負うて立つ生蕃! 三年の王たるライオン! まさにこれ山雨きたらんとして風ろうに満つるのがい
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
... 」た奴がなんで百両持っているものかと「撫でて見ると訝しげな手障りだから」開けてみるとまさしく百両。