そもそ)” の例文
そもそも早慶両大学が戟を交ゆるに至つた径路を語るには、第一にその径路と、当時両校を囲繞した四辺の空気を説明しなければならぬ。
そもそも子宮の字は洋語の Uterus(ユーテルス)に当り、相互直訳の文字にして、西洋諸国に於ては医師社会に限りて之を用い
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そもそも病人というものは初めには柑子こうじとか、たちばな梨子なし、柿などの類を食べるけれども、後には僅にお粥をもって命をつなぐようになる。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
世、兆民居士を棄てたるか、兆民居士、世を棄てたるか、そもそも亦た仏国思想は遂に其の根基を我邦土の上に打建つるに及ばざるか。
兆民居士安くにかある (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
これはそもそも何を意味するのか。恐ろしい程無表情な黄金仮面、鋼鉄機械の様に傍若無人で正確無比の腕力、その上にこの不思議な声だ。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そもそも右の宇田川氏が何処の隅からこんな珍妙な字を引出して来たかと言うと、それは支那の本の『救荒本草』がその倉庫であった。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
そもそも研究心は如何にして養成することが出来るかと云ふに、之は生徒各自に自由に物を見させ、考へさせ、疑はせ、而して独力によつて
理科教育の根底 (新字旧仮名) / 丘浅次郎(著)
其所そこで、その岩窟がんくつなるものが、そもそんであるかを調しらべる必用ひつようしやうじ、坪井理學博士つぼゐりがくはかせだい一の探檢調査たんけんてうさとなつた。それは九ぐわつ十二にちであつた。
もとよりおのれの至らん罪ではありますけれど、そもそも親の附いてをらんかつたのが非常な不仕合ふしあはせで、そんな薄命な者もかうして在るのですから
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そもそもバアトンがの翻訳を思ひ立つたのは、アデン在留の医師ジヨン・スタインホイザアと一緒いつしよに、メヂヤ、メツカを旅行した時のことで
これは腐敗しかけてゐるのだ。これはちまけて、新しくつくり直すがよい。と、申しました。諸君、そもそも此の四聖の言葉は……
愚助大和尚 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
しかるに最も多く人世を観じ、最も多く人世の秘奥ひおうきわむるという詩人なる怪物の最も多く恋愛に罪業ざいごうを作るはそもそ如何いかなる理ぞ
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
夜の闇と静寂とさえもが直に言い知れぬ恐怖の泉となった。之に反して、昭和当代の少年の夢を襲うものはそもそも何であろう。
巷の声 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そもそも電車の切符は、片道七銭也の受取であるか、それとも電車に乗る権利を与えたことを認めた一つのしるしであるか、之が君等に判然とわかるか。
夢の殺人 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
そもそもまた文三のひがみから出た蜃楼海市しんろうかいしか、忽然こつぜんとして生じて思わずしてきたり、恍々惚々こうこうこつこつとしてその来所らいしょを知るにしなしといえど、何にもせよ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
が、そもそも、君主たる者は、身を以て常に民の心となり、一身を以て常に臣下の心となっていなければならないものです。それが、王道でござる。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いやしくもこれを改良前進せずして、子弟の法政の学に赴くなからんことをこいねがうは、そもそもこれ誤まれり(謹聴々々、大喝采)。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
拙者せつしやふるくから此石とは馴染なじみなので、この石の事なら詳細くはししつて居るのじや、そもそも此石には九十二のあながある、其中のおほきあなの中にはいつゝ堂宇だうゝがある
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
いたづらに事業を賤しみ、之を俗人の事となし、超然として物外に徜徉しやうやうせんとするに至つてはそもそも亦名教の賊に非ずや。
ことごとく無根の捏造説ねつざうせつであることを断言します——そもそも此の誣告ぶこくを試みたる信用すべき人物とは、何物でありますか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そもそも唯物史觀はこの變化或は歴史のみに對する説明であつて、發生や起原を説明しようとはしないのである。
唯物史観と文学 (旧字旧仮名) / 平林初之輔(著)
その二人がそもそも出発の始めからのボソボソ話が気味の悪い犯罪の話ばかりだったが、めようとせぬ。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
尤も、錬金術のそもそもの起りは必ずしも黄金製造のためではなかった。即ちその濫觴らんしょうともいうべきは古代エジプトに於ける金属の染色術に外ならなかったのである。
錬金詐欺 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
そもそも、誰の意志なのか? これ、自からの信仰に生きずして、権力に、指導されるからではあるまいか。
自由なる空想 (新字新仮名) / 小川未明(著)
トルストイ伯の人格は訳者の欽仰きんぎようかざる者なりといへども、その人生観に就ては、根本に於て既に訳者と見を異にす。そもそも伯が芸術論はかの世界観の一片に過ぎず。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
旦那だんなさまのおもひも、わたしおもひもおなじであるといふこと此子これそもそをしへてれたので、わたし此子これをばきしめて、ばう父樣とうさまものぢやあい、おまへ母樣かあさま一人ひとりのだよ
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「馬鹿云っちゃいけない! そんな高いお土産があるもんか。これはそもそも頼まれて買って来たんですよ」
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そもそじう歩兵ほへいいのちである。軍人精神ぐんじんせいしん結晶けつしやうである。歩兵ほへいにとつてじうほど大事だいじものはない。場合ばあひつてはそのからだよりも大事だいじである。たとへば戰場せんぢやうおい我々われわれ負傷ふしやうする。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
大宮から登り五十二丁と云うのだから、今からでも大丈夫頂上をきわめて明るい間に下山することが出来ると断定してしまったのが、そもそあとに冒険のおこる発端であった。
武甲山に登る (新字新仮名) / 河井酔茗(著)
そもそも吾等は地の子である。吾等は地から離れ得ぬものである。地の回転と共に回転し、地の運行と共に太陽の周囲を運行し、又、太陽系其ものの運行と共に運行する。
土民生活 (新字旧仮名) / 石川三四郎(著)
私は、そもそも戯曲とは……と考へた。抑も戯曲とは、なるほどこれかなあ、と朧ろげながら感じた。
舞台の言葉 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
其のそもそもの元はと云えば今より二十余年前に、双方少しの誤解から細君と不和を起し、嵩じ/\た果が細君は生まれて間も無い一人娘を抱いたまま家を出て米国へ出奔した
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
華美はでの中に華美を得ぬ彼は渋い中に華美をやった。彼は自己の為に田園生活をやって居るのか、そもそもまた人の為に田園生活の芝居をやって居るのか、分からぬ日があった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そもそも周三が生母せいぼの手をはなれて、父子爵の手許てもとへ迎へられたのは、彼が十四の春であつた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
斯う云ふ側のことを藤岡君の音義説に於て五十音圖に照して御説明になつたのであります。一體本會の状況を觀ますると云ふと、そもそも假名遣と云ふものの存在からして疑はれて居る。
仮名遣意見 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
僕は中学の画の教師なんかやるのがそもそも愚だと言つて遣つたんだ。奴だつて学校にゐた時分は夢を見たものよ。尤も僕なんかよりずつと常識的な男でね。静物の写生なんかに凝つたものだ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そもそも太田なるものは恋愛と功名と両立せざる場合に際して断然恋愛を捨て功名を採るの勇気あるものなるや。いはく否な。彼は小心的臆病的の人物なり。彼の性質はむしろ謹直慈悲の傾向あり。
舞姫 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
そもそも自我という言葉自身が示しているように、優れて特に主観を意味する概念であることには変りがなく、又この自我の性格たる実践もまだ決して感性的な真の実践ではなく、意欲、当為
辞典 (新字新仮名) / 戸坂潤(著)
故意こいならず犯罪はんざいすことがいともはれぬ、ひと讒言ざんげん裁判さいばん間違まちがひなどはべからざることだとははれぬ、そもそ裁判さいばん間違まちがひは、今日こんにち裁判さいばん状態じやうたいにては、もつとべきことなので
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そもそも波羅葦増の国と申すは、四時花咲き、鳥歌ひ、果実ときなく実り、生あれども死なく、明あれども暗なく、悔なく、迷なく、苦なく、禍なく、白象鰐魚びやくざうがくぎよも人に戯れ、河水甘露の味を宿して
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
すると御神輿を高い処から見下したというので若者達のいかりにふれ、私はヴェランダから地面に引きずり落され散々な目にあいました。その事がそもそもこの土地で不評判になった最初だったんですの。
機密の魅惑 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
全体ぜんたい綜合そうがふしたところで、わたしあたまのこつた印象いんしやうふのは——はじめての出会であひ小川町をがはちやうあたりの人込ひとごみのなかであつたらしく、をんなそで名刺めいしでも投込なげこんだのがそもそもの発端はじまりで、二度目どめおなとほりつたとき
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
そもそもこのペン即ち内の下女なるペンに何故なにゆえ我輩がこの渾名を
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そもそもおのれを知らない骨頂であることを語つた。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
そもそもですね、親分」
父母たる者の義務としてのがれられぬ役目なれども、ひとり女子に限りて其教訓を重んずるとはそもそも立論の根拠を誤りたるものと言う可し。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
僕は両大学がそもそほこを交ゆるに至つた最所からの径路と、紛糾の真相とを詳細にかたりたいと思ふ。僕等は何人も知る如く当年の弥次だ。
そもそ此所こゝ千鳥窪ちどりくぼが、遺跡ゐせきとしてみとめられたのは、隨分ずゐぶんふることで、明治めいぢ二十一ねんの九ぐわつには、阿部正功あべせいこう若林勝邦わかばやしかつくにの二すで發掘はつくつをしてる。
そもそも恋愛は凡ての愛情の初めなり、親子の愛より朋友の愛にいたるまで、およそ愛情の名を荷ふべき者にして恋愛の根基より起らざるものはなし
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
福田氏を殺害した兇賊自身は、そもそもどこをどうして、室内に入り、又逃去ることが出来たのか、誠に魔術師の怪技と云う外はないのである。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)