つぼ)” の例文
つぼや皿や古画などを愛玩して時間が余れば、昔の文学者や画家の評論も試みたいし、盛んに他の人と論戦もやつて見たいと思つてゐる。
風変りな作品に就いて (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
これこそ、佐助の思うつぼであった。五右衛門の奴め、わが術中に陥ったとは、笑止笑止と、佐助は得意満面の、いやみな声を出して
猿飛佐助 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
本は書棚にしまわずに投げだすし、インキつぼはひっくりかえる。椅子は投げたおすやらで、学校はふだんよりも一時間も早く退けた。
そして、彼が愈々T市へ乗込む以上は、その新聞記事が、思うつぼにはまって、彼の自殺を報道していたことは申すまでもないのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
注意すべき一つの特徴は、最初白色のつぼに入れられて、久高くだかの浜に漂着した五つの種子の中には、稲の種は無かったという点である。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
天王寺屋てんのうじや宗久の所持であった菓子絵、松島のつぼ、油屋の柑子口こうじぐち、久秀の鐘の絵、薬師院の小松島やその他の茶碗茶入れなどであった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しらせてやってそこへあの人が飛びこんでゆけば、ね! ホホホホ飛んで火に入るなんとやら、あとはあたしの思うつぼでございますよ
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
昔の仙人は、一つのつぼの中に森羅万象しんらばんしょうの姿を見たというが、一杯の茶碗の湯の中にも、全宇宙の法則があるということも出来よう。
「茶碗の湯」のことなど (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
私共わたしども今日こんにち生活せいかつから茶碗ちやわんつぼなどをなくしてしまつたならば、どれだけ不便ふべんなことであるかは、十分じゆうぶん想像そう/″\出來できるのであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
爺はゆうべ消し忘れたまくらもとの置ランプを見ますと、いつの間にかは消えてゐました。爺は手をのばして、ランプつぼを揺つて見ました。
天童 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
やがて西域出土物の室にはいつて、ムルックの石窟せっくつ寺のものだといふ壁画の断片を見たり、小さな像やつぼの破片を眺めたりした。
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
黒いはかまに白い上衣うわぎをきて、ひもを大きく胸のあたりにむすんだのが、歩くたびにゆらりゆらりとゆれる。右腕に古びたつぼを一つ抱えている。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
四人よつたり各自めいめい木箸きばしと竹箸を一本ずつ持って、台の上の白骨はっこつを思い思いに拾っては、白いつぼの中へ入れた。そうして誘い合せたように泣いた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
クレオパトラでも三毛ねこでも畢竟ひっきょうは天然の陶工の旋盤なしにひねり出したつぼである。この壺の中味が問題になるのであろう。
空想日録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
予想通り、この話が、ちまたに伝えられて、熊野権現加護説を生み出したのだから、まさに清盛の思うつぼだったというべきである。
お袖が縛られ、富崎佐太郎も八丁堀へ引かれたと聞いて、お幾がたまらなくなつて自訴したのは、まさに平次の思ふつぼでした。
出入り口の近くに、インキつぼの置いてある大きな卓があって、上には雑多な紙や分厚な書物がのっていた。卓の前に藁の肱掛椅子ひじかけいすがあった。
解剖室からすこし離れたところに、麻雀卓マージャンたくをすこし高くしたようなものがあって、その上に寒餅かんもちけるのに良さそうなつぼが載せてあった。
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ただ食事のために作った茶碗ちゃわんや食卓、酒のつぼ絵草紙えぞうしや版画の類あるいは手織木綿もめんのきれ類といった如き日常の卑近なるものでありながら
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
民家で用いたものであるからあるいは猪口ちょこにもあるいはおつぼとしても使われたであろう。二十人前、三十人前と数多く作られた雑器である。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
まづしい店前みせさきにはおほがめかふわに剥製はくせい不恰好ぶかっかううをかはつるして、周圍まはりたなには空箱からばこ緑色りょくしょくつちつぼおよ膀胱ばうくわうびた種子たね使つかのこりの結繩ゆはへなは
おんなあぶらつぼ断崖がけうえりまして、しきりに小石こいしひろってたもとなかれてるのは、矢張やは本当ほんとう入水にゅうすいするつもりらしいのでございます。
兵部卿の宮からは右近の手もとへ銀のつぼへ黄金の貨幣を詰めたのをお送りになった。人目に立つほどの派手はでなことはあそばせなかったのである。
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
流水りうすゐあにこゝろなからんや。ことばかはすと、かくさずつた。おかうちやんのかたところによれば、若後家わかごけだ、とふ。若旦那わかだんなおもつぼ
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
日本信者の形容をもってすれば一つのつぼの水を他の一つの壺に移すが如くに肉食を継承けいしょうしているのである。次にまた仏教の創設者釈迦牟尼しゃかむにを見よ。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
陶器師すえものつくりおきなは笑いながら見返った。彼は手づくりのつぼをすこし片寄せながら、狭い仕事場の入口に千枝太郎を招き入れた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼が成功してるからといってへつらってくる者ども——オービネのいわゆる、「一匹の犬がバタつぼに頭をつっ込むと祝賀のためにそのひげをなめに来る」
刄物はものもつつあしてもどう一である。蛸壺たこつぼそこにはかならちひさなあな穿うがたれてある。しりからふつといきけるとたこおどろいてするとつぼからげる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しばらくしてげんさんは、ガラスつぼから金平糖こんぺいとう一掴ひとつかみとりすと、そのうちの一つをぽオいとうえげあげ、くちでぱくりとけとめました。そして
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
四年目で耳に触れた兄の声は、相変らずとがっていた。辰男はその声を聞くと同時に、ペンを筆筒に収めてインキつぼふたをした。ランプをも吹消した。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
火吹竹はその前に横。十能じゅうのはその側に縦。火消つぼこそ物言顔。暗くすすけた土壁の隅に寄せて、二つ並べたは漬物のおけ
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
つぼや、かめや、水差や、陶碗とうわんが、肩の張りと腰のふくらみに、古代の薄明をふくみながら、ひっそりと息づいている。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
……(インキつぼを取って戸棚の前へ行き、インキを入れる)なんだかさびしいわ、こうしてお発ちになってしまうと。
三歳になる顔色の青ざめた貧し気なる少年が突然二個のつぼを携え来って、これは大沼新吉夫婦の遺骨であるから埋葬してくれるようにと言って去った。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そして私の身辺には、かまなべ、茶碗、はし、皿、それに味噌みそつぼだのタワシだのと汚らしいものまで住みはじめた。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「ああ、また始まったね」と、その監視人は言い、バタパンをみつつぼに浸した。「そんな質問には返答しないよ」
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
お砂糖水をこしらえようと砂糖つぼをあけたら、ここにも大きな蝶がじっとして卵をしている——私たちはウワッと叫んだ、なにもかもが珍しいのだった。
小菊の模様を散らした元禄袖げんろくそでの常着に、秋草を染めた白地の半幅帯という略装で、直衛が帰ったとき、客間で古瀬戸のつぼに紅葉した山はぜをけていた。
改訂御定法 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「掛物の真中に、大きなつぼがあるんですよ。壺の正面には、こんな風に白い雲の飛んでゐる絵があるんです。」
愚助大和尚 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
河内介はその問いには答えずに、再び懐を探ったかと思うと、今度も同じような金襴きんらんの袋に包んだ小型のつぼを取り出して、それをうや/\しく夫人の前に捧げた。
「しかし、曲尺かねじゃくとすみつぼの仕事であるから——それを、あなた方がなさるとすれば、どういうことになるか?」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
かれは光一の球が燦然さんぜんたる光を放ってわが思うつぼをまっすぐにきたと思った、かれは八分の力をもってふった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
このほか、天井とか畳とか火鉢とかインキつぼとか目に触れるものは際限もなくありますが、まず仮に前に掲げた五つのものを取ってお話ししようと思います。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
先生は澄んだ青空の下で、つぼを高くかざしてこの酒を飲みました。先生はしばらくの間眼をつぶつてあぢはひ尽し、それからはじめて私たちに笑顔を向けました。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
花のうしろのきょつぼの形をしているからツボスミレという、という古い説はなんら取るにらない僻事ひがごとである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
けつして、なつたことはない』とつて女王樣ぢよわうさま亂暴らんぼうにも、蜥蜴とかげがけてインキつぼげつけられました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
さらあとに皿が出て、平らげられて、持ち去られてまた後の皿が来る、黄色な苹果りんご酒のつぼが出る。人々は互いに今日の売買の事、もうけの事などを話し合っている。
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
その側には厚い書物が開けてある。たくの上のインクつぼの背後には、例の大きい黒猫が蹲って眠っている。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
だが、ち出しもののつぼのように外側ばかり鮮かで、中はうつろに感じられる少年だった。少年は自分でもそのうつろに堪えないで、この界隈かいわいを酒を飲み歩いた。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
片手にすず製の湯差しを持ちもう一つの手に盆を持っていたが、その盆の上には二つの茶碗と、小さな茶漉ちゃこしとが置いてあった。そうして砂糖つぼとが置いてあった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)