)” の例文
お栄はそんなことを胸に浮べながら独りで部屋を片附け、それから勝手の方へ行つてざるの中に入れてあつた馬鈴薯じやがいもの皮をき始めた。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その次はすっかり変って般若はんにゃの面が小く見えた。それが消えると、らい病の、頬のふくれた、眼をいだような、気味の悪い顔が出た。
ランプの影 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
「尤もあつしがさう言つてやると——出直すといふ手があるぜ、無駄は言はねえものだ——と三輪の親分は大きな眼をきましたよ」
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
猿のようなかおをして白い歯をいてののしると、たださえ気の荒い郡内の川越し人足が、こんなことを言われて納まるはずがありません。
と評判の悪垂あくたれが、いいざまに、ひょいと歯をいてつばを吐くと、べッとりと袖へ。これが熨斗目のしめともありそうな、柔和な人品穏かに
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
皮をかれた梨は、前のやうに花の形に切られたまゝ置かれてあつた。お光の眼にはなつかしさうなうるほひがまただん/\加はつて來た。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
私がきにくい果物の皮を剥いて、眼を下向けにしている僅かな時間のあいだに、殆ど、うしろ姿さえ見せないで彼女は去っていた。
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
りゅうは歯をきだしたが、なにも云わなかった。栄二は向き直り、身をかがめて丸薪の一本を拾うと、右手で握って、義一に見せた。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かけて指で皮をいて二つに切って種を絞り出して赤茄子が五つならばバター大匙一杯と塩胡椒とを混ぜて弱い火で二十分間煮ます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ぐいぐいと、かわずでも踏むように押しつぶすのである。内蔵助は、土でかないように、大地と顔のあいだへ手をさし入れていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はあ、私もお相手を致しますから、一盃いつぱい召上りましよ。氷を取りに遣りまして——夏蜜柑なつみかんでもきませう——林檎りんごも御座いますよ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
一人は髪の二三寸伸びた頭をき出して、足には草履をはいている。今一人は木の皮で編んだ帽をかぶって、足には木履ぼくりをはいている。
寒山拾得 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
また、其外に、俯向うつむけになって居る上面、即ち背中や腰の部分に、火傷でけた所がありますネ、其地肌に暗褐色の網目形が見えます。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
何処かひなびているのを、美妙は、掘りたての、土の着いている竹の子のように、皮をいていった下の、新鮮なものを感じていた。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
私はよろこびにあめのようにくずれてくる顔の形を、どうすることも出来なかった。小僧さんは、大きいハトロンの包みをベリベリといた。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「解んねえな。どうせ素人しろうとじゃあるめえ。莫迦ばかに意気な風だぜ、と言って、芸者にしちゃどこか渋皮のけねえところもあるし……。」
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
が、だんだんそっちへ近づいていって見ると、その男たちが何か荒ら荒らしい手つきで皮をいているのは兎であるのが分かってきた。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
而して咬まれる。悲鳴をあげる。二三疋の聯合軍に囲まれてべそをかいて歯をき出す。己れより小さな犬にすら尾をれて恐れ入る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
だが、その子供のことは、渋皮しぶかわけた保姆が面倒を見ていた。彼は家に一日以上じっとしていることがどうしても出来なかった。
その二尺にしやくほどした勾配こうばい一番いちばんきふところえてゐる枯草かれくさが、めうけて、赤土あかつちはだ生々なま/\しく露出ろしゆつした樣子やうすに、宗助そうすけ一寸ちよつとおどろかされた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いてゆくうちに、ゆびったので、ゆきうえがたれました。(*(註)杜松は檜類の喬木で、一に「ねず」又は「むろ」ともいいます)
少年は血の多い若々しい頬に夕日を受けて、其朝見つけて置いたといふステツキになる樹の枝を切つて、その皮をきながら並んで行つた。
春雨にぬれた旅 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
わたし是非ぜひ怠惰屋なまけやになるのだ、是非ぜひなるのだ』と言張いひはつてかない。さくらかはくどころか、いへすみはうへすつこんでしまつて茫然ぼんやりして居る。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
丸テーブルの上には二つの紅茶茶碗ぢゃわんが白い湯気を立てていた。そして、喜平は紅茶には手を出さずに、林檎りんごの皮をいていた。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
其處には斑猫ぶちねこの死體が轉ツてゐたのだ。眼をき、足を踏張り齒を露出むきだしてゐたが、もう毛も皮もべと/\になツて、半ば腐りかけてゐた。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
近寄って見ると、皮をいて丸焼きにしたところが「文化」なのだそうな。アライヤダ。イヨイヨ小三の落語式になって来た。
何と云う! 獣のような図々しさだ。よし、やって来い。やって来るがいゝ。来れば、面と向って、あの男の面皮めんぴを引きいてれるから。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
さも手がだるいと云ふ風に、持つてゐたくだものく小刀を、Wの上に冠のある印の附いたさかづきの縁まで上げて一度ちいんと叩いた。
祭日 (新字旧仮名) / ライネル・マリア・リルケ(著)
与兵衛はかう言ひましたが、悲しい事には猿に人間の言葉は通じませんから、親猿は却つて歯齦はぐきき出してうなるのでした。
山さち川さち (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
特務曹長「なるほど金無垢であります。すぐ組み立てます。」(一箇をちぎり曹長に渡す。以下これにならう。おのおの皮をく。)
饑餓陣営:一幕 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
どっこいとポチが追蒐おッかけて巫山戯ふざけかかる。蒼蠅うるさいと言わぬばかりに、先の犬は歯をいて叱る。すると、ポチは驚いて耳を伏せて逃げて来る。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
口を開き眼をき出し、頬をふくらせ小鼻を怒らせ、気味の悪い三白眼をキラキラ光らせた悪戯児いたずらっこらしい顔で、すなわち甚太郎の顔なのである。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
暗いランプに照らされたすすけた台所で寒竹かんちくの皮をいている寒そうな母の姿や、茶の間で糸車を廻わしている白髪の祖母の袖無羽織の姿が浮び
重兵衛さんの一家 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その若者が何彼なにか冷評ひやかしかけるのを、眇目めつかちの重兵衛が大きい眼玉をいて叱り付けた。そして、自分一人夜更まで残つた。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
夜は、君の脱いだ靴の奥へ潜り込んでぐっすり眠るだろう。そのぽけっと猿が、肥った料理人ダクタアの手の平から星へ向って小粒な皓歯こうしいていた。
学校から給与されるのか、感心に鞄だけは掛けているようだ。てんでに、椰子ヤシの外皮をいたものを腰にさげているのは、飲料なのである。
と云えども丹下はしずまらばこそ、今は眼をいて左京を一にらみし、右膝に置ける大のこぶしに自然と入りたる力さえ見せて
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ミカン類の果実をいて見ると、表面の皮がまず容易にとれる。その中には俗にいうミカンのふくろ輪列りんれつしていて、これをはなせば個々に分かれる。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
それに比べると、夏の富士は、焙烙ほうろく色にあかッちゃけた焼けただれをき出しにした石山であるのに、この水々しさと若さは、どうしたものであろう。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
つるは皮をいて水に浸すと、粘りのある汁が出て、髪をくしけずるのに用いられるというので美男葛の名があるのでした。一に葛練くずねりなどともいいました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
その空が全く暗くなった頃、彼はその通りのある珈琲店カッフェで、食後の林檎りんごいていた。彼の前には硝子ガラスの一輪挿しに、百合ゆりの造花が挿してあった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
燒趾やけあとはひから青銅せいどうのやうにかはつた銅貨どうくわはぽつ/\とけたかはのこしてあざやかな地質ぢしつけてた。かれはそれをちかづけてしばら凝然ぢつ見入みいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
絹子は、きかけたオレンジをそのままたべもせず皿に置き、うつむいてフィンガー・ボウルに指先を濡し、いった。
ヴァリエテ (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
鋭利な刃物——それは現場に遺棄せられた皮き用の小形庖丁に相違なかった。——で左肺をたゞ一突にやられている。
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
私はどこまで旧時代の底に沈ませられて行くか多少の不安と同時に、これより落着きようもない静な気分に魅せられて、傍でで卵などいていた。
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
二本の指先で私の右の両瞼を上下にきあけて、半巾ハンカチの先を唾液つばで濡らし/\、幾度となくこするやうに拭き取つた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
女「あれは柿の皮をくのでございますよ、うも困りますね、だが買って下さればそれでうございますが、けれども貴方草鞋をおとんなさいナ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
二人とも卵をいたようなすべすべの皮膚をして、どんな点を較べてみても、こんな従妹なんぞ問題ではないのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
片唾かたずを呑んで、医師共が悲鳴をあげる瞬間を楽しみにしていた将軍は、張った肩、いた眼、突き出した首のやり場がない。それは、そのはずである。
『七面鳥』と『忘れ褌』 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
神着の部落とちがって、ここでは家々もそう頑丈がんじょうでなく、何かき出しな荒々しい空気が部落の上を通っていた。
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)