今朝けさ)” の例文
昨夜ゆうべもすがらしづかねぶりて、今朝けされよりいちはなけにさまし、かほあらかみでつけて着物きものもみづからりしを取出とりいだ
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
今朝けさも博士は、又始つたなといふやうな樣子で、鈕を嵌める手を停めて、床の間の置時計をちよいと見た。時計は八時二十分である。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
しかし、嵐は海のうえにばかり吹いたのではなくて、ホテルのこの『社交室』も、今朝けさから一種の突風のようなものにおそわれていた。
キャラコさん:01 社交室 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
いや、実は今朝けさ、部下のものから報告があったのですが、問題の脱脂綿だっしめんがみつかったのです。それを持っていた人間まで解っています
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今朝けさお父さんが私にも用意をしておけっておっしゃったの。用があるので、私たちはここを出立することになるだろうからって。」
ちゝと高木とが第一にはなしを始めた。梅子はおもに佐川の令嬢の相手になつた。そこへあに今朝けさの通りの服装なりで、のつそりと這入つてた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
くもや、かぜばかりでなく、小鳥ことりたちも、まえあそんだのをおもしたのか、今朝けさ、めずらしくうぐいすがんできて、いいこえきました。
春はよみがえる (新字新仮名) / 小川未明(著)
菊村の店でも無論手分けをして、ゆうべから今朝けさまで心当りをくまなく詮索しているが、ちっとも手がかりがないと清次郎は云った。
半七捕物帳:02 石灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今朝けさの出来事できっと非常に驚いただろうな?」と、監督はたずね、そう言いながら両手で、蝋燭ろうそくとマッチ、本と針床といった
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
「妙なことを言うねえ、看護婦さんたちは今朝けさまでこの木村博士と一緒にいたのだし、だいいち写真と見比べたって分かるじゃないか」
紫外線 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「これからは今あなたがお言いになったとおりにもいたしましょう。今朝けさだけは私の申すことをお聞き入れになってくださいませ」
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
この記事を夕刊の佐賀版で見た時枝のおやじが、昨夜ゆうべのうちに佐賀から自動車を飛ばして来て、今朝けさ暗いうちに僕をタタキ起したんだ。
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「僕は今朝けさ郁文堂いくぶんどう大井おおい君に言伝ことづてを頼んだら何でも買ってくれと云うので、とうとう一等の切符を四枚押つけられてしまった。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
今朝けさきいたことをマスノはくりかえして母に語っていた。ふんふんといちいちうなずいていたマスノの母親は、半分は先生にむかって
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
それというのは、今朝けさ、ちょっと面白くないことがあったからだ。恋のいざござ、さもなければ、素気すげない便りでもあったからだ。
かぶつた滿谷は「ゆうべ汲んで置くのを忘れたら、今朝けさ水道が凍つて水が出ない」と云つて水瓶みづがめを手にしたまゝ煖炉ストオブの前に立つて居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
庸三は今朝けさ電車通りの文房具屋から万年筆を持ちこませて、一本買ったのであったが、ついでに軸の透明な女持を一本葉子にも取った。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
今朝けさ、あずけた書類をくれ。今日の会に出られなんだら、お前に開けて貰おうと思おうとったけんど、出られたけ、もう、ええ」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
此処こゝでござえますよ、ままどうも…今朝けさっから忰も悦んで、殿様がおいでがあると云うので、まちに待って居りました処でござえます
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
が、翁は今朝けさ人から注意されて始めて読んだと云ふのであつた。然う言ふ彼れの眉根は、昼夜奔走の多忙を明白に物語つて居た。
大野人 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
今朝けさの夢で見た通り、十歳の時のあたり目撃した、ベルナルドーネのフランシスの面影おもかげはその後クララの心を離れなくなった。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「詳しいことは分りませんが、今朝けさ現金二千円を御渡ししてあります。財布にない所を見ると、どうもそれが折鞄に入れてあった様です」
何だかこう、昨夕ゆうべまで濁っていた沼のおもが、今朝けさ起きて見ると、すっかりと澄みわたっているので、夢ではないかと思うような気がする。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「むぐらはゆるしておやりよ。ぼくもう今朝けさゆるしたよ。けれどそのおいしいたべものは少しばかりって来てごらん」といました。
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
馬士まごもどるのか小荷駄こにだとほるか、今朝けさ一人ひとり百姓ひやくしやうわかれてからときつたはわづかぢやが、三ねんも五ねん同一おんなじものをいふ人間にんげんとはなかへだてた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あゝ悲しみの地を過ぎてわが來れるは今朝けさの事なり、我は第一の生をうく、かく旅して第二の生をえんとすれども。 五八—六〇
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
餘念よねんもなくたわむれてるので、わたくし一人ひとり室内しつない閉籠とぢこもつて、今朝けさ大佐たいさから依頼いらいされた、ある航海學かうかいがくほん飜譯ほんやくにかゝつて一日いちにちくらしてしまつた。
今朝けさいだいている心境が、昨日よりたしかに一日育っていることのほうを、自分でも認め、また、自分へ対しての限りなき欣びとしていた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今朝けさも、はしりの書画屋が二人も朝食前に来たんで、何かと思ったら、ぜひ、余分があったら実費で分けてもらいたいってね。
痀女抄録 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
人目も構わんと「姉ちゃん」いいながらけて来なさって、「あて今朝けさあの手紙読んでなあ、姉ちゃんの顔見るまでは心配で心配で、……」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
今朝けさから御心配あそばして、停車場ステエションまで様子を見がてら電報を掛けに行くと有仰おつしやいまして、それでお出ましに成つたので御座います
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
郷里の家に少しばかりの金を、送金したその受取りの返事を、今朝けさ(工場の休みを)まだ寝床にいた私の枕許まくらもとへ、台所にいた妻が持ってきた。
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
それが今朝けさ、宿直室の寝台ベッドの上で、クロロホルム臭い手巾ハンケチを顔へ当てられて、死んだまぐろのようになって眠りこけて居たんだ。
女記者の役割 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
今朝けさはたべたかねえかんな、われかまあねえで出來できたらたべたはうがえゝぞ」おしなはいつた。またこほつためし雜炊ざふすゐられた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
新聞しんぶん今朝けさまへつくしてしまつたし、ほん元氣げんきもなし、ねむくもなし、喋舌しやべ對手あひてもなし、あくびもないし、さてうなると空々然くう/\ぜん
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「一つ短いものができたんだがね……それでじつは今朝けさから方々持歩いているんだが、どこでもすぐ金にはしてくれない」
遁走 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
そして今朝けさ歩き出してからでも、もう三時間くらいは歩いていましたから、野宿したところからでも三、四里ぐらいは来ていたろうと思います。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
実は昨日きのう用があって高崎たかさきに泊まって、今朝けさ渋川まで来たんだが、伊香保はひと足と聞いたから、ちょっと遊びに来たのさ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「あの垣根かきねの竹が今朝けさはまだ出なかったの……それが今はあんなに出てしまって五ばかり下が透いたから、なんでも一寸五分くらいは引いたよ」
水籠 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
自分のそんな野暮やぼなまじめを繰り返してもなかったが、今朝けさの逸作が竹越氏に対する適応性を見て、久しぶりで以前の愚直ぐちょくな自分を思い出した。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
今朝けさ帰りがけにね、わたしにこのアパートを出てくれって言うんです。そして別に家をさがしてやるから、そこへ引っ越してくれって言うんです。
アパートの殺人 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
「ああそうですか、今朝けさから家をでたきりですからな、また阪井の家へどなりこみにいったのではないかと思ってね」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
わたし——さうね、いま——それは今朝けさきたときからわたしだれだかぐらゐつゝてよ、けれども是迄これまで何遍なんぺんかはつてるからね』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
今朝けさがた、自分は決してそんな病気というような事も知らない、談話はなしさえ一度もしない、あかの他人だ、そしてこの無関係な者の眼にかく映じたのだ。
闥の響 (新字新仮名) / 北村四海(著)
わたし今朝けさ急患きゅうかんがあつて往診おうしんかけました。ところがきにもかえりにも、老人ろうじんうちもんが五すんほどひらきかかつていたから、へんなことだとおもつたのです。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
井戸端のあかい山茶花は散りつくして、昨日きのふ咲いた庭の白薔薇だけが新らしかつたが、今朝けさ人が来て切つて了つた。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「いいえ。わたしじやないでせう」とつた。それをきいて、そばについてきてゐた子雀こすゞめが「今朝けさもおこめいたゞいてよ」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
かこち昨夜ゆうべ四日市よつかいちへんなる三人の若い者此處こゝ妓樓あそびやそれ遊興あがりて夜をふか宿いねるに間もなく夜はしらみたりと若い者に起され今朝けさしもぶつ/\とつぶやきながら妓樓あそびや
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
今朝けさは平素よりも激しく匂いわたる線香のけむりが風になびいて部屋の中まで流れ込んでくるようにも思われた。
吾妻橋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と正三君は胸にうかんだままを遠慮えんりょなくあらわした。今朝けさから学友の任務ということを考えていたのである。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)