しゅ)” の例文
荘子そうじ』に「名はじつひんなり」とあるごとく、じつしゅにしてかくである。言葉も同じく考えのひん、思想のかくなりといいうると思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
有難う。屋敷の名も申さず、定めし無礼な奴と思うであろうが、何事もおしゅのため、——この私に免じて許して下され。早速悪者を
こう思うと、われわれの平生へいぜいは、ただ方便ほうべんしゅとすることばかりおおくて、かえってこの花前に気恥きはずかしいような感じもする。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
主客しゅかくは一である。しゅを離れてかくなく、客を離れて主はない。吾々が主客の別を立てて物我ぶつがきょうを判然と分劃ぶんかくするのは生存上の便宜べんぎである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かかる折から、地方巡業の新劇団、女優をしゅとした帝都の有名なる大一座おおいちざが、此の土地に七日間なのかかんの興行して、全市の湧くが如き人気を博した。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
最初さいしょ彼女かのじょおこった現象げんしょうしゅとして霊視れいしで、それはほとんど申分もうしぶんなきまでに的確てきかく明瞭めいりょう、よく顕幽けんゆう突破とっぱし、また遠近えんきん突破とっぱしました。
おんなかがみいのちのごとく、たっとんだのは、わかっているが、しゅとして結婚けっこんしてからのことで、婚約こんやくかがみをおくったかどうか、よくわからない。
うずめられた鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「夕方知らずして、しゅの坊が Wife とともに湯の小さきに親しみて(?)入れるを見て、突然のことに気の毒にもまた面喰めんくらはされつ」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
しゅの勝久は若年でまだ二十六歳。その下の孤忠の臣たり一代の侠骨鹿之介幸盛は、三十九歳の稜々りょうりょうたるこつがらの持主であった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いよいよ出かけるまえ、まず墓地へいって、おとうさんのお墓におまいりして、しゅのお祈をとなえてから、こういいました。
打ちひしがれて戦いより出る。おのれの敗北を賛美し、おのれの範囲を了解し、しゅより指定された領分において、主の意志を果たさんと努力する。
キリストだって、時われに利あらずと見るや、「かくしてしゅは、のがれ去り給えり」という事になっているではないか。
親友交歓 (新字新仮名) / 太宰治(著)
(中略)故に百家の書読まざるべきものなく、さすれば人間一生の内になし得がたき大業たいぎょうに似たれども、其内しゅとする所の書をもっぱら読むを緊務とす。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しもの者を頼みきって疑わぬところ、アア、人のしゅたるものは然様そううては叶わぬ、主に取りたいほどの器量よし。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「気味の悪い奴よのう! その方は今宵いぶかしいことばかり致しおる。尋ねているのはそちでない。門七じゃ。林田! しゅの命じゃ! 言うてみい!」
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
しゅあわれめよ、しゅあわれめよ、しゅあわれめよ!』と、敬虔けいけんなるセルゲイ、セルゲイチはいながら。ピカピカと磨上みがきあげたくつよごすまいと、にわ水溜みずたまり溜息ためいきをする。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「云ううわごとはそれっきりでね、——だがクリスチァンじゃあねえな、エホバともしゅとも云わねえんです、ホワットエバー・ゴッズとは多神教でしょう」
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
すすめて、承諾も待たずにもうひざまずいた。私は今更仕方がなく、占部さんの後について口真似をした。今考えて見るとしゅの祈りだった。大体申分なかったが
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
有王は、その小屋で、しゅに生き写しの二人の男の子と三人の女の子を見た。俊寛は、長男の頭をさすりながら、これが徳寿丸とくじゅまるであるといって、有王に引き合せた。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
酒さえすすまぬ案山子かかしのような姿で夜ごと曙の里あたりを徘徊はいかいするのが見られたが、しゅを失った鉄斎道場の門は固くしまって弥生のゆくえはどことも知れなかった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しゅよこのしもべを見守りたまえ——僕はあなたを愛して以来断じて他の異性に心を動かさなかった事を。この誠意があなたによって認められないわけはないと思います。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
町では天秤棒を生活の要具としていたのは、今までは八百屋やおや肴屋さかなやとがしゅであった。配給の時代には問題はなかったが、その前にもすでに八百屋は車になっていた。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
信ずる者よ来れしゅのみもと……遠くで救世軍の楽隊が聞えていた。何が信ずるものでござんすかだ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
お菊はその夜主人又四郎の寝間へ忍び込んで、剃刀で彼が咽喉のどを少しばかり傷つけたと云うのでしゅ殺しの科人とがにんとして厳重の吟味を受けた。お菊は心中であると申し立てた。
黄八丈の小袖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
人王じんおう九十五代ニ当ツテ、天下一たび乱レテ而テしゅやすカラズ。此時東魚とうぎょきたりテ四海ヲ呑ム。西天ニ没スルコト三百七十余箇日。西鳥来テ東魚ヲ食ウ。其後海内一ニ帰スルコト三年。
赤坂城の謀略 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
死をもって迫られて尚しゅてなかった婦人達。私の安易な婦人観とはだいぶん違った人達であった。私には、これらの婦人と現実の婦人たちとの関聯かんれんや類似がはっきりしない。
篠笹の陰の顔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「おやいけねえ。いくらしゅ家来けらいでも、あっしにばかり、つみをなするなひどうげしょう」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
下ノ者はこの乞食男が斯様かように美事な筆さばきをしたのを見て、しゅのむかしの縁ある人も尊き宮人にちがいなかったであろうと、改まった鄭重ていちょうさで、畳紙をおしいただいていった。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「俺は誰にも悪いことをした覚えはないぞ。何の罪でこの俺を殺すんだ。おおお、おお、しゅよ! おお、我に先んじて十字架を負い給える主よ。お願いです、お救い下さい。……」
あの善人をご存じないとは! あの方はまるでろうのような方でがす……しゅのお顔の前の蝋でがす、まるで蝋のように溶けてしまいなさるので……閣下は一部始終を聞き取りなさると
「まだるい話だな——じゃ、お蘭さんの奴、色男に手引をして、おしゅを討たせた上に、手に手をとって、今頃は泊り泊りの宿で、誰はばからずうじゃついているという寸法なんだな——畜生!」
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この始末を聞いた治修はるながは三右衛門を目通りへ召すように命じた。命じたのは必ずしも偶然ではない。第一に治修は聡明そうめいしゅである。聡明の主だけに何ごとによらず、家来任けらいまかせということをしない。
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
領主 暫時しばらく叫喚けうくわんくちぢよ、この疑惑ぎわくあきらかにしてその源流げんりう取調とりしらべん。しかのち、われ卿等おんみら悲歎なげきひきゐて、かたきいのちをも取遣とりつかはさん。づそれまでは悲歎ひたんしのんで、この不祥事ふしゃうじ吟味ぎんみしゅとせい。
惜むらくはしゅや法王の祝福がおありなさりません。
「使われているうちは主人とあがめ奉っていたが、もうこうなれば、しゅでもねえ下僕でもねえ、おれはむかしの天城四郎の手下になってみせるぞ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つまり現世げんせではしゅとして守護霊しゅごれいまた幽界ゆうかいではしゅとして指導霊しどうれい、のお世話せわになるものとおおもいになればよろしうございます。
行手をさえぎるものはしゅでもたおせ、闇吹き散らす鼻嵐を見よ。物凄き音の、物凄き人と馬の影を包んで、あっと見るまつげの合わぬ間に過ぎ去るばかりじゃ。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……しゅのたまえり、シオンの娘らは、首をかたくし、眼を動かし、気取りたる小足にて歩み、足の輪を鳴らせばなりと。
それ外より入る者は、うちしゅたる無し、門より入る者は家珍かちんにあらず。さかずきを挙げてたのしみとなす、何ぞれ至楽ならん。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しゅの大事も忘れて、酒ばかり飲んで歩きやがって万一あの娘が死んだら、手前は腹でも切らなきゃア済むめえぜ
これがわしども、おしゅ筋に当りましての。そのおやしきの御用で、東海道の藤沢まで、買物に行ったのでござりました。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
普仏戦争ふふつせんそう——一八七〇ねんから翌年よくねんにかけて、プロシアをしゅとするきたドイツとフランスとのあいだにおこった戦争せんそう
おばあさんとツェッペリン (新字新仮名) / 小川未明(著)
しゅねがわくはおんてんよりたまえ、なんじ右手めてもてたまえるこの葡萄園ぶどうぞの見守みまもらせたまえ、おとなたまえ。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
乃公は目をつむって、しゅの祈りをした。獅子は矢張りもとの姿勢である。乃公は主の祈りを五六度した。おやッと思って目を開いて見ると、獅子は乃公の額をめていた。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
またわずかずつのしばまぐさまでささげていたが、親が教えるのは水汲みがしゅであったとみえて、八つ九つの小娘こむすめまでが、年に似合ったちいさな水桶みずおけをこしらえてもらって
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それで、さんび歌をうたうことも忘れていれば、しゅのお祈をとなえることも忘れていました。
「殿様、そればかりはおゆるしを。こうおちぶれておしゅのお名を出しますことは——」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
犬死と知って切腹するか、浪人して熊本を去るかのほか、しかたがあるまい。だがおれはおれだ。よいわ。武士はめかけとは違う。しゅの気に入らぬからといって、立場がなくなるはずはない。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
農商務省のうしょうむしょうにもでた、警視庁けいしちょうへもでた。いずれもあまりに位置いちひくいので二年とはいられずやめてしまった。そのうち府下ふか牛乳搾取業者ぎゅうにゅうさくしゅぎょうしゃの一しゅとなって、畜産衛生会ちくさんえいせいかいというものができた。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
立ち離れつゝ、しゅはよみがへりましぬ。