さぎ)” の例文
さぎなりといつはくはせ我を癩病らいびやうになし妻子親族にうとませたり故に餘儀なく我古郷を立去て原の白隱禪師はくいんぜんしの御弟子となり日毎に禪道ぜんだう教化けうげ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
片足かたあしは、みづ落口おちくちからめて、あしのそよぐがごとく、片足かたあしさぎねむつたやうにえる。……せきかみみづ一際ひときはあをんでしづかである。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
乗ってるものはみな赤シャツで、てかてか光る赤革あかかわ長靴ながぐつをはき、帽子ぼうしにはさぎの毛やなにか、白いひらひらするものをつけていた。
黄いろのトマト (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
さぎからすぐらいの見分けは誰にだってつくさ、これでも念流と小野派を少しばかりかじっているからね、名を聞かせてもらえないか」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いつか榊原家から出たという武蔵のさぎの図にも、鷺のひとみにほんのわずかではあるが、あいの淡彩が点じてあったということも聞いている。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さぎみやのあの家は売つてしまつたよ。いまは池上に銀行家の家を買つて、教祖とうちのものと一緒に住んでゐるが、これは立派だ。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
その森の梢にはたくさんのさぎが棲んでいるが、かん三十日のあいだは皆んな何処へか立ち去って、寒が明けると又帰って来る。
半七捕物帳:68 二人女房 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
およぎの出來るにはもつて來いの遊び場だつた。舟をつないでおくにもよかつた。川蝉かわせみが居る、さぎが居る、岸には水あふひが浮いてゐる。
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
『太平記』に「雨の降るが如くにける矢、二人の者共がよろいに、蓑毛の如くにぞ立たりける」。一つはさぎくびに垂れたる蓑の如き毛のこと。
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
しかもその空席のあるのは丁度ちやうど僕の右鄰みぎどおりである。さぎねえさん相当にそつと右鄰へ腰を下した。鴛鴦をしどりは勿論あねの前のり革に片手を托してゐる。
鷺と鴛鴦 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「露西亜との軍費をき上げて、之を菊三郎への軍費に流用する所、好個の外務大臣だ」まことや筆をつてはさぎを烏となし
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
多年の揣摩ずいま一時の宏弁こうべん、自然に備わる抑揚頓挫とんざあるいは開き或はじて縦横自在に言廻わせば、さぎからすに成らずには置かぬ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そのほか大鼓おおつづみの家元は誰とか、小鼓の家元は誰とか一々きまつて居る。狂言の方にも大蔵流、さぎ流などそのほかにもある。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
寒い洲崎すさきのほうにさぎの立っている姿があたりの景によき調和を見せてい、はるばると長い宇治橋が向こうにはかかり
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
かれ曙立あけたつの王におほせて、うけひ白さしむらく一〇、「この大神を拜むによりて、まことしるしあらば、このさぎの池一一の樹に住める鷺を、うけひ落ちよ」
右ての小暗い葦のなかにうえがひとつうちよせられてるのでほかにもありはしないかと見まわしてたらさぎが一羽あわただしくたって北浦のほうへ飛んでいった。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
池の真中の小島では大きなさぎが、安心しきって長閑のどかに一本脚で立っているのを見た時は、面白いなと思った。
四、五位さぎのプロムナアドは泥鰌どじょうの悩み。懇篤こんとく重厚なるジェルメエヌ後家の述懐、涙ぐましき苦業の数々。
かも小鴨こがも山鳩やまばとうさぎさぎ五位鷺ごいさぎ鴛鴦おしどりなぞは五日目ないし六日目を食べ頃としますがそのうちで鳩は腐敗の遅い鳥ですから七、八日目位になっても構いません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
あなのあいた五銭銅貨を一つ持つてゐるのさへ自慢する者がある世の中だから、大久保知事が電車でさぎのやうに衝立つてゐるのを自慢したつて少しも差支さしつかへはない。
それは遠くもない田舎いなかに、甚五郎がかくれているのが知れたので、助命を願いに出たのである。源太夫はこういう話をした。甚五郎はさぎを撃つとき蜂谷とかけをした。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
見定めると五六寸も積ったはずの雪の上へ、さぎのような真白な女が、ふんわりと立って居るのでした。
猟色の果 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
島なき場所も柳島やなぎしま三河島みかはしま向島むかうじまなぞと呼ばれ、森なき処にも烏森からすもりさぎもりの如き名称が残されてある。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
一郎は、そっと立っていって、戸棚とだなの上の剥製はくせいの鳥を持ってきました。それは、さぎに似た白い鳥でしたが、不思議に、長いくちばしが頭の横っちょについていました。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
背後うしろへ倒れかかったらしく、そこにある白樺の太い幹へ、十字架にかかったような姿勢でよりかかって、痛そうに顔をしかめ、さぎのように片足で立っているのだった。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
聞けば初代のさぎさくさんはかつて南地の演舞場の師匠をしてい、あしべ踊の振付をしていた人なので
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
侍臣が王の命のままに持って来たのは羽の真白なさぎのような鶉で、ただの鳥ではなかった。王成はその鶉を見てしょげてしまい、ひざまずいてめさしてくれといった。
王成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
そのてっぺんにはとびだのさぎだの、またこうの鳥だのの、巣をくったのが見られたということである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
失礼! と言いい程加奈子には土が珍らしく踏むのが勿体もったいない。加奈子の靴尖くつさきが地面の皮膚の下に静脈の通っていなそうな所を選んでさぎのように、つつましく踏み立つ。
豆腐買い (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
賑やかな街の真中に、寒さに震えながら立ちすくんだようにしている爺さんは、まるで、瀕死のさぎが、目を瞑り汚れた羽毛をけば立てて、一本脚で立っているように見えた。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
但し是等はくらうべからず即ちわし黄鷹くまたかとびはやぶさたか、黒鷹のたぐい各種もろもろからすたぐい鴕鳥だちょうふくろかもめ雀鷹すずめたかたぐいこうさぎ、白鳥、鸅鸆おすめどり、大鷹、つる鸚鵡おうむたぐいしぎおよび蝙蝠こうもり
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
鶴やさぎだってそうかも知れぬが立って歩くという感じにならない。とにかく黒のモーニングの礼装れいそうしたような風態ふうていで、それがチャップリンもどきの足つきである所が面白い。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
ムルタはまた蘆を吹いた、さぎが七つ目の螺旋の線にとび上がるほどの時間であった。それで彼は吹きやめると、蘆を投げすてて緑色の中にながめ入りながら真直ぐに立った。
(新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
ついでに茶漬けとは別な話であるが、京都には「さぎ知らず」という美味い小ざかながある。
京都のごりの茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
のあらわれた河原には白いさぎがおりて、納戸色なんどいろになった水には寒い風が吹きわたった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
木蓮もくれんらしい白い花が夢のように浮き上っていて、その下の水際みずぎわから一羽のさぎが今しも飛び立とうとしているところであるが、おぼろな花や林にひきかえてその鷺一匹の生動の気力は
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)
船が川の中程まで来たとき、川上の方を、白さぎの群が低くとんでわたるのを、人々は見ました。それを見て、今までだまつてゐた人々が、「白鷺ぢや」「ほう」とささやきました。
鳥右ヱ門諸国をめぐる (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
重畳ちょうじょうした岩のぬめりを水はたぎち、あおく澄んで流れて、いうところのさぎの瀬となる。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
さてセイロンのシンガリース人は林中で猴が死んでも屍を見せぬといい、その諺に「白い鳥と稲鳥(パッジー・バード、さぎの一種)と直な椰樹と死んだ猴、それを見た人は死なぬはず」
故に一篇の詩に対する解釈は人各或は見を異にすべく、要は只類似の心状を喚起するに在りとす。例へば本書一〇二頁「さぎの歌」を誦するにあたりて読者は種々の解釈を試むべき自由を有す。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
そうしていばらだのはぜだの水松みずまつだの、馬酔木あしびだの、満天星どうだんだの這い松だのの、潅木類は地面を這い、さぎうずらきじふくろたかわしなどの鳥類から、栗鼡りす鼯鼡むささび𫠘いたちまみ、狐、穴熊、鹿などという
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かわがわる足を上げて、さぎのような恰好、紅珊瑚べにさんごの爪さきを無心に拭いていると
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
庸三は見え隠れにいて行ったが、車の後になり先になりして、従いて行くのは葉子のトイレット・ケイスをぶら下げた少年詩人ばかりではなく、さぎのように細い脚をした瑠美子もいたし
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
僕は近頃屡ば面会して当時の事情を詳しく聞ひたが、阪崎氏の「汗血千里駒かんけつせんりのこま」や民友社の「阪本龍馬」などとは事実が余程違つて居る、符合した処も幾干いくばくか有るがさぎからすと言ひ黒めた処も尠なからぬ。
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂楢崎竜川田雪山(著)
左右は青田あおたである。みちは細い。さぎの影が時々やみに差す。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
カウ星影ほしかげをひたしてさぎはすなごに眠れり。
わがいほはさぎにやどかすあたりにて 野水
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
枯蘆かれあしに雪の残りや春のさぎ 怒風
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
あら、さぎが皆立つてきます
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
さぎの鳥ならば
野口雨情民謡叢書 第一篇 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)