)” の例文
旧字:
二郎はいたくい、椅子のうしろに腕を掛けて夢現ゆめうつつの境にありしが、急に頭をあげて、さなりさなりと言い、再びまなこを閉じ頭をれたり。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
□加藤は恋にひ、小畑はみずから好んで俗に入る。この間、かれの手紙に曰く「好んで詩人となるなかれ、好んで俗物となるなかれ」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
鼎斎は画家福田半香ふくだはんこう村松町むらまつちょうの家へ年始の礼に往って酒にい、水戸の剣客某と口論をし出して、其の門人に斬られたのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
花で夜更よふかしをして、今朝また飲んだ朝酒のいのさめかかって来た浅井は、ただれたような肉のわななくような薄寒さに、目がさめた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
静まらんと欲すれども風やまずと来た日にゃ、船にう、その浮世の波に浮んだ船に酔うのが、たちどころに狂人きちがいなんだと。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今は待ちあぐみてある日宴会帰りのいまぎれ、大胆にも一通の艶書えんしょ二重ふたえふうにして表書きを女文字もじに、ことさらに郵便をかりて浪子に送りつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
土手八丁どてはっちょうをぶらりぶらりと行尽ゆきつくして、山谷堀さんやぼり彼方かなたから吹いて来る朝寒あさざむの川風に懐手ふところでしたわが肌の移香うつりがいながらやま宿しゅくの方へと曲ったが
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
信一郎は、美しい蜘蛛の精の繰り出す糸にでも、懸ったように、話手の美しさにいながら、暫らくは茫然ぼうぜんとしていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
又「あゝ見惚みとれますねえ、お前さんの其の、品の良いこっちゃなア…あゝ最う十分にいました、もしおやまさん/\」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一郎はことほぎことばも深くはいわず。すべり出でたるその跡より一座の人々誰彼とおのがまにまに祝いを述べつ。例の斎藤はほろい気げんの高調子。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
「ふむ!」とばかり、男はいも何もめ果ててしまったような顔をして、両手を組んで差しうつむいたままことばもない。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
「おお、いやだ」とまゆをあつめる。えんなる人の眉をあつめたるは愛嬌あいきょうをかけたようなものである。甘き恋にい過ぎたる男は折々のこの酸味さんみに舌を打つ。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
衝立ついたての後から、その途端に、腰もしっかり定まらない一人のいどれが、扮装ふんそうしてひょろりと起って来た。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
成程なるほど一日いちにちの苦とうつかれていへかへツて來る、其處そこには笑顏ゑがほむかへる妻子さいしがある、終日しうじつ辛勞しんらう一杯いつぱいさけために、陶然たうぜんとしてツて、すべて人生の痛苦つうくわすれて了ふ。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
織部正は酒ともう一つの歓楽と、両方のいがまださめきらぬ薄寝惚けた足取りでそこへ来たときに、間平戸まひらどの外の縁側に雨がびしょ/\と叩きつける音を聞いたので
よそよそと吹く夕風、うらみもとけてい心地となった。わかやかな、恋をば又してみようか。
森の妖姫 (新字新仮名) / 小川未明(著)
めて出て行ッたばかりのところで、小万を始め此糸このいと初紫はつむらさき初緑名山千鳥などいずれも七八分のいを催し、新造しんぞのお梅まで人と汁粉しることに酔ッて、頬から耳朶みみたぶを真赤にしていた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
今遣らないところで、いつでもこの感じを起して自殺すれば、わけはないと思ったのである。音楽は聞える。ほろい機嫌になっている。可哀かわゆらしい娘がそばにいる。こういう時に遣るのだなあ。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
さけまで旅のなやみにひにける
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
嗚呼ああ! 何故あの時自分は酒をのまなかったろう。今は舌打して飲む酒、呑ばい、えば楽しいこの酒を何故飲なかったろう。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「アア、人の婚礼でああ騒ぐやつの気が知れねえ。」というように、新吉はいの退いた蒼い顔をしてグッタリと床に就いた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「ここに置かして頂戴よ。まあ、お酒のにおいがしてねえ、」と手を放すと、揺々ゆらゆらとなる矢車草より、薫ばかりも玉に染む、かんばせいて桃に似たり。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
万事を忘れて音楽を聴いている最中さいちゅう、恋人の接吻せっぷんっている最中、若葉のかげからセエヌがわの夕暮を眺めている最中にも、絶えず自分の心に浮んで来た。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お屋敷にるうちは気が張って居りましたから、御刀おかたなは丁稚にも持たさずに自分が脊負って参りましたが、途中からいが出てとんと歩かれませんようになり
『知れたこと、このい心地と、この朧夜おぼろよを、窮屈きゅうくつな駕籠などとは勿体もったいない。……竹之丞、口三味くちざみをせい』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちょうど旧暦の正月なので、街道の家々からは、酒にって笑う声や歌う声もした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
夏のの月まるきに乗じて、清水きよみずの堂を徘徊はいかいして、あきらかならぬよるの色をゆかしきもののように、遠くまなこ微茫びぼうの底に放って、幾点の紅灯こうとうに夢のごとくやわらかなる空想をほしいままにわしめたるは
京に着ける夕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
気色立けしきだつ双方の勢いにいもいくらかさめし山木はたまり兼ねて二人ふたりが間に分け入り「若旦那も、千々岩さんも、ま、ま、ま、静かに、静かに、それじゃ話も何もわからん、——これさ、お待ちなさい、ま、ま、ま、お待ちなさい」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
もとのお茶屋へ還って往くと、酒にった青柳は、取ちらかった座敷の真中に、座蒲団ざぶとんを枕にして寝ていたが、おとらも赤い顔をして、小楊枝こようじを使っていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
と云いながら上へあがり、是から四方山よもやまの話を致しながら、春見は又作にさかずきを差し、自分は飲んだふりをして、あけては差すゆえ、又作はずぶろくにいました。
米磨ぎ笊をかぶったいどれは、歌にあわせて道化た踊りを舞っていた。よほど粋も遊蕩あそびつくした者とみえ、たわむれ半分のうちにも、垢抜け手振りが時々見える。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
楽しい恋のい心地は別れたあとの悲しみを味わしめるためとしか思われませぬ。秋の日光は明日あした来る冬の悲しさを思知おもいしれとて、かようにうるわしく輝いているのでしょう。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
みじか暖簾のれんにて分け、口おおきく、しわ深く、眉迫り、ごま塩髯しおひげ硬く、真赤まっかいしれたるつらを出し、夫人のその姿をじろりとる。はじめ投頭巾なげずきんかぶりたる間、おもて柔和なり。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いが回って来たのか、それとも感慨に堪えぬのか、目を閉じてうつらうつらとして、たいをゆすぶっている。おそらくこの時が彼の最も楽しい時で、また生きている気持ちのする時であろう。
号外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「贈りまつれる薔薇のいて」とのみにて男は高き窓より表のかたを見やる。折からの五月である。館をめぐりてゆるく江に千本の柳が明かに影をひたして、空にくずるる雲の峰さえ水の底に流れ込む。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
んぞや一ひて
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
飯田町のステーションを出るころは、いがもうすっかりめていた。新吉は何かにそそのかされるような心持で、月のえた広い大道をフラフラと歩いて行った。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
林「ヒエ大層嬉しいお話で、大分だいぶいました、へえ頂戴いたします、これははや有難いことで……」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いとしの血に渇きたる Pasiphaéパヂファエ は、命あらばさぞと覚ゆる壮漢ますらおが、刺されて流す血にひて、情慾と恐怖の身ぶるひに、快楽と敬神のおもひを合せあじわひしが
「友ならぬ異心の友と、酒を飲んだところでいもせぬ。おそらく今生の事はこれりだろう」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先生の気焔きえん益々ますますたかまって、例の昔日譚むかしばなしが出て、今の侯伯子男を片端かたっぱしから罵倒ばとうし初めたが、村長は折を見て辞し去った。校長は先生が喋舌しゃべくたぶれい倒れるまで辛棒して気燄きえんの的となっていた。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
糸より細い煙のすじが、床の香炉こうろから夢のように立っている。そして、日蔭の丁子ちょうじに似るゆかしい香りが板一重を隔てたお綱をもわせて、恍惚と、身のある所を忘れさせる。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夏中洲崎すさき遊廓ゆうかくに、燈籠とうろうの催しのあった時分じぶん、夜おそく舟でかよった景色をも、自分は一生忘れまい。とまのかげから漏れる鈍い火影ほかげが、酒にって喧嘩けんかしている裸体はだかの船頭を照す。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
屠蘇でも余計に飲めばんなものでもいますが、重三郎も酔いましたが、昨年の十一月お下げになりましたお刀をかき入れを致して、二日の研初とぎぞめに研上げも出来ましたから、一度御覧に入れて
三、四杯飲んだ酒のいが、細君の顔にも出ていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
翌日あくるひ午後ひるすぎにまたもや宮戸座みやとざ立見たちみに出掛けた。長吉は恋の二人が手を取って嘆く美しい舞台から、昨日きのう始めて経験したいうべからざる悲哀の美感にいたいと思ったのである。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
方々かたがた、心ゆくまでいましょうぞ」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その昔、芝居茶屋の混雑、おさらいの座敷の緋毛氈ひもうせん、祭礼の万燈まんどう花笠はながさったその眼は永久に光を失ったばかりに、かえって浅間しい電車や電線や薄ッぺらな西洋づくりを打仰ぐ不幸を知らない。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「おおおうぞ、うたおうぞ」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あの……。」お糸は急に思出して、「小梅の伯父さん、どうなすって、お酒にって羽子板屋はごいたやのおじいさんと喧嘩けんかしたわね。何時いつだったか。わたし怖くなッちまッたわ。今夜いらッしゃればいいのに。」
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)