蝙蝠かうもり)” の例文
その代り空の月の色は前よりもなほ白くなつて、休みない往来の人通りの上には、もう気の早い蝙蝠かうもりが二三匹ひらひら舞つてゐました。
杜子春 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
蝙蝠かうもりねこべるかしら?』なんてひました、それであいちやんは、どつちがうとも其質問そのしつもんこたへることが出來できませんでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「二人共四十近い獨り者で、尤も大膳坊の方は蝠女ふくぢよとか言ふ蝙蝠かうもりが化けたやうな女の巫女みこをつれて歩いて居ます。ちよいとした年増で」
とうさんの田舍ゐなかでは、夕方ゆふがたになると夜鷹よたかといふとりそらびました。その夜鷹よたか時分じぶんには、蝙蝠かうもりまでが一しよしました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
主役蝙蝠かうもりの安さんは、先代守田勘弥であつた。ちゃっぷりん丈の泣かせる喜劇を、如何にも江戸の世界の人情に移して、巧みに人を泣かしめた。
市村羽左衛門論 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
船がギリシヤのある港につきますと、そこでふとつた男はおりることになつてゐましたので、約束のとほり、エミリアンは彼に蝙蝠かうもりをわたしました。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
日影を受けながらサツと降つて通る気まぐれな雨、谷川の橋を渡る時には、私は蝙蝠かうもり傘をさして居たと記憶して居る。
草津から伊香保まで (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
書物讀み弟子二十人計に相成、至極の繁榮はんえいにて、鳥なきさと蝙蝠かうもりとやらにて、朝から晝迄は素讀そどく、夜は講釋ども仕而、學者之鹽梅あんばいにてひとりをかしく御座候。
遺牘 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
停車場から街道へ出て、それ故、急に蝙蝠かうもり傘を擴げる人もあつた。そして白い扇子が同時にぱらぱらと開かれ、大勢の人の胸の邊でひらひらし出した。
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
あはれ其時そのとき婦人をんなが、ひきまつはられたのも、さるかれたのも、蝙蝠かうもりはれたのも、夜中よなか𩳦魅魍魎ちみまうりやうおそはれたのも、思出おもひだして、わし犇々ひし/\むねあたつた
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ふと蝙蝠かうもりが来て自分を食べると言つてまどひ歩かれた奥さんの事なぞを考へ返して、しばらくまんじりと一つところを見入つてゐたりするやうなこともあつた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
此等みな羽なくその構造つくりざま蝙蝠かうもりの翼に似たり、また彼此等を搏ち、三の風彼より起れり 四九—五一
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
そのへんにも幾つかほこらがあり、種々の神仏しんぶつが祭つてあるらしいが、夜だからよくは分からない。老木のこずゑには時々木兎みみづく蝙蝠かうもりが啼いて、あとはしんとして何の音もしない。
仏法僧鳥 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
モーランドは一生借金に苦しめられ、債権者に拘引されるのが怖さに、のちには蝙蝠かうもりのやうに夜分しか外へ出なくなつたが、しかしさういふなかでも好きな酒だけはさうとしなかつた。
真逆様に四番目の男のそばを遥かの下に落ちて行つた話などが、幾何いくつとなく載せてあつた間に、錬瓦れんぐわかべ程急な山腹さんぷくに、蝙蝠かうもりの様にひ付いた人間にんげんを二三ヶ所点綴した挿画さしゑがあつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
我が恋ふ人のたまをこゝに呼び出すべきかをりにてもなければ、要もなし、気まぐれものゝ蝙蝠かうもり風勢ふぜいが我が寂寥せきれうの調を破らんとてもぐり入ることもあれど、捉へんには竿なし、し捉ふるとも
我牢獄 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
提げパテンの蝙蝠かうもりかざさずして竹の子笠をる誠に清くして安樂の生涯羨ましき限りなり衣服調度の美を競ふは必竟ひつきやう自分の心を慰むる爲ならず人に羨まれん感服されんといふ爲なり其爲に心を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
ソーンフィールド莊が陰氣な廢墟はいきよになつて、蝙蝠かうもりや梟の棲家すみかになつた夢を。
夕闇の中に鳴く蝙蝠かうもりの声のやうに、或は頭の上に、或は肩越しに、或は膝のあたりに、耳もとに、或は足の下へ忍びより、一人の人間の居るのが何如にも邪魔さうに、何か不平をつぶやいてゐる。
伊良湖の旅 (新字旧仮名) / 吉江喬松(著)
蝙蝠かうもりやひるもともす楽屋口がくやぐち
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
蝙蝠かうもり とんで来な
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
ひながら、とうさんは蝙蝠かうもりと一しよになつてあるいたものです。どうかすると狐火きつねびといふものがえるのも、むら夕方ゆふがたでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
たまや、さう/\、おまへも一しよればかつたね!空中くうちゆうにはねずみないだらうけど、蝙蝠かうもりならつかまへられる、それはねずみてゐるのよ。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
黒い羽のはえた蝙蝠かうもりみたいなものが空を飛んでゐた、といひだす者がありました。角のはえた黒いものがやぶの中にゐたやうだ、といひだす者がありました。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
ガラツ八は舌鼓したづつみを一つ、大急ぎで、路地を出ると、天水桶の蔭へ蝙蝠かうもりのやうにピタリと身を隱しました。
親仁おやぢ其時そのとき物語ものがたつて、御坊ごばうは、孤家ひとつや周囲ぐるりで、さるたらう、ひきたらう、蝙蝠かうもりたであらう、うさぎへびみんな嬢様ぢやうさま谷川たにがはみづびせられて、畜生ちくしやうにされたるやから
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もしこの時部屋の外から、誰か婆さんの容子ようすを見てゐたとすれば、それはきつと大きな蝙蝠かうもりか何かが、蒼白い香炉の火の光の中に、飛びまはつてでもゐるやうに見えたでせう。
アグニの神 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
男が女にとつて牛であるのと同じやうに、女は男にとつて蝙蝠かうもりである。謎である。
後にはふら/\と跣足はだしで下りて、裏の夕方の木の下へ行つて、一人で土の上に髪を乱してしよんぼり坐つてゐたり、夜分に、大きな蝙蝠かうもりが出て自分を食ふと言つて家の中を方々へげて廻つたり
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
「こつちの學校に居た間は伜も大分成績が良かつたやうだが、どうも東京へ出てから去年も今年も思はしくない。尤も東京は諸國から秀才が集るのだて。鳥なき里の蝙蝠かうもり位では役に立たないかも知れないが……」
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
蝙蝠かうもりよ、蝙蝠よ
都会と田園 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
蝙蝠かうもりだと教へますと、子供等はめづらしさうに眼を見張りました、瓦斯ガスや電燈の點いた町の空に不恰好な翼をひろげたものの方を眺めて居りました。
そこにたいへん大きなくりの木が一本あつて、その枯れた下枝に、小さな蝙蝠かうもりが一匹とまつてゐました。蝙蝠はセンイチを見ても、逃げようともしませんでした。
悪魔の宝 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
『さァたまちやん、眞實ほんとことをおひ、おまへこれまでに蝙蝠かうもりべたことがあるかい?』と一生懸命しやうけんめいになつてつてますと、きふに、がさッ!/\!といふおとがして
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
からうじて腕車くるまくゞらしたれば、あみにかゝつたやうに、彼方あなた此方こなたを、すゞめがばら/\、ほら蝙蝠かうもりるやうだつた、と車夫同士くるまやどうしかたりなどして、しばらく澁茶しぶちやいちさかえる。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
日覆の外の海は、日の暮と共に風が出たらしい。ふなべりをうつ浪の音が、まるで油を揺るやうに、重苦しく聞えて来る。その音と共に、日覆をはためかすのは大方蝙蝠かうもりの羽音であらう。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
蝙蝠かうもりさん
蛍の灯台 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
よく見ると、おそろしい大きな蝙蝠かうもりで、いまにもわたしたちにおそひかゝつてきさうです。そして洞穴のかたすみには、人間の白い骨が、ばらばらになつてちらかつてゐます。
スミトラ物語 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
蝙蝠かうもりなの、からかさなの、あら、もうえなくなつたい、ほら、ね、ながれツちまひました。」
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
古写本こしやほんの伝ふる所によれば、うるがんは織田信長おだのぶながの前で、自分が京都の町で見た悪魔の容子ようすを物語つた。それは人間の顔と蝙蝠かうもりの翼と山羊やぎの脚とを備へた、奇怪な小さい動物である。
悪魔 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
蝙蝠かうもり——い、い。』
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
蝙蝠かうもりは。
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
みまはかほを、突然いきなりつばめ蝙蝠かうもりばずに、やなぎのみどりがさらりとはらふと、えだなか掻潛かいくゞるばかり、しかも一段いちだんづいとたかく、めるやうなひろ河原かはらしたに、眞蒼まつさをながれうへ
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「立派ですが、世の中は広いから、ほかにもこんなのがゐないとも限りません。そこにいくと、わたしは、蝙蝠かうもりを一匹持つてゐますが、それが、世の中に二匹とゐないものなんです」
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
魔女は箒に跨りながら、昨夜ゆうべも大きな蝙蝠かうもりのやうに、片々と空を飛んで行つた。
LOS CAPRICHOS (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
蝙蝠かうもりのちらと見えたる夏もはじめつ方、一夕あるゆふべ、出窓の外を美しき声して売り行くものあり、苗や玉苗、胡瓜の苗や茄子の苗と、其の声あたかも大川の朧に流るゝ今戸あたりの二上にあがりの調子に似たり。
草あやめ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
僕はお宗さんの髪の毛も何か頭の病気のために薄いのではないかと思つてゐる。お宗さんの使つた毛生え薬は何も売薬ばいやくばかりではない。お宗さんはいつか蝙蝠かうもりの生き血を一面に頭に塗りつけてゐた。
素描三題 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
(「お条さん」は髪の毛の薄い為めに何処どこへも片付かずにゐる人だつた。しかし髪の毛をやす為めに蝙蝠かうもりの血などを頭へつてゐた。)最後に僕のかよつてゐた江東かうとう小学校の校長さんは両眼ともめい
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
と、へんじてきつねつて、白晝はくちうまどから蝙蝠かうもりごとくにえぬ。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おほいなる蝙蝠かうもりのやうに、けむりがむら/\と隙間すきまくゞつた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)