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すべ富豪かねもちといふものは、自分のうちに転がつてゐるちり一つでも他家よそには無いものだと思ふと、それで大抵の病気はなほるものなのだ。
青磁の皿 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
アラスカ丸は七千トンだから荷物船カーゴボートでは第一級の大型だったが、たとい七千噸が七万噸でもあの波に引っかかったらも同然だ。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
実がなるや否や爆裂してみじんになるためなのか、どうか、よく確かめようと思っているうちに帰京の期が迫って果たさなかった。
沓掛より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
会場の楽屋で、服の胸をはだけ、両手を椅子の背中へたらしたかっこうにこしかけている長野は、とめみてたちあがりもしなかった。
白い道 (新字新仮名) / 徳永直(著)
どうもこうもござんせぬ。あッし共風情ふぜいものじゃどうにも手に負えねえことが出来ましたんで、ぜひにも殿様にお力を
やがて私はまた竹藪たけやぶに沿うた坂を下って、田圃たんぼそば庚申塚こうしんづかのある道や、子供の頃ささを持ってほたるを追い回した小川の縁へ出て来ましたが
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
誰に向っても感情のちり一つ貰い受けるような弱味のある筈はない人間でした。葛岡さんは幸い、あなたを愛しています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
つたは、旅汚たびよごれのした櫛巻くしまきに、唐桟縞とうざんじまの襟つきを着て、黒繻子くろじゅすの帯をはすむすびに、畳へ片手を落として、ぺたんと横坐りにすわっている。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よごれたふく、まぶかく冠ったもみくちゃの鳥打帽とりうちぼう、そのひさしの下から、機械の油で真黒になった顔がのぞいている。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
調子の冷たさ、恐らくはすで罪のない嘘くらいは平気でついた美しい主人に対して、死者に対する好意以上のものは持っていなかったでしょう。
でたくさんです。困苦欠乏こんくけつぼうにたえる精神がなによりも大切です。それはそうとして、ご自習をお始めください」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ナオミの態度も、人をそらさぬ愛嬌あいきょうはあって、はすでなく、座興の添え方やもてなし振りは、すっかり理想的でした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「もうめしを食っとる暇はない。またしばらくせわしいでみじんだ。今夜はおそいかもしれんよ。おれたちには天長節てんちょうせつも何もあったもんじゃない」
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ある時などは、家へ集まって乱痴気騒ぎをしているはすな女どもを、腕づくで一人残らず追い払ったほどであった。
茶店の老爺おやじも気の毒がって、炉辺のござまでめくって見せたけれども、附木つけぎと、ごみと、耳白みみじろが三つばかりあるほかは何物もありませんでした。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「そうだったか。」と、としちゃんは、おもたると、ためいきをつきました。いつか、はらっぱのごみで、かみくずや、ひろっていたおんなひとだ。
雪の降った日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ごちそうは、これも恒例で、赤飯に、小さいながらも、おかしら付きの焼鯛やきだい、それにじると大根なますだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「いや、なんともなんとも。今日こんにち閣下かくか昇天しようてん御勢おんいきほひにはわたくしどもまるで微塵みぢん有樣ありさまでございましたな。」
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
忌々いまいましいなあ、道中じゃ弥次郎兵衛やじろべえもこれに弱ったっけ、たまったものではないと、そっ四辺あたりみまわしますると、ちり一ッも目を遮らぬこの間の内に床が一つ
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの馬鹿力で手向いされたら親の威光も何もあったものでない、この老いの細い骨は微塵みじん、と震え上って分別し直し、しばらく静観と自重していたのだが
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「そんだつてた、さゝえだにくつゝいてたところからたんだ」與吉よきち蟷螂かまきりいぢりながらいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
鶉はというと微塵みじん、姿は消えて、ただ、羽根のいくらかと血まみれのくちばしが残っていただけだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
まるで、微塵みじんといったていたらく。……天から落ちてきたのでもなければ、こんなひどい壊れかたをするはずがない。……するてえと、これは、やっぱり神隠し。
なるほど、わかなひめけつこう、こゝへさつし。「へいこれでござります。「イヤこれは助高屋すけたかやものできれいごとだと思つたら、ごみとかれで、梅幸おとはや世話物せわものでつかひさうだ。 ...
狂言の買冠 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「鬼火の姥よ、鬼火の姥よ、とうとうお前さんの今夜の企て、微塵みじんにこわれたねえ」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
夫婦ふうふして仲睦なかむつまじくおちやをのんでゐると、そこへきじを一つくわえてきて、おいてきました。それは裏山うらやま神樣かみさまからでした。なにいてありました。みると
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
其奴そいつア判ら無えがナ、今度ア今迄来た様な道庁の役人たア違うから、何とか目鼻はつけて呉れるだろう、何時も何時も胡麻化されちゃアけえるんだが、今度ア左様そうくめエ
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
駕籠かごかきが送ってきた客へのこぼれるような愛嬌あいきょうは、はやいつもの登勢の明るさで奉公人たちの眼にはむしろはすじみて、高い笑い声もに落ちぬくらい、ふといやらしかった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
そこに突っ立ったなり、その男は大いにてれながら、自分の生命を代償としないで、芸術という月桂樹からたった一っでも摘んで構わないと思った、迷誤の罰を感じていましたっけ。
直参といえばていさいはよいが、旗本、貧乏御家人ごけにんの、その御家人の株を買って、湯川金左衛門邦純くにすみとなったのである。湯川という姓は無論買った家の姓で、金左衛門も通り名である。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
つめた挽割飯ひきわりめしと、大根だいこの味噌汁と、塩辛しおからく煮た車輪麩くるまぶと、何だか正体の分らぬ山草の塩漬しおづけこうものときりで、膳こそはきずだらけにせよ黒塗くろぬり宗和膳そうわぜんとかいう奴で、御客あしらいではあるが
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
良吉はいぶかしさうに膳の上を見入つたが、其處には故郷くにから來たらしい食物は一つもなかつた。甘つたるい浸物したし鹽鱒しほますの燒いたのと、澤庵と辣薤らつきようとが珍しくもなく並んでゐるばかりだつた。
母と子 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
冴えた空に放散する、嶮しい岩角で、一足踏みすべらすと、大変なことになると思いながらも、花の匂いが官能を刺戟して、うっとりと気が遠くなる、空は濃碧に澄んで、ちり一つの陰翳もなく
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
蔵する太古の威厳であろう! なんたる吸引的な死潮の魅魔であろう! 何かしら新しい宗教の発祥地として運命づけられていなければならないこのサイマ湖! 末梢神経的な現今の都会文化はここへ来て微塵だ。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
「じゃ、駕籠は、微塵でしょうな」
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
ちいしやのを摘んでやろ。
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
すべ富豪かねもちといふものは、自分のうちに転がつてゐるちり一つでも他家よそには無いものだと思ふと、それで大抵の病気はなほるものなのだ。
かれの予想ははずれなかった。秀次隊を一挙にみじんとした徳川勢の水野みずの大須賀おおすが丹羽にわ榊原さかきばらの諸隊は、騎虎きこの勢いをもって殺到した。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次は叔母さんがれてくれた、去年貰つた新茶の、火が戻つてすつかり臭くなつたのを、それでも有難さうにすゝつて、八の報告を促します。
まだ初心うぶな娘の声をわざとはすにはしらせてジャネットが一人の男に叫んでいるのだった。そして其の男の手に持っていた風船玉を引ったくった。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
錯覚の虚無世界に葬り去るべく害悪をたくましくする一方に、人類全体のアタマを特別念入りの手品にかけて、ミジンに飜弄しつくしているのだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
秩序というものをみだうれいがあるから、貴様たちのようなを相手にするのは大人げないと知りながら、こうして折檻せっかんにあがったのだ、以後は慎め
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一人ひとりおんなが、ながいはしのようなもので、ごみをかきかえして、ちているや、新聞紙しんぶんしのようなものをうえへひろげて、けていました。
雪の降った日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
煙草色たばこいろの制服のなかで、機械工だけが許されている色制服のちがいで、女工たちのあいだに人気があった。
白い道 (新字新仮名) / 徳永直(著)
そんなものはみじんに無くなってしまっていた。倉地を得たらばどんな事でもする。どんな屈辱でもみつと思おう。倉地を自分ひとりに得さえすれば……。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
少しはすだけど、感じはそんなに悪くない。親戚しんせきの娘さん、とでもいったところかも知れない。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私が抜くがよいか、此の間のあの話を、代りに披露ひろうしてやるぞ、などゝ云って脅迫する。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
境内は常磐樹ときわぎのしとりで水を打ったかと思うばかり、ちりひともなしに、神寂かみさびまして、土の香がプンとする、階段のとこまで参りますと、向うでは、待っていたという形。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うもしからぬことをおつしやるねおまへさんは、わたし随分ずゐぶん諸家様しよけさまへお出入でいりをするが、ちりぽんでも無断むだんに持つて来た事はありませぬよ。甚「いゝえそれでもたしかに持つて来なすつた。 ...
八百屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「わしもれからはけつして他人たにんものちりぽんでもりませんからどうぞ」
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)