瓦斯がす)” の例文
よる戸毎こごと瓦斯がす電燈でんとう閑却かんきやくして、依然いぜんとしてくらおほきくえた。宗助そうすけこの世界せかい調和てうわするほど黒味くろみつた外套ぐわいたうつゝまれてあるいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「この美しい血色が問題です。炭酸瓦斯がす中毒か、青酸中毒でなければ、二時間以上も経った死体が、こんな色をして居る筈がありません」
流行作家の死 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
其他そのたあらたに温泉おんせん冷泉れいせんはじめることもあり、また炭酸瓦斯たんさんがす其他そのた瓦斯がす土地とちからして、とり地獄じごくむし地獄じごくつくることもある。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
折り重なった鈍色にぶいろの雲のかなたに夕日の影は跡形もなく消えうせて、やみは重い不思議な瓦斯がすのように力強くすべての物を押しひしゃげていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
田圃向うの黒い村をあざやかにしきって、東の空は月の出の様に明るい。何千何万の電燈でんとう瓦斯がす松明たいまつが、彼夜の中の昼をして居るのであろう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
これ英国より取寄せられたる瓦斯がすストーブにて高さ四尺長さ五尺幅弐尺あり、このあたえ弐百五十円なりという。ストーブのかたわらに大小の大釜両個ふたつあり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
女「あの大屋さんに知れると悪うございます、橋のきわ瓦斯がすが消えますと宿屋の女が座敷つぼへ参るはやかましゅうございます」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その間からアセチリン瓦斯がすがぶくぶくと泡を噴いた。泡は真夏の烈しい陽光ひかりの中できらきらと光ったりしては消えた。
街底の熔鉱炉 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「ほら、私の髪の毛には電気があるでせう、そしてうちのお祖母ばあさんのおなかには瓦斯がすが一ぱい溜つてるでせう。ね……」
時々、海老屋の大時計のつらが、時間ときの筋をうねらして、かすかな稲妻にひらめき出るのみ。二階で便たよる深夜の光は、瓦斯がすを合わせて、ただその三つのともしびとなる。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
刹那! 待構まちかまえていた連中が手に手に瓦斯がす弾を持って、その穴の中へ叩込たたきこんだ。——ばあん、ばあん、ばあん‼ 瓦斯がす弾の破裂する音が、大きく聞えた。
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
秋子は見届けしからば御免と山水やまみずと申す長者のもとへ一応の照会もなく引き取られしより俊雄は瓦斯がすを離れた風船乗り天を仰いで吹っかける冷酒ひやざけ五臓六腑へ浸み渡りたり
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
室内では夕方になると瓦斯がす暖炉すとおぶが焚かれるが、好い陽気が毎日つづくので日のある間は暖い。
産褥の記 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
そんな動物連中の排泄物や、体臭や、猛烈に腐敗した食餌の落零おちこぼれの発酵瓦斯がすで、気が遠くなるほど臭い上に、ギャアギャアワンワンニャーニャーガンガン八釜やかましい事おびただしい。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
室の中央まんなかに石炭ストーブ、それから最う一つ瓦斯がすストーブ、書棚には沢山な和洋の書籍。
小酒井不木氏スケッチ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
するてえと、あっしらは送気ポンプでもって、空気の代りに水素瓦斯がすを送ろうッてんだ。
ぐんをなして腸腺ちょうせんつらぬき、これを破壊して血管と腹膜に侵入し、そこに瓦斯がすを発生して、組織を液体化する醗酵素はっこうそを分泌するのだが、この発生瓦斯の膨脹力は驚くべきものであって
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
運河は矢鱈やたらと曲り、曲り角の高い壁に折折をりをり小さな瓦斯がすとうの霞んでる所もある。出会ふ舟も無いのだが、大きな曲り角へ来る度に船頭が「ホオイ」と妙に淋しい調子で声を掛ける。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
中には活栓コックで細めた瓦斯がすの火が明るくなったり暗くなったりしている。片隅の方に給仕の少年が坐って居眠りをしていたが、慌ただしく立って、火を明るくして、客の外套がいとうを脱ぐ手伝いをした。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
これを例するに浅野あさのセメント会社の工場と新大橋しんおほはしむかうに残る古い火見櫓ひのみやぐらの如き、或は浅草蔵前あさくさくらまへの電燈会社と駒形堂こまがただうの如き、国技館こくぎかん回向院ゑかうゐんの如き、或は橋場はしば瓦斯がすタンクと真崎稲荷まつさきいなりの老樹の如き
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
華かな瓦斯がす燈火ともしびのつく頃の夜の楽しさを思うて、気がうき/\として、隣りや、向い筋から聞えて来る琴や、三味線の音色に、何んとなく、夢を見るようなうっとりとした気持になって、自分も
夕暮の窓より (新字新仮名) / 小川未明(著)
『ありゃあ、瓦斯がすです……ホラネ、動かないじゃありませんか……』
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
夜は、瓦斯がすの光が家々から洩れて、村のかきね道を明るくした。
晩秋の頃 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
夏の夜の「若竹わかたけ」の銀襖ぎんぶすまのごとく青白き瓦斯がすに光る。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
またこれ瓦斯がす或物あるもの凝結ぎようけつして種々しゆ/″\鹽類えんるいとなつて沈積ちんせきしてゐることがある。外國がいこくある火山かざんからはヘリウム瓦斯がす採集さいしゆうされたといはれてゐる。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
白磨しろみがきの千本格子がぴたりと閉って、寐静ねしずまったように音もしないで、ただ軒に掛けた滝の家の磨硝子すりがらすともしびばかり、瓦斯がすの音が轟々と、物凄い音を立てた。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
炭酸瓦斯がす中毒か、青酸中毒の徴候を現わして居るとしたら——自殺と言っても差支さしつかえはあるまいと思います。
流行作家の死 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
瓦斯がす弾の用意」と振返った、「僕が今此処ここけるから構わず中へ瓦斯がす弾を叩き込んで呉れ」
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
玄関前の瓦斯がすの光が前側の塀にまで輝いて居るので、今度はそれに胆を打たれてまた這入得ずに行過ぎ、薄暗い河岸に佇んで、とても叶わないことならこのまま帰ろうかと思ったが
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
さすれば、お二人さまはそのオ、フィリッピン人の初品はしりになるわけでござりますが、ああ、して見れば、お二人さまの生命と申しますものはさながら風前の瓦斯がす灯、酢のなかに落ちたはえ同然。
銀色の巨大な風船玉が、瓦斯がすを抜かれて、くらげみたいに地上によこたわった。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
もう少し睡気ねむけを催して来た貞世は、泣いたあとの渋い目を手の甲でこすりながら、不思議そうに興奮した青白い姉の顔を見やっていた。愛子は瓦斯がすに顔をそむけながらしくしくと泣き始めた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
瓦斯がすストーブの臭気が火事かと思うほどパアッと顔をった。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
吊橋の淡黄うすきなる瓦斯がすのもとを泣きゆく。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
この部屋は御覧の通り電熱があるだけで、瓦斯がすも石油も使いませんから炭酸瓦斯がす中毒とは思われないのです
流行作家の死 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
な、えてりませう……けれども、お前樣まへさまから、さかうへはうかぞへまして、何臺目なんだいめかの瓦斯がすひとつ、まだあかりいてらねばなりませぬ。……えますか。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
火山かざん噴出物ふんしゆつぶつ固體こたいほかおほくの氣體きたいがある。水蒸氣すいじようき勿論もちろん炭酸瓦斯たんさんがす水素すいそ鹽素えんそ硫黄いおうからなる各種かくしゆ瓦斯がすがあり、あるものはえてあをひかりしたともいはれてゐる。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
時を移さず瓦斯がす弾を積込つみこみ、決死の同志十名と共に、短艇は波を蹴って流血船へ向った。
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
瓦斯がすともる……いぎたなき馬の吐息といき
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ふ。こゑさへ、いろ暖爐だんろ瓦斯がす颯々さつ/\霜夜しもよえて、一層いつそう殷紅いんこうに、鮮麗せんれいなるものであつた。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
天保八年というと、まだ水野越前守みずのえちぜんのかみの粛清嵐も吹きすさばず、江戸の文化は甘酸っぱく熟れて、淫靡と頽廃と猥雑の限りを尽した異様な瓦斯がすを発散している時分のことです。
瓦斯がす焜炉こんろほのかにゆる。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
で、それ矢張やつぱり、お前樣まへさまわれらがしましたやうに、背後うしろから呼留よびとめまして、瓦斯がすの五基目だいめも、あしもとの十九のかずも、お前樣まへさまいまわれらがうたとほりのことまをします。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
うるみて消ゆる瓦斯がすの火。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
その癖もの案じの眉がひそむ。……軒の柳にもやの有る、瓦斯がすほの暗き五月闇さつきやみ。浅黄の襟に頬白う、………また雨催あめもよいの五位鷺がくのに、内へも入らず、お孝はたたずむ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あかりは水道尻のその瓦斯がすと、もう二ツ——一ツは、この二階から斜違はすっかいな、京町きょうまちの向う角の大きな青楼の三階の、真角まっかど一ツ目の小座敷の障子を二枚両方へ明放したうちに、青い、が
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
片側の商店あきないみせの、おびただしい、瓦斯がす洋燈ランプの灯と、露店のかんてらが薄くちらちらと黄昏たそがれの光を放って、水打った跡を、浴衣着、団扇うちわを手にした、手拭を提げた漫歩そぞろあるきの人通、行交ゆきちが
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
月も十五に影を宿すであろう。出ようとすると、向うの端から、ちらちらといて、次第にかまどに火が廻った。電気か、瓦斯がすを使うのか、ほとんど五彩である。ぱッと燃えはじめた。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寂然ひっそりとしていたが、重ねて呼ぶのに気を兼ねる間も無く、雨戸が一枚、すっといて、下からあお瓦斯がすを、逆に細流せせらぎを浴びたごとく濡萎ぬれしおれた姿で、水際を立てて、そこへお孝が
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
暖炉だんろ瓦斯がす颯々さっさつ霜夜しもよえて、一層殷紅いんこうに、鮮麗せんれいなるものであつた。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)