早速さっそく)” の例文
『いやどうも失礼いたしました。早速さっそくで恐縮の至りなんですが、御主人が行方不明になられた晩の模様をお聞かせ下さいませんか?』
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
警官が聞きこんで、その鞄を検分けんぶんに来た。彼は東京からの指令しれいおぼえていたので、早速さっそく「それらしきもの漂着す」と無電を打った。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その時には箕作麟祥みつくりりんしょうのお祖父じいさんの箕作阮甫げんぽと云う人が調所の頭取とうどりで、早速さっそく入門を許してれて、入門すれば字書をることが出来る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それから早速さっそくひとたのんで、だんだん先方せんぽう身元みもとしらべてると、生憎あいにくおとこほう一人ひとり息子むすこで、とても養子ようしにはかれない身分みぶんなのでした。
病気なれば気の毒、早速さっそく医者の手にかかるがいいが、もし我儘だったらあんまり卑屈ひくつにへいへいしていると、かえって増長ぞうちょうさせていけない。
良人教育十四種 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
とこの壁が落ち、横長窓の小舞こまい女竹めたけが折れて居たりして、わしは不快になり、明日から、早速さっそく、職人を入れて修理する様に杉山に命じた。
(新字新仮名) / 富田常雄(著)
さいわい怪我けがもなかったので早速さっそく投出なげだされた下駄げたを履いて、師匠のうちの前に来ると、雨戸が少しばかりいていて、店ではまだあかりいている。
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
つくづく困り抜いて居るところへ、折も折、東京の海原家から、跡取りの兄が死んだから、早速さっそく私に帰って来て相続をしろと言う使いだ。
死の予告 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「もう、なにも心配なさらないが好いのです、これからめしでもすんだなら、早速さっそく往って頼んで来ましょう、二三日すれば出来るのですよ」
女の首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
麹町こうじまちの宅に着くや、父は一室ひとまに僕をんで、『早速さっそくだがお前とく相談したいことが有るのだ。お前これから法律を学ぶ気はないかね。』
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
大降おおぶりだな、——慎太郎はそう思いながら、早速さっそく寝間着を着換えにかかった。すると帯を解いていたお絹が、やや皮肉に彼へ声をかけた。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「これは近頃めずらしい学問をいたしました。いくえにもお礼申しあげます。早速さっそく家へ帰って、家内中を驚かしてやりましょう」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
国王は早速さっそく例の鏡をさしつけてみましたが、やはり大きな黄金の卵形のもので、その色も光も形も少しも変わりませんでした。
夢の卵 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
翌日、私は彼女が私の貸した地図を手にして、早速さっそく私の教えたさまざまな村の道を一とおり見歩いて来たらしいことを知った。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
誠党領袖の一人なる武田耕雲斎たけだこううんさいと筑波に兵をげた志士らとの通謀を疑っていた際であるから、早速さっそく耕雲斎に隠居慎いんきょつつしみを命じ
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私は早速さっそくその家へ引き移りました。私は最初来た時に未亡人と話をした座敷を借りたのです。そこは宅中うちじゅうで一番へやでした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それでこの間この書物を某書店の棚に並んだ赤表紙の叢書そうしょの中に見附けた時は、大いに嬉しかった。早速さっそく読みかかってみるとなかなか面白い。
鸚鵡のイズム (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
総て功利の念をもて物を候わば、世の中に尊き物は無くなるべし、ましてやその方が持帰り候伽羅は早速さっそくき試み候に、希代きたいの名木なれば
「いや、お眼にかかって申し上げたいことで、案内も存じませぬ故、宿へ着きますると早速さっそくこれへ参りましたようなわけで」
慾張よくばり抜いて大急ぎで歩いたからのどかわいてしようがあるまい、早速さっそく茶を飲もうと思うたが、まだ湯がいておらぬという。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
道具屋の店先で、二三日の間、非常に苦しい思いをしましたが、でも、競売が始まると、仕合しあわせなことには、私の椅子は早速さっそく買手がつきました。
人間椅子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
このさわぎを聞いた例のらっぱ卒は早速さっそく校長に報告した。校長はだまってそれを聞いていたがやがておごそかにいった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
私たちは早速さっそくその一升を飲みはじめ、彼の大柄でおとなしそうな細君にも紹介せられ、また十三の男の子をかしらに、三人の子供も見せてもらった。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
それからやがて六ヶ月ばかりって、翌年の二月だったが、私の塾の女門弟がことがほしいという、古いのでもいいというので私は早速さっそく琴屋を呼んで
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
惜しい縁談だがな、断わっちまう、明日早速さっそく断わる。それにしてもあんなやつ、外聞悪くて家にゃ置けない、早速どっかへやっちまえ、いまいましい
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
岩飛びをする里人は、平生この辺でりをしたり、耕したりしていて、たまたま旅人の通る者があれば、早速さっそく勧誘して得意のはなわざを演じて見せる。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
翌朝になると早速さっそくに、前夜の同伴つれの男と一緒に、昨夜の場所に行ってみると、そのところから少し離れたくさむらの中に、古狐が一匹死んでいたとの事であった。
月夜峠 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
自分のひそかな念願が、思いもかけず早速さっそくかなうことになったので、わたしはうれしくもあれば空恐そらおそろしくもあった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
... 知らぬからだ合点が行かぬと云う丈の事」判事は目科の横鎗にて再び幾分のあやぶむ念を浮べし如く「今夜早速さっそく牢屋へ行きとくと藻西太郎に問糺といたゞして見よう」
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
此間こないだわしたくへ出やした時、あなたが可愛相かわいそうだと云って金をお恵み下され、早速さっそくお返し申そうと思いましたが、いまだにおけえし申す時節がまいりません
「とにかく貴様のような意気地なしは俺には世話ができないから、明日早速さっそく国へ帰れ!」と私は最後に言った。
父の出郷 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
孔子が魯から衛に入った時、召を受けて霊公にはえっしたが、夫人の所へは別に挨拶あいさつに出なかった。南子がかんむりを曲げた。早速さっそく人をつかわして孔子に言わしめる。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
早速さっそく、かゝりつけの太田医学博士が駆けつけて来たが、死後既に十二時間位経過して、昨夜の十時前後にもう縡切こときれているので、いかんとも仕方がなかった。
その頃またちょうど、六兵衛先生の名が殿様のお耳にたっしました。そこで殿様は早速さっそく、六兵衛先生をむかえて、名刀のありかをうらなわせることになりました。
とんまの六兵衛 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
わたしはなんの遅疑もなく、早速さっそくニャアンと彼女の言葉の下にやった。わたしの眼はお皿からはなれてもいないし、四辺あたりの眼なんぞ考えにも入れていなかった。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
からすの言葉ことばいて、童子どうじ早速さっそくうらないをててみると、なるほどからすのいったとおりにちがいありませんでしたから、おとうさんのまえへ出て、そのはなしをして
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
翌朝になると早速さっそく裏木戸や所々ところどころと人の入った様な形跡あとを尋ねてみたが、いずれも皆固くとざされていたのでその迹方あとかたもない、彼自ら実は少し薄気味悪くなり出したが
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
早速さっそくそれをたたいたり引っぱったりして、丁度自分の足に合うようにこしらえ直し、にたにた笑いながら足にはめ、その晩一ばん中歩きまわり、暁方あけがたになってから
蛙のゴム靴 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
夕方、三菱工場から戻って来ると、早速さっそく彼は台所をのぞく。すると、戸棚とだなには蒸パンやドウナッツが、彼の気に入るようにいつも目さきを変えて、拵えてあった。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
早速さっそくこれをゆるし宗伯を熱海につかわすこととなり、爾来じらい浅田はしばしば熱海に往復おうふくして公使を診察しんさつせり。
エレーナ (夫に)あたしたち、今日すぐここをちましょうよ! 早速さっそくその支度をさせなければ。
一度も談話はなしした事もなく、ただ一寸ちょいと挨拶をするくらいに止まっていた、がその三人の子供が、如何いかにも可愛かあゆいので、元来が児好こずきの私の事だから、早速さっそく御馴染おなじみって
闥の響 (新字新仮名) / 北村四海(著)
東京でさえ——女学校を卒業したものでさえ、文学の価値ねうちなどは解らぬものなのに、何もかもよく知っているらしい手紙の文句、早速さっそく返事を出して師弟の関係を結んだ。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
林は早速さっそく汽車に乗って。チャタムへ赴いた。製薬会社へいっていろいろ問合せて見たが、何分にも年月を経ているので、予期おもっていた程の収獲を得る事は出来なかった。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
鼠股引氏は早速さっそくにそのたまを受取って、懐紙かいしで土を拭って、取出した小短冊形の杉板の焼味噌にそれを突掛つっかけてべて、余りの半盃をんだ。土耳古帽氏も同じくそうした。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あるいまた、アイヌ人が川に魚をりに行こうと思って、あみをもって出かけるとしますと、それをどこかの蕗の葉の下から見付けると、早速さっそくその小さい体をうさぎのように走らして
蕗の下の神様 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
N町エヌまち楽譜店がくふてんで、うた音楽おんがくきな小僧こぞうさんをさがしているというのだ。つい、昨日きのう友人ゆうじんからいたので、早速さっそくらせにきたが、どうかね。いってみるなら、紹介しょうかいするが。
しいたげられた天才 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それは、浜に帰った上で、早速さっそく調査して組合があれば、直ちに入会に決することになった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
近頃ちかごろ春信はるのぶで一そう評判ひょうばんった笠森かさもりおせんを仕組しくんで、一ばんてさせようと、松江しょうこう春信はるのぶ懇意こんいなのをさいわい、ぜんいそげと、早速さっそくきのうここへたずねさせての、きょうであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そうすると早速さっそく山が荒れ出して、その夜は例の天狗倒てんぐだおしといって、大木を伐倒す音が盛んにした。この時も心づいて再び餅を拵えて詫びたので、ようやく無事に済んだといっている。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)