手際てぎは)” の例文
頬邊ほつぺたは、鹽梅あんばいかすつたばかりなんですけれども、ぴしり/\ひどいのがましたよ。またうまいんだ、貴女あなたいしげる手際てぎはが。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ベシー・リイは確かに生まれつきよい才能をもつた娘だつた。何をしても手際てぎはよくやつたし、また話を面白く聞かせるこつをも心得てゐた。
書替かきかへだの、手形に願ふのと、急所を手際てぎは婉曲えんきよくに巧妙な具合と来たら、実に魔薬でも用ゐて人の心をなやすかと思ふばかりだ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
手際てぎはから云つても敬服の至である。諸事明瞭に出来上てゐる。よし子のいた柿の木の比ではない。——と三四郎には思はれた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
クラリモンドは花のやうな快楽を味ひでもするやうに、わしを見戍りながら、さも自分の手際てぎはに満足するらしく思はれた。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
では言水の特色は何かと云へば、それは彼が十七字の内に、万人ばんにんが知らぬ一種の鬼気ききりこんだ手際てぎはにあると思ふ。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「曲者が——その女が、匕首あひくちを拔いたまゝ、袖の中に隱して、この男の側に寄つた時、いきなり脇腹をゑぐつたのでせう。心の臟まで突き上げた手際てぎはは大したもので」
金匁きんせんろんぜず、ことさらに手際てぎはをみせて名をとらばやとて、うみはじめより人の手をからず、丹精たんせい日数ひかずて見事に織おろしたるを、さらしやより母が持きたりしときゝて
『えらい遲い御參詣ごさんけいだしたな。』と、女は鍋を焜爐こんろにかけて、手際てぎはよく煑始にはじめた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
印刷局いんさつきよく貴婦人レデイに到るまで随喜ずゐき渇仰かつがうせしむる手際てぎは開闢以来かいびやくいらい大出来おほできなり。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
さあ、手品師、手際てぎはの鮮やかなところを見せておくれよ。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
承知して居ながら其節そのせつしかと申上べきの處只今たゞいままで打捨うちすておきし段不埓ふらちの至りなり追々おひ/\呼出し長庵と對決たいけつ申付るなりと一まづ歸宅きたくさせられたり偖て越前守殿此一件は容易よういならずと内々にて探索たんさく有りし所かくるゝよりあらはるゝはなしとの古語こごの如く彼の札の辻の人殺しはまつたく長庵の仕業しわざに相違なきこと世上の取沙汰とりさたもあるにより大岡殿は新役しんやく手際てぎは
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ほそたけそでとほして、ちないやうに、扇骨木かなめえだけた手際てぎはが、如何いかにもをんな所作しよさらしく殊勝しゆしようおもはれた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
今日の今朝まで何年が間と云ふもの秘隠ひしかくしに隠し通してゐらしつたお手際てぎはには私実に驚入つて一言いちごんも御座いません。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
すた/\とはひつてると、たなながめ、せきうかゞひ、大鞄おほかばんと、空気枕くうきまくらを、手際てぎはよくつてかついで、アルコールのあをを、くつ半輪はんわまはつて、くとて——
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
親父おやぢにも、せがれにも、風景にも、ぼくにしてを破らざること、もろこしのもちの如き味はひありと言ふべし。その手際てぎはあざやかなるは恐らくは九月小説中の第一ならん
病牀雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
唐土もろこしの人に年季を入れて教はつたさうで、四文錢を糸で釣つて、五間ぐらゐ離れてその糸を射切つて見せました、——俺のこの手際てぎはに比べると、御武家の弓自慢などは
人間にんげん一人ひとり大學だいがく卒業そつげふさせるなんて、おれ手際てぎはぢや到底とても駄目だめだ」と宗助そうすけ自分じぶん能力丈のうりよくだけあきらかにした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
めんかしらも、お製作こしらへにつたんですか。……あゝ、いや、さぎのお手際てぎはたのでわかる。のきさがつた獅子頭しゝがしらや、きつねめんなど、どんな立派りつぱなものだつたかわからない。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一と突で息の根を止めた手際てぎはは、大したものでしたよ
風「へへへ、この頃の僕の後曳あとびき手際てぎはも知らんで」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
が、お前様めえさま手際てぎはでは、昨夜ゆふべつくげて、お天守てんしゆつてござつた木像もくざうも、矢張やつぱりおなかたではねえだか。……寸法すんぽふおなじでもあしすぢつてらぬか、それでは跛足びつこぢや。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
宗助そうすけ手際てぎはでは、室内しつない煖爐だんろける設備せつびをするだけでも容易よういではなかつた。夫婦ふうふはわが時間じかん算段さんだんゆるかぎりをつくして、專念せんねん赤兒あかごいのちまもつた。けれどもすべては徒勞とらうした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「恐ろしい手際てぎはですね、親分」
手際てぎはなもので、あふうちに、じり/\と團子だんごいろづくのを、十四五本じふしごほんすくりに、一掴ひとつかみ、小口こぐちからくしつて、かたはら醤油したぢどんぶりへ、どぶりとけて、さつさばいて、すらりと七輪しちりんまたげる。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
代助はかるはこが、軌道レールうへを、苦もなくすべつてつては、又すべつてかへる迅速な手際てぎはに、軽快の感じを得た。其代り自分とおなみちを容赦なく往来ゆきゝする外濠線そとぼりせんくるまを、常よりは騒々しくにくんだ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
えらい、東京とうきやうきやくだますのは豪儀がうぎだ。ひよい、といて温泉宿をんせんやど屋根越やねごしやまひとつ、まるで方角はうがくちがつたところへ、わたしつて手際てぎはふのはい。なにか、へんに、有名いうめいきつねでもるか。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
不幸にして強制徴兵案の様に自分の想像を事実の上で直接たしかめてれる程の鮮やかな現象が、仏蘭西フランスではまだ起つてゐないから、自分は自分の臆説おくせつをさう手際てぎはよく実際に証明するわけに行かない。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)