ふさ)” の例文
何かキラキラと光る花かんざしや、金モールのふさのある幕の端がだらだらとぶら下って、安い更紗サラサ模様のバックが引廻わされている。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
十月になるとわたしは川の牧草地にブドウ採りに出かけ、りょうというよりはその美しさと香りの点で珍重すべきふさをしょってきた。
着ているのは、ふわりとしたうすしゃの服で、淡青うすあお唐草模様からくさもようがついていた。かみはイギリス風に、長いふさをなして両のほおれかかっていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
女中のふさは手早く燗瓶かんびん銅壺どうこに入れ、食卓の布をつた。そしてさらに卓上の食品くひもの彼所かしこ此処こゝと置き直して心配さうに主人の様子をうかがつた。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
結び上げた総角あげまき(組み紐の結んだかたまり)のふさ御簾みすの端から、几帳きちょうのほころびをとおして見えたので、薫はそれとうなずいた。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
多すぎる髪は、眼のところまでたれていて、首筋のところではもとどりのようになり、かたい一ふさの毛は後ろへ巻き上がっていた。
はらりとしずんだきぬの音で、はや入口へちゃんと両手を。肩がしなやかに袂のさきれつつたたみに敷いたのは、ふじふさ丈長たけなが末濃すえごなびいたよそおいである。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まだ三十がらみの壮者だが、顔いちめんの青痣あおあざへもってきて赤いまだらひげ無性ぶしょうに生やし、ふさ付きの范陽はんよう笠を背にかけて、地色もわからぬ旅袍たびごろも
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ネクタイ屋の看板にしては、これはすこし物騒ぶっそうすぎる。聖公教会の門のところに、まるで葡萄ぶどうふさみたいに一塊ひとかたまりに、乞食こじきどもがかたまっている。
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
『大変うまい葡萄だな、これは!』クイックシルヴァは、一つ一つむしってたべながらそう言いましたが、一向ふさは小さくもならないようでした。
あまり煙の少ないときは、コルク抜きの形にもなり、煙も重いガスがまじれば、煙突の口からふさになって、一方ないし四方におちることもあります。
グスコーブドリの伝記 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
金色こんじきの髪はひろい黒色のフェルト帽の下に深ぶかとしたふさをみせ、その帽子の上には白い羽が物好きのようにいろいろの形に取り付けてありました。
「だらしがねえなア、ふさが思はせ振りにハミ出して居る上に、十手の小尻が脇の下に突つ張つて居るぢやないか」
『平民の娘』おふさは、たんにモデルとして彼のうつツてゐるのではい。お房は彼の眼よりもこゝろく映ツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
それは決して結ぶということはないので、その帯の先の織出おりだしの糸がふさのようになって居りまして、くるくると巻付けて端切はしきれを中へはさみ込んで置くのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
林檎の木よ、發情期はつじやうきの壓迫で、身の内がほてつて重くなつた爛醉らんすゐなさけふさつぶじゆくした葡萄のゆるんだ帶の金具かなぐ、花を飾つた酒樽、葡萄色の蜂の飮水場みづのみば
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
私は甘いものの好きな与一のために、五銭のキャラメルと、バナナのふさを新聞に包んで持たせてやった。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
八犬伝の全体の女主人公になっておられる伏姫ふせひめ様が夫と立てておられるふさという犬に身を触れずにみごもられた……というお話の処まで読んでしまいました。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
髮にも亦琥珀色こはくいろの花をつけてゐらつしやいましたが、それが捲毛の眞黒なふさによく引き立つてゐました。
そのなかで、とおになる長女は、泥棒が台所から這入はいったのも、泥棒がみしみし縁側えんがわを歩いたのも、すっかり知っていると云った。あらまあとおふささんが驚いている。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ヴェニス提灯ちょうちんほどもある大きな葡萄のふさが互いに触れあってチリン・カリンと鳴っているのである。
女たちの中におふさというのがいた、茂吉もきちという男の妻でいちばん年若く、そのとき二十三四だった。
蛮人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ふすまの引き手のふさが、ゆらりとゆれた。細目にあいたすきから、次の間の伊吹大作の顔が現われて
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そこには、大きなブドウのふさが、おもたそうにたれさがっていて、気候はじつにおだやかで、山々は、ここではとうてい見られないような、すばらしい色をしていると。
なつならば、すいとびだすまよほたるを、あれさちなと、団扇うちわるしなやかなられるであろうが、はやあきこえ垣根かきねそとには、朝日あさひけた小葡萄こぶどうふさ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
その花束を垂直でなしに横に置き、各火花の先に小銃弾や猟銃霰弾さんだんやビスカイヤン銃弾があって、そのふさのような雷電の下に死を振るい出していると想像してみるがいい。
『梅見船』第一巻「おふさ寄場よせばに物の本を読む所」と題したる挿絵もまた妓家の二階にして、「火の用心」と「男女共無用の者二階へあがるべからず」と張紙したるかたわらの窓下には
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あかみがかった、光沢こうたくのあるがついていたのであろうけれど、ほとんどちてしまい、また、うつくしい、ぬれたさんごじゅのようなのかたまったふさが、ついていたのだろうけれど
おじいさんが捨てたら (新字新仮名) / 小川未明(著)
一郎君がそれにつられて、笑顔になって言いますと、保君はボートの底から白い布の袋のようなものを取出し、その中から、大きなバナナのふさをニューッとさし出して見せました。
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ほう、そりや大変ぢやね。それから、あの、……おふささんはどうしたかね。」
念仏の家 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
伏姫の小波は納まつたが(大助は自分)犬の八ツふさに成る思案が納まらない。
硯友社と文士劇 (新字旧仮名) / 江見水蔭(著)
ぶだうはたなの上にふさ々と実り出した。だが、つまは日日とこの中から私にいつた。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
ぐずぐずせずと酒もて来い、蝋燭ろうそくいじってそれが食えるか、鈍痴どじさかなで酒が飲めるか、小兼こかね春吉はるきちふさ蝶子ちょうこ四の五の云わせず掴んで来い、すねの達者な若い衆頼も、我家うちへ行て清、仙、鉄、政
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そして着替えるひまもなく、その籠を彼の田舎いなかの家へ送るために、母と二人で荷造りを初めた。籠は大粒の翡翠色ひすいいろした葡萄ぶどうふさや、包装紙を透けて見える黄金色こがねいろのオレンジなどで詰まっていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
隠居はふささんと云って、一昨年、本卦返ほんけがえりをした老人である。
老年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ふさふすまはかたく閉ざされて今日も寂しく物おもへとや
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
みつはりたるひとふさみにしなり
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
ふさふさとのからみあひ
薄紗の帳 (旧字旧仮名) / ステファヌ・マラルメ(著)
若紫わかむらさきふさながき
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
まっ黒な実がふさになって重々しく揺いでいた。枯れて散り残った木の葉がおのずから枝を離れて、静まり返ってる沼に一つ一つ落ちていた……。
銀之助はしづわかれて最早もう歩くのがいやになり、車を飛ばして自宅うちに帰つた。遅くなるとか、めてもいとかふさに言つたのを忘れてしまつたのである。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
昔のお前をあんなにもあどけなく見せていた、赤いさくらんぼのついた麦藁帽子もかぶらずに、若い女のように、髪を葡萄ぶどうふさのような恰好かっこうに編んでいた。
麦藁帽子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
母親殿おふくろどの頬板ほゝツぺたのふくれた、めじりさがつた、はなひくい、ぞくにさしぢゝといふあの毒々どく/″\しい左右さいうむねふさふくんで、うしてあれほどうつくしくそだつたものだらうといふ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
足をすくって、カラリと地に落ちた銀の光——短剣かと見えたのは、ふさのつかない尺四、五寸の十手であった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私はすぐ手にもった野葡萄のふさを棄ていっしんに理助について行きました。ところが理助は連れてってやろうかと云っても一向私などは構わなかったのです。
(新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「女の子はお半、おふさ、お六、おはぎまつり——こいつは年の順ですが、二十一から十七まで、それにお女将かみのお余野よのが入るんだから、その賑やかさということは」
兩方の顳顬こめかみには、暗い褐色かつしよくの髮がその時の流行のやうに、——當時は撫でつけて捲いたのや、長い捲毛まきげは流行してゐなかつた——丸みをつけた捲毛でふさになつてゐた。
命ぜられてとうの中将が色の濃い、ことにふさの長い藤を折って来て源中将の杯の台に置き添えた。源中将は杯を取ったが、酒のがれる迷惑を顔に現わしている時、大臣は
源氏物語:33 藤のうら葉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
私が大学でおすわったある西洋人が日本を去る時、私は何か餞別せんべつを贈ろうと思って、宅の蔵から高蒔絵たかまきえふさの付いた美しい文箱ふばこを取り出して来た事も、もう古い昔である。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ふさと下った五色のテープがその魚のひれの様に見えて、楽しげに、楽しげに、小さく、小さく、そして、いつしかほこりの様にかすかになって、果てしれぬ青空の底へと消えて行った。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)