)” の例文
彼の母がふだん滅多に出入りしない部屋に入つてきますと、Marion は蝶番てふつがひをはづした大きな窓の扉を自分の背に背負しよつて
文「御重役でもなんでも、今はずう/″\しいのなんて、米屋でも薪屋まきやでも、魚屋でも何でも、物を持ってく気づかいありません」
細い釘店くぎだなの往来は場所がらだけに門並かどなみきれいに掃除されて、打ち水をした上を、気のきいた風体ふうていの男女が忙しそうにしていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
嶺松寺にあった無縁の墓は、どこの共同墓地へうつされたか知らぬが、もしそれがわかったなら、尋ねにきたいものであるといった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かの新婦はなよめ——即ち大聲おほごゑによばはりつゝ尊き血をもてこれとえにしを結べる者の新婦——をしてそのいつくしむ者のもとくにあたり 三一—三三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
笠森かさもりのおせんだと、だれいうとなくくちからみみつたわって白壁町しろかべちょうまでくうちにゃァ、この駕籠かごむねぱなにゃ、人垣ひとがき出来できやすぜ。のうたけ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
楽屋へくからかえるまでの間、実に何十分を費したか知らないが、とにかくにその頃の幕間まくあいはよほど長かったものに相違なかった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「そうね。牛込の彼処あすこはどう。諏訪町すわちょう時分にあなたとも二、三度行った家さ。この頃三番町にもちょいちょいくところがあるのよ。」
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
何か、火急な事以外には、同志たちのいもつつしみ合っていた。殊に、何処へ出ても、居所は明確に誰かへ聯絡を持って置く事。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
歩けばたいして感じないほどのゆるやかな坂道は、きにはこころよくすべりこんだのだが、そのこころよさが帰りには重い荷物となる。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
二人三人、世話人が、列の柵れにきつかえりつ、時々顔を合わせて、二人ささやく、直ぐに別れてまた一人、別な世話人とちょっと出遇であう。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
境に黄泉比良坂よもつひらさかという名のあるのが不審なくらい、自由に人の世からき通う旅の神があり、また恋があり人情の葛藤かっとうがあった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
((莊賈ノ使者))すでき、いまかへるにおよばず。((穰苴))ここおいつひ莊賈さうかり、もつて三ぐんとなふ。三ぐんみな(一九)振慄しんりつせり。
それは十年も前からの友人に、ふと道できあった時のような、く自然な言葉であった。すくなくとも、私にはそう感じられた。
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
郵便局の角から入ると、それから二三ちやうあひだは露店のランプの油烟ゆえんが、むせるほどに一杯にこもつて、きちがふ人の肩と肩とが触れ合つた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
〔譯〕心は現在げんざいせんことをえうす。事未だ來らずば、むかふ可らず。事已にかば、ふ可らず。わづかに追ひ纔かに邀へば、便すなはち是れ放心はうしんなり。
港というものは、遠く海上を旅する人々の休み場所、停車場というものは、陸上をき来する人々の休み場所、どちらもにぎやかなものです。
街の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
すると天保てんぽう十年頃意外にも服部平四郎は突然くえをくらましてしまった。もっともこれは伝吉につけねらわれていることを知ったからではない。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
今まで見えたシャロットの岸に連なる柳も隠れる。柳の中を流るるシャロットの河も消える。河に沿うてきつ来りつする人影は無論ささぬ。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
反絵は時々戸の隙間から中をのぞいた。薄暗い部屋の中からは、一条の寝息が絶えずかすかに聞えていた。彼は顔をしかめて部屋の前をした。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
それは鮎漁にく時醤油二杯に酒一杯の割でよく煮詰めた汁を拵えて持って往って、鮎が釣れたらば生きたままぐにその中へ入れるのです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
彼はきとかえりの船旅を思い比べ、欧羅巴を見た眼でもう一度殖民地を見て行く時の千村を想像し、漠然ばくぜんとした不安や驚奇やは減ずるまでも
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
おれはこんな男に対して、どんな手段を取るだろう、俺がしょくの都へくのは、ねて往くのではない、苦しいから逃げて往くのだ、いずれにしても
倩娘 (新字新仮名) / 陳玄祐(著)
「それに相違あるまいが、念のためといふことがあるよ——練馬まではざつと五里、きだけで日が暮れるだらう、明日の晝までに歸りや宜い」
夜明けに、捜索隊の一部が、昨夜発見の地点から四マイルを隔てた小川の岸に、乗り棄てられた空のボウトにき当った。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
はかまをはき、用具の包を抱へこんで、少し前こごみになつて歩くせた少年栄蔵の姿が、海沿ひの街道を毎日き来するのを出雲崎の人々は見た。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
マーキュ おゝ、柔弱てぬるい、不面目ふめんもくな、卑劣ひれつ降參かうさん! 此上このうへけんあるのみぢゃ。(劍を拔く)。チッバルト、いやさ、猫王ねこまたどの、おきゃらうか?
幸に先生は維納府外数里の地に住居すまいでありました。拙者一見手をにぎりてほとんど傾蓋けいがいおもいをなしました。拙者先生に引かれてその住居へきました。
禾花媒助法之説 (新字新仮名) / 津田仙(著)
只管ひたすらに現状打破を望む性急焦躁しょうそうのものが、くべき方向の何たるかを弁ずるをえずして、さきにコンムュニズムに狂奔し今はファッシズムに傾倒す。
二・二六事件に就て (新字新仮名) / 河合栄治郎(著)
あちらの煙突えんとつのいただきに、青空あおぞらて、そのしたのぬれてひかみち人々ひとびとが、いきいきとしたかおつきをしてくのでした。
真昼のお化け (新字新仮名) / 小川未明(著)
或日黄金丸は、用事ありて里に出でし帰途かえるさ、独り畠径はたみち辿たどくに、見れば彼方かなたの山岸の、野菊あまた咲き乱れたるもとに、黄なるけものねぶりをれり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
絶えず機関車のする音が聞え、時々はすぐ窓の外で、鋭い汽笛が鳴り響くのだが、そんな物音にも、雪子はビクッと身を震わせて驚くのだ。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこで弟子たちが注意申し上げて、「ここは寂しき所、はや時もおそし。人々を去らしめ、周囲まわりの里また村にきて、己がために食物を買わせ給え」
「往生とはき生まれることだ。仏法は死ぬことを教えるのじゃない。死なぬ法を教えるのだ。浄土へ往き生まれることを、教えるのが仏法じゃ」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
我々は「シ」の音と「ス」の音とは立派に別々の音として発音し聴き分けておりますが、東北地方にくと「シ」と「ス」が同じ音になってしまう。
古代国語の音韻に就いて (新字新仮名) / 橋本進吉(著)
そこでとしこそかないが源三もなんとなく心淋しいような感じがするので、川のそばの岩の上にしばし休んで、鞺鞳どうとうと流れる水のありさまを見ながら
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
きの道すがらとらえた蛍がこのように役に立たうとは思いもかけぬことでした。斯様かよういたしておけばお心づきかと存じていたのでございます。」
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「われきて彼ほろぶる日なれば、心配するに及ばず」とて、すぐに軍を出だし、果たして勝利を得たりとのことじゃ。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
そして彼は最後に言う「我は暗き地、死のかげの地にかん、この地は暗くして晦冥やみに等しく死の蔭にして区別わかちなし、かしこにては光明ひかり黒暗くらやみの如し」
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
ちょうど千葉街道かいどうに通じたところで水の流れがあり、上潮の時は青い水が漫々と差して来た。伝馬てんまいかだ、水上警察の舟などが絶えずき来していた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
……彼は小川に沿うてきつもどりつしている。おさだまりの月の光が、ちらちらと動いて、女の編針あみばりのように入り交る。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「馬なめて」もよい句で、「友なめて遊ばむものを、馬なめてかまし里を」(巻六・九四八)という用例もある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
東京へ出るたびに、青山方角へくとすれば、必ず世田ヶ谷を通る。僕の家から約一里程行くと、街道の南手に赤松のばらばらと生えたところが見える。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
旅館の主人、馬を勧め、剛力がうりきを勧め、ござを勧め、編笠あみがさを勤む、皆之をしりぞく、この極楽の山、たゞ一本の金剛杖こんがうづゑにて足れりと広舌くわうぜつして、朝まだき裾野をく。
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
沙を運ぶ者は、ざるに容れておうこで担い、礁の破片を運ぶ者は、大きなあじかに容れて二人で差し担ってくのであった。
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
これを決するためには終日終夜心魂しんこんを痛め、あるいはひざまずいて神意を伺わんとしたり、あるいは思案に沈んで、ほとんど無意識に一室をしたという。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
みずから信ずる頗る厚く、自から為す所、言う所、一として自から是認せざるはなく、則ち自から反してなおくんば千万人といえども、吾かんの気象なり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
しかし、けるところまでというとやっと承知して、あくる日、荷担ぎバガジスとともに密林をわけはじめたのである。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
今昔こんじゃくの感そぞろにきて、幼児の時や、友達の事など夢の如くまぼろしの如く、はては走馬燈まわりあんどんの如くにぞ胸にう。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
我をなぶり見る人のかおを見返しているから、その後の委細の事情はわからないながら、右の簡単な立札だけを以て、一応要領を得てく人も、帰る人もある。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)