女郎花おみなえし)” の例文
左手に細野の人家を眺め、うわぱらと呼ぶ平坦な原野に出る、木立の中や草原には桔梗ききょう女郎花おみなえし、松虫草、コマツナギ等が咲いている。
白馬岳 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
墓のまえの花立てには、経師職の息子が涙を振りかけたらしい桔梗と女郎花おみなえしとが新しく生けてあった。半七も花と水を供えて拝んだ。
半七捕物帳:05 お化け師匠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そこには、まず、入ってすぐの、萩、尾花、葛、女郎花おみなえし、藤袴……そうした立札だけの荒れた土の中にむなしく残った一くるわ境界けいかい
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
秋の野になくてかなわぬすすきと女郎花おみなえしは、うらぼんのお精霊しょうりょうに捧げられるために生れて来たように、涙もろくひょろりと立っている。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
女郎花おみなえしだの、桔梗ききょう竜胆りんどうだの、何、大したものはない、ほんの草物ばかり、それはそれは綺麗に咲いたのを積んだまま置いてあった。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それでこそある人のある日に生けたささげと女郎花おみなえし桔梗ききょうと青竹筒は一つの芸術的創造のモンタージュ的視像となりうるのである。
映画芸術 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
女郎花おみなえし撫子なでしこそれから何というか紫のまるい花と白とエンジ色のまことにしゃれた花と。それがコップにさして机の上にあります。
女郎花おみなえし桔梗ききょうとを生けてあった花瓶も見当らず、ベッドの上の麻のかけぶとんもなく、棚の上のスーツ・ケースも無くなっていた。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
はぎ桔梗ききょう女郎花おみなえし、りんどう、そういう夏と秋とに用意された草々には、まだ花は見られなかったが、そのはいは充分にあった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
われ等が曙の色を認めたのは、もう森林を通りぬけて桔梗ききょう撫子なでしこ女郎花おみなえしの咲き誇っている平原の中を行きつつある時であった。
富士登山 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
同じ本に二寸角ばかりの中に女郎花おみなえしが画いてある。その女郎花の画き方が前の方にある一、二本はその草の上半即ち花の処が画いてある。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
それに丈の高い女郎花おみなえしに似た黄色い草花の目ざましさは。私はまたち停って、これらの初めてみる樺太の景趣に目を円くした。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
真葛まくずはら女郎花おみなえしが咲いた。すらすらとすすきを抜けて、くいある高き身に、秋風をひんよくけて通す心細さを、秋は時雨しぐれて冬になる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
向島の百花園に紫菀しおん女郎花おみなえしに交って西洋種の草花の植えられたのを、そのころに見て嘆く人のはなしを聞いたことがあった。
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
寺の御堂にも香の煙くゆらし賽銭さいせんさえあがれるを見、また佐太郎が訪い来るごとに、仏前に供えてとて桔梗ききょう蓮華れんげ女郎花おみなえしなど交る交る贈るを見
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
早暁あさまだきの密林である。斜めに射し込む陽の光、奥所おくにはもやが這っている。野菊、藤袴、女郎花おみなえし、雑草の中に花が咲いている。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
世間並みの萩や、すすきや、桔梗ききょう女郎花おみなえしの秋草がいっぱい咲いている上に、この山でなければ見られない花という花がたくさんに咲いています。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かやのあいだに、ちらとそよぐのを見ると、桔梗ききょうの花だった。太刀の帯革にからむのを見ると、女郎花おみなえしくずの花であった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宮のは人工的にすぐれた薫香をお召し物へおきしめになるのを朝夕のお仕事にあそばし、御自邸の庭にも春の花は梅を主にして、秋は人の愛する女郎花おみなえし
源氏物語:44 匂宮 (新字新仮名) / 紫式部(著)
南国の明るい光りの中に、桜も藤も、グラジオラスもダリアも、女郎花おみなえし桔梗ききょうも……四季の花々が一時に咲き競っている様は、一寸常識を通り越した見事さだ。
地図にない島 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
みち、山に入って、萩、女郎花おみなえし地楡われもこう桔梗ききょう苅萱かるかや、今を盛りの満山まんざんの秋を踏み分けてのぼる。車夫くるまやが折ってくれた色濃い桔梗の一枝ひとえだを鶴子はにぎっておぶられて行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
○十二日 小雨、やや寒し。台子だいすを出し風炉ふろに火を入る。花買いに四目の花屋に行く。紫菀しおん女郎花おみなえしとをえらびて携え帰る。茶を飲みながら兼題の歌、橋十首を作る。
草花日記 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
もちろんいしからであろう、大輪の菊のこともあるし、すすき女郎花おみなえしくずなど、野山の花のこともあった。
いしが奢る (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
桔梗ききょう女郎花おみなえしの一面に咲いている原で一しおさびしく思いました。あまり三田さんらしい死に方なので。
散華 (新字新仮名) / 太宰治(著)
木には黄楊つげしいひのき、花には石竹、朝顔、遊蝶花ゆうちょうかはぎ女郎花おみなえしなどがあった。寺の林には蝉が鳴いた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
頂上には、木というほどの木がなく、黄色い花の女郎花おみなえしや、紫の桔梗ききょうだのはぎだのが咲き乱れている。
さまざまの草かやはぎ桔梗ききょう女郎花おみなえしの若芽など、でて毛氈もうせんを敷けるがごとく、美しき草花その間に咲き乱れ、綿帽子着た銭巻ぜんまい、ひょろりとしたわらび、ここもそこもたちて
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
女生徒等は盛に草原の中を駆けまわって、コウリンカの濃朱色なのや、女郎花おみなえしのひょろひょろしたのやを折り、争って居るので腰から下はもうびしょ濡れに濡れ徹って居る。
女子霧ヶ峰登山記 (新字新仮名) / 島木赤彦(著)
式部(縁にしゃがんで、たわわに咲き傾いている女郎花おみなえしを一つ手折って老侍女に示しながら)
或る秋の紫式部 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それからすみれ蒲公英たんぽぽ桔梗ききょう女郎花おみなえしきく……一年生ねんせい草花くさばなせいは、いずれもみな小供こども姿すがたをしたものばかり、形態なり小柄こがらで、のさめるようないろ模様もよう衣裳いしょうをつけてりました。
瓜実顔うりざねがおで富士額、生死いきしにを含む眼元の塩にピンとはねたまゆ力味りきみを付け、壺々口つぼつぼぐち緊笑しめわらいにも愛嬌あいきょうをくくんで無暗むやみにはこぼさぬほどのさび、せいはスラリとして風にゆらめく女郎花おみなえし
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
錦のへりのある御簾みすと申し、あるいはまた御簾際になまめかしくうち出した、はぎ桔梗ききょう女郎花おみなえしなどのつまや袖口の彩りと申し、うららかな日の光を浴びた、境内けいだい一面の美しさは
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
秋のことだから尾花おばなはぎ女郎花おみなえしのような草花が咲き、露が一杯に下りて居ります。秋の景色は誠に淋しいもので、裏手は碓氷の根方ねがたでございますから小山こやま続きになって居ります。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
停車場は蘆葦人長ろいじんちょうの中に立てり。車のいずるにつれて、あしまばらになりて桔梗ききょうの紫なる、女郎花おみなえしの黄なる、芒花おばなの赤き、まだ深き霧の中に見ゆ。ちょう一つ二つつばさおもげに飛べり。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それ手を取れ足を持ち上げよと多勢おおぜい口々に罵り騒ぐところへ、後園の花二枝にし三枝はさんで床の眺めにせんと、境内けいだいあちこち逍遙しょうようされし朗円上人、木蘭色もくらんじき無垢むくを着て左の手に女郎花おみなえし桔梗ききょう
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
女郎花おみなえしは姿ばかり、桔梗ききょうはわずかにつぼみで、萩は野に余るくらいであって、しかもただ一様に緑であった。閉伊を二郡に区分する大沢木の峠路において、葛花くずばなの風情は初めてこれを見た。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
やさし美しいとおしの、姿や妖婉あで女郎花おみなえし、香ばしき口にたえの歌、いとも嬉しき愛のぬし、住むふるさとの極楽に、まされるわらわの楽しみを、受け給わねば世の中に、これより上のおろかなし
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
谷中やなか感応寺かんおうじきたはなれて二ちょうあまり、茅葺かやぶきのきこけつささやかな住居すまいながら垣根かきねからんだ夕顔ゆうがおしろく、四五つぼばかりのにわぱいびるがままの秋草あきぐさみだれて、尾花おばなかくれた女郎花おみなえし
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
芍薬しゃくやく、似たりや似たり杜若かきつばた、花菖蒲しょうぶ、萩、菊、桔梗ききょう女郎花おみなえし、西洋風ではチューリップ、薔薇、すみれ、ダリヤ、睡蓮、百合の花なぞ、とりどり様々の花に身をよそえて行く末は、何処いずこの窓
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
秋の草はつるを延ばし、ひょろひょろと細く、どこまでも高く、骨人や幽霊の類に配しては、全く気の毒なほどよく似合う背景となり、はぎ桔梗ききょう、すすき、女郎花おみなえしの類は怪談の装幀そうていによろしく
羊歯しだは枯れたが女郎花おみなえしはまだ咲きのこっている。うす紫の小鈴をつらねた花の名はなにか。松虫草のなかをゆくと虻の群が一斉に羽音をたてて飛びあがる。風がないので日は春のように暖い。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
尾上おのえに残る高嶺たかねの雪はわけてあざやかに、堆藍たいらん前にあり、凝黛ぎょうたい後にあり、打ちなびきたる尾花野菊女郎花おみなえしの間を行けば、石はようやく繁く松はいよいよ風情よく、灔耀えんようたる湖の影はたちまち目を迎えぬ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
これは林の奥の古い墓地でこけむす墓が四つ五つ並んでその前にすこしばかりの空地があって、その横のほうに女郎花おみなえしなど咲いていることもあろう。頭の上のこずえで小鳥が鳴いていたら君の幸福である。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
かきくり葡萄ぶどう枝豆えだまめ里芋さといもなぞと共に、大いさ三寸ぐらいの大団子おおだんご三方さんぼうに盛り、尾花おばな女郎花おみなえしたぐいを生けて、そして一夕を共に送ろうとするこんな風雅な席に招かれながら、どうして彼は滑稽こっけい
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
桔梗ききょう女郎花おみなえしのたぐいはあまり愛らしくない。私の最も愛するのは、へちまと百日草とすすき、それに次いでは日まわりと鶏頭けいとうである。
我家の園芸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
遙かむこうに、もっくりと、この地方独特に孤立した山が一つ見えていてその前景は柿が色づき、女郎花おみなえしが咲く細かい街裏の情景である。
琴平 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
根が悪徒ではござりませぬ、取締りのない、ただぼうと、一夜酒ひとよざけが沸いたようなやっこ殿じゃ。すすきも、あしも、女郎花おみなえしも、見境みさかいはござりませぬ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たけのびた雑草の緑にまじって、萩だの女郎花おみなえしだの桔梗ききょうだのの、秋草の花が咲いている、飛蝗ばった螽蟖きりぎりす馬追うまおいなどが、花や葉を分けて飛びねている。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
このへんから、裾野式の高原を展開して、桔梗ききょうがさき、萩がさき、女郎花おみなえしがひょろひょろと露けく、キスゲが洞燈ぼんぼりのような、明かる味をさしている。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
下にはぎ桔梗ききょうすすきくず女郎花おみなえし隙間すきまなくいた上に、真丸な月を銀で出して、その横のいた所へ、野路のじや空月の中なる女郎花、其一きいちと題してある。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)