ちぎ)” の例文
大納言の首は月のない夜、姫君の首の恋する人の首のふりをして忍んで行ってちぎりを結びます。契りの後に姫君の首が気がつきます。
桜の森の満開の下 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「これは助命の願いではございません。どんな罪科つみとががありましょうとも、小三郎は私の許婚、二世をちぎった方に違いはございません」
おっしゃってるじゃありませんか? どれもこれもみんな「さるべきちぎり」なのだと思ってあきらめてしまえば別に悲しいこともないわ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
そして、後醍醐ご自身は、ここより車を南にかえし、奈良へ落ちん、というお計りなのである。——南都も深く宮方にちぎりおるもの。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六郷川の中洲の蘆間にただ一度のちぎりから、海賊の娘と旗本の若殿との間に、業病ごうびょうの感染。悪因縁あくいんねんうらみは今も仰々子ぎょうぎょうしが語り伝えている。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
用いずば器は美しくならない。器は用いられて美しく、美しくなるが故に人は更にそれを用いる。人と器と、そこには主従のちぎりがある。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
黄金色わうごんいろ金盞花きんせんくわ、男の夢にかよつてこれとちぎ魑魅すだまのものすごあでやかさ、これはまた惑星わくせいにもみえる、或は悲しい「夢」の愁の髮に燃える火。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
つまりはちぎりをめたただ一人ひとりの若者にすがって、純なる夫婦のかたらいを持続する力の無い、あわれなる者という意味にほかならぬのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
主人が偕老同穴かいろうどうけつちぎった夫人の脳天の真中には真丸まんまるな大きな禿はげがある。しかもその禿が暖かい日光を反射して、今や時を得顔に輝いている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さればとてまた、誰とちぎらんと願うにもあらず、ただ、わが身の年若く、美しき事のみなげかれ、いたずらなる思に身をこがすなり
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「どちらへおいでになったのですか、御冷遇を受けますね。『秋をちぎれる』はただ私をおからかいになっただけなのですか」
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
夫人ふじん少年せうねんとをその船室キヤビンおくつて、明朝めうてうちぎつて自分じぶん船室へやかへつたとき八點鐘はつてんしよう號鐘がうしようはいと澄渡すみわたつて甲板かんぱんきこえた。
好し、さらば一時間の後の事にすべければ、こゝにて我が來んを待てとちぎり置きて、我は岸邊に往き、舟を雇ひて、何處をあてともなく漕ぎ行かせつ。
異にして我は其夜靜岡に泊り待つと告來し大坂の友には今年の秋とちぎり翌日また滊車にて根岸の古巣へ飛び歸りぬ
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
飯島の遺書かきおきをば取る手おそしと読み下しまするに、孝助とは一旦主従しゅうじゅうちぎりを結びしなれどもかたき同士であったること、孝助の忠実にで、孝心の深きに感じ
かはらぬちぎりのれなれや千年せんねん松風しようふう颯々さつ/\として血汐ちしほのこらぬ草葉くさばみどりれわたるしもいろかなしくらしだすつき一片いつぺんなんうらみやとぶらふらん此處こゝ鴛鴦ゑんあうつかうへに。
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
御息所は敦忠とちぎるようになり、敦忠は限りもなく此のお方をいとしい人に思ったのであったが、或る時
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
下界の人間とちぎったが最後天狗の宮の岩の上から深い谷底へ投げ下ろされ必ず生命いのちを失うのだからな
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
途中とちゆうより、としておうらで、二人ふたり結婚けつこんないまへから、ちぎりをはした少年せうねん学生がくせい一人ひとりある。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
村の若い娘とちぎり、かえって娘の情に引かされて、大武岬だいぶみさきの鼻というのから身投げをして、心中を遂げてしまったということから、どうもその子孫の狐がねたごころが強くて
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ただ親友として永久に変わらじとちぎり合ったに過ぎない(枕草紙、にげなきもの。「頭弁」)。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
に人生の悲しみは頑是ぐわんぜなき愛児を手離すより悲しきはなきものを、それをすらひて堪へねばならぬとは、是れもひとへに秘密をちぎりし罪悪の罰ならんと、吾れと心を取りなほして
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
牛頭山前よりは共にとちぎりたる寒月かんげつ子と打連れ立ちて、竹屋の渡りより浅草にかかる。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
これもとわがなしたるつみなれば、人はしらずとも余処目よそめに見んはそらおそろしく、命をかけてちぎりたることばにもたがへりとおもふから、むすめごのいのちかはりて神に御ばつわび候はん。
おうらみしたら、何というわけのわからない女と、おさげすみをうけるかも知れない——いかに何だと言うて、これほどまでに、かたくかたく言葉をちぎってくだされた雪之丞どの
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「あたし、あのウなんですノ、昨夜は、ちょっと外泊したんですが……」と、彼女は行末をちぎったNという青年と、多摩川の岸にあるH風呂へ泊りに行ったことを、真直ぐに告白した。
ネオン横丁殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
村上天皇の第七子具平親王ともひらしんのう世皇孫せいのこうそんである俊寛が、南蛮の女とちぎるなどは、何事であろうと考えた。彼は、あるじが流人になったため、心までが畜生道に陥ちたのではないかと嘆き悲しんだ。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
汝の心とちぎ恩惠めぐみ、今までふさはしく汝の口をひらけるがゆゑに 一一八—一二〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
よく讀書よみかきつたなからず料理人の女房になしおく勿體もつたい無きなどと見る人ごと言合いひあへる程成ば吉兵衞は一方成ず思ひ偕老同穴かいらうどうけつちぎあさからず暫時しばらく連添つれそふうち姙娠にんしんなし元祿二年四月廿八日たまの如くなる男子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しかし別離の夢魔むまから呼び起され——ちぎりの樂園に呼び込まれ——私は、たゞ飮めとなみ/\注がれた祝福のみに、心を奪はれてゐた。繰り返し/\彼は「うれしい、ジエィン?」と云つた。
他の人はいざらず、が日本の婦人を妻とする理由は男女同権論とか財産権が如何どうとか、こういう水臭みずくさい関係より偕老かいろうちぎりを結べるにあらず、夫婦間の関係は法律以外に属するものが多い。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
時の流れるままに、彼は近づきになり、ちぎりをむすび、さて別れただけの話で、恋をしたことはただの一度もなかった。ほかのものなら何から何までそろっていたけれど、ただ恋だけはなかった。
そこにおいでの御中﨟は、町方にいてお糸といっていられた頃、馴合なれあった踊の朋輩だった。いつか思い思われる仲になり、行末をちぎったこともあったが、そのうちに仲絶えて行会えぬようになった。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「此歌モ亦下意アル歟。君ガ恩恵ヲ近ク蒙ルベキ事ハ、たとヘバ人ノ夕去バ必ラズ逢ハムトちぎリタラムニ、泊瀬川ノ早キ瀬ヲカラウジテ渡リ来テ其家近ク成タルガ如シトヨメル歟」(代匠記)等と詮索しがちであるが
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
料理との不二ふにちぎりが結ばれるのです。
日本料理の基礎観念 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
辞世 一 もろともにちぎりし事はなかばにて
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
束の間ももろともにとぞちぎりたる
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
友のちぎりも結ばずに
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
おまけにこの先生ときては、天晴あっぱれ悟りをひらいて当代の大聖人と仰がれるようになってから、夢に天女とちぎりをむすんで、夢精した。
勉強記 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「これは助命の願ひではございません。どんな罪科つみとががありませうとも、小三郎は私の許婚、二世をちぎつた方に違ひはございません」
そのちぎりは、比翼ひよくの鳥もおろかと思い、つねに生死と紙一ト重な敵中で、いわば糟糠そうこうの妻振りを、かたむけつくしていたのである。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そはこの話にとどまらず、安珍あんちん清姫きよひめの話を翻訳したる「紀州きしう日高ひだかの女山伏やまぶしを殺す事」も然り、くずの話を翻訳したる、「畜類人とちぎ男子をのこを生む事」
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
……故郷の山の中で一生をちぎり合ったひとと二人っきりで瓜を作る。……いいな。うらやましい生活だ。幸福な余生だ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
二世にせちぎりとおきてにさえ出ている夫は、二重にも三重にも可愛がってくれるだろう、また可愛がって下さるよと受合われて、住み馴れたいえを今日限りと出た。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それにしても今日の大阪は検校が在りし日のおもかげをとどめぬまでに変ってしまったがこの二つの墓石のみは今も浅からぬ師弟のちぎりを語り合っているように見える。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ちぎりはふか祖先そせんえんかれてかし一人子同志ひとりこどうし、いひなづけのやく成立なりたちしはおたかがみどりの振分髮ふりわけがみをお煙草盆たばこぼんにゆひむるころなりしとか、さりとてはながかりし年月としつき
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
蛇形じゃぎょうの者とちぎって、それを悔い恥ずるの心から、箸をほとに突き立てて自殺したという姫の名。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いずれにしたところで彼らみずからの情と才藻さいそうとは、見いだされまた選択せられる折を失ってしまったのである。いわゆるあだちぎりの結ばれやすかったのも止むを得ない。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
に人生の悲しみは頑是がんぜなき愛児を手離すより悲しきはなきものを、それをすらいて堪えねばならぬとは、これもひとえに秘密をちぎりし罪悪の罰ならんと、われと心を取り直して
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「部落の長たる自分の娘が宗介天狗のお心持ちにそむき下界の若者とちぎるさえ言語道断の曲事くせごとだのに、部落を捨ててどことも知れず姿を隠してしまうとは何んという不心得の女であろう」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)