台所だいどころ)” の例文
旧字:臺所
よるもうっかりながしのしたや、台所だいどころすみものをあさりに出ると、くらやみに目がひかっていて、どんな目にあうかからなくなりました。
猫の草紙 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
もなく、おんなのマリちゃんが、いまちょうど、台所だいどころで、まえって、沸立にえたったなべをかきまわしているおかあさんのそばへました。
妖女は、それから、台所だいどころのねずみおとしをのぞきに行きました。するとそこに、はつかねずみが六ぴき、まだぴんぴん生きていました。
とうとうおしまいに、役人たちのつかまえたのは、お台所だいどころの下ばたらきのしがないむすめでした。そのむすめは、こういいました
しばらくすると、台所だいどころのほうから、「助けてえ! オヤユビさん、助けてえ!」というモルテンのかなしいさけび声が聞こえてきました。
きゃくをへやに案内あんないすると、暖炉だんろに火をもやしてたきぎをくべ、台所だいどころでお手伝いにてつだわせて、おかみさんはせっせと食事しょくじのしたくをした。
ところが花前はなまえ評判ひょうばんは、若衆わかしゅうのほうからも台所だいどころのほうからもさかんにおこった。花前は、いままでに一もふたりの朋輩ほうばいと口をきかない。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
茶ののほうで、こんなことを言い合っているのが、台所だいどころにすわって、ひとり冷たくなった御飯を食べていたお妙に聞えて来た。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
下男げなんおとこ使用人しようにん)が病気びょうきになれば、みずくみもしました。女中じょちゅうおんなのおてつだいさん)にさしつかえがあれば、台所だいどころのてつだいもしました。
あわれなかのじょには、まだ台所だいどころでたくさん仕事しごとっていました。それをかかえると、かのじょは、そと井戸端いどばたへいきました。
だまされた娘とちょうの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あるあさ、おはつ台所だいどころながしもとにはたらいていた。そこへ袖子そでこった。袖子そでこ敷布しきふをかかえたままものわないで、あおざめたかおをしていた。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
きつねが走って来てすぐかくパンを三つわたしました。ホモイはそれをいそいで台所だいどころたなの上にせてまた野原にますときつねがまだっていていました。
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
両手りょうてで頭をかかえて書物しょもつ挿絵さしえに見入っている時でも——台所だいどころのいちばんうす暗い片隅かたすみで、自分の小さな椅子いすすわって、夜になりかかっているのに
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
林太郎は、いろりのある台所だいどころで、おばあさんとおっかさんのあいだにすわって、おひるのごはんをたべていました。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
今も言おう、この時言おう、口へ出そうと思っても、朝、目をさませば俺より前に、台所だいどころでおかかを掻く音、夜寝る時は俺よりあとに、あかりの下で針仕事。
湯島の境内 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
南蛮寺なんばんじ台所だいどころか、それにゃ、まずすこし時刻じこくが早かろうぜ。おあまりは朝飯あさめしすぎにいかなけりゃくれやしないよ。うふふふふ……おこってるのか。ますなよ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かうふ時には酒がなくてはならぬと思つて、台所だいどころを探し𢌞まはつたが、女世帯をんなじよたいの事とて酒盃さかづき一ツ見当みあたらない。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
夫れ台所だいどころに於けるねづみ勢力せいりよく法外はふぐわいなる飯焚男めしたきをとこ升落ますおとしの計略けいりやくも更に討滅たうめつしがたきを思へば、社会問題しやくわいもんだいみゝかたむくる人いかで此一町内いつちやうない百「ダース」の文学者ぶんがくしや等閑なほざりにするをべき。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
台所だいどころのわきのせまい部屋へやにあおむけにねかされて、まくらもとに、さっき店でみたおやじさんがすわっていて、そのうしろにはあかんぼうをおぶったおかみさんが、立っていました。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
要吉は、なんとなくむかむかするといっしょにかなしい気持になりました。店でくさらせるばかりでなく、こうして、おやしきの台所だいどころへきても、まだ、たべる人もなくくさらせる。
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
よろける貞藏の手を取って台所だいどころ折廻おりまわった処の杉戸を明けると、三畳の部屋がござります。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それがかどつじ川原かわら等に、別に臨時の台所だいどころを特設した理由であり、子どもはまた触穢しょくえいみに対して成人ほどに敏感でないと考えられて、特に接待掛りの任に当ったものと思われる。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
やがて台所だいどころかたづけものましたおくさんはつぎかしてある子どもやう子をちよつとてくると、またちやへはいつて※て、しやうちかくにきよせた電燈でんとうの下で針仕事はりしごとにとりかゝつた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
「さっき台所だいどころきくやにつかまったとき、逃げようと思って手を食いついたんだ」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
門野かどの何時いつにか帰つて、台所だいどころの方で婆さんとはなしをしてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いっぽう、灰かぶりは、それから、ネズミ色のいつものうわっぱりをきて、台所だいどころへはいって、灰のなかにもぐりこんでいたのです。
そのときはもう、うらにまわった透明人間が、物置ものおきからさがしだした手斧ておので、ガンガン、台所だいどころのドアをたたきこわしてるところだった。
「おじいさん、おへいらっしゃいませんか。ゆうちゃん、おともをなさい。」と、このとき、おかあさんが、台所だいどころから、てきて、いいました。
かたい大きな手 (新字新仮名) / 小川未明(著)
芳輔よしすけは、十時ごろに台所だいどころからあがってこっそり自分のへやへはいった。パチリパチリとの音は十二時すぎまでこえた。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
諭吉ゆきち外出がいしゅつするといっても、げんかんからでるとはきまっていません。台所だいどころからさっさとでていくことだってありました。
その洗濯せんたく使つかうのりをおばあさんが台所だいどころわすれていった留守るすに、すずめの子がちょろちょろかごからあるして、のりをのこらずなめてしまいました。
舌切りすずめ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
むこうはすぐ台所だいどころいたが切ってあって青いけむりがあがりその間にはわずかにひくい二枚折まいおり屏風びょうぶが立っていた。
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
金之助きんのすけさんは、まだよちよちしたおぼつかない足許あしもとで、ちゃ台所だいどころあいだったりたりして、袖子そでこやおはつかたにつかまったり、二人ふたりすそにまといついたりしてたわむれた。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
へえよろしうございます…………何処どこかくさうな、アヽ台所だいどころへ置けば知れないや、下流したながしへ牡丹餅ぼたもちを置いてをけふたをしてと、人が見たらかへるになるんだよ、いかえ人が見たらかへるだよ
日本の小僧 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
それよりもまず、用心をしながら、うすぐらい、からっぽの部屋へやを、つぎからつぎへとしらべてまわりました。古い台所だいどころの床のまんなかにあったかまどの上にもとびあがってみました。
そこで、ままむすめを台所だいどころにさげて、女中のするしごとに追いつかいました。
家には、小さな玄関げんかんと、小さなりっぱな居間いまと、ベッドのおいてある小べやがありました。それに、台所だいどころ食堂しょくどうもあります。
旅館りょかんのうすくら台所だいどころのすみに、首のない人間にんげんが、片手にかじりかけのパン、片手にチーズの大きな切れをもってたっている。
ほかに六じょう二間ふたま台所だいどころつき二じょう一間ひとまある。これで家賃やちんが十円とは、おどろくほど家賃も高くなったものだ。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
その牛乳屋ぎゅうにゅうやの黒いもんをはいり、牛のにおいのするうすくらい台所だいどころの前に立って、ジョバンニは帽子ぼうしをぬいで
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そこでおばあさんは、台所だいどころから庖丁ほうちょうってて、うりを二つにろうとしますと、うりはひとりでに中からぽんとれて、かわいらしい女の子がとびしました。
瓜子姫子 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「おばあさん、たまが、うちのお台所だいどころへきていていましたから、つれてきたのよ。」と、いいました。
やんま (新字新仮名) / 小川未明(著)
気持きもちよさそうにひるねをしているおチエのかおをみながら、おかあさんは、台所だいどころのほうへはいっていきました。あとにのこった諭吉ゆきちは、おぼうさんにならずにすんだので、ほっとしました。
それがまた台所だいどころはたらいているおはつさがとき子供こどもこえでもあるのだ。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その声をききつけて、たちまち、白い小バトが二台所だいどころからはいってきました。つづいて、山バトが、いく羽もいく羽もはいってきました。
ホモイは、いそいでかくパンをってお家に帰って、台所だいどころたなの上にせて、またいそいで帰って来ました。
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
台所だいどころ戸棚とだなものぬすすどころか、戸障子としょうじをかじったり、たんすにあなをあけて、着物きものをかみさいたり、よるひる天井てんじょううらやお座敷ざしきすみをかけずりまわったりして
猫の草紙 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
礼子は両親りょうしんの顔をちらと見たままつぎのへでてしまった。つづいて芳輔よしすけが帰ってきた。両親のところへはこないで、台所だいどころへはいって、なにかくどくど下女げじょにからかってる。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
地主じぬしは、台所だいどころかおしました。そして、百しょうってきた大根だいこんをちょいとながめました。
大根とダイヤモンドの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その声をききつけて、たちまち、白い小バトが二台所だいどころまどからはいってきました。つづいて山バトが、いく羽もいく羽もはいってきました。