やさし)” の例文
御新造さまと呼ばれて莞爾にっこりあいよと笑った事、それやこれや小歌の我れに対する誠が一通りでないようで、かつまたあのやさしい小歌に
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
われは人心地ひとごこちもあらで見られじとのみひたすら手足を縮めつ。さるにてもさきのひとのうつくしかりし顔、やさしかりし眼を忘れず。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と彼は微笑して言った、その眼元めもとには心の底にひそんで居る彼のやさしい、正直な人柄の光さえ髣髴ほのめいて、自分には更にそれいたましげに見えた、其処そこで自分もわらいを含み
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
いからしコレ小僧和主てまへ何處どこの者かは知ねど大藤の娘お光さんに癲癇が有るるとは何の謔言たはごとあのお光さんは容貌きりやうく親孝心でやさしくて癲癇所ろか病氣は微塵みぢんいさゝかない人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
可憐しをらしき束髪の頸元深えりもとふかく、黄蘖染おうばくぞめ半衿はんえり紋御召もんおめし二枚袷にまいあはせを重ねたる衣紋えもんあやづ謂はんやう無く、肩状かたつきやさし内俯うつふしたるそびら金茶地きんちやぢ東綴あづまつづれの帯高く、勝色裏かついろうら敷乱しきみだれつつ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
月不足つきたらずおまけに乳が無かったもんですから、まる二月とはその児も生きていなかったそうですよ——しかし、旦那も正直な人サ——それは気分がやさしいなんて——自分が悪かったと思うと
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あまりの不状ぶざまに、むすめはうが、やさしかほをぽつと目瞼まぶたいろめ、ひざまでいて友禪いうぜんに、ふくらはぎゆきはせて、紅絹もみかげながれらしてつた。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かうらず最早もはや一年餘に及べどもお熊と一添寢そへねをせず加之そのうへむこに來りてより家内中かないぢう突掛者つゝかけものとなりやさしことばかくる者一人もなけれど下男げなん長助ちやうすけと云者のみ又七を大切たいせつになし彼の四人の者ども
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「もつとやさしことばをお聞せ下さいましな」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
やさしい声、はッと花降る留南奇とめきの薫に、お源は恍惚うっとりとして顔を上げると、帯も、たもとも、衣紋えもんも、扱帯しごきも、花いろいろの立姿。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ト見ると、肩のあたりの、すらすらとやさしいのが、いかに月に描き直されたればとて、くわを担いだ骨組にしては余りにしおらしい、と心着くと柳の腰。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いまふさがず、れいみはつて、ひそむべきなやみもげに、ひたひばかりのすぢきざまず、うつくしうやさしまゆびたまゝ、またゝきもしないで、のまゝ見据みすえた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
背後うしろから、やさしいがはりのある、朗かな、そして幅のある声して呼んだ。何等の仔細しさいなしには済むまいと思った半日。それそれ、言わぬ事か、それ言わぬ事か。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
川の方へ、引こう引こうとしていた、そのうつくしい女の、やさしい眉がきっとしまると、みのを入れちがいに砂堤すなどてに乗って、海の方から御坊の背中を力一杯どんとした。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
淡紅色ときいろの、やさしはなだが、へんにはきつとあるね。あるにちがひない。だけでもわたしにもわかるだらう。」
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
瓜核顔うりざねがおで品のいい、何とも云えないほど口許くちもとやさしい、目のすずしい、眉の美しい、十八九の振袖ふりそでが、すそいて、嫋娜すらりと中腰に立って、左の手を膝の処へ置いて、右の手で
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「も、貴下あなた、どうして、そんなに、やさしくいって下さるんですよ。こうした私じゃありませんか。」
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ころ近國きんごく知事ちじおもひものりました……めかけとこそへ、情深なさけぶかく、やさしいのを、いにしへ國主こくしゆ貴婦人きふじん簾中れんちうのやうにたゝへられたのがにしおふなか河内かはち山裾やますそなる虎杖いたどりさと
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
山藤が紫に、椿が抱いた、群青ぐんじょういわそびえたのに、純白な石の扉の、まだ新しいのが、ひたととざされて、の椿の、落ちたのではない、やさしい花が幾組かほこらに供えてあった。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自棄やけに、おくれ毛をゆすったが、……心配はさせない、と云う姉のような呑込んだやさし微笑ほほえみ
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もとより、溝板どぶいたふたがあるから、ものの形は見えぬけれども、やさし連弾つれびきはまさしくその中。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、しかし、その時のは綺麗な姉さんでも小母さんでもない。不精髯ぶしょうひげ胡麻塩ごましお親仁おやじであった。と、ばけものは、人のよくいて邪心を追って来たので、やさしひと幻影まぼろしばかり。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「私にかて、私にかて——生れてから、まだただ一日も、一日どころか一度でも、親身のやさしい言葉ひとつ聞いた事のない私に——こんなに思いに思うて、やっと逢ったのに、」
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
料理店の、あの亭主は、心やさしいもので、起居たちいにいたはりつ、慰めつ、で、此も注意はしたらしいが、深更しんこうしかも夏の戸鎖とざし浅ければ、伊達巻だてまき跣足はだしで忍んで出るすきは多かつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
お町はつつしんで袖を合せた。玉あたたかきかんばせやさしい眉の曇ったのは、その黒髪の影である。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
料理店の、あの亭主は、心やさしいもので、起居たちいにいたわりつ、慰めつ、で、これも注意はしたらしいが、深更のしかも夏の戸鎖とざし浅ければ、伊達巻だてまき跣足はだしで忍んで出るすきは多かった。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(女ばかりか草さえ菜さえ能登はやさしや土までも——俗謡の趣はこれなんめり。)
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
というものは、ついその三四日以前まえまで、ふとした事から、天狗てんぐさらわれた小坊主同然、しかし丈高く、つら赤き山伏という処を、色白にして眉のやさしい、役者のある女形に誘われて、京へ飛んだ。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふわ/\と其処そこなびく、湯気ゆげほそかどの、よこたゞよ消際きえぎはが、こんもりとやさしはなのこして、ぽつといて、衣絵きぬゑさんのまゆくちくちびる白歯しらは。……あゝあのときの、死顔しにがほが、まざ/\と、いまひざへ……
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そのはなへ、かほおしつけるやうにして、ほろ/\あふれるをごまかしましてね、「西洋せいやうのでございますか、いゝにほいですこと。」なんのつて、つて——あの、やさしはなですから、にも、えだにも
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かすかに聞いて、火鉢に手をかけ、入口をぐっとあおいで、やさしい顔で
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
北国ほっこくにおいても、旅館の設備においては、第一と世に知られたこの武生のうちでも、その随一の旅館の娘で、二十六の年に、その頃の近国の知事のおもいものになりました……めかけとこそ言え、情深なさけぶかく、やさしいのを
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さるにてもさきのひとのうつくしかりし顔、やさしかりし眼を忘れず。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お妙はツンとして横を向いた、まなじりやさしい怒が籠ったのである。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)