えら)” の例文
これえらい!……畫伯ぐわはく自若じじやくたるにも我折がをつた。が、御當人ごたうにんの、すまして、これからまた澁谷しぶやまでくゞつてかへるとふにはしたいた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そして、ひすいのたまをたくさんっているものほどえらおもわれましたばかりでなく、そのひとは、幸福こうふくであるとされたのであります。
ひすいを愛された妃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これも、えら婦人ふじん傳記でんきとほり、著者ちよしや讀者どくしや婦人ふじんだといふことは、かならずしも、書物しよもつよりも推奬すゐしやうすべき理由りいうにはなりさうもない。
読書の態度 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
どうしてって東京には日本の中央気象台があるし上海には支那の中華ちゅうか大気象台があるだろう。どっちだってえらい人がたくさん居るんだ。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そのことあと指導役しどうやくのおじいさんからうかがって自分じぶんながらびっくりしてしまいました。わたくしけっしてそんなにえら女性おんなではございませぬ。
その次にえらくなるのは君だとみんなが云つているから、しつかりべん強したまへ、と言つた言葉を憶ひ出し、わるい氣持はしなかつたのである。
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
へい……御存ごぞんじさまでございます、これは貴方あなた遠州所持ゑんしうしよぢでございまして、其後そののちたいしたえら宗匠そうしやうさんがもちひたといふしなでございます。主
しかるに時には十里歩いたことをもって、非常なる成功と思って、僕は何か世にえらやつであったごとくに賞賛する人もあろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
よく金持のむすめや何かにそんなのがあるぢやないか、望んでよめて置きながら、亭主を軽蔑してゐるのが。美禰子さんはそれよりずつとえらい。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
先代——この四条道場の開祖——吉岡拳法という人物は、今の清十郎やその弟の伝七郎とはちがって、たしかに、これはえらかったに違いない。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あいつはおこってるんだよ、」とエーレンフェルトが言った、「しかしその様子を見せたくないんだ。えらそうなふうをしてあざけっているんだ。」
あのお母さんはうちの者には強情やけど、えらい人の前へ出たら、何もよう云やはらんと、左様でございますか云うて、納得してしまやはるねんて
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
さむらいは実に封建時代に於ける世人憧憬あこがれまとであった。しかし「さむらい」の語は、もと決してそんなえらいものではなかった。
男蛙をとこかへるはしみじみとそのながめて、なあんだ、どんなにえらやつがうまれるかとおもつたら、やつぱり普通あたりまへかへるかと、ぶつぶつ愚痴ぐちをこぼしました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
そして頭領は何かしらえらいものを持っているように思えてきた。皆の者がいつも黙ってその云うことを聞いているのが、本当だと云う気がしてきた。
少年の死 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
子路が今までに会った人間のえらさは、どれもみなその利用価値の中に在った。これこれの役に立つから偉いというに過ぎない。孔子の場合は全然違う。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「腕なんぞで、君、何が出来るかネ。僕等ぼくらよりズットえらい人だって、腕なんかがアテになるものじゃあるまい。」
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それもただ沢山たくさんの本を読んだというだけでなく、昔のえらい学者や作家さっかの書いた本をじつに楽しんでんだのです。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
いやに勿體らしくのそりのそりと往來を歩きながら、自分をひとかどのえらさまだと自惚れて、さも皆んなが惚れ惚れと眺めでもするやうに思つてゐるのよ。
狂人日記 (旧字旧仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
實際それは孝子の思つてゐる通りで、この若い女教師から見ると、健が月末の出席歩合ぶあひの調べを怠けるのさへ、コセ/\した他の教師共よりえらい樣に見えた。
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
此の御明智や御えらさは、私が御奉行様を存じ上げました頃から今に至るまで少しも御変りにはなりませぬ。
殺された天一坊 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
それよりもっとえらい人物があったのかも知れないが、アンポンタンには見上げるような高い石碑に、××院殿従五位下さきの朝散太夫なんとかのなんのなんとかと
發見者はつけんしやえら學者がくしやでも大人おとなでもなく、一人ひとりちひさいむすめさんであつたのです。いまから五十年程前ごじゆうねんほどまへん(一八七九ねん)に、この附近ふきんにサウツオラといふひとんでゐました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
悲観するというのは、そんなえらい人たちと、ぼくとの間に距離きょりがありすぎるからばかりではありません。そういう事とは別に、ぼくにはぼくの考えがあるからなんです。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
しかし、無理をして勉強せよとも、是非ぜひえらくなれとも私たちは決して言わなかった。ただ分相応ぶんそうおうにその道に精進しょうじんすべきは人間の職分しょくぶんとして当然のことであるとだけは言った。
巴里のむす子へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
自分の親しい友だちが精神病になって、ひどいものになると、非常にえらかった者が柱の周囲を回るばかりである。いわゆる同一症である。それだけしかしないようになることがある。
生活と一枚の宗教 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
この素晴すばらしい結論と共に、ブロクルハースト氏はフロック型の外套の一番上のボタンを合せ、立ち上つた家族へ何か小聲で云ひ、テムプル先生に會釋ゑしやくして、さうして、このえらい人々は
何でも長左衛門様の讐討かたきうたんぢやならねエと言ふんで、伯母御様の所から逃げ出しなすつて、外国迄も行つて修業なすつて、えらかたにならしやつたと云ふことは薄々聞いてをりましたが
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
今まで勘太郎をはずかしめた村中の人たちは、これを見て勘太郎の前にみんな両手をついてあやまり、勘太郎のえら手柄てがらをほめた。そして勘太郎を一番強い偉いものとしてあがめたてまつった。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
「それじゃ我々われわれえら方々かたがたなにかものをときでも意見いけんしちゃいけないぜ。」
僕がもっとえらいと、いう事がもっと深く皆さんの心にはいるんですが、僕のいう事はほんとうの事だと思うんだけれどもしかたがありません。それじゃきっと木村に書いてやってください。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「それでも皆んなえらいよ。この天気にこの場所じゃあ、せいぜい五、六人だろうと思っていたところが、もう七、八人も来ている。まだ四、五人は来るらしい。どうも案外の盛会になったよ。」
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
『それはえらい——ところで、餌はいつもの通り、みみずを使ったのか』
桑の虫と小伜 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
それごらん 天気のかはり目をちやんと知るのは天文学者もんがくしやよりえらいんだよ
幕末のえらもの、江川太郎左衛門が狩猟好きであつたのは名高い話だ。
なんというおえらい方であろう、裸体武兵衛というお方は。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
えらいお医者とばっかり思いこんでいる長庵が一しょだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しんぱくは、人間にんげんえらいとおもいました。ここへくるひとたちは、だれでも、この鉢植はちうえのまえあしをとめて、感心かんしんして、ながめました。
しんぱくの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
身體からだよわくおなりにつてからは、「湯豆府ゆどうふことだ。……古人こじんえらい。いゝものをこしらへていてくれたよ。」と、うであつた。
湯どうふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ソーれおなされ姫様ひいさまほかのことにかけては姫様ひいさまがおえらいかれぬが、うまことにかけては矢張やはりこのじいやのほうが一まい役者やくしゃうえでござる……。
すこし気がれている人間は、時には、えらい者のように買いかぶられる場合があるから、沢庵さんも、その例かも知れない。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と云ふのは、多くの場合に於て、英雄ヒーローとは其時代に極めて大切なひとといふ事で、名前丈はえらさうだけれども、本来は甚だ実際的なものである。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さらばただただひとより偉いとうれしがるために勝つかとわば、決してえらがるばかりが目的でない、むしろ人を服従させるのが勝つの意味である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そして今別れた愛想あいそうのよい山下先生が、金太郎の入學をよろこんでくれた時、この町で一番えらくなつてゐるのは××大學の教じゆをしてゐられる林信助さん
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
だい二には、えら婦人ふじん傳記でんきである。從來じうらい婦人ふじん讀物よみものといへば、ジヤン・ダークでんとか、ナイチンゲールでんとか、さういふものを推薦すゐせんするひとすくなくない。
読書の態度 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
えらい人になるためにさ……」と子供こどもはいった。彼の頭は、祖父そふおしえと子供らしいゆめとで一ぱいになっていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
甚麽どんなえらい事をして呉れたか知れないぢやないか! それを考へると俺は、夜寢てゝもバイロンの顏が……
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「うん、眼玉めだまが出しゃばって、くちばしが細くて、ちょっと見掛けはえらそうだよ。しかし訳ないよ。」
烏の北斗七星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
また新井白石あらゐはくせきのようなえら學者がくしやは、これはむかし北海道ほつかいどうから樺太からふとんでゐた肅愼しゆくしんといふ民族みんぞく使用しようしたものであらうとかんがへ、百年ひやくねんほどまへ日本につぽんたシーボルドといふ西洋人せいようじん
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
何も息子をえらくしようとか、世間へ出そうとか、そんな欲でやっとくんでもありません。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)