余程よほど)” の例文
旧字:餘程
豚は語学も余程よほど進んでいたのだし、又実際豚の舌はやわらかで素質も充分あったのでごく流暢りゅうちょうな人間語で、しずかに校長に挨拶あいさつした。
フランドン農学校の豚 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
同室の四五人の婦人客は皆ペピユブリツクで降りた。この停留ぢやう余程よほど地の上へ遠いのでエレベエタアで客をおろしもするのである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
いずれ大西郷さいごうなどがリキンでとう/\助かるようになったのでしょう。れは私のめには大童信太夫おおわらしんだゆうよりか余程よほど骨の折れた仕事でした。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
其の時戸外おもてには余程よほど前から雨が降つてゐたと見えて、点滴の響のみか、夜風が屋根の上にと梢から払ひ落すまばらな雫の音をも耳にした。
花より雨に (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「三年てばヒドイものぢやないか。」と叔父さんは寂しさうに笑つて、「叔母さんのことも余程よほど忘れて来た——正直な話が、左様さうだ——」
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ただし富岡老人に話されるには余程よほどよき機会おりを見て貰いたい、無暗むやみに急ぐと却て失敗する、この辺は貴所において決して遺漏ぬかりはないと信ずるが
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
美髪のどちらかといえば円顔まるがおの眉の凛々しくつまって、聡明な眼の、如何にも切れそうな態度でいい。余程よほどのラジオ狂らしい。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
つた聖約翰せいヨハネ荒野あれの蝗虫いなごしよくにされたとか、それなら余程よほどべずばなるまい。もつと約翰様ヨハネさま吾々風情われわれふぜいとは人柄ひとがらちがふ。
一体いったい蝸牛かたつむりは形そのものがあまりいい感じのものではない。しかもその肉は非常にこわくて弾力性に富んでいる。これを食べるには余程よほどの勇気がいる。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
これは百パアセント成功するとは保証されていなかったが、落下傘を背負って暗黒の天空へ捨てられるよりは、余程よほど生還の可能性が大きかった。
断層顔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
だから学年試験は余程よほどしっかりやらなくちゃならないのだけれども、お母さんが、勉強する時にはウンと勉強して、遊ぶ時にはウンと遊びなさい。
贋紙幣事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
此時子規は余程よほどの重体で、手紙の文句もすこぶ悲酸ひさんであったから、情誼じょうぎ上何かしたためてやりたいとは思ったものの、こちらも遊んで居る身分ではなし
打開うちあけて云うと、恥しいことだけれど、私は、静子の夫の小山田六郎氏が、年も静子よりは余程よほどとっていた上に、その年よりも老けて見える方で
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
大人となった人の目は、もうからびて、殻が出来ている。余程よほど強い刺撃しげきを持ったものでないと、記憶に止まらない。
幼い頃の記憶 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うも劇剤げきざい多量たりやうにおもちひに相成あひなりましたものと見えて、今日けふ余程よほど加減かげんが悪うござります。殿「木内きのうちういたした。 ...
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
サア・ラザフオオド・オルコツクの「日本につぽんにおける三年間」は、マツクフアレエンの本とくらべると、余程よほど、日本の真相を正確に伝へるものである。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
余程よほどしっかりした自信、力のある乗手のりてであるうえに、風としおとをよく知っている者でなくてはならなかった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
実際私達にしろこの坂に達した時分になると余程よほど自分ではしっかりしているつもりでも神経が苛々いらいらとして来て、藪蔭やぶかげで小鳥が羽ばたいても思わず慄然として首を縮め
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
老人が引っ返したのは余程よほどたってからだった。行こうというからには湯銭はできたに違いない。
地図にない街 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
奥様もわたしの頑固ぐわんこには余程よほど困つて居られたのだらう。「それでは兎に角、この話は今のところこれ以上に進ませもせず、また壊すこともせずといふ事にして置きませう」
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
其間そのあひだ余程よほど文章を修行しゆぎやうしたものらしい、増上寺ぞうじやうじ行誡上人ぎやうかいしやうにん石川鴻斎翁いしかはこうさいおうの所へ行つたのはすべ此間このあひだの事で、してもつぱ独修どくしうをした者と見える、なんでも西郷隆盛論さいごうたかもりろんであつたか
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
あるいは経文きょうもんとか仏像とかいうものに至っては、余程よほど持出すようにインドの方から求めても、そういう物は途中で見付けられると没収されるから、余り輸出されて居らない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
こんなことが余程よほどながく続きましたので、蟹はすっかり弱ってしまいました。甲羅の色も悪くなり、足も二本ばかりぼろぼろになってもげてしまいました。するとあるときでした。
椰子蟹 (新字新仮名) / 宮原晃一郎(著)
早速さっそくまだうら若き身を白衣びゃくえ姿に変えて、納経のうきょうふところにして、ある年の秋、一人ふいとおのれの故郷をあとにして、遂に千ヶ寺詣せんがじもうでの旅にのぼったのであった、すると、それから余程よほど月日も経ったが
千ヶ寺詣 (新字新仮名) / 北村四海(著)
お爺さんのあとについて余程よほど歩いたかと思う時分に、だんだんお爺さんの歩みが早くなったようで、かねちゃんは一生懸命に追い付こうと思って駆け出しましたけれどだんだん遠く遠くなって
嵐の夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その姿勢を余程よほど長く兵達がつづけているということは、その姿勢のくずれ方や、手を楽なように置き換えようとする絶望的な努力の様子で、はっきり判った。彼等はそろって頭を垂れていた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
『お前さん、余程よほど前から、番人をしてるのかね?』
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「中学校だつけね、乃公おれは子供を持つた事がねえから当節たうせつの学校の事はちつともわからない。大学校まで行くにやまだ余程よほどかゝるのかい。」
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
月はもう余程よほど高くなり、星座もずいぶんめぐりました。蝎座さそりざは西へしずむとこでしたし、天の川もすっかりななめになりました。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そんな物を書くよりは、発句ほつく稽古けいこでもしてゐる方が、余程よほど養生になるではないか。発句より手習ひでもしてゐれば、もつと事が足りるかも知れぬ。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
前の晩には金碧きんぺきまばゆい汽車だと思つたが朝になつて見ると昨日きのふ迄のよりは余程よほど古い。窓も真中まんなかに一つあるだけである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
一生を通して女性の崇拝家であったようなくなった甥の太一に比べると、彼は余程よほど違った性分に生れついていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
心持こゝろもち余程よほど大蛇だいじやおもつた、三じやく、四しやく、五しやく、四はう、一ぢやう段々だん/″\くさうごくのがひろがつて、かたへたにへ一文字もんじさツなびいた、はてみねやまも一せいゆるいだ
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
僕はその日、頭が余程よほど変になっていた。天候がそんなだったせいもあり、一つは奇怪な芝居を見たからでもあろうが、何となく物におびえ易くなっていた。
百面相役者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
番兵殿ばんぺいどの手前てまへをもう一らうへおもどしを願ひます。—余程よほど不作ふさくと見えまする。それたお話がございます。
詩好の王様と棒縛の旅人 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
ところが龍子の聴力は余程よほど恢復かいふくしていたので、とうとう龍子に犯行を感付かれた。そこで彼は殺意をしょうじたが、マンマとやり損じた。いいですね、帆村さん。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
実に容易ならぬ動揺である、西南戦争の時にも随分苦労したが、今度の始末はソレよりもむずかしいなんかんと話すのを聞けば、余程よほど騒いだものと察しられる。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
策略でするわけでも無いのだが、自然とそうなるのであった。つまり僕の方が人がかったのだな。今正岡が元気でいたら、余程よほど二人の関係は違うたろうと思う。
正岡子規 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
学生時代がくせいじだい石橋いしばしふ者は実に顔が広かつたし、かつぜん学習院がくしうゐんた事があるので、く売りました、第一だいいちかたちふものが余程よほど可笑をかしい、石橋いしばし鼻目鏡はなめがねけて今こそ流行はやるけれど
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「そうとも! それで大津の鼻をあかしてやろうと言うんだろう、可いサ、先生も最早もうあれで余程よほど老衰よわって御坐るから早くお梅さんのことを決定きめたら肩が安まって安心して死ねるだろうから」
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ただ呉々くれぐれも妻は己の職業に慢心まんしんして大切にしてもらう夫にれ、かりにも威張いばったり増長ぞうちょうせぬこと。月並のいましめのようなれど、余程よほどの心がけなくてはいわゆる女性のあさはかより、このへいおちいやすかるべし。
良人教育十四種 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
種類の上の話はこの位にするが、一般に近頃の小説では、幽霊——或は妖怪えうくわいの書き方が、余程よほど科学的になつてゐる。
近頃の幽霊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
年老いた祖母や母をのあたりに見るにつけても自分は余程よほどしっかりしなければ成らないと思うと書いてよこした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかし自然に中立地帯をなして居る土地だけに格別革命軍の影響はすくない。東京での騒ぎの方が余程よほど大きい様である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
まだ夜があけるのに余程よほど間があります。天の川がずんずん近くなります。二人のお宮がもうはっきり見えます。
双子の星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
彼はいまだにそれを繰返しては、チェッと舌を打っているところを見ると、余程よほど忘れられないものらしい。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それから金物屋かなものやさんで、名前はへないが、是々これ/\炭屋すみやりましたかと聞くと、成程なるほど塩原多助しほばらたすけといふ炭屋すみやがあつたさうだが、それは余程よほど古いことだといふ。
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
学校の名もよくは覚えて居ないが、今の高等商業の横あたりにって、僕の入ったのは十二三の頃か知ら。何でも今の中学生などよりは余程よほど小さかった様な気がする。
落第 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
といつて、わたしはきよとりとした。——これは帰京ききやう早々そう/\たづねにあづかつた緑蝶夫人ろくてふふじんとひこたへたのであるが——じつくち宿やど洋燈ランプだつたので、近頃ちかごろ余程よほどめづらしかつた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
日は余程よほど落ちて昔の七ツすぎ。サア大変だ。丁度ちょうどその日に長与専斎ながよせんさいが道頓堀の芝居を見に行て居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)