ひさ)” の例文
ふぐは多し、またさかんぜんに上す国で、魚市は言うにも及ばず、市内到る処の魚屋の店に、春となると、このあやしうおひさがない処はない。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大津絵または追分絵おいわけえとは今の大津の町から大谷、追分にかけての街道でひさいだ所から来た名である。明らかに旅人の土産物であった。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
風琴ふうきん楽を和してゆうなる処のみ神の教会ならざるを知れり、孝子家計の貧を補わんがために寒夜に物をひさぐ処これ神の教会ならずや
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
一定の居なく水草を逐うて移徙いしし、男は狩猟を主として傍ら各種の遊芸に従事し、女は美粧して婬をひさぐを業としていたらしい。
これ一椀のあつものに、長子の権をひさぐものなり。これ我種族伝来の最善なるものに不忠なることを示すものなり。これ単に欧洲教育の猿真似なり。
我が教育の欠陥 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
系譜の載する所の始祖は又兵衞と稱した。相摸國三浦郡蘆名村に生れ、江戸に入つて品川町に居り、魚をひさぐを業とした。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
然しわたくしがわざわざ廻り道までして、この店をたずねるのは古本のためではなく、古本をひさぐ亭主の人柄と、廓外くるわそとの裏町という情味との為である。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ゆゑいはく、これ大人たいじんろんずればすなはもつおのれ(七二)かんすとせられ、これ(七三)細人さいじんろんずればすなはもつて((己ノ))けん(七四)ひさぐとせられ
本業は人を使つて山深く入つて曲物まげもの(日光名物であるに拘らず、今はこれをひさいでゐることの少いのは遺憾だ)
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
我駒の行くところは、古かなもの、古畫をひさ露肆ほしみせの間にて、目も當てられずけがれたる泥淖ぬかるみうちにぞありける。
「素扇では売れませぬまま、人のすすめで、里人さとびとのなぐさみばかりに、恥をひさいでいるだけでございまする」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此町の多く紳士貴婦人の粧飾そうしょく品をひさげる事はかねてより知る所なれど、心に思いを包みて見渡すときは又一入ひとしお立派にしていずれの窓に飾れる品も、実にぜんつくつく
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
松陰おもえらく、象山畢竟ひっきょう洋学をひさいで、みずから給する売儒ならんと。すなわち平服のままにて、その門に入る。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ほかにも宋の朱泰貧乏で百里たきぎひさぎ母を養う、ある時虎来り泰を負うて去らんとす、泰声をはげまして我は惜しむに足らず母を託する方なしと歎くと虎が放ち去った
原品は東海道亀山かめやまばけとて張子にて飛んだりと同様の製作にて、江戸黒船町辺にてひさぎをりしを後
江戸の玩具 (新字旧仮名) / 淡島寒月(著)
四三管仲くわんちゆう四四ここのたび諸侯をあはせて、身は四五倍臣やつこながら富貴は列国の君にまされり。四六范蠡はんれい四七子貢しこう四八白圭はつけいともがら四九たからひさぎ利をうて、巨万ここだくこがねみなす。
我をして先づ想はしめよ、見せしめよ、聞かしめよ、しかして教へられしめよ、彼植木屋は何ぞ。彼はこれ一箇市井しせい老爺らうや、木を作り、花を作り、以てひさいで生計を立つる者のみ。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
アオヤ 栽培する蔬菜そさいにも青物という名を延長し、これをひさぐ店を青物屋ということは、東日本一般の風であったが、東京などはいつの間にかこれをヤオヤというようになった。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
貴縉きけん紳士、夫人令嬢老若童婢と、雲霞うんかのごとく蝟集する中をよろめき歩く貸椅子屋の老婆、行列マルソウ番附プログラムを触れ売りする若い衆、コンフェッチをひさぐ娘など肩摩轂撃の大雑踏大混雑
五百人の杣夫そまをはじめとし、それを監督する百五十人の武士、その連中に春をひさぐ、三四十人の私娼の群、どこにいるとも解らないが、兇暴の強盗や殺人をする、数百人の山窩さんかの団隊
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
張子のとらや起きあがり法師を売っていたり、おこしやぶっ切りあめひさいでいたりした。蠑螺さざえはまぐりなども目についた。山門の上には馬鹿囃ばかばやしの音が聞えて、境内にも雑多の店が居並んでいた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ひさ駿河屋するがや三郎兵衞と云者ありしが此方こなた新規しんき小見世こみせいひむかふは所に久しき大店なれば客足きやくあし自然おのづからむかふへのみ行勝ゆきがちなれども加賀屋よりもをりにふれては代呂物しろもの融通等ゆうづうとうもなし出入邸でいりやしきあきなひを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
王は曾が平生爵位を売り、名をひさぎ、法をげ、権勢を以て人の財産を奪いなどして得た所の金銭は幾何いくばくであるかということを詮議さした。そこで髯の長い人がそろばんを持って計算して言った。
続黄梁 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
市場にひさがれているものは千差万別で、同一の会社からも、低音、半音、高音、特大音、或はクロミウム針、竹針、等々が売り出されている有様だから、これでは迷わないわけに行かぬであろう。
この頃はとんだ人間がはやるので、その一人は唐人お吉という淫売女、早く外国人に春をひさいだということが景物になっている。売淫が景物になるような人間は、あまり披露されては迷惑であります。
話に聞いた近藤勇 (新字新仮名) / 三田村鳶魚(著)
支那に路上春をひさぐのぢよ野雉やちと云ふ。けだし徘徊行人かうじんいざなふ、あたかも野雉の如くなるを云ふなり。邦語にこの輩を夜鷹よたかと云ふ。ほとんど同一てつに出づと云ふべし。野雉の語行はれて、野雉車やちしやの語出づるに至る。
麹町の方まで歩いて、ある静かな町の角へ出ると、古い屋敷跡を改築したような建築物たてものがある。その建築物の往来に接した部分は幾棟かに仕切られて、雑貨をひさぐ店がそこにある。角には酒屋もある。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
結局彼らは人形を舞わすとか、手品を使うとか、いんひさぐとかいう様な、身分相当の方法によって、生活の資を求めねばならぬ。
今も北京の路上でわずか数銭を以てひさぐあの簡素な磁州窯の美しい器を見よ。作家は省みて、心に動揺を覚えないであろうか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
三味線さみせん弾きて折々わがかどきたるもの、溝川にどじょうを捕うるもの、附木つけぎ、草履などひさぎに来るものだちは、皆この児どもが母なり、父なり、祖母などなり。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
魚蝋ぎよらふの烟を風のまにまに吹きなびかせて、前に木机を据ゑ、そが上に月桂ラウレオの青枝もて編みたる籠に貨物しろものを載せたるを飾りたるは、肉ひさぐ男、くだもの賣る女などなり。
通円つうえんヶ茶屋の軒には、上品な老人が茶の風呂釜をすえて、床几しょうぎへ立ち寄る旅人に、風流をひさいでいた。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
解決のしかたによっては、僕は家を売り蔵書を市にひさいで、路頭に彷徨する身となるかも知れない。
申訳 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼妾を得てなお足れりとせざるなり。ゆえに出でて娼家に遊ぶ。社会の人彼らのために、貧しき者その子女をひさぎてもって娼となす。ゆえにすなわち社会に娼といえるものあり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
同時に写された書中其発落なりゆきを詳にすべきものは、狩谷氏の本が市にひさがれ、渋江氏の本が海底に沈んだと云ふのみである。小島氏、森氏の本はどうなつたか、一も聞く所が無い。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ず右の女と夫婦ふうふになり小細工こざいくなどしてくらせしに生質せいしつ器用きようにて學問も出來其上醫道いだう心懸こゝろがけも有りしゆゑ森通仙もりつうせんと改名し外科げくわもつぱらとしてかたはら賣藥をひさぎ不自由もなく世を送りし中女子一人をまうけ名を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
店頭でひさぐ品々を見ると、伝統的なものを除くすべての新しい品で、質の粗悪と工程の粗雑と、そうして美の低下とを示していないものはない。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
三味線さみせんきて折々おりおりわがかどきたるもの、溝川みぞかわどじようを捕ふるもの、附木つけぎ草履ぞうりなどひさぎに来るものだちは、皆このどもが母なり、父なり、祖母などなり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
耕作をせぬ女が生活して行く為には、自然といんひさぐことになるのは、やむをえなかった事でありましょう。
ここ三年が間は、往来の馬子に、自分らで作った馬沓を売りひさいで、細々ながら喰べていたが
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
難に遭へるものは號泣し、壯觀に驚ける外國人とつくにびと讙呼くわんこして、御者商人などは客を招き價を論ぜり。馬に跨れる人あり、車を驅れる人あり、燒酎ひさ露肆ほしみせを圍みて喧譟けんさうせる農夫の群あり。
安政元年に竜池父子の贔屓にした八代目団十郎が自刃した。二年は地震の年である。江戸遊所の不景気は未曾有で、幇間は露肆ろし天麩羅てんぷらを売り、町芸妓は葭簀張よしずばりにおでん燗酒かんざけひさいだそうである。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
懸茶屋かけぢゃやには絹被きぬかつぎの芋慈姑くわい串団子くしだんごつら栄螺さざえの壼焼などをもひさぐ。百眼売ひゃくまなこうりつけひげ蝶〻ちょうちょう花簪はなかんざし売風船売などあるいは屋台を据ゑあるいは立ちながらに売る。花見の客の雑沓狼藉ざっとうろうぜきは筆にも記しがたし。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
つい先日までは鉄金具の引手で、ほとんど円形に近い肉太にくぶとのものがありました。これらの棚や箪笥類をひさぐのは夷川えびすがわで、全町家具の通りであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
城下金沢より約三里、第一の建場たてばにて、両側の茶店軒を並べ、くだんのあんころ餅をひさぐ……伊勢に名高き、赤福餅、草津のおなじうばヶ餅、相似たるたぐいのものなり。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
遊行女婦は生きんがために媚を呈し、婬をひさいだのであったが、しかもこれ「遊行」の文字の古く用いられた実例で、遊行上人の「遊行」もまたこの意味にほかならぬ。
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
遊廓くるわの総門のすぐ外に、編笠あみがさ茶屋というのがある。武蔵はそこを覗き、わらじはないかと訊ねたが、遊廓へ入る浮かれ男が、顔隠しの笠を求める店なので、元よりわらじをひさいでいるはずはない。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今も田舎の市日いちびに逢えば、蓑売が何枚かの品をならべてひさぐのを見かけることがある。昔は需要が多かったからこのために市日が立ってさかんであったようである。
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
二時やつさがりに松葉まつばこぼれて、ゆめめて蜻蛉とんぼはねかゞやとき心太ところてんおきなこゑは、いち名劍めいけんひさぐにて、打水うちみづ胡蝶てふ/\おどろく。行水ぎやうずゐはな夕顏ゆふがほ納涼臺すゞみだい縁臺えんだい月見草つきみさう
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
またその婦女は、粉粧をこらして淫をひさぐ。田も作らねばかいこも飼わず、国司の支配をも受けず、少しの課役をも負担せぬという、至って気楽そうな生活をしていたとある。
賤民概説 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)