かろ)” の例文
旧字:
膝の下の隠れるばかり、甲斐々々しく、水色唐縮緬とうちりめんの腰巻で、手拭てぬぐいを肩に当て、縄からげにして巻いた茣蓙ござかろげにになった、あきない帰り。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
マアこの節はそのゴム人形も立派な国民となって学問もすれば商工業も働き、兵士にすれば一命をかろんじて国のめに水火にも飛込む。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
毎日馴染なじみの家をぐるぐるまわって歩いているうちには、背中の荷がだんだんかろくなって、しまいにこん風呂敷ふろしき真田紐さなだひもだけが残る。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
このインド娘は、なにかしら空気のようにかろやかでしたが、それでいて、ぴちぴちとした、ゆたかなからだつきをしていました。
好きでないこともないといふのは、旅の空想を私は屡々するし、空想の旅は、一種の解放であるから、心おのづからかろやかならざるを得ぬ。
旅の苦労 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
お前は気が高くてねえさんたちをかろく見ていると言っておこっていたよ。それにお前が打ち明けないのが気に入らないのだよ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
長い廊下の果に、主人の花紋くわもんいんした上衣うはぎの後影が隠れた。上衣の裾はかろく廊下の大理石の上を曳いて、跡には麝香じやかう竜涎香りうえんかうとの匂を残した。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
しろくもみねがくずれたころ、このれつは、広々ひろびろとした病院びょういんもんはいって、小砂利こじゃりうえかろやかなくつおとをたてたのであります。
少女と老兵士 (新字新仮名) / 小川未明(著)
にもかかわらず、高祖に亡ぼされたのは勇をたのんで、智をかろんじたせいです。それと、高祖の隠忍がよく最後の勝ちを制したものと思います
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「よござんすよ」と、吉里はかろく受けて、「遊んでいて下さいよ。勘定なんか心配しないで、今晩も遊んでいて下さいよ。これはよござんすよ」
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
鎧潟よろひがたに近き横戸よこと村の長徳寺、谷根たにね村の行光寺も怪力くわいりよくのきこえたかし。此人々はいづれもひとりしてつりがねかろかけはづしするほどの力は有し人々なり。
そればかりでなく、十年前までは、兄弟同様に賭場とばから賭場を、一緒に漂浪して歩いた忠次までが、何時となく、自分をかろんじている事を知った。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
さらば往きてなんぢの陥りしふちに沈まん。沈まば諸共もろともと、彼は宮がかばねを引起してうしろに負へば、そのかろきこと一片ひとひらの紙にひとし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「ヘエ、ヘヘヘヘヘ」と彼はかろく笑ったが「イヤなまじすこしばかり見えるのもよくございません、欲が出ましてな」
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
太祖のことばに、われは乱世を治めたれば、刑重からざるを得ざりき、なんじは平世を治むるなれば、刑おのずからまさかろうすべし、とありしも当時の事なり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
くるしみかろんずるとか、なんにでも満足まんぞくしているとか、どんなことにもおどろかんとうようになるのには、あれです、ああ状態ざまになってしまわんければ。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
我儕われらの主は、わが軛は易くわが荷はかろしとのたまひて、そのつとめの易く、その荷の軽く、その我儕に為さしむるところの極めて簡易なるを示したまへり。
主のつとめ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
すぐ下の道を、かろやかな灰色がかった服を着て、バラ色のパラソルをかたにして、急ぎ足でジナイーダが歩いていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
とても役にたつまいとかろしめられていた、宮内はそうした批評が、自分に下されていることを、勿論さとっていた。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
稚い時からの恋の最後をはりを、其時、二人は人知れず語つたのだ。……此追憶おもひでは、流石に信吾の心をかろくはしない。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
待つ間稍々やゝ久しくして主人あるじは扉を排して出で来りぬ、でつぷりふとりたる五十前後の頑丈造ぐわんぢやうづくり、牧師が椅子いすを離れての慇懃いんぎんなる挨拶あいさつを、かろくもあごに受け流しつ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
十八日に新嘉坡シンガポウルで、二十三日に香港ホンコンさふらふ迄また私は甲板かふばんのぞかんともせずさふらひき。気候は次第にひやゝかになりセルさへかろきに過ぐる心地するもありさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
多くの人に知られないような神仏のごときをもなおかつかろんずることをしない。しかも一度それを信奉した上は、がんとしてその誓いを変えないほどの高慢さだ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
強て忍ぶも呼吸は促迫そくはくし、尚忍ぶ時は涙と鼻汁とは多く流れ出で、両肩の疼み次第に増すを以て、両手をうしろにまわし叺の底を持ちあげて肩の重きをかろくするなり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
イタリー風の歌い手だが、かなり強烈な特殊性があり、そのかろやかで乙なところが一般人に向くだろう。
近村で問いましても正当しょうとう潔白という事、是は巡査様も御存じだから先ずかろく済みましたが、向山に居りました橋本幸三郎、岡村由兵衞は混雑ごたすたが出来て面白くもない
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
五百の兄栄次郎も、姉やすの夫宗右衛門も、聖堂に学んだ男である。もし五百が尋常の商人を夫としたら、五百の意志は山内氏にも長尾氏にもかろんぜられるであろう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
近世の武人などは、主君長上に対して不満のある場合に、無謀に生命をかろんじ死を急ぎ、さらば討死うちじにをして殿様に御損を掛け申すべしと、いったような話が多かった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
茶室において草ぶきの屋根、細い柱の弱々しさ、竹のささえのかろやかさ、さてはありふれた材料を用いて一見いかにも無頓着むとんじゃくらしいところにも世の無常が感ぜられる。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
そしていつものかろらかな足取と違つた地響のする歩き振をして返つて来る。年の寄つた奴隷と物を言はぬわらべとが土の上にすわつてゐて主人の足音のする度に身をすくめる。
室外の空気に頭をさらしていた所為せいか、重かった頭も大分にかろすずしくなって、胸もほどくつろいで来たから、そのまま枕に就いて一霎時ひとしきりうとうとと眠ったかと思う間もなく
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「なにがおかしい、義に当面すれば、身命を鴻毛こうもうよりもかろしとするのが、侍の本分ではないか」
われいえを継ぎいくばくもなくして妓を妻とす。家名をはずかしむるの罪元よりかろきにあらざれど、如何にせんこの妓心ざま素直すなおにて唯我につかへて過ちあらんことをのみうれふるを。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「やはりな」とまずもってかろらかにいった。「美作殿と左内殿との、父子の関係は別なものとして、親と子は万事が似ているものと見えます。心も似るでござりましょうよ」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あわれ彼女かれは死をだに心に任せざりき。今日、今日と待ちし今日は幾たびかむなしく過ぎて、一月あまり経たれば、われにもあらで病ややかんに、二月を経てさらにかろくなりぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
言草いひぐさが皆の気に入つて、帽子の上からかろく二つほどくらはせて、酒の事はお流れになつた。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
ニセコアンの丘陵の裂け目からまっしぐらにこの高原の畑地を目がけて吹きおろして来る風は、割合に粒の大きいかろやかな初冬の雪片をあおり立てあおり立て横ざまに舞い飛ばした。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
竹杖かろげに右手めてに取り直し、血にかっしたる喜三郎の兇刃に接して一糸一髪いっしいっぱつゆるめず放たず、冷々れいれい水の如く機先を制し去り、切々せつせつ氷霜ひょうそうの如く機後きごを圧し来るに、音に聞えし喜三郎の業物わざもの
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その名をかろんじていることを残念ながら頭に置いて、せんなきことに算えた。
昔の明治時代の学生は、「少年老いやすく学成りがたし。一寸の光陰かろんずべからず。」というような文句を、洋燈ランプかさに書きつけて勉強した。だが彼らの書生は、二重の意味で悲哀であった。
老年と人生 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
寝台ねだいの上を見て、最初に目に付いたのは、病人の両手である。両手は着布団の上に出ていて、折々ぴくぴくと動いている。それから顔を見れば下顎したあごが締りなくたるんで、唇がかろく明いている。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
むなしく獄裏ごくり呻吟しんぎんするの不幸に遭遇し、国の安危を余所よそに見る悲しさを、儂もとより愛国の丹心たんしん万死をかろんず、永く牢獄にあるも、敢えてうらむの意なしといえども、ただ国恩に報酬ほうしゅうする能わずして
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
くわふるに寒風かんきを以てし天地まさに大にれんとす、嗟呼ああ昨日迄は唯一回の細雨さいうありしのみにして、ほとん晴朗せいろうなりし為め終夜熟睡じゆくすゐ、以て一日の辛労しんらうかろんずるを得たるに、天未だ我一行をあはれまざるにや
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
世人からはますますかろしめられ、もし万一その穢れた者が、素性を隠して世間へ紛れ出て、穢れを世間に及ぼすことがあってはならぬという考えから、国法をもって身なりまでも強制的に差別せしめ
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
「御母さんに叱られますよ」お島はかろくあしらいながら歩いた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
早や秋、早稲の穂づらを飛ぶとりの一羽二羽かろ涼風すゞかぜをち
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
一、 我雪わがゆきとおもへばかろかさの上 其角
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
かろおさへてにこやかにさらばたれ
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
清水しみずのめば汗かろらかになりにけり
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
かろやかの舞踏おどりのうちに——