素振そぶり)” の例文
この頃光子さんの綿貫に対する態度だんだん焼けくそになって来なさって、どないなとなれいうような素振そぶり見せなさるもんですさかい
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ただふところから縄を出してしごくような素振そぶりをしたり、またそこらにあったものを引き寄せるような仕事をしているうちに、寝ていた幸内が
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すぐをつとそばから松葉まつばひろげてあななかをつついた。と、はちはあわててあなからたが、たちま松葉まつばむかつて威嚇的ゐかくてき素振そぶりせた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
またそういう素振そぶりも見えなかった。我は我が本分を守って仏教を伝えたが為に罪ありとして殺されるならばぜひもないことである
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
しかしあとになるとやっぱり私に感心したような素振そぶりを見せます。実を云うと、私の方が兄さんにやり込められて感心するだけなのですが。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先刻さつきから、出入ではひりのおあき素振そぶりに、けた、爐邊ろべりものをして母親はゝおやが、戸外おもて手間てまれるのに、フト心着こゝろづいて
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
でも私は主人を疑う様な素振そぶりは、これっぽっちも見せないでいました。ああして病気までしているのを見ると、気の毒で仕様がなかったのです
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だが、色々試してゐるうち、孔雀の世間馴れた素振そぶりが、これまで初心うぶ生娘きむすめでなかつた事を証拠立てて来た。草人は不安さうな目付をしてたづねた。
並背なみぜいにていがぐり頭髮つむりおもひなしかぞくとはかはりて、藤本信如ふぢもとのぶゆきよみにてすませど、何處どこやらしやくといひたげの素振そぶりなり。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
穂積の親類は勿論もちろん、知らぬ人までめて、うらやんで、ねたんで、騒いでいる中に、ただ清吉爺いさん一人は、若い主人の素振そぶりに落ちないように思った。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
一生懸命でもう一度声をかけたが、何の甲斐かいもなかった。子供達の素振そぶりには、馬鹿にし切っている色があきらかだった。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
U氏もYの罪を免しつつもその態度にはマダあきたらないものがあったのであろう。「君には何にも話さなかったかい? 変った素振そぶりは見えなかったかい?」
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
れにもかゝはらず、自分の母親のおとよはあまりくは思つてゐない様子やうすで、盆暮ぼんくれ挨拶あいさつもほんの義理一ぺんらしい事をかまはず素振そぶりあらはしてゐた事さへあつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
頭に物を載せてあゆみ自らこれを知らざる人、ほかの人々の素振そぶりをみてはじめてあやしみの心をおこせば 一二七—一二九
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
世間のことなら何もかも知りぬいていながら、飽きて退屈するような素振そぶりは少しも表に現わさない。それだけに老いてもくずおれるということがなかった。
そして又、靜子の吉野に對する素振そぶりも、信吾の目に快くはなかつた。總じて年頃の兄が年頃の妹の男に親しまうとするのを見るのは、樂しいものではない。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
光秀は何やら心を割って語りたいような素振そぶりでもあったが、とかく光春のことばは光秀にそれを吐かしめないのみか、切に、一刻もはやく中国へ出陣して
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
脅迫状の噂で心配している時も時、いつにない高野千之の妙な素振そぶりを見て、志津子の不安は一層強くなった。
海浜荘の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
が、実際は存外ぞんぐわい、女の誘惑する場合も……言葉で誘惑しないまでも、素振そぶりで誘惑する場合が多さうである。
世の中と女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
先日も九州でおめにかかりましたが、それほど深いお悩みのあることは、素振そぶりにもお見せになりませんでした。御主人は太っ腹な、それは気持ちのいい方です。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
やが今度こんどは、あいちやんがあたましたへやり、ふたゝはじめやうとすると針鼠はりねずみが、自分じぶん仲間外なかまはづれにしたとつておほいいかり、まさらうとする素振そぶりえました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
それに、何よりも、彼に変に思われ出したのは、このごろのお祖父さんやお祖母さんの素振そぶりに、何か彼にかくし立てをしているようなところが見えることであった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
三造はしばらく女をにらんでいた。女は家にはいりそうな素振そぶりを見せた。彼はほんとに腹を立てた。
プウルの傍で (新字新仮名) / 中島敦(著)
成るべく丑松を避けるといふ風で、顔を合すまいと勉めて居ることは、いよ/\其素振そぶりで読めた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
もちろん無切符は表方の方でも見張っているから、それ以上に眼を利かせなければいけないが、素振そぶりや何かでそれと察すると、ハネるのを待って物蔭へ連れ込んで脅迫する。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
イワン、デミトリチははじめのうち院長ゐんちやう野心やしんでもるのではいかとうたがつて、かれ左右とかくとほざかつて、不愛想ぶあいさうにしてゐたが、段々だん/\れて、つひにはまつた素振そぶりへたのでつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
なんだか、へだて或物あるものてつして、直接ぢかわたしせつしてやうとする様子やうすが、歴々あり/\素振そぶりえる。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
彼は舟がおかへ着いたころからみょうにからまって来た女の素振そぶりをはっきり心に映していた。眼、まゆくちびる、皆意味のあるものであった。彼はどうかして女と二人で話したいと思った。
参宮がえり (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「だがね御坊、變なことを言つたり、妙な素振そぶりがあつたりすると、與吉兄哥は氣が短けえから、お前さんの法螺貝ほらがひくらゐぢや驚かないかも知れないぜ。素直に話に乘つたらどうだ」
あやしいぞと思うのは、恐らく無理ではあるまい。室長のうさんくさい素振そぶりから、ほんとのことを嗅ぎ出そうと思ったのだ。彼は、彼独特の、あらゆる少年スパイ式術策じゅつさくをめぐらす。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
肢体の各部で奇妙な素振そぶりを見せて行く後を追っかけようとしたほどであった。
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
えくぼせないのはまだしも、まるで別人べつじんのようにせかせかと、さきいそいでの素気すげない素振そぶりに、一どう流石さすがにおせんのまえへ、大手おおでをひろげる勇気ゆうきもないらしく、ただくちだけを達者たっしゃうごかして
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
蓮葉に立ち乍ら笑つて、尚ほそのあとを云はうとしたらしかつたが、直ぐ自身の事が噂せられた後だと、吾等わたしら素振そぶりを見て覺つたらしく、笑ふのを半ばではたと止めて、無言にもとの場所に坐つた。
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
着代きかへをすゝむるじやう素振そぶりよ。
焔の后 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
平気へいき素振そぶりをしていました。
さあらぬ素振そぶり神々かう/\しく
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
「僕、どうもこの頃のお前の素振そぶりに落ちんねんけど、何ぞ訳あるのん違うか」いうて、ふと思いついたようにンねますのんで
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その言葉つきから言っても、素振そぶりから言っても、以前よりはまた落ちてしまったように見えることが、お松には浅ましくて堪りません。
私の心事について素振そぶりに対して一点の疑いをはさむこともなく、かえって閉口へいこう頓首とんしゅしてその日の中に送り出すようにしてくれたというのは
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
一つや二つの空席は充分ありそうなのが廻って来ても、女は少しも乗る素振そぶりを見せないので、敬太郎はいよいよ変に思った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
職人はわざと皆に見えるやうに中指を鼻先に持つて来て、四辺あたりを見越してにやり笑つた。この無作法な素振そぶりを見て誰一人怒り出さうともしなかつた。
並背なみぜいにていが栗の頭髪つむりも思ひなしか俗とは変りて、藤本信如ふぢもとのぶゆきよみにてすませど、何処どこやらしやくといひたげの素振そぶりなり。
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
蝦蟇法師がまほうしがお通に意あるが如き素振そぶりを認めたる連中は、これをお通が召使の老媼おうなに語りて、且つたわぶれ、且つ戒めぬ。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
子供をすかすように取りあげて、せかせかと持って行った素振そぶりを、かの女は、いつになくひがんで見ていた。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それにもかかわらず、自分の母親のお豊はあまりくは思っていない様子で、盆暮ぼんくれ挨拶あいさつもほんの義理一遍いっぺんらしい事を構わず素振そぶりあらわしていた事さえあった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それに門人中の老輩らうはい数人と、塾生の一半とが、次第に我々と疎遠になつて、何か我々の知らぬ事を知つてをるらしい素振そぶりをする。それをあやしいとはおれも思つた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
イワン、デミトリチははじめのうち院長いんちょう野心やしんでもあるのではいかとうたがって、かれにとかくとおざかって、不愛想ぶあいそうにしていたが、段々だんだんれて、ついにはまった素振そぶりえたのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それは祈祷が済むや済まずに引っ込んで往って、二度と顔を見せない長者のむすめのこのごろ素振そぶりからでありました。彼は折おり老人のことばに対して、とんちんかんな返事をしました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「さうでもなからう。庭男の久六は時々變な素振そぶりを見せるといふぢやないか」
後生ごしやうですからはなしてください』とあらたまつてあいちやんがひました、うした素振そぶりはなしかけてもいかうかまつたわからなかつたので、『何故なぜそのねこ其麽そんな露出むきだしてゐるのですか?』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)