)” の例文
一種、眼のくらみそうなにおいが室内にみなぎって、周蔵は起上って坐っていたが、私の入って来ると同時にまたごろりところんでしまった。
黄色い晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
夫は二、三の紳士と寂しい玄関の一室にながら待っていた。その紳士の妻君達も彼女と同じように快楽に耽けっていたのである。
頸飾り (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
其の降る中をビショ/\かつがれてくうち、新吉は看病疲れか、トロ/\眠気ざし、遂には大鼾おおいびきになり、駕籠の中でグウ/\とて居る。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
陽があがれば野原に出て男達は木の根を掘っくりかえし、女達は土塊つちくれくだき、が沈めば小屋に帰ってるのだった。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「眼をつぶってただけだよ、それもちょっとの間さ」——彼女は言う——「眠ってたなんて言えやしない。ほんとにてたんじゃないんだから」
暫くして、つかれないままに、燭台へ灯をともすと、その時ひらひらと飛んで来て、あざけるやうに灯をかすめたものがある。それも蛾であつた!
「ああ、美紅姫と一所にこのうちるのもこれがおしまいになるかもしれぬ。美紅はそれで泣いているのであろう。何という悲しい事であろう」
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
……乳母おんばさききゃれ。ひめにようつたへたもれ、家内中かないぢゅうはや就褥ねかしめさと被言おしゃれ、なげきにつかれたればむるはぢゃうぢゃ。ロミオは今直いますぐまゐらるゝ。
実はな、みなの衆、この先生の今夜のお宿だがなあ、わしのところは、知つての通り、餓鬼が多くて、ゆつくりてもらふ場所もないしなあ……。
椎茸と雄弁 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
和田は酔眼すいがんを輝かせながら、声のない一座を見まわした。が、藤井はいつのまにか、円卓テエブルに首を垂らしたなり、気楽そうにぐっすりこんでいた。
一夕話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
じぶんが庄之助さんのところで酔いつぶれてているあいだにいなくなっていたといったので、若松屋惣七をはじめ、屋敷はさわぎになっていた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しゆの色の薔薇ばらの花、ひつじが、戀に惱んではたけてゐる姿、羊牧ひつじかひはゆきずりに匂を吸ふ、山羊やぎはおまへにさはつてゆく、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
マアよい事をしたと思つて、子良しりやうは喜んでうちに帰りたれにも言はずにその日も暮れましたので、寝床に入つてました。
子良の昇天 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
明るくなったのでるでもないと床を離れて「それじゃア帰ろう」というと、まだ話が仕足りなさそうな容子で
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
病に疲れてものうく、がさして、うっとりとして来るにつれて、その嫁入衣裳のキレは冷たい真白まっしろな雪に変る。するとそりの鈴の音が聞えて来る。
少年・春 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
座敷には梅子が新聞しんぶんひざうへせて、み入つたにはみどりをぼんやり眺めてゐた。是もぽかんとむさうであつた。代助はいきなり梅子うめこの前へすはつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「どうしたらいいだろう……マッチがない……下へ降りたっても店はもう仕舞っている……あかりなしで寝床へもぐりこもうか……どうせられやしまい」
孤独 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
その晩、子供たちは何時いつまでもなかった。藤木さんがおひきすその、赤い胴ぬきの着物を着るのを見るまで——
隣のおかみさんが一寸格子の外から覗いて「ほう、一生懸命に学問やね、皆さん畑か?——今日はお桐さんも静やね、楽やと見えて、てござるのか。」
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
吉里は袖を顔に当てて俯伏つッぷし、てるのか眠てないのか、声をかけても返辞をせぬところを見ると、眠てるのであろうと思ッて、善吉はじッと見下した。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
「私は起きませんが、番頭さんはお腹が惡いとかで一度起きたやうです、でも、私は一度目を覺したけれど、直ぐてしまつて、床へ戻つたのは知りません」
秋の夜ごとにふけ行く夜半過やはんすぎわけて雨のやんだ後とて庭一面こおろぎの声をかぎりと鳴きしきるのにわたしはつかれぬままそれからそれといろいろの事を考えた。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
黒い支那服の山崎は、同様な支那服の中津と並んで、片隅の、むげな軍曹の前の長い腰掛に腰かけていた。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
あふのけさまに畳の上へ倒れて、暫時しばらく丑松は身動きもせずに考へて居たが、やが疲労つかれが出てしまつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
久し振りで、のびのびとるだけも眠てみたいなどとも感じて、行こうと思ったり、また思いなおしたりして、決定するまでにはずいぶん暇がかかったのである。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
わたしたからわかりませんが、』と言ひながら外景そとると丘山樹林きうざんじゆりん容樣かたちまさにそれなので
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「畜生、困った! どうしたってれないや」と、身体をゴロゴロさせた。「駄目だ、伜が立って!」
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
さあ、ぐつすりるとしよう。耶蘇イエススよ。十字架クルスふあのしろ幼児をさなごたちをも、夜々よるよるむらしたまへ。われまことにかくねがたてまつる。あゝむくなつた。われまことにかくねがたてまつる。
答 私ハ二人ガテ居ルラシイ事ヲ室ノ外カラウカガッタ後、障子ヲソット開ケテ中ヘ入リマシタ。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
無心によく入っていた中の君を思うと、胸が鳴って、なんという残酷なことをしようとする自分であろう、起こしていっしょに隠れようかともいったんは躊躇ちゅうちょしたが
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
毎晩就蓐しゅうじょく前に、つきをよくするために空家の中へはいって体操をしておられたということで、その晩も、九時頃、玄関の戸をあけてはいろうとすると、どうしたものか
予審調書 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
アハヽヽと笑へばお吉も笑ひながら、左様したらまた不潔〻〻と厳敷きびしく御叱おいぢめなさるか知れぬ、と互ひに二ツ三ツ冗話むだばなし仕て後、お吉少しく改まり、清吉はて居りまするか
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
私は再びに就いたが、表の怪立けたたましい物音に間もなく驚かされた。れるやうに戸が叩かれて女の悲鳴が耳をつんざかんばかりに響いた。母も祖母も飛び起きてあががまちへ出て
避病院 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
考え続けているうちに疲労つかれてきて、その儘ごろりと横になった、血の着いたシーツを取り代えるのももう億劫だった、が、寝てみるとまた妙に頭が冴えてつかれなかった。
黒猫十三 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
まづい食事がすむと、王様はるより外には仕方がなかつた。王様は寝床にはいつた。寝床は粗末な拵へだつたが、上布シイツだけは新しい、おろしたての雪のやうに真白な布だつた。
小笠原は顔を伏せてみたりそむけたりしながら、むたげな単調な語勢でそんなことをぶつぶつ喋っていたが、すると痴川もぼんやり俯向いて、わけもなく一々頷いたりしながら
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「や、ちょっと待て、一等の船室ケビンを廻って見よう。みんながたかどうか見て来よう。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
郊外の小ぢんまりした路角みちかどの家の茶の間で、赤ん坊はうつら/\かゝつてゐる。二十一になる細君は、ソツと用心深く取上げて、静かな二階に眠かさうと、階子段はしごだんを上つて行つた。
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
『どちらへ! いけません、いけません!』と、かれさけぶ。『もうときですぞ!』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
乃公が車の中を彼方此方あっちこっち遊んで歩くものだから、お母さんは一日心配していた。それで日が暮れると直ぐに、乃公は寝台ねだいへ押し込められてしまった。けれどもなかなかられやしない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ること眠ること……が、もし万一ひょっと此儘になったら……えい、かまうもんかい!
不足でフラフラしている彼を引張る様にして、自動車に乗り込んだのです。
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
氷が来た時分に、表から風の吹き通す茶の間の入口の、簾屏風すだれびょうぶの蔭にていた正雄も、やっと目を覚ましかけて来た。正雄はそのころ、叔父の知っている八重洲河岸やえすがしの洋服屋へ行っていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
表通りを駈けて通る騒々しい跫音あしおとが、近所の軒先にたたずんだ人々のむそうな、併しおどおどした話声に混って、まるで、北川氏自身には何の関係もない音楽か何ぞの様に響いて来るのだった。
恐ろしき錯誤 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
翁もたねがへりの数に夢幾度いくたびかとぎれけむ、むく/\と起きて我を呼び、これより談話俳道の事、戯曲の事にたけなはにして、いつるべしとも知られず。われはねむりの成らぬを水のとがに帰して
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
が何がなしに嬉しかッたので臥床ふしどへはいッてからも何となくるのがいやで、何となく待たるるものがあるような気がするので、そのくせその待たるるものはとただされるとなに、何もないので
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
平生さえ然うだったから、いわんや試験となると、宛然さながら狂人きちがいになって、手拭をねじって向鉢巻むこうはちまきばかりでは間怠まだるッこい、氷嚢を頭へのっけて、其上から頬冠ほおかむりをして、の目もずに、例の鵜呑うのみをやる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
軍艦ぐんかん」の艦中かんちうには一人ひとりむるものかつた。艦橋かんけうには艦長松島海軍大佐かんちやうまつしまかいぐんたいさをはじめとし、一團いちだん將校しやうかうつき燦爛さんらんたる肩章けんしやうなみたせて、隻手せきしにぎ双眼鏡さうがんきやうえず海上かいじやうながめてる。
わたしネ、篠田様のこと思ふと腹が立つ涙が出る、夜も平穏おつちりられないんです、紀念式にも昨夜の演説会にもの通り行らしつて、平生いつもの通りきいてらツしやるでせう、自分がひ出されると内定きまつて
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
かあさんは昨夜ゆふべよくないのでね、頭が痛いのよ。』
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)