)” の例文
だから「昨日きのうのだ」「新来しんきだ」と騒ぐうちには、自分が彼らと同様の苦痛をめなければならないほど堕落したのを快く感ずると共に
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と云う意味は悔恨や憂慮の苦痛をもめなければならぬ。殊に今度の大地震はどの位我我の未来の上へ寂しい暗黒を投げかけたであろう。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
怜悧れいりに見えても未惚女おぼこの事なら、ありともけらとも糞中ふんちゅううじとも云いようのない人非人、利のめにならば人糞をさえめかねぬ廉耻れんち知らず
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
その上相手をめきつた小僧は、双手を懷中へ入れたまゝで、暫らくは庭草の上に摺りつけられた自分の頬を擧げる餘力も無かつたのです。
わしは生き埋にされたのじゃ。五日の間というもの、わしがその暗闇の洞窟の中で、どの様な苦しみをめたか。わしの白髪を見て下さい。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「格子へ手をかけようとした時、突拍子もない大声がしたものだから、尻餅をついたんですよ。そこへブルが飛んで来て顔をめたんです」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
残りし一人ひとりが又々抜刀ぬきみを取直し、「無礼なやつ」と打掛る下を潜って一当ひとあて当てますと、やにめた蛇のように身体を反らせてしまいました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
俺はむかしお万のこぼした油をアめて了つた太郎どんの犬さ。其俺の身の上ばなしが聞きたいと。四つ足の俺に咄して聞かせるやうな履歴があるもんか。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
「ふむ、そうだろうよ。そう云うだろうと思った。あれは君、散々さん/″\道楽をし抜いて、女に飽いた男が好くんじゃ。あの女の糞ならめるがナわしゃ。」
The Affair of Two Watches (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
かつ初めに苦しい経験をめた人でもあり、また他方で巨万の富をすてて科学の発見を唯一の目的とした人の事であるから、もっともなことである。
へん、おつう旦那ぶりやがって笑かしやがらい。こう聞いとくんねえ、わっしアね、お嬢さんの下さるんなら、溝泥どぶどろだって、舌鼓だ、這い廻ってめるでさ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ときすで東隣ひがしどなり主人しゆじんいへがべろ/\とめつゝあつたのである。村落むらもの萬能まんのう鳶口とびぐちつてあつまつたときすさまじいいきほひをつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
火の手はたちまちに土御門の大路を越えて、あっと申す間もなく正親町おおぎまちめつくし、桃花坊は寝殿しんでんといわずお庭先といわず、黒煙りに包まれてしまいました。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
なぜなら他力に任せ切る時、新たな自由の中に入るからであります。これに反し人間の自由を言い張る時、多くの場合新たな不自由をめるでありましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
しかるに安済丸は海にうかんで間もなく、柁機だきを損じて進退の自由を失った。乗組員は某地より上陸して、許多あまたの辛苦をめ、この年五月にようよう東京に帰った。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
何故なぜ僕が囲碁を敵としなければならぬか、それも後にわかりましたが、それが解った時こそ、僕が全く運命の鬼に圧倒せられ、僕が今の苦悩をめ尽すはじめで御座いました。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
というは、旅はつらい、難儀なんぎである、可愛かわいい子にはこの辛苦しんくめさせ、鍛錬たんれんさせよとの意味である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
同じ色町の酒をめていながらも、市之助とおれとを一緒に見たら大きな間違いであるぞと、半九郎は浅黄に晴れた空の上に、大きく澄んで輝く月のひかりを仰ぎながら
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
真澄はもう一本の銚子ちょうし皆無みなにしてしまって二本目の銚子を飲んでいたが、なるたけ長く楽しみたいので、一度いださかずきは五口にも六口にもそれをめるようにして飲んだ。
岐阜提灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
此に於て竹葉上に点々てん/\したたれる所のつゐめ、以て漸くかつす、吉田署長病再発さいはつあゆむにへず、つゐに他の三名と共に帰途きとかる、行者まゐり三人も亦こころさびしくやなりけん
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
その淵源は希臘ギリシャに在るか羅馬ローマに在るか知らぬが、とにかく近いところから論ずれば四百年を経過したものであって、その間には非常な辛苦艱難しんくかんなんめて屡々しばしば革命までも起して
始業式に臨みて (新字新仮名) / 大隈重信(著)
井戸端に出ると汗はダラダラと全身に流れて小倉こくら上服うわぎはさも水に浸したようである。彼はホット溜息ためいきらすと夏の夜風は軽く赤熱せきねつせる彼が顔をめた。彼の足は進まなかった。
愛か (新字新仮名) / 李光洙(著)
妾の瞳の底の底をのぞき込むように、青黒い瞳を据えたまま……赤い大きな舌を出して、口のまわりのひげをペロリとめまわした。そうしてシンミリとした、落ち付いた声を出した。
ココナットの実 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それから直に帰朝した彼れは、もうすぐに演劇革進論者であった。時流より一足さきに踏出すものの困難を、つぶさにめなければならない運命を彼れはになってかえってきたのだった。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
れにかまはずくちびるめて、まあお聞遊きゝあそばせ、千葉ちば其子そのこ見初みそめましてからのことあさ學校がくかうゆきまするときかなら其家そこ窓下まどしたぎて、こゑがするか、つたか、たい、きゝたい、はなしたい
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
前に一度飴をめさして帰してあるのだ。今度こそは少し辛い所を見せてやるぞ
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
いずれの関門長も俗にいう狐につままれたごとく、ことにかの眼の鋭いチーキャブ、二十年以来インド地方に在って艱難辛苦かんなんしんくめつつ種々の世渡りをして来たかの人足廻にんそくまわしのダルケさえ
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「いずれ来るでしょう、しかし今は内地の方々には済まんようないい生活をしていますよ、砂糖も酒もふんだんにありまして、砂糖などすぐ一キロぐらい、ペロリとめてしまうです……」
海野十三敗戦日記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わたくしは怖ろしい精神的な苦しみをつぶさめたのでありますが、その限りない苦しみを体験するにつけ、彼女がわたくしに与えてくれた愛情がますます貴重なものに思われて来るのでした。
(新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
むかふの一ぴきはそこで得意とくいになつて、したして手拭てぬぐひを一つべろりとめましたが、にはかにこはくなつたとみえて、おほきくくちをあけてしたをぶらさげて、まるでかぜのやうにんでかへつてきました。
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
つまり二百七十年ばかりの間に幾百万人の通った人間が、旅というものでめる寂しみや幾らかの気散じや、そういったものが街道の土にも松並木にも宿々の家にも浸み込んでいるものがある。
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かの勾践こうせんひそみならふことにはならねど、朝夕これを眺めまして、私がこの玉を抜き去りたる、責めの軽からざることを思ひまして、良しやたきぎに伏し肝はめずとも、是非ともこの指環の為に働いて
こわれ指環 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
埋立をした河岸通は真暗で人通りもなく、ぴたぴた石垣をめる水の音が物さびしく耳立つばかり。御厩橋おんまやばしを渡る電車ももうなくなったらしく、両国橋の方を眺めても自動車のあかりが飛びちがうばかり。
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
苦労は十二分に——阿賀妻こそ、それをめつくしている。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
かくて我日夜悶々、辛酸の極をめたり!
あめ釃酒したみあぢめて
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
いくら先生が貧乏したって、僕だけの経験はめていないんだからね。いわんや先生以上に楽をして生きて来た彼輩かのはいにおいてをやだ
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
昔噺むかしばなしで行くと、どん粟と蜂と臼ぢやないか、——念入りにたくらんだな。畜生、人をめた野郎だ。行つて見よう、八」
追々おい/\ひらけると口吸こうきゅうするようになると云いますが、是はきたないように存じますが、そうなったら圓朝などはぺろ/\めて歩こうと思って居ります。
、どんな味がするものか、君にめさせてやるのだ。サア立ち給え。そして、云うことがあるなら、云って見給え
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
火の手はたちまちに土御門の大路を越えて、あつと申す間もなく正親町おおぎまちめつくし、桃花坊は寝殿しんでんといはずお庭先といはず、黒煙りに包まれてしまひました。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
が、呑気のんき坊主の道阿弥は、やはり何処かに人を喰ったところがあって、そんな苦しみをめながら、その時の座敷の有様を出来るだけ注意して観察していた。
としみじみいうのを、あきれた顔して、聞き澄ました、やっこは上唇を舌でめ、めじりを下げて哄々くっくっとふきいだし。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御存知の通り文三は生得しょうとくの親おもい、母親の写真を視て、我が辛苦を艱難かんなんを忍びながら定めない浮世に存生ながらえていたる、自分一個ひとりため而已のみでない事を想出おもいいだ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
乃公は目をつむって、しゅの祈りをした。獅子は矢張りもとの姿勢である。乃公は主の祈りを五六度した。おやッと思って目を開いて見ると、獅子は乃公の額をめていた。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
噛占かみしめて益々味の出るものよりは舌の先きでめて直ぐ賞翫しょうがんされるものが読者に受ける。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それがしたら毎夜まいよのやうなのでおつぎは、玉砂糖たまざたう蒲團ふとんしたれていてときにはめさせた。それでもつのつたときくちれた砂糖さたうしてはいよ/\はげしくくのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「老爺の用意は好いかな」と、長者は瓦盃の酒を一口めてから云いました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
お涌は蝙蝠が井戸の中の新しく湧いた水をめたがっているのかとも思った。ふと、今しがた自分が覗いた生々として落ちついた井の底の世界を、蝙蝠もまた、あこがれているのではあるまいか——
蝙蝠 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
瀑布をのぼ俯視ふしすれば毛髪悚然もうはつそくぜんあしめに戦慄せんりつす、之を以て衆あへて来路を顧みるなし、然りと雖も先日来幾多の辛酸しんさん幾多いくたの労苦とをめたる為め、此険流けんりうを溯るもみな甚労とせず、進程亦従て速なり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)