燈籠とうろう)” の例文
新字:灯籠
見返れば社殿に上げられた篝火かがりび燈籠とうろうの光はトロリとして眠れるものの如く、立ち止まって見るとドードーと七代の滝の音が聞ゆる。
まだ人影の見えない浴槽ゆぶねのなかには、刻々に満ちて来る湯の滴垂したたりばかりが耳について、温かい煙が、燈籠とうろうの影にもやもやしていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
はるさくらにぎはひよりかけて、なき玉菊たまぎく燈籠とうろうころつゞいて、あき新仁和賀しんにはかには、十分間じつぷんかんくるまぶこと、とほりのみにて七十五輌しちじふごりやう
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
烏帽子えぼしを売っていたおじいさん、はとの豆を売っているおばあさん、げそこなってかわいそうに、燈籠とうろうの下でこしをぬかしてしまう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其中をうて、宮の横手に行くと、山茶花さざんか小さな金剛纂やつでなぞ植え込んだ一寸した小庭が出来て居て、ランプを入れた燈籠とうろうが立ち
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
東風こち すみれ ちょう あぶ 蜂 孑孑ぼうふら 蝸牛かたつむり 水馬みずすまし 豉虫まいまいむし 蜘子くものこ のみ  撫子なでしこ 扇 燈籠とうろう 草花 火鉢 炬燵こたつ 足袋たび 冬のはえ 埋火うずみび
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
真菰まこも精霊棚しょうりょうだな蓮花れんげの形をした燈籠とうろうはすの葉やほおずきなどはもちろん、珍しくもがまの穂や、べに花殻はながらなどを売る露店が
試験管 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
軒には昨年の盆に清三が手ずから書いた菊の絵の燈籠とうろうがさげてある。清三は便所に通うのに不便なので、四五日前から、とこを下の六畳に移した。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
道行く若いものの口々には早くも吉原よしわら燈籠とうろううわさが伝えられ、町中まちなかの家々にも彼方此方かなたこなた軒端のきばの燈籠が目につき出した。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
偶然と云ふのは燈籠とうろう時分の或夜、玉屋の二階で、津藤がかはやへ行つた帰りしなに何気なく廊下を通ると、欄干らんかんにもたれながら、月を見てゐる男があつた。
孤独地獄 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「そこをお渡りになつて、此方こちら燈籠とうろうがございませう、あのそばちよつとお出で下さいませんか。一枚とらして戴きたい」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
七月下旬のある日、散歩ながら強羅停車場へ出てゆくと三十一日午後七時からあし燈籠とうろう流しを催すという掲示があって、雨天順延と註されていた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
燈籠とうろうの火に照らされて、阿片の吹管が反射する。それを握っている手の指が、あたかも鈎のように曲がっている。
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのまま、引き返して、中庭へ廻ろうとすると、矢庭に燈籠とうろうのかげから槍の穂先が、するどく胸元にひらめいた。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
ろくな植込みも燈籠とうろうもなく、下女のお民が、陽を追つて干物ほしものを持ち廻るらしく、三又さんまたと物干竿ざをとが轉がり、物干の柱が突つ立つて居るだけの殺風景さです。
そこは、母屋から渡り廊下を架けた、別棟の建物で、床が高く、広縁には勾欄こうらんがまわしてあり、妻戸やしとみなどもみえるし、ひさしには青銅の燈籠とうろうが吊ってあった。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
沖繩の農村でも同じ日をミイグショウ、すなわちまた新後生にいごしょうの日といって、しんぼとけのために燈籠とうろうを上げた。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
芝居しばいは、と尋ねると、市村いちむら、中村、森田三座とも狂言名題なだいの看板が出たばかりのころで、茶屋のかざり物、燈籠とうろう提灯ちょうちん、つみ物なぞは、あるいは見られても
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
主人の言葉どおりに庭の作り一つをいってもここは優美な山荘であった、月はないころであったから、流れのほとりにかがりかせ、燈籠とうろうらせなどしてある。
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
燈籠とうろうやら、いくつにも分岐ぶんきした敷石の道やら、瓢箪ひょうたんなりの——この形は、西洋人なら、何かに似ていると言って、婦人の前には口にさえ出さぬという——池やら
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
はるさくらにぎわひよりかけて、なき玉菊たまぎく燈籠とうろうころ、つゞいてあき新仁和賀しんにわがには十ぷんかんくるまこと此通このとほりのみにて七十五りようかぞへしも、二のかわりさへいつしかぎて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
立って金三郎は撫川団扇なつかわうちわバタバタと遣い散らし、軒の燈籠とうろうの火を先ず消した。次いで座敷の行燈あんどんの火も消した。庭の石燈籠の火のみが微かにこちらを照らすのであった。
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
そして三こうがすぎて観燈の人も稀にしか通らないようになった時、稚児髷ちごまげのような髪にした女のに、かしらに二つの牡丹の花のかざりをした燈籠とうろうを持たして怪しい女が出て来たが
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
樹木の多いりっぱな庭らしいのだが、常夜灯があるわけでなく、燈籠とうろうにあかりがはいっているわけでもなく、まったくのくらやみだから、そのけしきを見ることはできない。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ほんのりと、庭の燈籠とうろうと、室内にもわざと遠くにばかりひともさせたのが、憎い風情であった。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それから遠い幾山河いくやまかわの人たちを、燈籠とうろうのように思いうかべたり、また雷の声をいつかそのなつかしい人たちのことばに聞いたり、また昼の楊がだんだん延びて白い空までとどいたり
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
堤の上の同じように可愛い燈籠とうろうにはもう灯がともっているらしいけれど、水の面はまだ浅黄あさぎ色に明るく、二三人の男の燈籠の根もとにしゃがんで釣りを垂れているのが見える。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
鎮明嶺ちんめいりょうの下に住んでいる喬生きょうせいという男は、年がまだ若いのにさきごろその妻をうしなって、男やもめの心さびしく、この元霄の夜にも燈籠とうろう見物に出る気もなく、わが家のかどにたたずんで
世界怪談名作集:18 牡丹灯記 (新字新仮名) / 瞿佑(著)
梧桐あおぎりの影深く四方竹の色ゆかしく茂れるところなどめぐめぐり過ぎて、ささやかなる折戸を入れば、花もこれというはなき小庭のただものさびて、有楽形うらくがた燈籠とうろうに松の落葉の散りかかり
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そのほか燈籠とうろうに二ヶ所ほど灯がありますので、部分によってホンノリ見えるところと暗闇と入り交っておりまして、私の見た人影はちょうどその境界のあたりに当っておりましたから
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
また元の道へ引き返して、雷門の前通りを花川戸へ曲がるかどに「地蔵の燈籠とうろう」といって有名な燈籠があった。古代なものであったが、年号がってないので何時頃いつごろのものとも明瞭はっきりとは分らぬ。
庭径をながむれば樹木も戦慄せんりつするように思われ、木の葉のさらさらとそよぐ音にも、家なき亡者もうじゃの私語が聞こえる。地獄の門前にいるまじめくさった番兵のように、灰色の燈籠とうろうが立っている。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
引誘さそひ納涼すゞみに出し歸りがけ船中せんちうよりすぐに吉原の燈籠とうろうを見物せんとすゝめけるに吉之助は御當地ごたうちはじめての事なれば吉原はべつして不案内ふあんないゆゑかた辭退ことわり此日は漸々やう/\宿やどへ歸り番頭傳兵衞に此事をはなしければ傳兵衞かうべ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そのたんざくを葉笹はざさに結わいつけてあかり燈籠とうろうを添えながら水に流してやると、二、三町下った川下に前髪立ちの振りそで若衆が待ち構えていて、われ先にと拾いあげる、それから舟を上へこがして
チドリの青い燈籠とうろうを見つけて、ためらわず格子戸をあけた。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「ねえ加賀田さん、学校では好きぢやないかたも交つて遊ぶのですから、私それよりもいゝことはないかと考へましたの、あのおひるに帰りました時ね、学校の太鼓のなるまでお旅所たびの処の大きい燈籠とうろうへ上つて遊ばないこと。」
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
燈籠とうろうともすもやさし姉二人
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
まだ電燈にはならない時分、廻廊の燈籠とうろうの白い蓮華れんげつらなったような薄あかりで、舞台に立った、二人の影法師も霞んで高い。……
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
茶の間の方には、茶室めいた造りの小室こまさえ附いていた。庭には枝ぶりのよい梅や棕櫚しゅろなどがあった。小さい燈籠とうろうも据えてあった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
と、いいのこして、そこを立とうとすると、なんだろう? 周囲しゅういやみ——樹木じゅもくささ燈籠とうろうのかげに、チカチカとうごく数多あまた閃光せんこう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
柳之助りゅうのすけ亡妻ぼうさいの墓に雨がしょぼ/\降って居たと葉山はやまに語るくだりを読むと、青山あおやま墓地ぼちにある春日かすが燈籠とうろうの立った紅葉山人こうようさんじんの墓が、と眼の前にあらわれた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「蒸し蒸しするわねえ。」と君江はいざりながら手をのばして障子を明けると、土庇どびさしの外の小庭に燈籠とうろうが見えた。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
身に白衣びゃくえを着て、手には金剛杖こんごうづえをついている。この大竹藪の夜は、幸いにして見通す限り両側に燈籠とうろうがついている。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
大将も美音の人で、夜のふけてゆくにしたがって音楽三昧ざんまいの境地が作られていった。月がややおそく出るころであったから、燈籠とうろうが庭のそこここにともされた。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
春は桜のにぎわひよりかけて、なき玉菊が燈籠とうろうの頃、つづいて秋の新仁和賀しんにわかには十分間に車の飛ぶ事この通りのみにて七十五りようと数へしも、二の替りさへいつしか過ぎて
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しかしこの時、燈籠とうろうの蔭、木戸の後ろ、縁側の隅などに、幾人かの人間が、に狙ひ寄る猛獸のやうに、眼を輝やかして居るのに、八五郎少しも氣が付かなかつたのです。
甲斐はゆっくりと飲んでおり、丹三郎が戻って来ると、「燈籠とうろうへ油を注いでくれ」と云った。
そうそう、まだ明るくならないうちにね、谷の上の方をまっ赤な火がちらちらちらちら通って行くんだ。ならの木や樺の木が火にすかし出されてまるで烏瓜からすうり燈籠とうろうのように見えたぜ。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
しひの木や銀杏いてふの中にあるのは、——夕ぐれ燈籠とうろうに火のともるのは、茶屋天然自笑軒てんねんじせうけん
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
(春彦は出てゆく。楓はかどにたちて見送る。修禅寺の僧一人、燈籠とうろうを持ちて先に立ち、つづいて源の頼家卿、二十三歳。あとより下田五郎景安、十七八歳、頼家の太刀をささげて出づ。)
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)