最期さいご)” の例文
身内になんの疵らしいものも見いだされず、さりとて急病ともおもわれず、まことに不思議の最期さいごであると、医者も首をかしげていた。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
(おそらくはのたれじにという終りを告げるのだろう。)そのあわれな最期さいごを今から予想して、この洋杖が傘入の中に立っているとする。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
土賊ばらのためにあえなき最期さいごを遂げたという物語は、はじめて聞くところで、多少の感慨を深くしないわけにはゆきませんでした。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
予は予が最期さいごに際し、既往三年来、常に予が胸底にわだかまれる、呪ふ可き秘密を告白し、以て卿等けいらの前に予が醜悪なる心事を暴露せんとす。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「ここは背もうず萱原かやはら。あれまでお運びたまわれい。おなじことなら、ご最期さいごには、人の聞えにも、おすずやかがよろしゅうおざろう」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、ない。私はずつと離れた裏の部屋に休んでゐた。騷ぎに驚いて驅けつけると、母上は御最期さいご、裏門は八文字に開け放してあつた」
昨年さくねん、ご当地とうちで、おどおりいたしましたむすめは、さる地方ちほうにおいて、たわらかさねまするさいに、腹帯はらおびれて、非業ひごう最期さいごげました。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
待給まちたま諸共もろともにのこヽろなりけん、しのたまはりしひめがしごきの緋縮緬ひぢりめんを、最期さいごむね幾重いくへまきて、大川おほかわなみかへらずぞりし。
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
帆村は糸子に心からなる同情の言葉をかけて、気が落ついたら、自分と一緒に室内へ入ってお父さまの最期さいごを見られてはどうかとすすめた。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
絶体絶命もはや最期さいごと観念の眼を閉じかけました時、これもご老師が発明の鉄索忽然鳴り渡り、一個の藤籠ふじかご渡り来ると見る間に
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
えなき最期さいご、弱る心をはげまして、私は小供対手あいてにやはり紙屑拾いをばその日のわざとなしたりしに、天道てんどうさまも聞えませぬ、貧乏こそすれ
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
彼奴きゃつ長久保ながくぼのあやしき女のもと居続いつづけして妻の最期さいご余所よそに見る事憎しとてお辰をあわれみ助け葬式ともらいすましたるが、七蔵此後こののちいよいよ身持みもち放埒ほうらつとなり
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
重右衛門の最期さいごもつまりはこれに帰するのではあるまいか。かれは自分の思ふまゝ、自分の欲する儘、則ち性能の命令通りに一生を渡つて来た。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
『さう、眞箇ほんとうに!』おそれて尻尾しツぽさきまでもふるへてゐたねずみさけびました。』わたし斯麽こんなことはなしたが最期さいごわたしの一家族かぞくのこらずねこ仇敵かたきおもふ。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
はいつひに其夜の九ツ時に感應院はあさましき最期さいごをこそとげたりける名主を始め種々しゆ/″\詮議せんぎすれば煤掃すゝはき膳部ぜんぶより外に何にもたべずとの事なりよつて膳部を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
何も知らぬ新聞記者は、彼の記事のあとへ、「小山田夫人は恐らく、夫六郎氏と同じ犯人の手にかかって、あえない最期さいごをとげたものであろう」
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
けゃ、けゃ、さういふやからがあさましい最期さいごぐる。さゝ、豫定通さだめどほり、戀人こひゞともとて、居間ゐまのぼり、はやなぐさめてやりめされ。
対馬守は端然として正座したまま、潔よい最期さいごを待つかのように、じいっと今一度闇になった書院の中の気配を窺った。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
われは再び起きあがりて、わが手より取り落としたる銃を拾い上げんとする前に、モルガンが今や最期さいごかとも思わるる苦痛の叫びをあぐるを聞けり。
老博士があきれた顔をしているのを見て、若い歴史家は説明を加えた。先頃のバビロン王シャマシュ・シュム・ウキンの最期さいごについて色々な説がある。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
自分などはやっとこれからというとき、女は既に人生の複雑な径路をたどって、最期さいごの苦悩までつくして、しかも孤独のまま死んでゆくのである。
言わば余裕すこぶ綽々しゃくしゃくとしたそういう幸福な遭難者には、浅草で死んだ人たちの最期さいごは話して聞かされても、はっきり会得えとくすることができない位である。
草紅葉 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
人は最期さいごの一念でしようを引くと云ふから、私はこの事ばかり思窮おもひつめて死にます。貫一さん、この通だから堪忍して!
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
けれども、それほどの幸福にまでは達せられなくとも、クリュシフィクシオン長老は、いたって尊い臨終をなされました。最期さいごまで気を失わないでいられました。
血腥い青年の最期さいごも、出来るならば話すまいとした。それは優しい妻の胸には、鋭すぎる事実だった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
この人は夫の最期さいごのときに、いあわせましたから、なにもかもすっかりお話しすることができます。
塀際へいぎはにゐた岡田は、宇津木の最期さいごを見届けるやいなや、塀に沿うて東照宮とうせうぐう境内けいだいへ抜ける非常口に駆け附けた。そして錠前ぢやうまへ文鎮ぶんちんけて、こつそり大塩の屋敷を出た。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
一旦事あらば、妻子の愛、浮世の望みにかされて、如何なる未練の最期さいごを遂ぐるやも測られず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
そう云うことがあってから十箇月ばかりを経、明くる年の夏の終りに父は此の世を去ったのであるが、最期さいごの折には果して色慾の世界から解脱げだつしきれていたであろうか。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
だから鼠の最期さいごまで見届ける余裕がなかったのも是非がないが、それでもまだほんの偶然に、見たり出逢であったりしたことを、今ならば記憶している人がないとも限らぬ。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それにしても、このような恐ろしい最期さいごをとげるとは! あまりにも凄惨せいさんだ。ひどい屈辱だ。亡き人を思いおこして、死別の苦痛をやわらげるよすがとするものは何もない。
傷心 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
眼前まのあたりお春が最期さいごを見てしより、旗野の神経狂出くるひだし、あらぬことのみ口走りて、一月余ひとつきあまりも悩みけるが、一夜あるよ月のあきらかなりしに、外方とのかたに何やらむ姿ありて、旗野をおびきいだすが如く
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ヒステリー気味な所作しうちは良人へばかりではなかった。同期生の男たちが、山出やまだしとか田舎娘などとでも言ったら最期さいご、学校内でも火鉢が飛んだりする事は珍らしくなかったのである。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しかもそれは、岩と岩のあいだを通ってくるはげしき波とつきあたるが最期さいご、そこに大きな波のくぼみができるにそういない、それにひきこまれたら、鉄のからだでもたまったものでない。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
どうかすると、愛人がこの旅館のどの部屋かに来ているような感じをいだかせる挙動を見せたり、後の思い出に、最期さいごの時をとにかくしばし楽しく過ごそうとしているような口吻くちぶりらしたりした。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
かつはこのほどより乳房れて、常ならぬ身にしあれば、おっと非業ひごう最期さいごをば、目前まのあたり見ながらも、たすくることさへ成りがたく、ひとり心をもだへつつ、いとも哀れなる声張上げて、しきりにえ立つるにぞ
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
透明人間グリッフィンの最期さいごである。(おわり)
それが彼女かのぢよ最期さいご言葉ことばだつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
(註六)しかしこう云う最期さいごのことなどは全然諸書に伝わっていない。現に「孝子伝吉物語」はしものように話を結んでいる。——
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それはむりではない、武田家重代たけだけじゅうだいの軍宝——ことに父の勝頼かつよりが、天目山てんもくざん最期さいごの場所から、かれの手に送りつたえてきたほど大せつなしな
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若い者と付合っているだけに、梶田さんは弥三郎の最期さいごを怪談らしく話さなかったが、聴いている私たちは夜風が身にしみるように覚えた。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まず、第一に用意しておかなければならないことは、地球の最期さいごを映画にうつして、後の世まで残しておくことじゃ。はて、どうしてそれを
火星兵団 (新字新仮名) / 海野十三(著)
とほざかるが最期さいごもうゑんれしもおなじことりつくしまたのみもなしと、りすてられしやうななげきにおそのいよ/\心細こヽろぼそ
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いま自分たちを襲うた強敵がもろくも無惨な最期さいごを遂げたことをとむらうかのように鼬の屍骸しがいを遠くから廻って、ククと鳴いているのであります。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
義光よしてる殿のご子息の筈、お父上のお見事なるご最期さいごは敵軍の中にまぎれ入り、この眼にてさっき方見申してござる! ……忠義の亀鑑きかん、武士の手本
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかも、九段の濠端ほりばたで、その文代さんを、あのむごたらしい目にあわせたではないか。もう文代さんは五体所を異にして最期さいごをとげてしまったのだ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
うんほしかゝってあるさるおそろしい宿命しゅくめいが、今宵こよひえんはしひらいて、てたわが命數めいすうを、非業無慚ひごふむざん最期さいごによって、たうとするのではないからぬ。
委敷くはしく申聞られしにより吉兵衞は其始末しまつを聞より大いに驚き扨は娘島事は嘉川主税之助殿の手にかゝ非道ひだう最期さいご
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
今まで我が一家はそもそも漢から、どのような扱いを受けてきたか? 彼は祖父の李広りこう最期さいごを思った。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
大阪で、大塩平八郎の騒動のあったとき、惣年寄そうどしよりとして火消人足を引きつれて大塩父子の隠家かくれがを取り巻き、そしてこの父子の最期さいごを見届けたという、その人である。