最前さいぜん)” の例文
文庫ぶんこ御宅おたくのでせうね。いんでせうね」とねんして、にもらない下女げぢよどくがらしてゐるところへ、最前さいぜん仲働なかばたらき
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
私実はもう最前さいぜんから予期してたもんの、その名アいわれた瞬間に何や電気みたいなものが体じゅうビリビリ伝わるような気イしました。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼女はそこの天井から下っている支那燈籠しなどうろうの光を浴びて、最前さいぜんよりはさらに子供らしく、それだけ俊助にはさらに美しく見えた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
バルタ 最前さいぜんこの水松いちゐかげ居眠ゐねむってゐますうちに、ゆめうつゝに、主人しゅじんとさるひととがたゝかうて、主人しゅじん其人そのひとをばころしたとました。
最前さいぜんから、その松千代にちがいないが? ——とは見ているのだが——。はて、その松千代がいかにしてなお世にあるのか。松千代の首を
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見遣られ相良領さがらりやうの百姓三五郎とやら愚僧ぐそうへ如何なる用事あつて參りしぞと尋ねらるゝにぞ三五郎はハツと答へ最前さいぜんより無禮の儀ども申上しを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
道しるべの古びた石の立っているえのきの木蔭。曼珠沙華の真赤に咲いている道のとある曲角に、最前さいぜんから荷をおろして休んでいた一人の婆さんがある。
買出し (新字新仮名) / 永井荷風(著)
最前さいぜんはただすぎひのき指物さしもの膳箱ぜんばこなどを製し、元結もとゆい紙糸かみいとる等に過ぎざりしもの、次第にその仕事の種類を増し、下駄げたからかさを作る者あり、提灯ちょうちんを張る者あり
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
と鍋焼饂飩と立派な男と連れ立ってきます。此方こなた最前さいぜんからはからず立聞きを致しております清次は驚きました。
私は、ここでしばらく憩い、最前さいぜんから解き切れない謎を、どうにかして、ここで解いてしまうつもりであった。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
明智は、物置のがらくた道具の間にたたずんでいた、最前さいぜんの黒マントの俳優に声をかけた。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
最前さいぜんより黙々もくもくとして、話をきいていたゴルドンは、このときはじめて口を開いた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
宗任の書く『我が国の梅の花とは……』は、最前さいぜんお馴染みでよく分かった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
わたくしふか統一とういつからめたときに、おもいもらず最前さいぜんからそこにひかえてっていたのは、数間かずまじいやでございました。じいやは今日きょう鎮座祭ちんざさいよろこびをべたあとで、突然とつぜんんなことをしました。——
殊更最前さいぜんも云うた通りぞっこん善女ぜんにょと感じて居る御前おまえ憂目うきめ余所よそにするは一寸の虫にも五分の意地が承知せぬ、御前の云わぬ訳も先後あとさきを考えて大方は分って居るからかくも私の云事いうことついたがよい
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かの商人あきびと立寄たちより見れば、最前さいぜん焼飯やきめしうりたる農夫なりしとぞ。
女はようやく首斬り台をさぐり当てて両の手をかける。唇がむずむずと動く。最前さいぜん男の子にダッドレーの紋章を説明した時と寸分すんぶんたがわぬ。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「魯粛。そちは最前さいぜん、別に意見があるといったが、ここでならいえるであろう。そちの考えではどうか」と、親しく訊ねた。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すれば、うれしいことばかり、わしなんくのぢゃ? 最前さいぜんいた一言ひとことが、その一言ひとことが、チッバルトがにゃったよりもかなしいのぢゃ。つらい、わすれたい。
最前さいぜん預かり証書は饂飩粉うどんこの中へ隠しましたゆえ平気になり、衣物きものをぼん/\取ってふるい、下帯したおび一つになって。
小西屋へやりテレメンテーナの事を言せにはか破談はだんに成たる事是等は絶て知ざりしが最前さいぜん和吉と云る小僧がとなりのお金のもとへ來り聞に參し其をり箇樣々々かやう/\の事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その襖の向うでは最前さいぜんこそこそ着物着換えてるらしい物音がしてましたのに、もうその時分にはしーんと静まり返ってしもてて、こっちの話に一所懸命耳を澄ましてるようでしたが
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「私最前さいぜん養源寺の前であなたにお逢いしましたのよ」夫人はおかし相にいった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「そちは最前さいぜんは依怙は致さぬ、致すわけもないと申したようじゃが、……」
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かの商人あきびと立寄たちより見れば、最前さいぜん焼飯やきめしうりたる農夫なりしとぞ。
ふすまの蔭では最前さいぜんから細君と雪江さんがくすくす笑っている。主人はくまでももったいぶって「そうさな」を繰り返している。なかなか面白い。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
退しりぞ投首なげくびなし五日の中に善惡二つを身一つにして分る事のいとかたければ思案にくれるに最前さいぜんよりも部屋の外にて二個ふたり問答もんだふ立聞たちぎきせし和吉は密と忠兵衞のそばへ差寄りたもと
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
と——いうも迂遠うえんな話で、すでに最前さいぜんから小屋の外には、おびただしい人の足音が、なにかヒソヒソささやきながらあらし先駆せんくのごとく、ひそかにめぐりめぐっていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
最前さいぜんいうのん忘れましてんけど、家の方いは光子さんのお父さんのてかけはんのとこやいうて、笠屋町の電話番号せときましてん、それいうたら、ほんまにおかしなことですねんけど
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私はもうあきらめて、最前さいぜんから敷いてあったとこの中にもぐり込みました。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ろくでなしの和郎わろめが!……(ロミオに對ひて)もし/\、貴下こなたさまえ、最前さいぜんまうしましたが、わしひいさまが、貴下こなたさがしていとの吩咐いひつけでな、その仔細わけあとにして、うてくことがござります
と言いつければ、最前さいぜんよりふるえて居りました藤助は
最前さいぜんの言葉を用いればこれらの人々は未来のために生きたのである。子のために存在したのである。しかして諸君は自己のために存在するのである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「また一事件もちあがった。わしはすぐに、行かねばならん。最前さいぜん、頼んだものは、まだ書けぬか」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
最前さいぜん用いたむずかしい言葉を使うと不体裁の感を抽出して、裸体画は見るべきものであると云う事に帰着します。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分が最前さいぜんほりのあなたへ、しのびやかに吹いていたふえが空をゆるく、たえに流れているあいだ、えるように、しずかにこの源氏閣げんじかくの上をっていた怪鳥けちょうのことを。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
最前さいぜん細君と喧嘩をして一反いったん書斎へ引き上げた主人は、多々良君の声を聞きつけて、のそのそ茶の間へ出てくる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
卜斎は最前さいぜんから、そこばかりをじっとにらんでいた。横目づかいの白眼しろめで——
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其所そこ最前さいぜん仲働なかばたらきが、おくからちやたばこはこんでたので、宗助そうすけまたかへりはぐれた。主人しゆじんはわざ/\坐蒲團ざぶとんまでせて、とう/\其上そのうへ宗助そうすけしりゑさした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
『だまれっ。——最前さいぜんから、何を訊ねても、ただ御尤ごもっともで、御尤で、とばかり申し居って、それでは一向に量見りょうけんが、わからんではないか。和解いたすのか、せぬ気か、はっきりとお答えせいっ』
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところへ書斎の掃除をしてしまった妻君がまたほうきとはたきをかついでやってくる。最前さいぜんのようにふすまの入口から
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
最前さいぜんからさわがしい声がいたしまする』
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「君も賛成者のうちに名が見えたじゃないか」と胡麻塩頭ごましおあたま最前さいぜん中野君を中途で強奪ごうだつしたおやじが云う。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
最前さいぜん述べた、小説の興味の中心に影響してくる樣な意見オピニオンになると、單なる意見オピニオンでは濟まなくなる。其の人物の意見オピニオンが篇中人物の關係を動かして來なくてはならなくなる。
「額の男」を読む (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
音楽会の帰りの馬車や車は最前さいぜんから絡繹らくえきとして二人を後ろから追い越して夕暮を吾家わがやへ急ぐ。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
君が正装をしているのにわたしはこんななりでと先生が最前さいぜん云われた時、正装の二字を痛み入るばかりであったが、なるほど洗い立ての白いものが手と首に着いているのが正装なら
ケーベル先生 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
瓦斯煖炉ガスだんろの色のだんだん濃くなって来るのを、最前さいぜんから注意して見ていた津田は、黙って書生の後姿を目送もくそうした。もう好い加減に話を切り上げて帰らなければならないという気がした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
(一)私は最前さいぜん空間、時間の建立こんりゅうからして、物我の二世界を作ると申しました。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
同時どうじなが廊下らうかんで、此方こちら近付ちかづ足音あしおとがした。はかまけたをとこまた廊下口らうかぐちからあらはれて、無言むごんまゝ玄關げんくわんりて、しもうちつた。かはつてまたあたらしいをとこつて、最前さいぜんかねつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)