暮方くれがた)” の例文
暴風雨ばうふううとしから、ばつたりなくつた。それが、今年ことし、しかもあの大地震おほぢしんまへ暮方くれがたに、そらなみのやうにれてわたりついた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さて又同く十月二十七日の暮方くれがた名主用右衞門方へ五六人の侍士來りしゆゑ用右衞門きもひやして出むかひける所さきに立し者此御このお侍士を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
けれど、それもいずれへか散って、その日の暮方くれがたからは、全くこの家は淋しくなって戸がしまっていた。中を覗いて見ると、何もなかったらしい。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
何事かと聞けば隣長屋に明店あきだなありしに突然暮方くれがた二人の男来りてその家の建具類を持ち去る、大方おおかた家作主の雇いしものならんと人も疑わざりしを
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
暮方くれがたの町のにぎわいが、晴れやかに二人の周囲まわりを取り巻いた。市中一般に、春のもたらした喜びがひろがっていて、それが無意識に人々に感ぜられると見える。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
すると、米屋の丁稚でっちが一人、それを遺恨に思って、暮方くれがたその職人の外へ出る所を待伏せて、いきなりかぎを向うの肩へ打ちこんだと云うじゃありませんか。
或日の大石内蔵助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ちょうど暮方くれがたのことであったが、不意に行く手の大岩に足を踏みかけて、山のかげへ入って行く大男の後姿を見た。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
もう其の日の暮方くれがたでございましたが、急いで手前の宅へまいりまして、友之助は何処どこるかと申しますから、奥に寝たきり正体もございませんと申上げますと
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
趙再思は仕方なしにっていると、暮方くれがたになってようやく季は出て来て、余怒よどなお色にあるばかりで
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
福原右馬助、池田伊豫守を大将としてその勢五千餘騎、文禄四年七月十三日のさるの刻に伏見を立ち、十四日の暮方くれがたに高野山へ着いて、上人を始め一山の老僧共の命乞いに耳を貸さず
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
御米およねびにたうとするのを、ようはないからいとめたまゝ宗助そうすけ炬燵蒲團こたつぶとんなかもぐんで、すぐよこになつた。一方口いつぱうぐちがけひかえてゐる座敷ざしきには、もう暮方くれがたいろきざしてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
春の暮方くれがたの物音が、遠くの空からきこえて来るような感じがする。古来日本の詩歌には、鶯を歌ったものが非常に多いが、ほとんど皆退屈な凡歌凡句であり、独り蕪村だけが卓越している。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
彼が殊更ことさらに、この薄暗い妾宅をなつかしく思うのは、風鈴ふうりん凉しき夏のゆうべよりも、虫のゆる夜長よりも、かえって底冷そこびえのする曇った冬の日の、どうやら雪にでもなりそうな暮方くれがた近く
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ある日の暮方くれがた、時計を手にして花の咲くのを待っていた。縁側で新聞が読めるか読めないかというくらいの明るさの時刻が開花時で、開き始めから開き終りまでの時間の長さは五分と十分の間にある。
烏瓜の花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あたらしい智謀と霊魂とをそだてる暮方くれがたの空のなかに
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
これがなかろうもんなら、わざわざ足弱を、暮方くれがたにはなるし、雨は降るし、こんな山の中へ連れて来て、申訳のない次第だ。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
本多子爵は壮年時代の美貌びぼうが、まだ暮方くれがたの光の如く肉の落ちた顔のどこかに、ただよっている種類の人であった。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それでなくても家の周囲は雪がこいで壁板したみや、葦簾よしずなどが立てかけてあって、高い窓から入る明りばかりだから少し暮方くれがたに近くなると表はそうでなくても家の内は真暗だ。
北の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
丁度日の暮方くれがた、北割下水へ通り掛りますと、向うの岸が黒山のような人立で、剣客者けんかくしゃの内弟子らしい、はかまをたくしあげ稽古着けいこぎを着て、泡雪あわゆき杓子しゃくしを見た様な頭をした者が
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
とうとうあまり釣れるためにおそくなって終いまして、昨日きのうと同じような暮方くれがたになりました。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
致しける其七日の滿まんずる日の暮方くれがた山の上よりしてさつ吹下ふきおろす風に飄然と眼の前に吹落ふきおとす一枚のふだあり手に取て見るに立春りつしゆん大吉だいきち護摩祈祷ごまきたう守護しゆご可睡齋かすゐさいと記したれば三五郎は心に思ふやう彼の可睡齋かすゐさいと云ば東照宮とうせうぐうより御由緒ゆゐしよある寺にして當國の諸侯しよこうも御歸依寺也因ては可睡齋へ參り委曲くはしき事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
の一日前にちまへ暮方くれがたに、千助せんすけは、團右衞門方だんゑもんかた切戸口きりどぐちから、庭前ていぜん𢌞まはつた。座敷ざしき御新姐ごしんぞことを、あらかじつてのうへ
片しぐれ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その日の暮方くれがた、若者は例の草山のにれの根がたに腰を下して、また素戔嗚に預けられた勾玉を掌へ載せて見ながら、あの娘に云い寄るべき手段をいろいろ考えていた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この時は日の暮方くれがたで、穴の様子もしかと分りませんから、じっと辛抱して、いよ/\となったら突いてくれようと身構えて居りまする其の恐ろしさはなんたとえようもございませぬ。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
暮方くれがた西の方が、大変に暗かった。静かな晩だから降るかも知れない。」
(新字新仮名) / 小川未明(著)
内の様子も分らないから、何となく薄気味が悪いので、小児こどもの気にも、暮方くれがたには前を通るさへ駆け出すばかりにする。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
見上げると、もう橋の上には鮮かな入日の光が消えて、ただ、石の橋欄きょうらんばかりが、ほのかに青んだ暮方くれがたの空を、黒々と正しく切り抜いている。が、女は未だに来ない。
尾生の信 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お町は其の様子を知って居りますから、暮方くれがたになると段々胸がふさがりまして、はら/\致し、文治郎の側に附いて居りました。つを打つと只今の十時でございますから、何所どこでも退けます。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
霜月しもつき末頃すゑごろである。一晩ひとばん陽氣違やうきちがひの生暖なまぬるかぜいて、むつとくもして、火鉢ひばちそばだと半纏はんてんぎたいまでに、惡汗わるあせにじむやうな、その暮方くれがただつた。
夜釣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
暮方くれがた、僕等はいちみやの町へ散歩に行き、もう人の顔も見えない頃、ぶらぶら宿の方へ帰つて来た。道は宿へ辿たどり着くためには、弘法麦こうぼふむぎ防風ばうふうの生えた砂山を一つ越えなければならぬ。
微笑 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それから日をめまして、同じ暮方くれがたの頃、其の男を木戸の外まで呼びましたのでございます。其のあいだに、此の、あの、烏の装束しょうぞくをおあつらへ遊ばしました。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
安閑あんかんと宿屋へ尻を据ゑてもゐられないから、その日の暮方くれがたその紳士と三人で、高崎の停車場までくだつて来たが、さて停車場へ来てみると、我々の財布には上野までの汽車賃さへ残つてゐない。
忘れられぬ印象 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
の一日前にちまへ暮方くれがたに、元二げんじ團右衞門方だんゑもんかた切戸口きりどぐちから庭前にはさき𢌞まはつた、座敷ざしき御新造ごしんぞことあらかじつてのうへで。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はゝがまだ存生ぞんじやうときだつた。……一夏あるなつ暮方くれがたからすさまじい雷雨らいうがあつた……電光いなびかり絶間たえまなく、あめ車軸しやぢくながして、荒金あらがねつちくるまは、とゞろきながら奈落ならくそこしづむとおもふ。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
が、暮方くれがた掃除さうぢると、おなじやうに、ずらりとならんでそろつてた。これきのこなればこそ、もまはさずに、じつとこらへてわたしにははなさずにかくしてた。わたし臆病おくびやうだからである。
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかるべき門は見えるが、それも場末で、古土塀ふるどべい、やぶれがきの、入曲いりまがつて長く続く屋敷町やしきまちを、あまもよひの陰気な暮方くれがた、その県のれいつかふる相応そうおう支那しなの官人が一人、従者をしたがへて通りかかつた。
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ちょうど、まだあかしを入れたばかりの暮方くれがたでね、……其の高楼たかどのから瞰下みおろされる港口みなとぐち町通まちどおりには、焼酎売しょうちゅううりだの、雑貨屋だの、油売あぶらうりだの、肉屋だのが、皆黒人くろんぼに荷車をかせて、……商人あきんどは、各自てんでん
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ちやうど、まだあかしれたばかりの暮方くれがたでね、……高樓たかどのから瞰下みおろされる港口みなとぐち町通まちどほりには、燒酎賣せうちううりだの、雜貨屋ざつくわやだの、油賣あぶらうりだの、肉屋にくやだのが、みな黒人くろんぼ荷車にぐるまかせて、……商人あきんどは、各自てん/″\
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うとし、暮方くれがたではあり、やがてくらくなつてしまつた、と権七ごんしちふ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
またたずねようと思って、阿母おふくろは、と見ると、秋の暮方くれがたの事だっけ。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
暮方くれがた、またひったりと蒸伏むしふせる夕凪ゆうなぎになりました。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
春の、暮方くれがたの事でございます。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
春の、暮方くれがたの事でございます。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)