日南ひなた)” の例文
向って日南ひなたの、背後うしろは水で、思いがけず一本の菖蒲あやめが町に咲いた、と見た。……その美しいひとの影は、分れた背中にひやひやとむ。……
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
春さきになると、まず壺すみれが日南ひなたに咲いた。それからクローバー、車前草おおばこあかざなどがほしいままに繁った。
吾亦紅 (新字新仮名) / 原民喜(著)
ガラツ八の八五郎が、鼻の頭から襟へかけての汗を、肩に掛けた手拭の端つこで拭きながら、枝折戸しをりどを足で開けて、ノツソリと日南ひなたに立ちはだかるのでした。
たゞ蒿雀あをじふゆはるわきまへぬやうに、あたゝかい日南ひなたから隱氣いんきたけはやしもとめてひく小枝こえだわたつて下手へたきやうをして、さうして猶且やつぱり日南ひなたつちをぴよん/\とねた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
武蔵野や多摩のみなかみ、御嶽道みたけみち払沢ほつさはの口、春浅き日南ひなたのそとに、餅搗くや爺は杵とり、臼のべや婆は手に捏ね、ぽたらことのどにむかひゐ、ぽたらこよゆるにとめぐる。
(新字旧仮名) / 北原白秋(著)
寡婦は陰になり日南ひなたになりしてその子を暖き懐に抱きよせようとしておる。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
時々縁側の日南ひなたに坐りながら、ぼんやりお島の働きぶりを眺めていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ゆをびぬる日南ひなたのかをり
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
日南ひなたぼつこで居るわいな
やきもの読本 (旧字旧仮名) / 小野賢一郎(著)
日南ひなたぼつこして
雨情民謡百篇 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
……すくい残りのちゃっこい鰯子いわしこが、チ、チ、チ、(笑う。)……青いひれの行列で、巌竃いわかまどの中を、きらきらきらきら、日南ひなたぼっこ。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「恐ろしい効能書だぜ、——あとはどうだ。日南ひなたぼっこをしながら、美人の品定めを聴くのも悪くないな」
武蔵野や多摩のみなかみ、御嶽道みたけみち払沢ほつさわの口、春浅き日南ひなたのそとに、餅搗くや爺は杵とり、臼のべや婆は手に捏ね、ぽたらことのどにむかひぬ、ぽたらこよゆるにとめぐる。
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
うしてあひだはる彼岸ひがん日南ひなた垣根かきねには耳菜草みゝなぐさその雜草ざつさういきほひよくだして桑畑くはばたけ畦間うねまにはふゆしたなづな線香せんかうやうたうもたげて、さき粉米こごめはなあつめた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
寂寞じやくまくの胸の日南ひなた
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
日南ひなたぽつこ
十五夜お月さん (旧字旧仮名) / 野口雨情(著)
けれども、さして心をいためた趣のあるにもあらず、茅花つばな々々土筆つくつくし、摘草に草臥くたびれて、日南ひなたに憩っているものと、おおいなる違はない。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
平次は晩秋の薄陽を浴びて、縁側に日南ひなたぼっこをしながら、八五郎の話を背中に聴いているのでした。
で、お宗旨ちがいの神社の境内、額の古びた木の鳥居のかたわらに、裕福な仕舞家しもたやの土蔵の羽目板を背後うしろにして、秋の祭礼まつりに、日南ひなたに店を出している。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
平次は縁側の日南ひなたで、鼠の尻尾しっぽのような、世にも情けない、懸崖の菊の鉢の世話をして居りました。
銭形平次捕物控:239 群盗 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
いま畚を引上げた、水の音はまだ響くのに、翁は、太郎虫、米搗虫のもやのあなたに、影になって、のびあがると、日南ひなたせなも、もう見えぬ。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
娘はヒラリと身をひるがへすと、生垣の蔭に隱れてしまつたのです。チヽと鳴き乍ら春の日南ひなたに群れ立つ小鳥、八五郎は五六歩追ひすがりましたが、娘の姿はもう何處にも見えません。
桜にはちと早い、木瓜ぼけか、何やら、枝ながら障子に映る花の影に、ほんのりと日南ひなたかおりが添って、お千がもとの座に着いた。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、かくきのこたしなむせいだろうと人は言った、まだ杢若に不思議なのは、日南ひなたでは、影形が薄ぼやけて、陰では、汚れたどろどろのきもの縞目しまめ判明はっきりする。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日南ひなたに霜が散ったように、鬢にちらちらと白毛しらがが見える。その時、赤蜻蛉の色の真紅まっかなのが忘れたようにスッと下りて、尾花のもとに、杭のさきとまった。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こうした場所と、身の上では、夜中よりも人目に立たない、しずか日南ひなたの隙を計って、岐路えだみちをあれからすぐ、桂谷へ行くと、浄行寺じょうぎょうじと云う門徒宗が男の寺。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて、水のながれを前にして、まばゆ日南ひなたの糸桜に、燦々さんさんと雪の咲いた、暖簾のれんあいもぱっとあかるい、桜湯の前へ立った。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのわらいが、日南ひなたに居て、蜘蛛の巣の影になるから、鳥がくちばしを開けたか、猫が欠伸あくびをしたように、人間離れをして、笑の意味をなさないで、ぱくりとなる……
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
既に、草刈り、しば刈りの女なら知らぬこと、髪、化粧けわいし、色香いろかかたちづくった町の女が、御堂みどう、拝殿とも言わず、このきざはし端近はしぢかく、小春こはる日南ひなたでもある事か。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ことに生垣をのぞかるる、日南ひなた臥竜がりゅうの南枝にかけて、良き墨薫る手習草紙は、九度山くどさん真田さなだいおりに、緋縅ひおどしを見るより由緒ありげで、奥床しく、しおらしい。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小春の雲の、あの青鳶あおとびも、この人のために方角むきを替えよ。姿も風采なりも鶴に似て、清楚せいそと、端正を兼備えた。襟の浅葱あさぎと、薄紅梅。まぶたもほんのりと日南ひなたの面影。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昼の時は、まだ私という少年こどもも、その生命いのち日南ひなたで、暑さに苦しい中に、陽気も元気もありました。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、蔵前の煙突も、十二階も、睫毛まつげ一眸ひとめの北のかた、目の下、一雪崩ひとなだれがけになって、崕下の、ごみごみした屋根を隔てて、日南ひなたの煎餅屋の小さな店が、油障子も覗かれる。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さるも老木おいきの春寒しとや、枝も幹もただ日南ひなたに向いて、戸の外にばかり茂りたれば、広からざる小路の中を横ぎりて、枝さきは伸びて、やがて対向むかいなる、二階家の窓にとどかんとす。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
浅間せんげんやしろで、かまで甘酒を売る茶店へ休んだ時、鳩と一所いっしょ日南ひなたぼっこをする婆さんに、阿部川あべかわ川原かわらで、桜の頃は土地の人が、毛氈に重詰じゅうづめもので、花の酒宴さかもりをする、と言うのを聞いた。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かけひみづくるとて、嫁菜よめなくきひとみつゝ、やさしきひとこゝろかな、なんのすさみにもあらで、たらひにさしけるが、ひきときぎぬあゐえて、嫁菜よめな淺葱色あさぎいろえしを、菜畠なばたけ日南ひなたいこひて
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何しろその体裁ですから、すなおな髪を引詰ひッつめて櫛巻くしまきでいましたが、生際が薄青いくらい、襟脚が透通って、日南ひなたでは消えそうに、おくれ毛ばかり艶々つやつやとして、涙でしょう、濡れている。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朝夕の風、日南ひなた、雨、露、霜も、一斉いつときに貨物車に積込むのださうである。
玉川の草 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
これが植込うゑこみはるかにすかし、もんそとからあからさまにえた、ともなく、くだん美少年びせうねん姿すがたは、おほきてふかげ日南ひなたのこして、飜然ひらりと——二階にかいではないが——まどたかしつはひつた。ふたゝく。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そんな脂切ったのがあるかと思うと、病上やみあがりのあおっしょびれが、頬辺ほっぺたくぼまして、インバネスの下から信玄袋をぶら下げて、ごほごほせきをしながら、日南ひなた摺足すりあし歩行あるいて行く。弟子廻りさ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
足の運びにつれて目に映じて心に往来ゆききするものは、土橋でなく、ながれでなく、遠方の森でなく、工場の煙突でなく、路傍みちばたやぶでなく、寺の屋根でもなく、影でなく、日南ひなたでなく、土の凸凹でこぼこでもなく
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぷんとえた村へ入ったようなにおいがする、そのじい、余り日南ひなたぼッこを仕過ぎて逆上のぼせたと思われる、大きな真鍮しんちゅう耳掻みみかきを持って、片手で鼻に杖をついたなり、馬面を据えておいて、耳の穴を掻きはじめた。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と男衆は、雪駄せったちゃらちゃら、で、日南ひなたの横顔、小首をひねって
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日南ひなたいきれる酢のにおいに、葉も花片もえんとす。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日南ひなたにじの姫たちである。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)