“怒(おこ)” の例文
「困(こま)ったねえ、えらい人が来るんだよ。叱(しか)られるといけないからもう帰ろうか。」私が云(い)いましたら慶次郎は少し怒(おこ)って答えました。
二人の役人 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「まあそう怒(おこ)らないで、連れていって下さいよ、僕は新聞記者の佐々砲弾(さっさほうだん)てぇんです。僕一人ぐらい、なんでもないじゃないですか」
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
何を怒(おこ)りましょう。ようこそはっきりおっしゃってくださるわね。あれはわたしもあとでほんとうにすまなかったと思いましたのよ。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
これでは、まるで気ちがいが笑ったり怒(おこ)ったりしているようだ。たちまちおぼえてしまって、その日から大はやりになってしまった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
すると田口の玄関で怒(おこ)ったなり、あの女の研究まで投げてしまった自分の短気を、自分の好奇心に釣り合わない弱味だと思い始める。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
から、若(もし)其頃誰かが面と向って私に然うと注意したら、私は屹度(きっと)、失敬な、惚なんぞするものか、と真紅(まッか)になって怒(おこ)ったに違いない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
と番頭の頭を殴(う)つ、番頭も怒(おこ)り出し、無茶苦茶に胸倉を取って表へ二人を突出し、ポンと掛金(かきがね)をかけてしまう。叔母は地べたへ転(ころが)り
「さうなんでさ、わたしや蜀黍(もろこし)打棄(うつちや)つ時(とき)まで有(あ)つと思(おも)つてたら見(め)えねえんでさ、私等家(わたしらぢ)のおとつつあは道具(だうぐ)つちと酷(ひど)く怒(おこ)んですから」
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
夕餉(ゆうげ)どきに帰りを忘(わす)れてあそんでいる弟(おとうと)を、父や母が怒(おこ)らぬうちにとハラハラしてさがす姉(あね)のような愛が、彼女の眼にこもっていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(起ちあがり)どら、風呂(ふれ)へいつて来(く)う……(出て行きながら)一番の蚊帳、早うまた吊つとかんと、おツ母さんに怒(おこ)らるるばい。
牛山ホテル(五場) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「此の頃では、」と彼女は云った、「何かしきりに考え事をしているようです。そして怒(おこ)ることがよほど少くなりましたけれど……。」
囚われ (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「ばかばかしい。早(はや)く死(し)んで失(う)せろ。いくらでもおまえがたの代(か)わりは生(う)まれてくるわ。」と、幹(みき)は体(からだ)を震(ふる)わして怒(おこ)ったのであります。
葉と幹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
広子はそんなことを尋(たず)ねたために辰子を怒(おこ)らせたのを思い出した。もっとも妹に怒られることは必ずしも珍らしい出来事ではなかった。
春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
初めの内は誤解もするし、怒(おこ)るような事もあるし、場合に依(よ)っては誰(たれ)か死ななくては目ざす人に近寄られないというような事さえある。
怒(おこ)ったために力がわいてきたのでしょうか、こんどは、ほかのガンたちにも負(ま)けないくらい、よく飛ぶことができるようになりました。
父(とう)さんは枝(えだ)から枝(えだ)をつたつて登(のぼ)つて、時(とき)にゆすつたりしても柿(かき)の木(き)は怒(おこ)りもしないのみか、『もつと遊(あそ)んでお出(いで)。もつと遊(あそ)んでお出(いで)。』
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「敵わんね。君には」怒(おこ)ることも笑うことも出来なくなった夫は、「さあ、お湯にでも入ろうかね」と子供を抱いて中へ入って行った。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それからといふもの、お月様(つきさま)は怒(おこ)つて日(ひ)が暮(く)れると、鶏(にはとり)の眼(め)を見(み)えぬやうにしてしまひました。それで「とりめ」になりました。
今(いま)改(あらた)めて伺(うかゞ)ひに出(で)やうとして居(ゐ)ましたといふ、夫(そ)れは何(なん)の事(こと)だ、貴君(あなた)のお名(な)をさと揚(あ)げられて、馬鹿(ばか)/\お力(りき)が怒(おこ)るぞと大景氣(おほけいき)
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「それからねエ、おかあさま、ちょうどその時縁側を老母(おばあさん)が通ってね、すっかり聞いてしまッて、それはそれはひどく怒(おこ)ってね」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
怒(おこ)り上戸(じょうご)やアノ泣き上戸。笑い上戸に後引き上戸。梯子(はしご)上戸と世間の人が。酔うた姿を見かけの通りに。名前つけるとおんなじ流儀じゃ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
土井は京都へついてからも、何か自分で怒(おこ)つてゐるのぢやないかと反省(はんせい)してみたくらゐ、執拗(しつえう)に京都行を主張したのであつた。
閾 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「怒(おこ)らねえだ。が、何(なに)もはあ、自分(じぶん)では知(し)らねえちゆうだ。私(わし)も、あれよ、念(ねん)のために、燈(あかり)をくわんと明(あか)るくして、恁(か)う照(て)らかいて見(み)た。」
鑑定 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
それであなたの方でそう怒(おこ)るなら私の方でも申しあげますが、いったい今度の会をやるということと、倉富さんが評論を書くということは
遁走 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
……でも、仕方がないのよ! やがてあなただって、わかる時が来るわ……ただね、わたしのこと、怒(おこ)らないでちょうだいね!
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
溌剌(はつらつ)として、多少滑稽(こっけい)で、比喩(ひゆ)と象徴とがいっぱいつめ込まれた頭脳をもち、ゴチック的でまたロココ的で、怒(おこ)りっぽく、頑固(がんこ)で、清朗で
「いえ、それはどうしても私には出來ません。ですからただ一つしか途はないのです。でもそれを云つてはあなたはお怒(おこ)りになるでせう。」
おじいさんはがみがみと叱りつけたから、怒(おこ)っていたのかと思ったら、昔のランプに逢(あ)うことができて喜んでいたのである。
おじいさんのランプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
私ヲソンナミダラナ女ト思ウノデスカト怒(おこ)ルデアロウガ、コレハ「仮リニ」ダ、———他ノ男ヲ拵(こしら)エタトスルト、僕ハソレニハ堪エラレナイ。
鍵 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
部屋に上って仕事をしようとしても、そんな落ちつきを失った彼には、書くべきことがらが怒(おこ)っているために、片っ端から逃(に)げを打っていた。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
今日は下谷長者町の筆幸(ふでこう)へ出かけて行って、そっと息子の幸吉にだけ会い、こういって散々(さんざん)怒(おこ)り散らした村井長庵だ。そんな筈はないがなア。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
マーキュ さゝ、足下(おぬし)はイタリーで誰(た)れにも負(ひけ)を取(と)らぬ易怒男(おこりむし)ぢゃ、直(ぢき)に怒(おこ)るやうに仕向(しむ)けられる、仕向(しむ)けらるれば直(すぐ)怒(おこ)る。
「それで、金沢が帰ってきて陸上の連中に話したから、みんな怒(おこ)っていたよ。二三人で呼びだして、熊本を撲(なぐ)ろうかとまで言っているんだぜ」
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「そなたがいつまでも怒(おこ)ったりしているので、とうとうみんながここまで出て来なければならなくなった。もうたいていにしてお帰りなさい」
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
ピリイは、あんまり泣いたもので、放熱器(レディエイター)の水がすっかりなくなってしまいました。で、ひどく頭がほてって、怒(おこ)りっぽくなってしまいました。
やんちゃオートバイ (新字新仮名) / 木内高音(著)
其(そ)れぢや基督(ハリストス)でも例(れい)に引(ひ)きませう、基督(ハリストス)は泣(な)いたり、微笑(びせう)したり、悲(かなし)んだり、怒(おこ)つたり、憂(うれひ)に沈(しづ)んだりして、現實(げんじつ)に對(たい)して反應(はんおう)してゐたのです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「薊さんそれでは困る、どうかまあ怒(おこ)らないでください。とよが事はとにかく、どうぞ心持ちを直して帰ってください」
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
寢轉(ねころ)んで讀書(どくしよ)してゐる枕頭(まくらもと)にお行儀(げうぎ)よくおちんをしてゐる、叱(しか)つても逃(に)げない、庭(には)へつまみ出(だ)す、また這入(はい)つてくる、汚物(をぶつ)をたれ流(なが)す、下女(げぢよ)が怒(おこ)る。
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
『まあさ。然う直ぐ怒(おこ)らねえでも可いさ。』と源助はまたしても笑つて、『一度東京へ行きや、もう恁麽(こんな)所にや一生帰つて来る気になりませんぜ。』
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
柳吉が蝶子と世帯を持ったと聴いて、父親は怒(おこ)るというよりも柳吉を嘲笑(ちょうしょう)し、また、蝶子のことについてかなりひどい事を言ったということだった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
中将はぜひとも自分でなく思わせなければならないと知って物を言わない。ただ怒(おこ)ったふうをして太刀(たち)を引き抜くと
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「三上、そう怒(おこ)るものじゃない。え、浜につけば、気に入るようにしてやるから怒らずに、一生懸命やってくれ、え」
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
『お母さん、怒(おこ)らないでね』と、小さな女の子は言いました。『あたし、お祈りしたのよ。パンにバターもたくさんつけてくださいまし、ってね!』
『然(さ)う怒(おこ)つたものぢやない!』と云(い)つて五點(フアイブ)は『私(わたし)は昨日(きのふ)女王樣(ぢよわうさま)が、何(ど)うしてもお前(まへ)は首(くび)を刎(は)ねられるやうな惡(わる)い事(こと)をしたと云(い)はれるのを聞(き)いた!』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
こんなことを言われても、六兵衛は怒(おこ)りもせず、にやにや笑(わら)っているばかりでした。それを見ている重吉はつくづく六兵衛がかわいそうになりました。
とんまの六兵衛 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
親父(おやじ)には絶えず怒(おこ)られて叱責(しっせき)され、親戚(しんせき)の年上者からは監督され、教師には鞭撻(べんたつ)され、精神的にも行動的にも、自由というものが全く許されてなかった。
老年と人生 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
その最も甚(はなはだ)しい時に、自分は悪い癖(くせ)で、女だてらに、少しガサツなところの有る性分(しょうぶん)か知らぬが、ツイ荒(あら)い物言いもするが、夫はいよいよ怒(おこ)るとなると
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それから体(からだ)の重(おも)みが六十四斤(きん)もあって、怒(おこ)って力(ちから)をうんと入(い)れると、その四倍(ばい)も重(おも)くなるといわれていました。
田村将軍 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
この二人はかつてある跛人(ちんば)の事でけんかをしたことがあるので今日までも互いに恨みを含んで怒(おこ)り合っていた。
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
父は火のやうに怒(おこ)つて、絹篩にかけた程に柔らかな良(よ)い灰の上層(うはかは)から、ザラ/\した燒土(やけつち)の如き灰を取り棄てるのに、朝飯(あさはん)が晝飯(ひるめし)になるのをも忘れてゐた。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)