心持こころもち)” の例文
あなたがたもいずれはこちらの世界せかい引移ひきうつってられるでしょうが、そのときになればわたくしどもの現在げんざい心持こころもちがだんだんおわかりになります。
子家鴨こあひるはみんながれだって、そらたかくだんだんとのぼってくのを一心いっしんているうち、奇妙きみょう心持こころもちむねがいっぱいになってきました。
この混ぜ方が少しむずかしいので、パラパラと振りかけておいて、今のササラかはしで極く軽くやわらかにホンのだますような心持こころもちで混ぜます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それだから大切にしなければならぬと言うのでは、親孝行もなんだかかんじょうずくになって、われわれの心持こころもちとは、一致しない。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
丁度ちょうど自分の学校から出た生徒が実業について自分と同じ事をすると同様、乃公おれがその端緒たんちょを開いたと云わぬばかり心持こころもちであったに違いない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
爾時そのときは……、そして何んですか、せつなくって、あとでふせったと申しますのに、爾時そのときは、どんな心持こころもちでと言っていのでございましょうね。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さあ、おまえも火のそばへ来て、よくあったまって寝ろ。怖いのじゃあねえ、寒いのだ。よくあったまって、心持こころもちにぐっすり寝ろ。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こういう田舎道を歩いて行きながら、深い谷底の方で起る蛙の声を聞くと、妙に私はしつけられるような心持こころもちに成る。可怖おそろしい繁殖の声。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お君の話のテンポの遅さと、八五郎の逢曳あいびき? を享楽する心持こころもちられて、いつの間にやら四半刻しはんとき(三十分)ほどの時間はちました。
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
その心持こころもちは今、私をだん/\と宗教的しうけうてき方面はうめんみちびかうとし、反動はんどうのやうに起つて來た道徳的だうとくてきな心は、日光につくわうとなつて私の胸に平和へいわの芽をそだてます。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
目覚すような学問の話などの出来る相手でもあれば、また格別ですがね。それこそ、いわば天へも昇る心持こころもちになって……。
まえさんが、どこまで出来できたかたいという。その心持こころもちァ、はらそこからさっしてるが、ならねえ、あっしゃァ、いま、人形にんぎょうってるんじゃァねえ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
しかし、もはや、鬼のような心持こころもちになってしまった年より夫婦は何といっても娘の言うことを聞き入れませんでした。
赤い蝋燭と人魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
丁度ちょうど某氏が同じ夢を見た晩と同じ晩の同じ時刻に、その病人が『今、自分は、色んな人にあって、色んな愉快な話をして来たので、心持こころもちになった』
取り交ぜて (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
もう何もかも行詰ってしまって、動きの取れなかった二人は、丁度その頃世間を騒がせた大泥坊の、巧みなやり口を羨む様な、さもしい心持こころもちになっていた。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
他山の石もって玉をみがくべしというおしえが世に伝えられているが、僕は各国人と交わり、各国人の長所を学びたい心持こころもちする。例えば某国人ぼうこくじんすこぶる勤勉である。
真の愛国心 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
今お前さんのそうしてつくねんとしているところを見ると、わたしその連中を見た時のような心持こころもちがするわ。
癩病らいびょう病院に血痕のある木! れしもあまり心持こころもちがしない、こんな場所だから昼間でも人通りがすこぶる少ない、ことに夜にっては、はなはだ寂しい道であった。
白い蝶 (新字新仮名) / 岡田三郎助(著)
ウイリイはちゃんと犬から教わっているので、ほかのかせより心持こころもち色の黒いのをより出し、ポケットからナイフを出して、そのかせを二つにたち切ろうとしました。
黄金鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
此方こっちまでが、人のそしりも世間の義理も、見得も糸瓜へちまもかまわぬ気になって、ただ茫然ぼんやりと夢でも見ているような、半分痲痺した呑気な心持こころもちになって、一日顔も洗わず
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
次から次に福太郎の眼の前の曲線カーブの継ぎ目の上に乗りかかって来ると、第一の炭車トロッコが、波打った軌条に押上げられて、心持こころもち速度を緩めつつ半分傾きながら通過した。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
先頃さきごろわが百首のうちで、少しリルケの心持こころもちで作って見ようとした処が、ひどく人に馬鹿ばかにせられましたよ。
道は随分暑かッたが森へ来て少し休むと薄暗い奥の方から冷たい風が吹いて来ていい心持こころもちになった
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
官憲の臨検に対する故意から黒帽こくぼうをかぶらなければならんと考えたのであろう心持こころもちも読める、——
マリちゃんは、すっかりむねかるくなって、にいさんがまだきてでもいるような心持こころもちがして、うれしくってたまらなかったので、機嫌きげんよくうちはいって、ゆうはんべました。
そういって辻永は、心持こころもち顔色をあおくして説明をした。それによると、彼がいまよじのぼった塀の外は「ユダヤ横丁よこちょう」という俗称をもって或る方面には聞えている場所だった。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
どうかして好い心持こころもちになりたいと思って、筆をって画なり文章なりを作る人もあります。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この種々いろいろな物を彫刻家が刻んだ時は、この種々いろいろな物が作者の生々いきいきした心持こころもちうちから生れて来て、譬えば海からあがったうおが網に包まれるように、芸術の形式に包まれた物であろう。
あなたにはこの本当のことをいう誰はばからずそのままのことを高い声でいう、この喜びこの心持こころもちよさは分らないでしょう。僕は僕の頭の中で考えた通りのことをいうだけです。
一体いったい夏菊という花は、そう中々なかなかしおれるものでない、それが、ものの二時間もあいだにかかる有様ありさまとなったので、私も何だか一種いやな心持こころもちがして、その日はそれなり何処どこへも出ずすごした
鬼無菊 (新字新仮名) / 北村四海(著)
ところが娘はそうは云うものの両親も一度はそれを許してもみましたが、最早もう年頃でもあるし同じ朋輩ほうばいみんな丸髷まるまげ姿に変るのを見ると親心にもあまり心持こころもちもしない、実はひそかに心配をしていたのだ。
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
又「おおきに酩酊めいてい致した、あゝ心持こころもちだ、ひどくった」
これもバターが多過ぎてならずすくなくってもなりませんが先ず紙十枚位の厚さに塗るという心持こころもちっていると自然と覚えられます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
今日きょうまたにかかってようかしら……。』わたくしとしてはただそれぐらいのあっさりした心持こころもち出掛でかけたまでのことでございました。
所が私は自分でも他人でもその血の出るのを見て心持こころもちくないから、刺胳と云えばチャントを閉じて見ないようにして居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その憂欝になっていたのが、ここでうして一杯飲んだら、胸がすうとして、急にほがらかになって……。ああ、心持こころもちだ。トテモ愉快だわ。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
心持こころもちが悪くなった反対なんだから、私の姿を見ると、それから心持がくなった——事になる——加減かげんになさい、馬鹿になすって、」
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昔の大人は自分も単純で隠しごとが少なく、じっと周囲に立ってつめていると、自然に心持こころもちの小児にもわかるようなことばかりをしていた。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
チャイコフスキーの弱気よわきは徹底的で、喝采かっさいに好い心持こころもちになるなどはもってのほかのことであり、自分に集まる人気や讃辞さえも極度に恐れる風があった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
柘榴口ざくろぐちからながしへ春重はるしげ様子ようすには、いつもとおりの、みょうねばりッからみついていて、傘屋かさや金蔵きんぞう心持こころもちを、ぞッとするほどくらくさせずにはおかなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ながめて居ると少年心こどもごころにもかなしいようなたのしいような、所謂いわゆ春愁しゅんしゅうでしょう、そんな心持こころもちになりました。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
私は直接談判はしませんでしたけれども、その話を間接に聞いた時、変な心持こころもちがしました。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
という句があるが、コウいう心持こころもちでおれば、至る所に青山せいざんありで、い心持がしようと思う。おのれをあざむくのかも知れないが、幾度いくどダマされても、私はこの心持でおりたいと思う。
人格を認知せざる国民 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
只今ただいまのあなたの恐しくお思いあそばす、そのお心持こころもちが、丁度昨晩のわたくしの心持と同じなのでございますよ。丁度只今のあなたのように、昨晩はわたくしが恐しく存じましたの。
丁度ちょうどその間四五ちょうばかりというものは、実に、一種何物かに襲われたかのようなかんじがして、身体からだが、こう何処どことなく痳痺まひしたようで、とても言葉に言い現わせない心持こころもちであった、しかし
白い蝶 (新字新仮名) / 岡田三郎助(著)
自分は何となく気抜けした心持こころもちで、昼過ぎに訪問した友達の家を出た。
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と健策は眼を丸くしてあごを撫でた。黒木は心持こころもち得意らしくうなずいた。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
おお可哀想かわいそうに、可哀想にと、あたしを心からあわれんで泣いていたのよ。……人間の目の中には、その人の一生涯のことが書いてあるわね。まして、たった今の心持こころもちなんか、初号活字で書いてあるわ。
断崖 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
といって例の尖った口先を心持こころもち此方こちらに向けて頼んだ。
黄色い晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それから暑い処をセッセと帰って参りますと宅では冷した珈琲こーひーを拵えておいて出しますがそれを飲む時の心持こころもちは何ともいえないそうです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)