いきお)” の例文
けれど、このすばらしいいきおいで、見物人けんぶつにんがみんなびっくりして、こえをたてました。くまはそれをせめても痛快つうかいがったのであります。
白いくま (新字新仮名) / 小川未明(著)
断雲だんうんは低くたれて、奔馬ほんばのごとくとびきたり、とびさる、まだいきおいのおとろえない風のなかを、四人はたがいに腕をくんで浜辺に出た。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
わざわざ遠廻りしてまで他所よその風呂へ行くといった様に、いきおい、それはきのことではあるけれど、噂で持ちきっていたものである。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
すると、たちまち、ガチョウもニワトリも、ニールスのほうをりむきました。そうして、みんなは、ものすごいいきおいできたてました。
そのいきおいで天子てんしさまのからだにおやまいがおこるのだ。だからあのへびかえるしてしまわないうちは、御病気ごびょうきなおりっこないのだよ。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「そのとおり。——おかみさん。太夫たゆう人気にんきたいしたもんでげすぜ。これからァ、んにもこわいこたァねえ、いきおいでげさァ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
雨でもると、わたしたちは船室の中にはいって、いきおいよくえた火を取りいてすわる。病人の子どもがかぜをひかないためであった。
いきおいよく、月ノ宮の境内けいだいからかけだしてきた竹童ちくどうは、自分とれかわりに、そこをすッ飛ぶようにげだしていったうしろ姿すがた
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
津田が一定の時刻にうちへ帰らないと、お延はきっとこういう質問を掛けた。いきおい津田は何とか返事をしなければならなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あの、今日、牛乳ぎゅうにゅうぼく※とこへ来なかったので、もらいにあがったんです」ジョバンニが一生けんめいいきおいよくいました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いきおい神崎与五郎東下あずまくだりという一席になりますが、さてイヨ/\仇討の機運が熟して大石初め一味の者が江戸へ下ります。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
芍薬は宿根性しゅっこんせい草本そうほんで、その根を薬用にきょうする。春に根頭こんとうからいきおいのよい赤い芽を出し、見てまことに気持がよい。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
それほどおそろしいいきおいでかあさんからいてったしおが——十五ねんのちになって——あのかあさんと生命せいめいりかえっこをしたような人形娘にんぎょうむすめしてた。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いきおいに乗った俊助は、もう一度きわどい鎌をかけた。けれども大井は存外平然と、薄笑うすわらいを唇に浮べながら
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いきおい村近くの地面の下に、彼ら鼠どもの隠れ里も有るということになって、正直爺さんがいかにしてそこを訪れたかが、いよいよ問題とならざるを得なかったろう。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
つねさんなければ恒の心なく、ひんすればらんすちょう事は人の常情じょうじょうにして、いきおむを得ざるものなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「ようし、それでは拙者せっしゃがひとりで。」と言いながら危い足どりでその舟に乗り込み、「ちゃんとオールもございます。沼を一まわりして来るぜ。」騎虎きこいきおいである。
花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
が、いきおいついた新吉の身は、わか姉さんの手をすりけ、ファットマンの頭にぶつかると、もんどり打って下の板敷いたじきへ、まっさかさまにたたきつけられた、と思ったその刹那せつなです。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
おまけにその間を、自動車が、ブーッ、ブッと、すさまじい音をたてて、新開地のでこぼこ道を、がたがたゆれながら、いきおいよく走っていきます。清造はまったくびっくりしてしまいました。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
たまらず袖を巻いて唇をおおひながら、いきおひ釵とともに、やゝしろやかな手の伸びるのが、雪白せっぱくなる鵞鳥がちょう七宝しっぽう瓔珞ようらくを掛けた風情ふぜいなのを、無性髯ぶしょうひげで、チユツパと啜込すすりこむやうに、坊主は犬蹲いぬつくばいに成つて
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いきおいを制する人でなければ、人間一疋の通用が出来ぬけれど、私の様な斗筲輩やくざものになると、直ぐ其いきおいに制せられて了って、吾は吾の吾ではなくなって、いきおいの自由になる吾、いきおいの吾になって了う。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
樹そのものは弱りても、その境遇を刷新さっしんすれば、甦生こうせいするのいきおいをあらわす。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ルピック夫人——へえ? なんにもいわなかったのかい? でも、あんなに、赤い顔をして、こぶしを振り上げ、えらいいきおいでぺらぺらしゃべってたじゃないか? あの声ときたら村のはしまで届くほどだった。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
り、りりりーん! もうれつないきおいでベルがなった。
いま、人間にんげんは、ひじょうないきおいで、いたるところでたおしている。いつ、このはやしほうへもせてくるかしれない。
あらしの前の木と鳥の会話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あのいきおいで、大兵だいひょうな、卜斎にみつけられたのだから、蛾次郎もギャッといって、ぴしゃんこにつぶれたのはもっともだが。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのいきおいがあんまりいさましかったものですから、ごしになっていたほかのねずみたちも、ついうかうかつりまれて
猫の草紙 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ズルスケはいきおいよくおどりあがりました。と、このガンは、もうすこしのところでつかまりそうになりましたが、それでもとうとう逃げてしまいました。
ジョバンニは思わずどきっとしてもどろうとしましたが、思いなおして、いっそういきおいよくそっちへ歩いて行きました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ただほうりだされたときのいきおいで、無引力空間をユラリユラリと流れるばかりだった。もちろん後から飛びでた佐々記者は進少年のところへ追いついた。
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
水はいまに規則きそく正しい波になって、こうの中を走っていた。気ちがいのようないきおいでうずをわかせながら、材木ざいもくをおし流して、はねのようにかるくくるくる回した。
先方ではそれを一年作って、さらにその大きさを増さしめ、そして次年じねんいきおいよく花を咲かせてその花を賞翫しょうがんする。花が咲いた後、弱った球根は捨ててかえりみない。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
あれで済むのだが文明の民はたとい親子の間でもお互に我儘わがままを張れるだけ張らなければ損になるからいきおい両者の安全を保持するためには別居しなければならない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ゆえにこれを求むる者はいきおい書物にったのである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
あとから、あとからいかけてはえてなくなる湯気ゆげていると、そのうちに、ぷつぷつと、いきおいよくして、おもいふたをうごかしました。
おかまの唄 (新字新仮名) / 小川未明(著)
なにがさて、髀肉ひにくたんをもらしながら、伊那丸いなまるのゆるしがでぬため、いままでジッとうでをさすっていた人々、くさりをとかれた獅子ししのようないきおいだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこらにものからだごと、ばしそうないきおいでしたから、きつねはあわてて、びたに小さなあなをほって、その中に小さくなって、もぐりみました。
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そしていきおすざまじく、井戸の中に落ちていった。夫への最後の贈物だ。——ちょっと間を置いて、何とも名状めいじょうできないような叫喚きょうかんが、地の底から響いてきた。
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
火の中に投げこんでおいたえだはいきおいよくえ上がって、小屋のすみずみの暗い所までらしていた。けれどもジョリクールはどこへ行ったか見えなかった。
ところがカムパネルラは、まどから外をのぞきながら、もうすっかり元気がなおって、いきおいよくいました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
雪がとけるいまごろは、水がふえて、すさまじいいきおいで流れているのです。うしろには、とてもとおることのできない岸壁がんぺきがあって、その上には木の枝がおおいかぶさっています。
それから両国りょうごくへ来て、暑いのに軍鶏しゃもを食いました。Kはそのいきおいで小石川こいしかわまで歩いて帰ろうというのです。体力からいえばKよりも私の方が強いのですから、私はすぐ応じました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あか馬車ばしゃは、どうあやまったものか、いきおいよくはしってゆくと、そのがけからまっさかさまにうみなかへと四にんおんなたちをせたままちてしまいました。
初夏の空で笑う女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
水はごうごうとおとてて、えらいいきおいでながれてきますが、あいにくはしがかかっていませんでした。みんなは
金太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
でもだれか下にいる人がほうり出されたらしかった、たきのいきおいがどっどっとなだれのようにおして来た。
グワーンと音がするかと思いのほかッと叫ぶ間もなく、扉はパタリと開き、三人の警官はいきおいあまってコロコロと球でもころがすように、室内に転げ込みました。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ただ宿将老臣たちの一部には、憂いを抱いていた人々もあるが、いきおいのおもむくところはどうしようもない。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
適当な位置に置かれるやいなや、すぐおのれに自然ないきおいを得て倒れようとした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
勇蔵ゆうぞうは、品物しなもの配達はいたつわると、かるくなったリヤカーをさらにいきおいよくはしらせて、まちり、はらっぱへとました。
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
てき大将たいしょう高丸たかまるはくやしがって、味方みかたをしかりつけては、どこまでもとどまろうとしましたけれど、一くずれかかったいきおいはどうしてもなおりません。
田村将軍 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)