ちと)” の例文
四方しはう山の中に立ちたる高さ三百尺の一孤邱いつこきう、段々畠の上にちとの橄欖の樹あり、土小屋つちごや五六其ひたひに巣くふ。馬上ながらに邱上きうじやうを一巡す。
家康とは余り交情の親しいことも無かったのであり、政宗はかえって家康と馬が合ったようであるから、此談もちと受取りかねるのである。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
勘さんの嗣子あととりの作さんは草鞋ばきで女中を探してあるいて居る。ちとさそうな養蚕かいこやといの女なぞは、去年の内に相談がきまってしまう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
いな此処ここには持ちはべらねど、大王ちとの骨を惜まずして、この雪路ゆきみちを歩みたまはば、僕よき処へ東道あんないせん。怎麼いかに」トいへば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
當年十六歳にしては、少しをさなく見える、痩肉やせじしの小娘である。しかしこれはちとの臆する氣色もなしに、一部始終の陳述をした。
最後の一句 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
しかるに是等学芸の士は、平民に対してちとの同情ありしにあらず、平民の為に吟哦ぎんがせし事あるものにあらず、平民の為に嚮導きやうだうせし事あるものにあらず
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
ペリイニイは一句を添へず又一句をけづらず、その口吻態度ちとの我に殊なることなくして、人々は此の如く笑ひしなり。
なんぢしとおもふことならばなににてもし、ちとかはりたるのぞみなるが、なんぢ思附おもひつき獻立こんだて仕立したてて一膳いちぜんこゝろみしめよ
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
くんで持ち出で傳吉の足をあら行燈あんどうさげ先に立ち座敷へ伴ひ木枕きまくらを出しちと寢轉ねころび給へとて娘は勝手へ立ち行き半時ばかり出で來らず傳吉はかしらめぐら家内かないの樣子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
何事とも覚えずおどろかされしを、色にも見せず、怪まるるをもことばいださず、ちとの心着さへあらぬやうにもてなして
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
次に上帝を招き、汝は苦労せにゃならぬ、すなわち、常に重荷を負い運び、不断むちうたれ叱られ、休息はちとの間であざみいばらの粗食に安んずべく、寿命は五十歳と宣う。
ト言ッたのが原因もとちとばかりいじり合をした事が有ッたが、お政の言ッたのは全くその作替つくりかえ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
何もわきまえん奴だと權六は遠慮を申付けられました、遠慮というのは禁錮おしこめの事ですが、權六ちととも遠慮をしません、相変らず夜々よな/\のそ/\出てお庭を見巡みまわって居りますので
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
のがれ去らんと欲すれども、夜行太と黒三と、かはり代りに宿所にをれば、思ふのみにて便りを得ず、よしやちとすきありとても、山深くして道遠かり、いづこを人家さとある処ぞと
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この殆ど注意を惹かぬ程の天の反影があるので、暗黒と沈黙とに支配せられてゐる寂寥の境に、ちとばかりの活動が生じて、其境に透明な、きらめきのある光彩が賦与せられてゐる。
センツアマニ (新字旧仮名) / マクシム・ゴーリキー(著)
しかしそいつはちと面妖、疑わしい点でござりますなあ。これが一年や半年なれば、そう諦らめても居られましょうが、何と申しても五年の月日が流れて居るのではござりませぬか。
村井長庵記名の傘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これは、人の前で、殊に盛岡人の前では、ちと憚つて然るべき筋の考であるのだが、茲は何も本氣で云ふのでなくて、唯ついでに白状するのだから、別段差閊さしつかへもあるまい。考といふとかうだ。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
◎これはちと古いが、旧幕府の頃南茅場町みなみかやばちょう辺の或る者、乳呑子ちのみごおいて女房になくなられ、その日稼ぎの貧棒人びんぼうにんとて、里子に手当てあても出来ず、乳がたりぬのでなきせがむ子を、もらちちして養いおりしが
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
ひとしく尽きる命数を、よしやちとばかり早めたと云つて、何事かあらう。可哀かはいい娘が復讐の旨味しみめるのを妨げなくても好いではないか。己は毎晩その恐ろしい杯を、微笑を含んで飲み干してゐる。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
願ふばかり付燒刄つけやきばの英雄神色少し變じたり馬丁べつたうにあまりに烈し少し靜にせよと云へばかゝる所はハヅミに掛つて飛さねばかへつて誤ちありナアニ此樣こんな所こゝはまだいろはです是から先がちとばかり危ないのですと鼻唄の憎さよ坂を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
一体余り器量も無い小身の木村父子を急に引立てて、葛西、大崎、胆沢いさわを与えたのはちと過分であった。何様も秀吉の料簡りょうけんが分らない。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
比較的小作料の低廉な此辺の大地主は、地所を荷厄介にやっかいにして居る。また大きな地主でちと派手はでにやって居る者に借金が無い者はほとんどない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しかし少くも山陽はちとのブウドリイをして不沙汰をしてゐたのではなからうか。すねて往かずにゐたのではなからうか。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
われは少しく心に恥ぢながら、去年は唯だ二たび訪ひしのみなれど、彼方より尋ね來たるごとに、ちとの小づかひ錢をば分ち與ふるを例とすと答へぬ。
急ぎ礼にゆかんとて、ちとばかりの豆滓きらずを携へ、朱目がもとに行きて、全快の由申聞もうしきこえ、言葉を尽して喜悦よろこびべつ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
先に大口おほぐち言込有いひこみありし貸付の緩々だらだら急に取引迫りて、彼はちとの猶予も無く、自ら野州やしゆう塩原なる畑下はたおりと云へる温泉場おんせんじように出向き、其処そこ清琴楼せいきんろうと呼べる湯宿に就きて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
頭を洗うし、久しぶりで、ちと心持こころもちさわやかになって、ふらりと出ると、田舎いなかには荒物屋あらものやが多いでございます、紙、煙草たばこ蚊遣香かやりこう、勝手道具、何んでも屋と言った店で。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はうむりて修羅しゆら妄執まうしふはらし申さんとて千住小塚原こづかはらの御仕置場へ到り非人ひにんの小屋へ立寄たちよりちと御頼み申度ことありてまゐりたり昨日御仕置になりたる武州幸手宿富右衞門のくび
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
うちにどうも兵士へいしとほる事は千人だか数限かずかぎりなく、また音楽おんがくきこえますると松火たいまつけてまゐりますが、松火たいまつをモウちとしいとぞんじましたが、どうもトツプリれて
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
これは、人の前で、殊に盛岡人の前では、ちと憚つて然るべき筋の考であるのだが、ここは何も本気で云ふのでなくて、唯ついでに白状するのだから、別段差閊さしつかへもあるまい。考といふはかうだ。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「手前の考えはちと違います」
戯作者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かわらと人の手のあとの道路や家屋を示すちとの灰色とをもてえがかれた大きな鳥瞰画ちょうかんがは、手に取る様に二人が眼下にひろげられた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
千両の茶碗を叩きつけたところはちと癇癪かんしゃくが強過ぎるか知らぬが、物にとらわれる心を砕いたところは千両じゃやすいくらいだ。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しほは落魄らくたくして江戸に来て、木挽町こびきちょうの芸者になり、ちとの財を得て業をめ、新堀しんぼりに住んでいたそうである。榛軒が娶ったのはこの時の事である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
されどいつも雨雲におほはれたるハツバス・ダアダアが面に、ちとの日光を見んと願ふものは、先づ草稿を出して閲を請ひ、自在に塗抹せしめずてはかなはず。
「その驚きはことわりなれど、これにはちとの仔細あり。さて其処にゐる犬殿は」ト、鷲郎わしろうゆびさし問へば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
わびしさは、べるものも、るものも、こゝにことわるまでもない、うす蒲團ふとんも、眞心まごころにはあたゝかく、ことちと便たよりにならうと、わざ佛間ぶつま佛壇ぶつだんまへに、まくらいてくれたのである。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
なんにも知らねえおえいや丹三郎が不憫だと仰しゃればちと申したい事がある、おえいや丹三郎さんがなんにも知らねえという訳はがんしねえ、と言うものは、先達せんだったなで拾ったふみがありやす
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何の手も無く奪ひ取り懷中せんとするをりからあとより人聲ひとごゑがする故に重四郎は振返ふりかへり彼は定めし子分こぶん奴等やつら何も恐るゝにはあらねども水戸浪人奴みとらうにんめちと手強てごはやつ見付られては面倒也めんだうなり早々此場を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
折から縁に足音するは、老婢の来るならんと、貫一は取られたる手を引放たんとすれど、こは如何いかに、宮はちとゆるめざるのみか、そのかたちをだに改めんと為ず。果して足音は紙門ふすまの外にせまれり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
もとわたくしは支那の古医書の事にはくらいが、此にちとの註脚を加へて、遼豕れうしそしりを甘受することとしよう。病源候論は隋の煬帝やうだいの大業六年の撰である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
中にはちとしょうが悪くて、骨董商の鼻毛を抜いていわゆる掘出物ほりだしものをする気になっている者もある。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
わたくしは此二通を借り受けた時、ちとの遅疑することもなく其年次を考ふることを得て、大いにこれを快とし、直に記して信平さんに報じて置いた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
自分の酒量にはちと過ぐる程なるにも關らず、之を飮み盡して終ふのは、福を惜まぬのである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
才幹あり気概ある人で、恭謙にして抑損し、ちとの学問さえあった。然るに酒をこうぶるときは剛愎ごうふくにして人をしのいだ。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
中にはちとしやうが悪くて、骨董商の鼻毛を抜いて所謂掘出物をする気になつてゐる者もある。
骨董 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
何故なぜと云うに、この花の如き十五歳の少女には、ちと嬌羞きょうしゅうの色もなく、その口吻こうふんは男子に似ていたからである。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
随分良い人でも常識にはちと欠けていたり、妙にそげていたり、甚しいのになると何処か抜けていたりするものがあるが、右衛門は少しも然様そういうところの無い、至極円満性、普通性の人で
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
もとよりちとの学問が技芸を妨げるはずはないので、次第に家元たる声価も定まり、羽翼も成った。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
若しもちとなり破壊れでもしたら同職なかまの恥辱知合の面汚し、うぬはそれでも生きて居られうかと、到底とても再度鉄槌も手斧も握る事の出来ぬほど引叱つて、武士で云はば詰腹同様の目に逢はせうと
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)