わた)” の例文
いうまでもなく、ここの管下では、巡察、糺弾、勘問、聴訴、追捕、囚獄、断罪、免囚など、刑務と検察行政のすべてにわたっている。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
イヤしかしそなたの質問とい大分だいぶんわし領分外りょうぶんがい事柄ことがらわたってた。産土うぶすなのことなら、わしよりもそなたの指導役しどうやくほうくわしいであろう。
これに加へて巴里パリイのルウヴル及びリユクサンブルの二大博物館を観れば欧洲の絵画の古今にわた精粋せいすゐを概観し得たと云つて好いであらう。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「ああカーボン卿、ドイツ空軍のために、こんなにわたって爆撃されたのでは、借間しゃくまが高くなって、さぞかし市民はたいへんであろう」
陳列されているものは各種の工藝品や絵画彫刻にわたっていますが、その過半数は古作品です。時代は徳川期のものが多いのです。
日本民芸館について (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
に入りさいわたるのは学術の本義ですけれども、学生時代に色々な学説を聞かされるということはなり厄介に感ずるものです。
人工心臓 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
この一瞬こそ、二日間の行事の頂点であり、この一瞬の喜びこそ、去年の春が暮れて以来一年にわたって待ちつづけていたものなのである。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
江戸末期より明治の初年にわたって、名女形として知られた八代目岩井半四郎は、明治十五年二月、五十四歳を以て世を去った。
源之助の一生 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それから二月程して、私は東の島々——中央カロリンからマーシャルへ掛けての長期にわたる土俗調査に出掛けた。調査は約二ヶ年を要した。
南島譚:03 雞 (新字新仮名) / 中島敦(著)
彼は電車の窓から都会の建築の上の晴れわたる空をぼんやり眺めていた。来るものが来たのだが、何という静かな空なのだろう。
死のなかの風景 (新字新仮名) / 原民喜(著)
夏の夜の透明な空気は青みわたって、月の光が燐のようにすべての光るものの上に宿っていた。の群がわんわんうなって二人に襲いかかった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
三人の対話は極めてひそかに、また長時間にわたって、容易に果つるとは思われません。洛北岩倉の秋日の昼は、閑の閑たるものであります。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
つらなわたる山々の薄墨の影の消えそうなのが、霧の中にへりめぐらす、うみは、一面のおおいなる銀盤である。その白銀しろがねを磨いた布目ばかりの浪もない。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つまり時代とか流行とかを超越した民衆最高の芸術的良心を対象物として永久にわたって完成に近付けて行かるべき民族的芸術だそうであります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
検死も済んでさあバラバラになった体を集めてみたがどうも右の手が足りない、いくらその辺を数丁にもわたって調べても見当らないというのです。
(新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
この書簡集は一八四〇から一八七〇——メリメエの歿年にわたつてゐる。(彼の「カルメン」は一八四四の作品である。)
自分の専門の事はめつたに話さない。それでゐて、その多方面にわたつてゐる話がすこぶる要領を得てゐるから、法学者の中での博識として知られてゐる。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
後で平次の言ったことですが、振袖火事にしても、吉祥寺火事にしても、二日にわたって火は八方から起っております。
庭はもうやみわたっていたので、十何年ぶりかで庭を見る民さんは、すぐには庭のもようについては何もいわなかった。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ヨブ記に限らず聖書全体にわたりて、その記者たちの語法が我らのそれと根本的に相違せるは忘るべからざる事である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
『多情多恨』は二年にわたつて『読売』に掲げられた。しかし『三人妻』や『むき玉子』を書いた時代ほど、最早読者の心を動かすことは出来なかつた。
尾崎紅葉とその作品 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
下津川山の西北に在る佐具利さぐり山(仮称)なども、高さは千八百米にも達しないが、東北側に懸る二条乃至ないし三条の雪渓は、いずれも十余町にわたるであろう。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
しかしこれを恨みとして、その恨みの根を何処へ持って行くのかとなると、それはまたあまりに多岐にわたり複雑過ぎて当時の彼には考え切れなかった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
四ヶ月余にわたる、怪奇な冒険旅行を終えて、故国へ帰る僕は、疲労も、眠気も忘れて、元気一杯、口笛を吹いた。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
絶代の女形、三都にわたっての美男から、かくまで、手管てくだをつくした言葉を聴かされては、どのような、木石の尼御前でも、心を動かさずにはいられまい。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
千年の久しきにわたって我々の使いれていた二本箸の稲扱器を、一朝にして改良した所以ゆえんのものは何であったか。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
長城万里にわた荒蕪くわうぶ落日に乱るゝの所、ちやうたる征驂せいさんをとゞめて遊子天地に俯仰ふぎやうすれば、ために万巻の史書泣動し、満天の白雲つて大地を圧するの思あり。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼らは遅かれ早かれ死なねばならぬ。されど古今にわたる大真理は彼らにおしえて生きよと云う、くまでも生きよと云う。彼らはやむをえず彼らの爪をいだ。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自然、源助町の道場は「喬之助討取事務所」の観をていして、何日にもわたって大掛りな会議が行われている。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ファラデーはリーブを徳としたのか、その交際はリーブの子の代までも続き、実に五十年の長きにわたった。
幾年幾十年にわたりて、ただの一度も会見の機会なく、しかもその業務がすっかり相違しているにも係らず、彼等の間には、立派に愛情が存在し得るではないか。
私なんぞが女の癖に教育の事をかれこれ申しては生意気にわたりましょうが平生へいぜい兄はこう申しております。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ヘルンについての一不思議は、あれほど広く多方面の文献にわたって、日本人以上に日本のことを知っていながら、日本語をほとんど知らなかったということである。
さとしも神儒佛しんじゆぶつの三道にわた和學わがく軍學ぐんがくに至るまでなに一ツ知ずといふ事なき文武兼備の秀才士しうさいしなり此人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
(そして相当の長さにわたつて信教に関する力強い訓戒が語られ、最後は次の様に結んである)では、もう一度左様さようなら、愛しい妹よ、そして何卒なにとぞあなたを救ふ唯一者
ジェイン・グレイ遺文 (新字旧仮名) / 神西清(著)
拳と云ふものを目に見ない人には一寸ちよつと解り難い歌かも知れぬ。手の指を種種な形にして相手とわたり合ふのであるが、其の中に二つの手を前向けに立てて突出す形がある。
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
身にんだ罪業ざいごうから、又梟に生れるじゃ。かくごとくにして百しゃう、二百生、乃至ないしこうをもわたるまで、この梟身をまぬかれぬのじゃ。つまびらかに諸の患難をこうむりて又尽くることなし。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
紙片かみきれはたして横罫よこけい西洋紙せいやうしで、それひろげてると、四五つうもある。いづれもインキでノート筆記ひつきやうの無造作むざうさ字体じたいで、最初さいしよの一つうが一ばんながく、細字さいじで三頁半ページはんにもわたつてゐる。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
ゾラの書いた大部の連続小説の中に、数代にわたるルゴン・マカール家の遺伝がべられている。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
一人ひとり左鬢さびんに、かすかなきづしろ鉢卷はちまきわたくし雀躍こをどりしながら、ともながむる黎明れいめい印度洋インドやう波上はじやうわたすゞしいかぜは、一陣いちじんまた一陣いちじんふききたつて、いましも、海蛇丸かいだまる粉韲ふんさいしたる電光艇でんくわうてい
資性穎慧えいけい温和、孝心深くましまして、父君の病みたまえる間、三歳にわたりて昼夜膝下しっかを離れたまわず、かくれさせたもうに及びては、思慕の情、悲哀の涙、絶ゆる間もなくて
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
書簡箋しょかんせん三枚にわたってビッシリ一杯と、当地ではいつ雷が鳴って、どんな具合に自分がビックリ仰天して、どんな具合に平気であったかということを仔細に書いてよこしたが
雷嫌いの話 (新字新仮名) / 橘外男(著)
現在げんざいおいては、九しう、四こくから、陸前りくぜん陸奧りくおく出羽でばはうまでけて三十五ヶこくわた發見はつけんされてるので、加之しかも横穴よこあなは一ヶしよ群在ぐんざいするれいおほいのだから、あなすうさんしたら
その前からもほとんど毎年と言ってよいほど、その五、六年というもの、春毎に山へ這入はいったものである。今年こそ、咲きそろった花を、せめてなかかみの千本にわたって見たいものだ。
花幾年 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
長谷川町から黄金通りへ出、茶房リラの前へ通りかかった時、玄竜は一寸覗くだけにしようと首を突き入れ一わたり紫煙の中を見渡したが、そのとたんにわれ知らずにこりと笑った。
天馬 (新字新仮名) / 金史良(著)
独逸ドイツ墺太利オーストリヤを貫く、イン河の上流は、のインスブルックから、間もなくスウィスの国境となって幾百の氷河の水を合わせて、六十マイルわたるエンガディンの峡谷を形づくっておる。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
黄袗くわうしんは古びてあかく、四合目辺にたなびく一朶いちだの雲は、垂氷たるひの如く倒懸たうけんして満山をやす、別に風よりはやき雲あり、大虚をわたりて、不二より高きこと百尺ばかりなるところより、これかざ
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
餘談よだんわたるがそうじて歐米おうべい慣習くわんれい日本にほん慣習くわんしふとがまつた正反對せいはんたいである實例じつれいはなはおほい。
誤まれる姓名の逆列 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
私は、私の実験の輪郭を報告しただけで、殆んどその内容にはわたりませんでした。何故かというと私の実験はいま進行中なので、はたしてそれが成功するかどうかもわからないからです。
人造人間 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
『さうね、不思議ふしぎなこと』と海龜うみがめこたへて、いはうへ目録もくろくかぞしました、『——不思議ふしぎこと古今こゝんわたれる大海學だいかいがくの、それから懶聲なまけごゑすこと——懶聲なまけごゑ先生せんせい年老としとつた海鰻はもで、 ...
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)