あめ)” の例文
「これがわたくしの思いつきでして」、それから子供の集まってるところへ行ってその真似まねをしてみせると、案外によくあめが売れた。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
そこには笛をふいているあめ屋もある。その飴屋の小さい屋台店の軒には、俳優の紋どころを墨やあかあいで書いたいおり看板がかけてある。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「よせよ。そんな気が変になるみたいな話は。それよりも、どこかで、一本十円の闇屋やみやあめをおごってくれよ。その方がありがたい」
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
月日つきひがたつにつれて、ガラスのびんはしぜんによごれ、また、ちりがかかったりしました。あめチョコは、憂鬱ゆううつおくったのであります。
飴チョコの天使 (新字新仮名) / 小川未明(著)
海尊げ去りて富士山に入る、食物無し、石の上にあめの如き物多し、之を取りて食してより又飢うること無く、三百年の久しき木の葉を
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
なんと、飴屋あめやさんの上手じやうずふえくこと。飴屋あめやさんはぼうさききつけたあめとうさんにもつてれまして、それからひました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あめは一本五厘で、五十銭で仕入れると、百本くれる。普通は一本を二つに折って、それを一銭に売るのだから、売りつくすと二円になる。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「へ、へ」佐吉は卑しく狡猾こうかつに笑った、「その手はくわねえ、あめを砂糖で煮つめたような、そんな甘い手に乗るおれじゃあねえ」
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
まるであめが伸びるように顎から眉毛までを細長くして、反ッくり返りそうになっているのが、見ていると、何ともおかしくてならなかった。
T君は朝鮮あめ一切れを出して遍路にやつた。遍路はそれを押しいただき、それを食べるかと思ふと、胸に懸けてある袋の中に丁寧にしまつた。
遍路 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
人間の飽くことなき欲望がこの可能性の外被を外へ外へと押して行くと、この外被はあめのようにどこまでもどこまでも延長して行くのである。
科学と文学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
鉄釉てつぐすり一色で模様も何もありませんが、この釉薬くすりが火加減で「天目てんもく」ともなり「あめ」ともなり「かき」ともなり時としては「青磁せいじ」ともなります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
だけど、あめのなかから出てくる顔は、どうもよくないや。だけど飴のなかから大そうエライ人が生まれるのかも知れない。
たどんの与太さん (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
一日がとても長くて、しまいには歩いているのかどうかもわからなくなったり、泥があめのような、水がスープのような気がしたりするのでした。
グスコーブドリの伝記 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「そうだ。表面氷河は氷斧ピッケルをうけつけぬ。しかし、内部なかあめのように柔かなんだ。掘れるよ。とにかく、折竹のいうとおり氷罅クレヴァスを下りてみよう」
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
多分あめでつくったのですが、電気モーターにかけてフワフワとまるで真綿みたいにフワフワして華やかな色のついた菓子。
「パン、どうして。おれがよろこぶと思ってるのか。そんな……。なんだってかまうもんか。それよりあめを買え、飴を」
だぶだぶと湯の動く音。軒前のきさきには、駄菓子みせ、甘酒の店、あめの湯、水菓子の夜店が並んで、客も集れば、湯女ゆなも掛ける。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
煙管の針の先きで、あめのような阿片のたまが慄えながらじいじいと音を立てた。豚の足は所々に乱毛をつけたまま乾いたひづめを鍋の中から出していた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
鬼怒川きぬがは徃復わうふくする高瀬船たかせぶね船頭せんどうかぶ編笠あみがさいたゞいて、あらざらしの單衣ひとへすそひだり小褄こづまをとつておびはさんだだけで、あめはこれてかたからけてある。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
人力曳じんりきひきたちは、おきゃくっているあいだ、することがないので、つい、駄菓子箱だがしばこのふたをあけて、油菓子あぶらがしや、げんこつや、ぺこしゃんというあめ
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
それとも彼は気が違ってしまったのであろうか、文代さんの首があめででもあるようにスーッと伸びたかと感じられた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
... 売っていますね。あめの固まったような小さなものの中に菓物くだものの味が交っていてよく壜詰びんづめになってあります。あれなんぞも家で出来ましょうか」お登和嬢
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
同じ仲間なかま飴屋あめやが、大道で飴細工あめざいくこしらえてゐると、白服しろふくの巡査が、あめまへはなして、邪魔になつて仕方しかたがない。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
川に臨んだ背の低い柳は、葉のない枝にあめの如く滑かな日の光りをうけて、こずゑにゐる鶺鴒せきれいの尾を動かすのさへ、鮮かに、それと、影を街道に落してゐる。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
また曰く、生活の目的は生活それ自体だなどと言うのは、あめチョコであって人生観ではない(同十月、同人宛)。
參詣さんけい老若男女らうにやくなんによは、ぞろ/\と、るやうに松並木まつなみきみち往來わうらいして、ふくろはひつたあめや、かみこしらへたはたのやうなものが、子供こどもにも大人おとなにもあつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「うぬ! てめえなんかに暇をつぶしちゃいられねえや。もうあめを食わせずに斬ッ伏せるから覚悟しやがれッ!」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ゆるはたらちからたいしては容易よういかたちへ、ちからはたらくまゝになること、食用しよくようあめおもさせるようなものである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
床屋さんのあめぼうみたいな模様が眼の中にゴミみたいにたまつちやつて、みんな色盲になるつて心配してたわ
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
あめわずに、おせんぼうぱしったな豪勢ごうせいだ。こんな鉄錆てつさびのようなかおをしたおいらより、油壺あぶらつぼからたよなおせんぼうほうが、どれだけいいかれねえからの。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
試にその顔の恰好かっこうをいうと、文学者のギボンの顔をあめ細工でこしらえてその顔の内側から息を入れてふくらました、というような具合だ。忽ち火が三つになった。
ランプの影 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
新しい材料を得て、焔はあめのようにねばっこく燃え上った。何気なく手をポケットに入れた。何かがさがさした小さなものが手指に触れた。つかんで、取り出した。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
あめと煙草—— e.g. 朝鮮専売局の発売にかかるカイダ・マコウ・ピジョンなど・など・など。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
あめを買って食べましたが、私、そのとき右の奥歯の金冠二本をだめにしてしまって、いまでもそのままにして放って置いてあるのですが、時々、しくしくいたみます。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
今は何か焦立いらだたしい気持にされるばかりで、道端の商人から色のついたあめを買う女にも——水中に野菜の車をかせ行く農夫にも——銀の飾りの重そうな革帯をして
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
破目われめから漏れおちる垂滴すいてき水沫しぶきに、光線が美しい虹を棚引たなびかせて、たこ唸声うなりごえなどが空に聞え、乾燥した浜屋の前の往来には、よかよかあめの太鼓が子供を呼んでいた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「とにかく、変な女ですね。あの声を聞くと、ぼんのくぼへあめを垂らされるような、——鼻の頭を羽毛で撫でられるような、背筋がモゾモゾするような心持になりますよ」
「そいつはありがたいね、ははは、金さんに誂え向きのなら、あめの中のお多さんじゃねえか」
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
ウィングに水を入れてキングストンを開け入れようとあせっているのであったが、すでにキングストン・ヴァルヴは水中に没したとみえて圧力で防水扉はあめのごとくに曲り
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
宿屋や珈琲店カフエーへ入ると、女給仕が急にあめちよこのやうな甘い笑窪ゑくぼを見せてちやほやしてくれた。
九女八は、タバコやにの流れた筋が、あめ色に透通すきとおるようになった、琥珀こはくのパイプをすかして眺めて
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
小さい口からめかけのあめ玉を取出して、よだれの糸をひいたまま自分の口に押し込んだりした。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
欧洲おうしゅう乱後の世をいましむる思想界の警鐘もわが耳にはどうやら街上あめを売るおきなふえに同じく食うては寝てのみ暮らすこの二、三年冬の寒からず夏の暑からぬ日が何よりも嬉しい。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これなるは小香魚こあゆのせごし、香魚のあめだき、いさざの豆煮と見たはひがめか、かく取揃えし山海の珍味、百味の飲食おんじき、これをたらふく鼻の下、くうでんの建立こんりゅうに納め奉れば
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この子たちはどうして学校へゆくのだろうと気になる。暗い中に曲物まげものが沢山ある。あわあめを造って土産に売るのだそうな。握飯を一つ片づけ、渋茶をすすって暫くここに休む。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
肝心のあめの方は出て来ずに、出なくてもいい恋の辻占が、まるで街角の郵便函へ入れた手紙のように、生々なまなまと新しいままで下の口から出てまいったんですが、それがまた生憎あいにく
この前途さきもう半里はんみちばかりというところまで来かかると、ここにもあめン棒など並べて一軒茶屋。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
ナイフで色々ないたずら書きが彫りつけてあって、手垢てあか真黒まっくろになっているあのふたげると、その中に本や雑記帳や石板せきばんと一緒になって、あめのような木の色の絵具箱があるんだ。
一房の葡萄 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
長唄の紅勘とは別の男ですが、五代目菊五郎がまだ羽左衛門うざえもんで売り出しの時、鎌倉節仙太郎かまくらぶしせんたろうという者が、江戸市中を鉦三味線で、好い声であめを売りながら流して歩いて評判でした。