こころみ)” の例文
子規が掲げた二句を見ても、すぐに自分を動かすのは、その中にただよ無気味ぶきみさである。こころみに言水句集を開けば、この類の句はほかにも多い。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
拙作に対する質問に答へんは弁護がましく聞えて心苦しき限りながら、議論は議論にて巧拙の評にあらねば愚意こころみ可申述もうしのぶべく候。
あきまろに答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
こころみに東京の市街と水との審美的関係を考うるに、水は江戸時代より継続して今日こんにちにおいても東京の美観を保つ最も貴重なる要素となっている。
ああ余も余の事業を見ること小児の玩弄物を見るがごとくなりし、余はここにおいて始めて基督の野のこころみの註解を得たり、馬太マタイ伝四章にいわく
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
風はこころみに吹き、星は新に輝ける一大荒原の、何等の旨意も、秩序も、趣味も無くて、唯濫ただみだりひろよこたはれるに過ぎざるかな
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
もとからあつたのでもなからうが、こころみにこれに序をつけて見ると、「あるをとこ久しくおとづれせざりける女の方より」
古歌新釈 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
左内いよいよ興に乗じて、れいの議論きはめて一三〇妙なり。ひさしき疑念うたがひ今夜こよひせうじつくしぬ。こころみにふたたび問はん。
建文の草庵そうあんの夢、永楽の金殿きんでんの夢、其のいずれか安くして、いずれか安からざりしや、こころみに之を問わんと欲する也。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
こころみにその一部分をとつて、根引にしようとすると、その房々した無数の細い根は黒い砂まじりの土を、丁度人間が手でつかみ上げるほどづつ持上げて来る。
顔容かおかたちに似ぬその志の堅固さよ。ただおとぎめいた事のみ語って、自からそのおろかさを恥じて、客僧、御身にも話すまいが、や、この方実は、もそっと手酷てひどこころみをやった。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ソレが嘘ならば、こころみに私の印形のすわって居るものとは云わない、反古ほごでも何でもよろしい、ソレを捜してもって来て御覧。私が百万円で買おう。ドウしたってありはしない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
奇なるかな世潮の変遷、こころみに最近数年間の文学界を回顧せば年ごとに流行の一新するあるを見る。
史論の流行 (新字旧仮名) / 津田左右吉(著)
... 睡魔すいまです! 左様さよう!』と、イワン、デミトリチは昂然こうぜんとして『貴方あなた苦痛くつう軽蔑けいべつなさるが、こころみ貴方あなたゆびぽんでもはさんで御覧ごらんなさい、そうしたらこえかぎさけぶでしょう。』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
かたわらにふきの多く生えたるあり。蕗葉ふきのはは直径六七尺、高さ或は丈余なるあり。馬上にて其蕗の葉に手の届かざるあり。こころみたずさうる処の蝙蝠傘を以て比するに、其おおいさは倍なり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
そしてもしこう云うこころみをして、誰かが中心思潮となっている論説を覆して、更にその聴衆に、あらたな出発点と結論とを与えたら、それはたしかに、キザたっぷりなことではあるが
男子いやしくも志を立てて生活の戦場にで人生に何等かの貢献をこころみんと決したる上は、たとえはらわた九たび廻り、血潮の汗に五体はひたるとも野に於いて、市に於いて、すきに、くわに、剣に
初めはほんの手弄てなぐさみだったのが、だんだん色々のものをっているうちうまくなって来て、自分でも面白味が出て来て、しまいには仏像なんかまでこころみるようになったのだそうである。
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
これをこころみに、在原業平ありわらのなりひらの、「飽かなくにまだきも月の隠るるか山の逃げて入れずもあらなむ」(古今・雑上)などと比較するに及んで、更にその特色が瞭然りょうぜんとして来るのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
日本海軍の起源きげんは、安政初年のころより長崎にて阿蘭人オランダじんつたうるところにして、伝習でんしゅうおよそ六七年、学生の伎倆ぎりょうほぼじゅくしたるにき、幕議ばくぎ遠洋えんようの渡航をこころみんとて軍艦ぐんかん咸臨丸かんりんまる艤装ぎそう
裏には真桑瓜まくわうりつるの上に沢山ころがり、段落だんおちの畑には土が見えぬ程玉蜀黍が茂り、大豆だいずうねから畝にさやをつらねて、こころみに其一個をいて見ると、豆粒つぶ肥大ひだい実に眼を驚かすものがある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
こころみに善の事実と善の要求との衝突する場合を考えて見ると二つあるのである。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
こころみに諸君と共に、郊外に立って雪の山を見よう、雪が傾斜のある土の上に落ちると、水のように低きに就く性質を有するから、山の皺や襞折ひだの方向に従って、それを溝渠として白い縞を織る。
高山の雪 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
この間もネ貴君、鍋が生意気に可笑おかしな事を言ッて私にからかうのですよ。それからネ私があんまり五月蠅なッたから、到底解るまいとはおもいましたけれどもこころみに男女交際論を説て見たのですヨ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
毛氈苔もうせんごけ一面に生いて、石を踏み尽したる足の快さ言わん方なし。岸に近く、浮草にすがりて、一羽の蜻蜓とんぼの尾を水面に上下するを見る。卵を生むにや。こころみに杖にて追いて見たるに、逃げむともせず。
層雲峡より大雪山へ (新字新仮名) / 大町桂月(著)
おきなびし「」の知りてむ世のこころみぞかやうなる。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
無難に然うして滑らかに、私のこころみは成功した。
奥さんの家出 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
拙作に対する質問に答えんは弁護がましくきこえて心苦しき限りながら議論は議論にて巧拙の評にあらねば愚意こころみ可申述もうしのぶべく候。
あきまろに答ふ (新字新仮名) / 正岡子規(著)
これにペンキあるいは煉瓦れんがの色彩を対峙せしめるのは余りに無謀といわねばならぬ。こころみに寺院の屋根とひさしと廻廊を見よ。
こころみに今日世界のあらゆる知識に達しおる人が宗教的大煩悶をあじわい、ついに翻然一切を棄てて父なる神に帰服せしという心的経過を描きし小説または脚本あらば
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
しかしこれは、工人の器量を試みようとして、棚の壇に飾った仏体に対してこころみに聞いたのではない。もうこの時は、樹島は既に摩耶夫人の像を依頼したあとだったのである。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかるに今日、こころみに士族の系図をひらきてこれを見れば、古来上下の両等が父祖を共にしたる者なし、祖先の口碑こうひを共にしたる者なし。あたかも一藩中に人種のことなる者というもなり。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
こころみにその初期の部分を書いてみようとしたのが、大正のはじめのころであったかと思う。
学究生活五十年 (新字新仮名) / 津田左右吉(著)
人もしこころみに仲秋船をうかめてこのあたりに月を賞しなば、必ずや河も平生ひごろの河にあらず月も平生の月にあらざるを覚えて、今までかゝる好風景の地を知らで過ぐしゝをうらむるならん。
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
興義枕をあげて、二九路次ろじわづらひをかたじけなうすれば、助も蘇生よみがへりことぶきを述ぶ。興義先づ問ひていふ。君こころみに我がいふ事を聞かせ給へ。かの漁父ぎよふ文四に魚をあつらへ給ふ事ありや。
あらぬかをこころみしに、かつてその人の余所よそに泣けるしるしもあらざりければ、さすがに恨は忘られしかと、それには心安きにつけて、諸共もろともに今は我をも思はでや、さては何処いづこ如何いかにしてなど
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
こころみに思へ、品蕭ひんせうの如き、後庭花こうていくわの如き、倒澆燭たうげうしよくの如き、金瓶梅きんぺいばい肉蒲団にくぶとん中の語彙ごゐを借りて一篇の小説を作らん時、善くその淫褻いんせつ俗をやぶるを看破すべき検閲官のすう何人なるかを。(一月三十一日)
坂を下りて提灯が見えなくなると熊手持って帰る人がしきりに目につくから、どんな奴が熊手なんか買うかこころみに人相を鑑定してやろうと思うて居ると
熊手と提灯 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
こころみに初めてあわせを着たその日の朝といわず、昼といわず、また夕暮といわず、外出そとでの折の道すがら、九段くだんの坂上、神田かんだ明神みょうじん湯島ゆしま天神てんじん、または芝の愛宕山あたごやまなぞ
こころみに問う、天下の男子、その妻君が別に一夫を愛し、一婦二夫、家におることあらば、主人よくこれを甘んじてその婦人につかうるか。また『左伝さでん』にそのしつかううということあり。
中津留別の書 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
こころみ手水鉢ちょうずばちの水を柄杓ひしゃくで切ってしずくにして、露にして、目白鳥のくちばしを開けて含まして、えりをあけて、はだにつけて暖めて、しばらくすると、ひくひくと動き出した。ああたすかりました。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さてイエス聖霊に導かれ悪魔にこころみられんために野に往けり、四十日四十夜くらうことをせずのちうえたり、試むるものかれに来りていいけるはなんじもし神の子ならば命じてこの石をパンと
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
吾が言をば信ぜざる者は、こころみ建文けんぶん永楽えいらくの事を。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
こころみ芭蕉ばしょう時代蕪村時代の俳句を読め、必ずや思ひなかばに過ぎん。また文学の階級といふ語は不穏当なり。上品下品の意ならば品格の高下などいふべし。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
それよりはまだこの別天地を見たことのない好事家こうずかのために、わたくしは何よりもまずオペラ館の踊子部屋というのは一体どんな処だか、こころみにこれを記述してみよう。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
真個天真なるさま見えてことばを飾るとは思われざるにぞ、これ実に白痴者なるかを疑いつつ、一応こころみに愛国の何たるかを教えみんとや、少しく色をやわらげる、重きものいいのしぶりがちにも
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そんならやって見ようかといってそろ/\こころみると、塾中の者が烟草を呉れたり、烟管キセルを貸したり、中にはれはく軽い烟草だと云て態々わざわざかって来て呉れる者もあると云うような騒ぎは
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
これを木彫の猫に塗つてこころみに台所の隅に置いて見たところがその夜はいつものやうにねずみが騒がなかつた。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
然らばこの問題を逆にしてこころみに東京の外観が遠からずして全く改革されたあかつきには、如何なる方面、如何なる隠れた処に、旧日本の旧態が残されるかを想像して見るのも
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こころみに問う、天下の人いかに、外に忠実なるしもべのごときは、内に暴戻ばうれいなる旦那なり。でては仁慈優愛なるもの、っては残忍酷薄こくはくにて、隣家となりの娘に深切なるもの、おのが細君には軽薄なり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こころみに実際の費用を概算するに
人生の楽事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)