かご)” の例文
日あたりのいいヴェランダに小鳥のかごるすとかして、台所の用事や、き掃除をさせるために女中の一人も置いたらどうだろう。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
(あさ)(買って来た魚のはいっているかごやら、角巻かくまき——津軽地方に於ける外出用の毛布——やらを上手かみての台所のほうに運びながら)
冬の花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
臙脂えんじ色の小沓こぐつをはいた片足は、無心に通路の中ほどへ投げだしてあつた。葡萄ぶどうかごは半ば空つぽになつて、洗面台の上にのせてある。
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
そこで、私は机の上のかごに入れてあったホテルの用箋ようせんを取出して、そなえつけのペンで、彼女が岩山から見たという海岸の景色を描いた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
暗い納戸の中に、かなり大きなかごの中に入つて、精巧せいかうな車を廻して居る五匹の白鼠を見付けると、平次の好奇心は火の如く燃えます。
黒塀くろべい、クレーンとかご、ビール工場の高窓、箱詰め器械、それかち貨物駅と、これだけのものは次から次へとつながっているのだ。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
食卓ターブルの上には銀の肉刺ハーカレーブルが美しく置かれ、花を盛った瓶をところどころに配置し、麺麭ブロートを入れたかご牛酪容ホートルいれなどが据えられてある。
その室のすみに、ポリモスからもらつたまゝになつてる蝙蝠が、かごにはいつてゐました。ふとつた男はその籠のなかをのぞきこみました。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
自分はただちかごの中に鳥を入れて、春の日影のかたむくまで眺めていた。そうしてこの鳥はどんな心持で自分を見ているだろうかと考えた。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蟹は、このになってもまだじぶんの運命をなんとかして打開だかいしようとでもいうように、せまいかごの中をがさごそいまわっていた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
宰領の連れて来た三疋の綿羊がかごの中で顔を寄せ、もぐもぐ鼻の先を動かしているのを見ると、動物の好きなおくめや宗太は大騒ぎだ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かご川入りをしておうぎ沢から爺(二六六九)の西南に当る棒小屋乗越を越し、棒小屋沢を下って黒部川に落ち合うのも一つの路である。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
かごうへに、たなたけやゝたかければ、打仰うちあふぐやうにした、まゆやさしさ。びんはひた/\と、羽織はおりえりきながら、かたうなじほそかつた。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そこへつるのあるかごにあかすぐりの実を入れて手に持った女中が通り掛かったので、それにこの家は誰が住まっているのだと問うた。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
そこは家具もない、なんの装飾もない、小さい部屋で、少しばかりの空き箱とかごのたぐいが片隅にころがっているばかりであった。
それは、牛車の上にひとつの小さいかごがのっていて、その中に、花たばと、まるまるふとった男の赤ん坊がはいっていたことです。
和太郎さんと牛 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
上のほうから蜜柑をいっぱい詰めた大きなかごを背負った娘たちがきゃっきゃっといいながら下りてくるのに驚かされたりしました。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
少年も芝居へくるたびに必ず買うことに決めているらしい辻占せんべいと八橋やつはしとのかごをぶら下げて、きわめて愉快そうに徘徊はいかいしている。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
がんの卵がほかからたくさん贈られてあったのを源氏は見て、蜜柑みかんたちばなの実を贈り物にするようにして卵をかごへ入れて玉鬘たまかずらへ贈った。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
フォーシュルヴァンがはいってきた時、ジャン・ヴァルジャンは壁にかかってる庭番のかごをコゼットに示しながら言っていた。
そのうち夕方になると、彼女は背負いかごを背にし、あらわな両腕を組み、少し前かがみになって、たえず談笑しながら立ち去っていった。
次の朝早く私どもは今度は大きなかごを持ってでかけたのです。実際それを一ぱいとることを考へると胸がどかどかするのでした。
(新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
何処からいて来たのか、かごをしょった、可愛い伊太利亜イタリア少年が傍にいて、お雪が抱えきれなくなると、背中の籠へ入れさせた。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「うまいこと云ふ」とつぶやきながら笑つて牧瀬は、すこし歳子ににじり寄り、とうで荒く編んだ食物かごの中の食物と食器をき廻した。
夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
例えば円座の如き、または小敷物の如き、またはかご類の如きにその材料と編み方とを適応したら、立派な作物が生れるであろう。
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それから一週間たったあの夕方、治療に使う枇杷の葉を看護婦と二人ふたりで切ってかごに入れていると、うしろからちょっとと一代の声がした。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
綾小路あやこうじさんがいらっしゃいました」と、雪はかごの中の小鳥が人を見るように、くりくりした目のひとみを秀麿の顔に向けて云った。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ひも売り、花売り、ちまき売りなど、はこかごを、髪の上に、乗せていた。女たちが、物を頭へのせて歩く習慣は、見なれていた。
そして先生様の後姿をお見上げ申すとネ、精神こゝろ鞏固しつかりして、かごを出た鳥とは、此のことであらうと飛び立つ様に思ひましたよ——
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
築山の草はことごとく金糸線綉墩きんしせんしゅうとんぞくばかりだから、この頃のうそさむにもしおれていない。窓の間には彫花ちょうかかごに、緑色の鸚鵡おうむが飼ってある。
奇遇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
貞時はさがしようもなく幾つかの女車をり過したなかに、薄葉うすようかごのようにふくらがし、元の方を扉にゆわえた女車があった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
勘次かんじわざ卯平うへいせつけるやうとやいたときとりかごせて、戸口とぐち庭葢にはぶたうへに三も四いたのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
『なるほど、なるほど。』豊吉はちょっとかごの中を見たばかりで、少年こどもの顔をじっと見ながら『なるほど、なるほど』といって小首を傾けた。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
折から撃ッて来た拍子木は二時おおびけである。本見世ほんみせ補見世すけみせかごの鳥がおのおのとやに帰るので、一時に上草履の音がとどろき始めた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
最後に涼葉りょうよう十七句を調べてみた。「牛」が二頭いる。「草鞋わらじ」と「むしろ」と「わら」、それから少しちがった意味としても「かご」と「かご」がある。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
黙然もくねんと聞く武男はれよとばかり下くちびるをかみつ。たちまち勃然ぼつねんと立ち上がって、病妻にもたらし帰りし貯林檎かこいりんごかごをみじんに踏み砕き
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ちらりと見たお見舞の果物のかごに赤葡萄の房のあったことをおぼえてた私が 今度は赤いほうを と注文しておいたのを
胆石 (新字新仮名) / 中勘助(著)
本邦ほんぱう石器時代遺跡せききじだいいせきより出づる石輪中せきりんちうにも或は同種だうしゆのもの有らんかなわかごむしろの存在は土器どき押紋おしもん及び形状けいじやう裝飾そうしよく等に由つて充分に證明しやうめいするを得べし。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
相当のかごの中に入れて、その周囲まわりをまだ新しい、特にこの子を捨てなければならないために手製したと思われる小さな蒲団ふとんをしいて、その上に
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そう心の中で思うと、信一郎の心は、かごを放れたはとか何かのように、フワ/\となってしまった。彼は思い切って云った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
狭いけれども宅には庭がありますから、右の矮鶏を、かごを買って来て、庭へ出して、半月ばかり飼って置きました。
こしらえて可愛かわいい子には与えたのだが、最初はそれもただ親たちの実用品のやや小形のもの、たとえば小さなかごとかおけとか、ほうきや農具のたぐいが多く
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かごに飼われた小鳥と同じく容易に逃げていなくなる気づかいはないと思っていたのは、もとよりこちらの不覚であった。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
荷物炭は、艀から、本船へ、長いあゆみ板をかけ、その上を登り降りして、振りわけにしたになかごで、積みこむのが通常だ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
数年前には台湾たいわんより多量のバナナが日本の内地に輸入せられ、大きなかごに入れたまま、それが神戸港こうべこうなどに陸上りくあげせられた時はまだ緑色であった。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
かご厩箒うまやぼうきやマットの製造、トウモロコシ炒り、リンネル紡績、製陶がこの土地に栄えて、荒野をバラのごとく花咲かせ
縦縞の長ばんてんにぎはぎだらけの股引ももひき。竹かごをしょい、手に長いはしを持って、煮しめたような手拭を吉原よしわらかぶり。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
より江は何かしらとおもって走ってゆきますと、昨夜ゆうべのおじさんが、バナナのかごをさげて板の間へ腰をかけていました。お母さんはにこにこわらって
(新字新仮名) / 林芙美子(著)
私のコンサートが終ったら、三人の囚人がかごを捧げて私のところにやって来ました。非常に楽しい音楽を聴かせて下さって誠に有難うございました。
お蝶夫人 (新字新仮名) / 三浦環(著)
浪「いつものばゞあがまいりました、あの大きなかご脊負しょってお芋だの大根だの、や何かを売りに来る婆でございます」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)