ほゞ)” の例文
これだけの事を御聞きになつたのでも、良秀の気違ひじみた、薄気味の悪い夢中になり方が、ほゞ御わかりになつた事でございませう。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしわたくしはほゞ抽齋の病状をつくしてゐて、その虎列拉コレラたることを斷じたが、米庵を同病だらうと云つたのは、推測に過ぎなかつた。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
幸兵衛夫婦の素性を取調べる手懸りを御相談になったので、ほゞ探索の方も定まりましたと見え、駒二郎は御前を退しりぞいて帰宅いたし
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「でもうちこと始終しじゆうさむしい/\とおもつてゐらつしやるから、必竟ひつきやうあんなことおつしやるんでせう」とまへほゞやうとひかへした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
昭和せうわ年度ねんど豫算よさんおいても府縣ふけんではすでに七千萬圓まんゑん節減せつげんおこなつたのであるが、市町村しちやうそんぶんかり昭和せうわ年度ねんど豫算よさんほゞ同額どうがく整理節約せいりせつやくれば
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
彼が心血の塊たる外史は松平定信に因りて其有用の著なることを証せられたり。彼が宿昔の心事ほゞ成れりと謂つべき也。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
私は靴底のざら/\するタタキを気にしながら、二回ばかりトロットを踊つてみたが、その娘さんはほゞ二流どころのダンサアくらゐには附合つてくれた。
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
と、前とほゞ同じような叱言を、日曜だと親父だが、不断は母親が云う。折角顔を洗おうとした所へ、これで又候またぞろ意地が突っ張って、更に二三分は新聞を読む。
The Affair of Two Watches (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その亡くなつた父もほゞ同年位であつた。あれがやかたと己の館とは隣同士になつてゐて、二つの館が同じ運河の水に影をうつして、変つた壁の色を交ぜ合つてゐた。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
ほゞ彼の起きる時間を知つてゐる妻は、昼間のうちは毎日父の方へ行つて何かの計算係りをつとめてゐた。
F村での春 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
御存ごぞんじのとほり、佐賀町さがちやう一廓いつくわくは、ほとんのきならび問屋とんやといつてもよかつた。かまへもほゞおなじやうだとくから、むかしをしのぶよすがに、その時分じぶんいへのさまをすこしいはう。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うしろくろになあ、牛胡頽子うしぐみのとこでなあ」おしなれ/″\にいつた。勘次かんじほゞ了解れうかいした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
屋内の事に関する申立は前数人とほゞ同じけれども、只一箇条相違せり。本人の推測するところに依れば、彼の鋭き声は男の声にて、たしかにフランス人なりきと覚ゆと云へり。
ほゞこれと前後して故郷の妻は子供を残して里方に復籍してしまつた。それまでは同棲どうせいの女の頼りない将来の運命をあはれみ気兼ねしてゐた私は、今度はあべこべに女が憎くなつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
前にも述べた通り、ロマン・ロオランの戯曲を此の劇場が選んだ理由は、ほゞ想像がつくのである(女優のいらない脚本として選んだといふことは、主要な理由にならない。また、したくない)
文学か戯曲か (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
彼の話の調子は、何かしら變つて響いた——はつきりと外國なまりではないが、と云つて純粹に英國のでもないのであつた。年頃はロチスター氏とほゞ同じ位——三十と四十の間位かも知れない。
『お衣服めしをお着更きかへになつてから召上めしあがつたら如何いかゞ御座ございます。』とふさは主人の窮屈さうな様子を見て、恐る/\言つた。御気慊ごきげんを取るつもりでもあつた。何故なぜ主人が不気慊ふきげんであるかもほゞ知つて居るので。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ほゞ推測する事が出来るものと思ふ。
狩太農場の解放 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
其の得失を覧れば、古今ほゞ備はる。
囲碁雑考 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
つきかはつてからさむさが大分だいぶゆるんだ。官吏くわんり増俸ぞうほう問題もんだいにつれて必然ひつぜんおこるべく、多數たすううはさのぼつた局員きよくゐん課員くわゐん淘汰たうたも、月末げつまつまでほゞ片付かたづいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
長忠俊、二忠次、三忠員たゞかず、四忠久、以上四人の名はほゞ一定してゐるらしい。始て大久保と称したのは、忠茂若くは忠俊だと云ふ。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
朝鮮てうせんおよび臺灣等たいわんとうぶんくはへても一おく七千萬圓まんゑんであつて、大正たいしやうねんほゞ同額どうがく輸入超過ゆにふてうくわであつた以外いぐわいかくごと少額せうがくんだことは近年きんねんるゐのないことである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
……をんなざう第一作だいいつさくが、まだ手足てあしまでは出来できなかつたが、ほゞかほかたちそなはつて、むねから鳩尾みづおちへかけてふつくりとつた、木材もくざいちゝならんで、目鼻口元めはなくちもときざまれた、フトしたとき……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
已むことなくんば、一説を挙げよう。それはドイツの学者リンド氏の説で、イギリスの学者ビイフ氏の説もほゞそれと一致してゐる。それはかうである。スピイスは槍である。ブルクは城である。
十三時 (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
これで、言ひたいことはほゞ云ひ尽したつもりである。これからも、築地小劇場に対して、僕は言ひたいことを悉く言ふつもりである。言ひたいことが無くなることは、果して僕にとつて幸福だらうか。
築地小劇場の旗挙 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
此に依りてほゞ二君立脚の地を知り略二君の旗色を解したればなり。
信仰個条なかるべからず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
劇に於いてもほゞおなじ。作者の空想より産れ出でたるものは、これを舞臺に上して活動すべからず。戲曲もまた宜く試驗の結果なるべし。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
今三四郎のの前にあらはれたハムレツトは、是とほゞ同様の服装をしてゐる。服装ばかりではない。顔迄似てゐる。両方共八の字を寄せてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
方々かた/″\様子やうすみなほゞわかつた、いづれも、それ/″\お役者やくしやである。が、白足袋しろたびだつたり、浴衣ゆたかでしよたれたり、かひくちよこつちよだつたり、口上こうじやう述損のべそこなつたり……一たいそれはなにものだい。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ほゞ同数の二番手は後にここへ参着して、京橋口にうつり、次いで跡部あとべの要求によつて守口もりぐち吹田すゐたへ往つた。後に郡山こほりやまの一二番手も大手に加はつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
小六ころくはじめのうちなんにもくちさなかつたが、段々だん/\兄夫婦あにふうふはなしいてゐるうちに、ほゞ關係くわんけい明暸めいれうになつたので
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
わたくしはその中橋よりお玉が池に移居したのを、任官とほゞ同じ頃の事と以為おもふ。それは小島成斎の九月二十二日の尺牘せきどくに拠つて言ふのである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
けれども戦争の経過につれて、彼等の公表する思想なり言説なりに現れて来る変化を迹付あとづければ、自分の考への大して正鵠せいこうを失つてゐない事だけほゞたしかなやうに思はれる。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかし山陽の諸友は逃亡の善後策を講じて、ほゞ遺算なきことを得た。五月には叔父春風が京都の新居を見に往つた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
広田先生は此うちにゐる。野々宮君も此内このうちにゐる。三四郎は此内このうちの空気をほゞ解し得た所にゐる。ればられる。然し折角けた趣味を思ひ切つて捨てるのも残念だ。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
刀自はそれが盂蘭盆うらぼんの頃であつたと思ふと云ふ。嘉永元年八月二十九日に歿したと云ふ記載と、ほゞ符合してゐる。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
今度こんどの新聞にもほゞ同様の事が載つてゐる。そこ丈は別段にあたらしい印象をおこしやうもないが、其後そのあとて、三四郎は驚ろかされた。広田先生が大変な不徳義漢の様に書いてある。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
次にほゞ格之助と同じ支度の平八郎が、黒羅紗くろらしやの羽織、野袴のばかまで行く。茨田いばらたと杉山とがやりを持つて左右に随ふ。若党わかたう曾我そが中間ちゆうげん木八きはち吉助きちすけとが背後うしろに附き添ふ。次に相図あひづの太鼓が行く。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
令嬢の資格がほゞさだまつた時、ちゝは代助に向つて
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
壽阿彌の手紙の宛名あてな桑原苾堂が何人かと云ふことを、二宮孤松さんに由つてほゞ知ることが出來、置鹽棠園さんに由つてくはしく知ることが出來たので、わたくしは正誤文を新聞に出した。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)