こし)” の例文
最初から客観的にある目的をこしらえて、それを人間にんげんに附着するのは、其人間にんげんの自由な活動を、既に生れる時に奪つたと同じ事になる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
茶屋小料理めかしたり、土産物を売るていこしらえているが、食事をしに入ったり土産物を買いに寄ったりするとひどいめにあう。
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
デ一体普通教育の目的は、多く普通の人間をこしらえる手段となっているのであろうから、英雄豪傑を養成する目的ではあるまい。
今世風の教育 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
商売物の万年筆でもこしらえて、一人で売りに出たらと勧める者もあったが、その万年筆がやっぱり一人ではできぬのだそうだ。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
... 買って家でこしらえると好きなものが出来るぜ」大原「だけども家の先生たちに何が出来るものか」と聴く人のありとも知らず
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「坊ちやん、もうぢつとお家で遊んでいらつしやいましよ。さつき叔父さんがこしらへて下さいました旗をどうなさいまして?」
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
西京さいきやう大坂おほさか芸妓げいこまゐつてりましたが、みな丸髷まるまげ黒縮緬くろちりめん羽織はおり一寸ちよつと黒紗くろしやれをひつけてりまして、様子やうす奥様然おくさまぜんとしたこしらへで
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
十月十九日べったら市の日には店へ青竹にて手すりをこしらえ、客をはかって紅白の切山椒きりさんしょを売りはじめます。たいした景気、極々よき風味なり。
そしてお昼になると、何処どこかの家を歩いて、小用こようを足したり、病人の買物などを手伝ったりして、「残飯」を買うお金をこしらえて来るのである。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
そこで急いで勢至菩薩をこしらえ地蔵を脇へ移して、その後又序を以て法然に供養して貰い、これも不断念仏の堂となり、引摂寺いんじょうじというて今に残り
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
疲れ果てるまでびまはりましたあとで、フト思ひつき、母にもらふた甲斐絹カヒききれで三ツの袋をこしらへに取り掛りました。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
奇蹟をこしらえている所があるのです。そこでは、あなたの御入用おいりようのものを、そうですね、多分、一万円位で御用立てすることが出来るかも知れませんよ
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ところがその西瓜が仙蔵も次郎作もまだ見たこともない程のものでした。それは酒をこしらへるときの、大樽おほだるほどもありました。二人は大へん喫驚びつくりしました。
漁師の冒険 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
そこへ戦争がおっぱじまった。×××の方の連隊へも夫々動員令下った。秋山さんは自分じゃもう如何どうしてもいくさに行くつもりで、服なども六七ちゃくこしらえる。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いまだに旅にある境遇にこしらえ、主君へも秘密、家中にも知らせず、親戚も知って知らぬ態とし、養生を加え外出も憚り、今日におよんでいるのであった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「たいそうな惚れ込み方だな。そんなにいいなら、ぜひおふくろにせてやりたいもんだ。そのうち弁当でもこしらえて、おふくろと一しょにに行こうよ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遊離ゆうり窒素をも利用することが出来るようにこしらえて置いて下さったのであるけれども、人間はただそれに気がつかぬだけだ、と私は解釈するに至ったのです。
人工心臓 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
婦人おんなの癖に園田勢子と云う名刺なふだこしらえるッてッたから、お勢ッ子で沢山だッてッたら、非常におこッたッけ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
イヤたくんだりこしらえたり。インチキ、ペテン、ヨタもまた、甚しい。朝鮮官吏の腐敗堕落が、ここまで甚しかろうとは……ナニ。そんな事情もアラカタ察していた。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
取立とりたて金子十兩こしらへて與へければ大いに悦び茂兵衞も倶々とも/″\れいを云て悦びけり然るに三郎兵衞は四郎右衞門を盜賊におところさんとせしに皆々に止められしがなほ所々しよ/\
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
平次は調子を變へて、腹が立つてたまらないと言つたガラツ八の不平のハケ口をこしらえてやりました。
こゝの主人あるじ重三郎じゅうざぶろう喜右衛門きえもんの丹念は、必ずや開板かいはん目録をこしらえてあることを、考えたからであった。
曲亭馬琴 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
大庭 編物が上手だつていふんですが、この正月でしたか、僕のチヨツキをこしらへてくれつて頼むと、四つきも五つきもはふつといて、催促をしたら……今こさへてる最中だ。
五月晴れ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
そうかといって丸の内に建て増す足場無しに積み上げて行くアメリカ式のビルデングも排斥はしなかった。あれだってやっぱり日本人がこしらえたところはよく見えますよ。
豆腐買い (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
『まアそないにおつしやらんと、こんなとこへでも、これを御縁ごえんにまたお越しなはつとくれやす。』と、女房にようばうは口元にゑくぼこしらへて、青い切符と釣錢の銅貨とを持つて來た。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
葦「あの今日は亡父の三回忌に当りますので。わざと志の牡丹餅ぼたもちこしらえましたが。姉の手でござりますから。うまくはござりますまいが。どうか召し上ってくださいまし」
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
仰向あおむけになって、バットの銀紙で台付コップをこしらえていた石川が、彼を見ると頭をあげた。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
童子の母さまは、一生けん命はたって、塾料じゅくりょう小遣こづかいやらをこしらえておおくりなさいました。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
どういう事情のもとに生産されたか、いかにして作られたか、何の力がそこに働いているか、何のためにこしらえられたか、どういう性質を持っているか、どこで製作されたか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
お前らも道後案内という本でもこしらえて、ちと他国の客をひく工面くめんをしてはどうかな。道後の旅店なんかは三津の浜のはしけの着く処へ金字の大広告をする位でなくちゃいかんヨ。
初夢 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
卯平うへいしばら隱居いんきよ落付おちついてからは一せんづゝでもふところこしらへねばならぬといふ決心けつしんからうながされて、毎日まいにち煙管きせるよこくはへては悠長いうちやうではあるが、しか間斷かんだんなくなはをちより/\とつたり
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
また、その頃に西郷鍋というものを売る商人あきんどが来た。怪しげな洋服に金紙きんがみを着けて金モールと見せ、附髭つけひげをして西郷の如くこしらえ、竹の皮で作った船のような形の鍋を売る、一個一銭。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
マニーロフは緑いろのシャロンおりのフロックコートを著て突っ立ったまま、眼の上にひさしこしらえるような恰好に片手を額にかざして、乗りこんで来る馬車の正体を見届けようとしていた。
木挽町こびきちょうの家主で兵三郎という男がこしらえ出したもので、そんな小さいものだけに、骨も竹も折れやすいところから、紙で巻くようにしていわゆる巻骨まきぼねということも、その男が工夫した事だという。
梵雲庵漫録 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
「ぢやあなたこしらへて下さい。お礼を云ふわ。」
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
「歸京費をこしらへて來たのです」と苦笑する。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
「秀さんいい物をこしらえて上げましょう」
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
此冬このふゆになつて、ひるのうち炬燵こたつこしらえたのは、其日そのひはじめてゞあつた。よるうからもちひてゐたが、何時いつも六でふだけであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「——どんな物でもたいてい、黙って食べる、だがこのごろのおまえのこしらえる物はなんだ、こんな物を食わせるほどおれを軽侮しているのか」
めおと蝶 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
... こしらえてくれ、豚のお刺身が食べたいなんぞは安くありませんね」大原いよいよ驚き「それは全体どうしたのです」書生
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
エツ、玉子酒たまござけんだの……しやうがねえな、これはいけねえんだよ、おまへこしらへた痳痺薬しびれぐすりはいつてゐるんだよ。伝「ウム、おくまてめえはおれを殺す了簡れうけんか。 ...
今すぐに、あったかいのをこしらえてやるから、そのお客さんの火鉢へ、少しあたらして貰っていねえ。オイオイ三輪みわちゃん、紙をやるから、乙坊おとぼうはなをカンでやんな。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
という、便りをきかせてくれたものがあったのです、ええこしらえものですもの、でも、驚きました。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
名前は金谷健之助と申し、百五十石をんだと申します。二十年前に浪人して、手元が豊かだつたので、金貸しを始め、少しの間に、人の驚くほどの身上しんしやうこしへました
さうだつたナ、さういふ大切なことを忘れては済まんかつた、アハヽヽ併しあれらが来るまうけにするのならば、家に居てこしらへてしまふがよからう町はまたこん度としてナ。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
鬼門きもんさわるようにおそれていた座敷ざしきだったが、留守るすだれかが這入はいったといては、流石さすがにあわてずにいられなかったらしく、こしらえかけの蜆汁しじみじるを、七りんけッぱなしにしたまま
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
その手に属したお茶ッぴい連も一人去り二人さりして残少のこりずくなになるにつけ、お勢も何となく我宿恋しく成ッたなれど、まさかそうとも言いねたか、漢学は荒方あらかた出来たとこしらえて
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
こしらへるには毎日々々時をたがへず其所をまはれば今何やが來たからもう何時成んと家々にて其商人をあてにするやうになりすれば商ひもかならずふえるものゆゑ御前おまへも町内は申に及ばず裏々うら/\
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しかし吾々はもっと質素な意味で、民衆の民と工藝の藝とを取って、この字句をこしらえたのです。それ故、字義的には民衆的工藝のいいなのです。いわば貴族的な工藝美術と相対するものです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
これは両国のたもと釣竿つりざお屋の金という人がこしらえて売る凧で、龍という字が二重になっているのだが、これは喧嘩凧けんかだことして有名なもので、したがって尾などは絶対につけずに揚げるいわゆる坊主凧ぼうずだこであった。
凧の話 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)