おう)” の例文
旧字:
ケートは富士男、ガーネット、イルコックらの父母から、しきりに永久客分として招聘しょうへいせられたが、かの女はいずれにもおうじなかった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
いなおうか。介三郎が求めるものに対して、又四郎がどうしてもうんといわないのだった。そのあいだの論争はもう尽きての挙句あげくらしい。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『できても、できなくても一おう神様かみさま談判だんぱんしていただきます。これくらいねがいがゆるされないとあっては、わしにも料簡りょうけんがござります……。』
時間のゆるすかぎり、糟谷かすや近郷きんごうの人の依頼いらいおうじて家蓄かちく疾病しっぺいを見てやっていた。職務しょくむ忠実ちゅうじつな考えからばかりではないのだ。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
此地火一に陰火いんくわといふ。かの如法寺村によほふじむらの陰火も微風すこしのかぜいづるに発燭つけぎの火をかざせば風気ふうきおうじてもゆる、陽火やうくわざればもえず。
それを石橋いしばしわたしとでしきり掘出ほりだしにかゝつた、すると群雄ぐんいう四方しはうよりおこつて、ひゞきの声におうずるがごとしです、これ硯友社けんいうしや創立さうりつ導火線だうくわせんつたので
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
いやおうもありません。平次とガラッ八は長兵衛を引立てて源助町まで飛びました。今度こそは一挙に事件の謎が解けそうです。
またドアを叩くものがあった。部下の多田刑事であることは開けてみるまでもないことだった。おうと答えると、果して多田刑事が入ってきた。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「はい、そりゃァもう、あたしにっては勿体もったいないくらいの御贔屓ごひいき、いやおういったら、がつぶれるかもれませぬが。……」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「まあお嬢様、そんなにお改まりあそばして、何の御用でもわたくしに仰せつけ下さるのに、いやおうがございますものですか」
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
つまり若林の立場としては、いやでもおうでも、この事件の真犯人を有耶無耶うやむやに葬り去る事が、どうしても出来ない立場におるのだ。……しかるにだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
おう。」と、涼しく答えますと、御装束の姿もあたりを払って、悠然と御庭へ御下おおりになりましたのは、別人でもない堀川の若殿様でございます。(未完)
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いやでもおうでも菜の花の咲いている景色をそのままに写さねばなるまい。菜の花畑の間に細い小路こみちがあるのが面白ければ、その小路も写さなければなるまい。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
しかし、ジャックにしてもベルナールにしても、マルセルにしても、またロジェにしても、哲学者てつがくしゃではありません。四人は自分じぶんあしおうじた歩き方をします。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
此時だ、此時彼は例の通り素裸すっぱだかで薩摩下駄をはき、手拭てぬぐいを持って、と庭に出る。日ざかりの日は、得たりやおうと真裸の彼を目がけて真向から白熱箭はくねつせんを射かける。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「そないなったら、あんたかていやでもおうでも事件の中い捲き込まれてしまいますで」いいますのんで、「いや、御好意は分りました。御親切に対しては感謝します」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
金のしりぺたを打叩ぶったゝくって、これは妙だのう、そうだが多助さん段々金が貯って来ると使わなくっちゃならない事が出来てくるぜ、交際つきあいいやでもおうでも旨い物を喰い
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
むずかしい表情はしているものの、やはり社会大変革の手が当時の若者に分与した夢を抱いていたのだろう。いやでもおうでも抱かねばならなかった立身出世の夢である。
それ故、その総体的の方向を変化させる力などは、もちろん持たなかった彼女は、当然来るべき孤独のうちに、いやでもおうでも自らを見出さなければならなかったのである。
地は饒なり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
如何いかにも。」と片手かたてにぎつて、片手かたてあをほゝげたにならべて、よこひらいておうじたのである。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
SHはこのアンコールにおうじて、ふたゝつてつた。そしてまえよりも安易あんい調子てうしうたつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
しかるにその内容は、自分をいやおうなしに原典批判的な問題に連れて行ったのである。自分の読んだ刊本は、『春曙抄』を本とし『盤斎抄』によって校訂したものであった。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
よつ其駁雑そのはくざつけづり、校訂かうてい清書せいしよし、豚児とんじ京水にゑがゝしめしもの三巻、書賈しよかこひおうじ老人につげゆるもつてしきしに、発販はつはん一挙いつきよして七百余部よぶひさげり。これより書肆しよし後編こうへんふ。
本陣問屋庄屋の仕事はいやでもおうでも半蔵の肩にかかって来た。その年の十月十九日の夜にはまた、馬籠の宿は十六軒ほど焼けて、半蔵の生まれた古い家も一晩のうちに灰になった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
おおいと呼べばおうと答えて渡守わたしもりが舟を出す位だが、東側はただもう山と畠で持切って、それから向うへは波の上一里半、麻生天王崎あそうてんのうさき大松おおまつも、女扇おんなおうぎの絵に子日ねのひの松位にしか見えない。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
帝、人多ければ得失を生ずる無きを得ず、とてさしまねいて去らしめたもう。御史ぎょし曾鳳韶そうほうしょう、願わくは死を以て陛下に報いまつらん、と云いて退きつ、のち果して燕王のめしおうぜずして自殺しぬ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かしこそうに言っている。山城守は、一おうもっともというようにうなずいたのち
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼の面目をきずつけることにもなるので、よくよくの場合でなければ拷問を行わないことにしているのであるが、相手が強情でどうしても自白しない場合には、いやでもおうでも拷問を行う外はない。
拷問の話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
実際自分には、あらゆる点で、いやでもおうでも変わった所があるのだ。
「しかしもう少し待ってたまえ。いやでもおうでも聴かされるよ」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あたしがおまえの生みの母だと云われ、いっしょに来ておくれと云われたときには、——ええ、あたしにはいやおうもありませんでした、うれしくって、夢でもみているような気持でいっしょについてゆきました」
と、おうじました。杉作も必死ひっしでした。
いぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
其声そのこゑおうじて
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
おう
此地火一に陰火いんくわといふ。かの如法寺村によほふじむらの陰火も微風すこしのかぜいづるに発燭つけぎの火をかざせば風気ふうきおうじてもゆる、陽火やうくわざればもえず。
おうとも、いなとも、陳宮が答えないまに、陳登はそう云い放したまま、すぐ駒にとび乗って、闇の中へ馳け去ってしまった。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうおもった彼は、たりやおうと、ノーマ号でがんばることに決めてしまったのである。ノーマ号が、これからなにをするか、それを監視してやろう。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いやと言ってもおうと言っても、こうなったからは仕方がございませぬ、わたしはどうしたらようございましょう」
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
……もしそうとすれば私は、いやでもおうでも彼女のために、私自身の過去の記念物を、この部屋の中から探し出してやらねばならぬ責任が在ることになる。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そしてわたくしには敦子あつこさまのなされたことが、一おうもっともなところもあるが、さてなにやら、しっくりちないところもあるようにかんがえられて仕方しかたがないのでした。
与母吉の顔を見ると、仙太はもっての外の様子でこうめ付けました。その後から相模屋の敷居をまたいだガラッ八は、いやおうもなく、それと顔を合せてしまったのです。
漸々よう/\此の位に仕上げたから、これから私が楽をしようと思ってるに、いやおうもあるものか、親の言葉を背く餓鬼ならば女郎じょうろにでも叩き売って仕舞います、いたふう
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
富士男は毎日毎夜、諸学校、諸倶楽部しょクラブ等の依頼におうじて、遭難そうなんてんまつの講演にいそがしかった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
とある大字のわきに小さく「病畜びょうちく入院にゅういんもとめにおうそうろう」と書いてある。板の新しいだけ、なおさらやすっぽく、尾羽おはらした、糟谷かすやの心のすさみがありありとまれる。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
(二十三年四月)廿にぢう二年の十二月でした、篁村翁くわうそんおう読売新聞社よみうりしんぶんしや退いたにいて、わたしに入社せぬかと高田氏たかだしからの交渉かうしやうでしたから、すぐおうじて、年内ねんない短篇たんぺんを書きました
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
いやでもおうでも境遇に我等は支配される。我々のくにでは一切の事が兎角徹底せぬわけである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
肝腎かんじん芝居しばい出来できないとまでいった挙句あげく、いやおうなしにってかれてしまったものだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
人間の気を奪ふため、ことさらに引込ひきこまれ/\、やがてたちまその最後の片翼かたつばさも、城の石垣につツと消えると、いままで呼吸いきを詰めた、群集ぐんじゅが、おう一斉いっときに、わツと鳴つて声を揚げた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しかるに、妙子に同行して東京へ出かければ、いやでもおうでも本家と妙子との間に立たされる羽目になり、ややもすれば姉に口説かれて、心ならずも本家に味方せざるを得なくなるであろう。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
東海道方面を回らないほどの旅人は、いやでもおうでもこの道を踏まねばならぬ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)