さぞ)” の例文
他人ひとのを見てもわかりそうなものだが、自分のは見えないから立派にしているつもりらしい。冬なぞはさぞ寒いだろうと同情に堪えぬ。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
新「本当にあんな事を云われるといやなものでね、私は男だから構いませんが、お前さんはさぞ腹が立ったろうが、おっかさんには黙って」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「あなたのお宅の御主人は、面白いをおきになりますね。さぞおうちのなかも、いつもおにぎやかで面白くいらっしゃいましょう。」
遅刻が祟って、僕はさぞや面白かろうと思う刑務所見学の仲間から外れ、ただ一人、面白くもない、市庁の見学に赴くこととなった。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
けれども又淋しいかほをして、めて小供でも生きてゐて呉れたらさぞかつたらうと、つく/″\考へた事もありましたと自白した。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
承まはり何にも知ぬ私しさへくやしくぞんずる程なればさぞ御無念ごむねんにも思し召んが他所から出來た事ではなし矢張やつぱりお身からもとめた事故人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
本当ほんとさぞ御不自由でございましょうねえ、みんな気の附かない者ばかりの寄合よりあいなんですから。どうぞ何なりと御遠慮なく仰有おっしゃって下さいまし。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
くちしてわたし我子わがこ可愛かあいいといふことまをしたら、さぞ皆樣みなさま大笑おほわらひをあそばしましやう、それは何方どなただからとて我子わがこにくいはありませぬもの
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
世に珍しい美女にお生れになりながら、りに選って祖父おゝじ曾祖父ひいおゝじのような夫をお持ちなされたのでは、さぞ御不満なことがおありであろう。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そういう関係のある草だから花が咲いたらさぞゆかしい花だろうと誰でも想像するけれども、花が咲くと意外で、まるで雑草の花のようです。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
定めし、文平は婦人をんな子供こどもと見て思ひあなどつて、自分独りが男ででも有るかのやうに、可厭いや容子ようすを売つて居ることであらう。さぞ
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
マダしていこともあるだろう、なくていこともあるだろう、傍観者からこれを見たらばさぞがたいことに思うでありましょうけれども
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
若し此所と決めれば赤シヤツも野だも両人の腕白の手に小付かれてさぞこの欅の幹の石のやうな瘤に頭を打付けて痛がつた事ならんと痛快に思ふ。
坊つちやん「遺蹟めぐり」 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
知らぬ同志ではさぞ困ったことだろうと思われますが、そこはよくしたもので、其道順は一定していて、昼食は何処、泊りは何処と、たび重なって
登山談義 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
「然し夫婦連れですからな。それに、御覧の通り気の廻らん奴ですから、さぞ、お気に合はぬ事もありませうと思つてな。」
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
しかるにてんのぼったひめは、大空中おほぞらぢゅうのこくまもなうらさうによって、とりどもがひるかとおもうて、さぞ啼立なきたつることであらう。
其間に親戚故旧の間に種々の変化もあつた様だから、久振ひさしぶりに其等の人々に遇つて色々と話合つたらさぞ楽しいゆかしいことであらうと思つたからである。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
「それは気の毒ですな。旅先でお逝去りになったのでは、お嬢さんはさぞお困りでしょう。」ギルは傍から口をいれた。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
はや谷川たにかはおとくと我身わがみ持余もてあまひる吸殻すひがら真逆まツさかさま投込なげこんで、みづひたしたらさぞいゝ心地こゝちであらうと思ふくらゐなんわたりかけてこはれたらそれなりけり。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二十五日、二十八日、晦日みそか、大晦日、都の年の瀬は日一日と断崖だんがいに近づいて行く。三里東の東京には、二百万の人の海、さぞさま/″\の波も立とう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
藻にも菱にも霊が有って、執念深くあだをするものとしか取れなかった。裸体でさえこれだから、衣類を着ている小虎は、さぞ泳ぎ難いだろうと思いった。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
家じゅう大騒ぎして私が旅立ったら、妻はさぞ歎き悲しむことだろう、というので、代匠記以来、防人さきもりなどに出立の時の歌ででもあろうかといっている。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
例の場所にて釣りたらば、水は浪立ずして、したる如く、船も竿も静にて、毛ほどのあたりも能く見え、殊に愛日を背負ひて釣る心地は、さぞ好かるべし。
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
先生の東洋史の講義は上級生へのもので私は聞くことが出来なかったが、さぞ独特なものであったろうと思われる。
光り合ういのち (新字新仮名) / 倉田百三(著)
うちの昌作叔父さんと来たらマアうでせう! 町の人達もさぞ小川のあまされ者だつて笑つてるだらうと思ひましてね。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
十月には伊勢殿の御勘気も解けて、上洛じょうらく御免のお沙汰さたがありましたとやら、またそのうちさぞかし色々と怪しげな物ごとが出来しゅったいいたすことでございませう。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
と言ふので、一生懸命に歩いたが、村が見えなくなつた時は流石さすがに胸が少し迫つて、親達はさぞ驚く事であらう。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
私が春のインバネスを羽織つてゐたことを修一から別れた妻が聞いたら、「おや/\、そないなお洒落しやれをしとつたの、イヨウ/\」と、さぞかし笑ふであらう。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
「静子、許して呉れ。わしは云いようのない大悪人だったのだ。お前はさぞかしわしを恨んでいるだろう。わしのようなものを夫に持って後悔しているだろうね」
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
十七八年全く会わないのだから不意打ちを食わせたらさぞ驚くだろうと頻りに肝胆を砕いていたが、今朝京都へ立つ前に愈〻その神算鬼謀を実行することになった。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
また諸所しよしよ修道院しうだうゐんともらつて、もはや此世このよない会友くわいいうためいのりげ、其名そのな巻物まきものきとめて、てらからてらへと其過去帳そのくわこちやう持回もちまはつたなら、みんなさぞよろこことであらうが、だい
冬の日の木曾路きそじさぞ御疲おつかれに御座りましょうが御覧下されこれは当所の名誉花漬はなづけ今年の夏のあつさをも越して今降る雪の真最中まっさいちゅう、色もあせずにりまする梅桃桜のあだくらべ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
永い間雪に包まれた人たちにとつてはさぞかしこの見榮えのせぬさびしい花に心を惹かるゝことであらう。東京の植物園にも甘藷先生の碑のあたりに一本だかあつたとおもふ。
花二三 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
不思議な御縁によってあなたの許に嫁ぎ、新婚の一夜を過して、その翌日、実家へ戻って、そのまま、御そばに伺わぬ私の行いを、あなたはさぞかしお怒りで御座いましょう。
秘密の相似 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「ふうむ。あの大根切りなぞはさぞ練習が入るだらうね。あれをするのに何年位かゝつたい。」
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
然しここの生活だけは乳金、代赭たいしや群青ぐんじやうの外にエメロオド、ロオズマツダア等を納れ得るのである。あの布を干す二三人の群を目の粗いカンヷスに取つたらさぞ愉快の事だらう。
京阪聞見録 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
「なるほど。それぢや、さぞお力落しでしたらう。」と云つてから、信一郎は少し躊躇してゐたが、「つかぬ事を、承はるやうですが、今貴君あなた方と話してゐた婦人の方ですね。」
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
き心の起らぬものとては一個ひとつも無し、藻西太郎の妻倉子は此上も無き衣服なり蕩楽とか聞きたりかゝる町に貧く暮してはさぞかし欲き者のみ多かる可くすれば夫等それらの慾にいざなわれ
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
天国とはどんない所か知らないが、宮川氏にしてもまる顔昵懇かほなじみのない、加之おまけに言葉に不自由な西洋の人達と一緒ではさぞ困り物だらうといふと、広岡女史は牝牛めうしのやうな声で
次第によつたならば、少々位の狐肉は送つてくれるかも知れないと、気がついたからすぐ浅間山麓へ手紙をだし、千円の皮を残す銀狐はさぞかし肉もおいしからうとたよりしたのであつた。
たぬき汁 (新字旧仮名) / 佐藤垢石(著)
さぞ大切に持っていることだろうから、気にするほどのこともあるまい……。
仙人掌の花 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
さぞ冷ッこかッたでしょう。死人の唇——、あのぶよぶよした男の——』
耳香水 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
「さうか、——お氣の毒な事だね。一人殘されちやさぞこまるだらう」
恁ういふことが出來たら、其はさぞ樂しいことだらう。併しこんなことがはたして僕等に出來るだらうか、少くとも僕等はそんなことを素質そしついうしてゐるだらうか。うして思ひもよらぬことだ。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「君のやうなおませは、学校の先生もさぞ手甲摺てこずつたことだらう。」
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
のんきな役者かたぎにもさぞ何とか感じたであらう。
役者の一生 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
たふといあすこの水盤すゐばんつてみたならさぞよからう。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
げなば定めて村人の驚き羨まんにと思ふ氣色けしきなりまたやがて我に近づき先ほど見上げましたが珍しい蝙蝠傘かうもりがさはぢきがなしでよく左樣に開閉ひろげすぼめが出來ますさぞ高い品でござりませうと是も亦片手に握りて見たき顏の色に我はヱヘンとして斯樣かやうな物は東京に住む者が流行はやりに逐はれて馬鹿の看板に致すなり地方の人は鰐皮の革提かばんの代りに布袋を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
彦「御隠居さま、長らく御不快でさぞお困りでしょう、今おまんまを炊いた処が、こげが出来たから塩握飯しおむすびにして来ましたからおあがんなさい」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
聞給きゝたまはゞさぞよろこび給ふべししばなみだくれけるが否々年も行ぬ其方們そなたたち先々まづ/\見合みあはせくれと云を兄弟は聞ず敵討かたきうちに出ると云にも非ず父樣の樣子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)