君子くんし)” の例文
先哲せんてついはく……君子くんしはあやふきにちかよらず、いや頬杖ほゝづゑむにかぎる。……かきはな、さみだれの、ふるのきにおとづれて……か。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
けだし聖人せいじん君子くんし高僧こうそう等より見れば、普通にわれわれの賞賛する武勇は猛獣もうじゅうの勇気に類したもので、孟子もうしのいうところの匹夫ひっぷの勇に過ぎぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
斯くてお隣りへ入った泥棒は一もつも得なかったが、浩二に梁上りょうじょう君子くんし概念がいねんを与え、家のブル公の声価を四隣に高からしめた。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
一方では例の“梁上りょうじょう君子くんしのみ時遷じせん。あの朝、首尾よく盗みとった一物をかついで、明けがた、早くも城外の草原を低いがんのごとく飛んでいた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕の恬然てんぜんと本名を署して文章をおほやけにせる最初なり。細君の名は雅子まさこ君子くんし好逑かうきうと称するはかかる細君のことなるべし。
学校友だち (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
当時観る人を驚かしたのは事実、然るに惜しいかなこの無二の大作を、その後まんまと梁上りょうじょう君子くんしにしてやられた話。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
ところもの其人そのひとほねみなすでちたり、ひと其言そのげんのみ君子くんしは、其時そのときればすなは(二)し、其時そのときざればすなは(三)蓬累ほうるゐしてる。
「はい。外のほうが安全で、ピカリッ抜いたッと来りゃア一目散もくさん古語こごにも申します。君子くんし危きに近よらず——」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
一時の豪気ごうきは以て懦夫だふたんおどろかすに足り、一場の詭言きげんは以て少年輩の心を籠絡ろうらくするに足るといえども、具眼卓識ぐがんたくしき君子くんしついあざむくべからずうべからざるなり。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その時東風の返事が面白いじゃないか、日本人は清廉の君子くんしばかりだから到底とうてい駄目だと云ったんだとさ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
晩成先生いささかたじろいだが、元来正直な君子くんし仁者じんしゃ敵なしであるから驚くこともない、平然として坐って、来意を手短に述べて、それから此処ここを教えてくれた遊歴者の噂をした。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「河合譲治君」と云えば、会社の中でも「君子くんし」という評判があったくらいですから。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ベースボールいまだかつて訳語あらず、今ここにかかげたる訳語はわれの創意にかかる。訳語妥当だとうならざるは自らこれを知るといえども匆卒そうそつの際改竄かいざんするによしなし。君子くんし幸にせいを賜え。
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
雑然考えて行くと、凡そその適材てきざいたる方向が少くとも科学面であることが現われてくる。君子くんしうつわならずの格言のように、今後突然変異とつぜんへんいでも起さない限り、一路進行するのが幸福だろう。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
ピンをしてあげるから。するとあなたは、このぼっちゃんの手前ずかしいでしょうし、それに痛くもあるでしょう。でもね、あなたは笑って見せてちょうだい。いいこと、君子くんしさん
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
あの時萩原とお嬢との様子がおかしいから、万一まんいちの事があって、事のあらわれた日には大変、坊主首ぼうずッくびを斬られなければならん、これは危険けんのん君子くんしあやうきに近寄らずというからかぬ方がよいと
インチキとは、不正手段ふせいしゅだんである。だから君子くんしのなすべきものではない。
麻雀インチキ物語 (新字新仮名) / 海野十三(著)
首は千ばかりっておりますが、まだ新らしくといしにかけたようです。悪人を見ると鳴ってぬけます、どうも人を殺すのが近うございます。公子はどうか君子くんしと親しんで、小人しょうじんを遠ざけてください。
田七郎 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「どうもきみたちのうたは下等じゃ。君子くんしのきくべきものではない。」
かしわばやしの夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
世の中というものは、君達君子くんしが考えている程単純ではないのさ。
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこで君子くんしをおしになる。3040
君子くんしと称するならば
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
君子くんし庖廚はうちうことになんぞ、くわんしないでたが、段々だん/\ちやり、座敷ざしきおよんで、たな小棚こだなきまはし、抽斗ひきだしをがたつかせる。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なお賢人のうに、「げん近くしてむね遠きものは善言ぜんげんなり。守ること約にしてほどこすことひろきものは善道なり。君子くんしげんおびよりくだらずしてみちそんす」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
けれどもこの山水を贋物がんぶつだと称する諸君子くんしは、ことごとくこれを自分の負惜まけをしみだと盲断した。のみならず彼等の或者は「かく無名の天才は安上やすあがりでいよ」
鑑定 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「われと汝と、なんの怨恨えんこんかある。しかるに、汝はわれを害せんとする。逃ぐるは君子くんしおしえに従うのみ」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それではあなたも君子くんしです。照彦様と存じましたが、これは照常様のおいたずらですか?」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
われこれく、良賈りやうこ(四)ふかざうして・きよなるがごとく、君子くんし盛徳せいとくありて容貌ようばうなるがごとしと。(五)驕氣けうき多欲たよく(六)態色たいしよく(七)淫志いんしとをれ。みなえきし。
かねさ君。金を見ると、どんな君子くんしでもすぐ悪人になるのさ」
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
法文の曲解を難ずる意であって、僕は君子くんしではないが、人の罪をにくんで、その人を憎まないように心がける積りである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
買物かひものにゆきてはうが、(こんね)で、みせ返事へんじが(やあ/\。)かへときつたはうで、ありがたうぞんじます、は君子くんしなり。——ほめるのかい——いゝえ。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
だから、そんな一面だけをここで見れば、彼には“君子くんしふう”があるといっても、おかしくない。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(六四)君子くんしをはりてしようせられざるをにくむ。(六五)賈子かしいはく、『(六六)貪夫たんぷざいじゆんし、(六七)烈士れつしじゆんし、(六八)夸者くわしやけんし、衆庶しうしよ(六九)せいたのむ』
君子くんしも道をもってすればこれをあざむくをべしとあります。ハッハハハハ」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
従つてマツチの商標は勿論もちろん、油壺でも、看板でも、乃至ないし古今ここんの名家の書画でも必死に集めてゐる諸君子くんしには敬意に近いものを感じてゐる。時には多少の嫌悪けんをまじへた驚嘆きやうたんに近いものを感じてゐる。
蒐書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「おう誰かと思えば、梁上りょうじょう君子くんし(泥棒の意味)か。なるほど、時遷ならお手の物だろう」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれども、淡泊たんぱくで、無難ぶなんで、第一だいいち儉約けんやくで、君子くんしふものだ、わたしすきだ。がふまでもなく、それどころか、椎茸しひたけ湯皮ゆばもない。金魚麩きんぎよぶさへないものを、ちつとはましな、車麩くるまぶ猶更なほさらであつた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
君子くんしの心境をお持ちでございますなと感心していらっしゃいました」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
われく、君子くんしおのれらざるもの(五二)くつして、おのれものぶと。われ縲紲るゐせつうちるにあたり、(五三)かれわれらず。(五四)夫子ふうしすで(五五)感寤かんごし、われあがなへり、おのれるなり。
こはただに予のみにあらず、大方おほかた君子くんしまた然るが如し。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
こんな境遇にさすらいつつも、依然彼は彼らしい君子くんしふうを失っていない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
梁上りやうじやう君子くんし梁下の踊りかな
折々の記 (旧字旧仮名) / 吉川英治(著)