おの/\)” の例文
品坐の主客はおの/\心中に昔年の事を憶ひつつも、一人としてこれを口に出さずにしまつたと云ふことも、亦想像し得られぬことは無い。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
勿論一人一人を仔細しさいに観るならおの/\の身分や趣味がちがまゝに優劣はあらうが、概して瀟洒あつさり都雅みやびであることは国人の及ぶ所で無からう。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
元禄より享保に至るまで人おの/\、自己独創の見識を立てんことを競へり。斯の如くにして人心中に伏蔵する思想の礦脈はこと/″\穿うがち出されたり。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
而して時に感情にはしらんとする、及びクロポトキンの主張の特に道義的モオラルな色彩を有する、それらは皆、彼等のおの/\の屬する國民——獨逸人、佛蘭西人
所謂今度の事:林中の鳥 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
鬼怒川きぬがは西岸せいがんにもうしてはるきたかつ推移すゐいした。うれひあるものもいものもひとしく耒耟らいしつておの/\ところいた。勘次かんじ一人ひとりである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
焔は忽ちさかりなり、とみれば、また、かつがつうちしめて滅し去る、怪みて人に問へば、これおの/\わが家の悲しき精霊しやうりやうの今宵ふたたび冥々の途に就くをいた
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
金庫きんこ書庫しよこ土藏どぞうにはおの/\おほきさに相應そうおうする器物きぶつたとへば土藏どぞうならばばけつ)にみづくこと。これは内部ないぶ貴重品きちようひん蒸燒むしやきになるのをふせぐためである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
之を綏撫しておの/\自家保全の策に從事するを得せしむるは、天下無上の美事にして人民無上の幸福と云ふ可し。
帝室論 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
禍福の二門をくゞるのいひに過ぎず、たゞ其謂に過ぎずと観ずれば、遭逢さうほう百端ひやくたん千差万別、十人に十人の生活あり、百人に百人の生活あり、千百万人またおの/\千百万人の生涯を有す
人生 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
たゞ街道がいだう郷村きやうぞん児童ぢどう年十五八九已上におよものおの/\柳の枝を取り皮を木刀ぼくたう彫成きざみなし、皮を以またほか刀上たうしやうまと用火ひにて焼黒やきくろめ皮をもつて黒白のもやうわかつ、名づけて荷花蘭蜜こばらみといふ。
七八人しちはちにんむらがりむに、おの/\つまたいしてならしてむつまじきことかぎりなし。かうけてみなわかとき令史れいしつまうまる。こしもとまたそのかめりけるが心着こゝろづいてさけんでいはく、かめなかひとあり。と。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
危急存亡のとき切迫すること間髪を容れず、抑々そも/\昨年来一時の平和の形をなすといへども、大小藩主おの/\狐疑を抱き、天下人心恟々然きよう/\ぜんとして、その乱れること百万の兵戈へいくわ動くより恐るべし……
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
以上いじやう大體だいたい化物ばけもの概論がいろんべたのであるが、これ分類ぶんるゐしてるとどうなるか。これはなはだ六ヶしい問題もんだいであつて、見方みかたによりおの/\ことなわけである。差當さしあた種類しゆるゐうへからの分類ぶんるゐべると
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
おの/\番号の打つてある札を持つてはゐるが、遅く往つたら這入られまいかと云ふ心配をしてゐる。それは偽札が出たと云ふ噂を聞いたので、番号が重なつてゐるかも知れぬと思ふのである。
防火栓 (新字旧仮名) / ゲオルヒ・ヒルシュフェルド(著)
しかしこの三つの作品にも、おの/\がある。『海へ』はそれでも客観性がかなり多く出てゐる。単なる自己描写と言つて了ふことの出来ない処がある。作の陰に微かながらもある背景がある。
自他の融合 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
其求そのもとめにおうぜず然間しかるあひだかてつきて其夜供の人々うへにつかれ、横田をおの/\悪口しければ、己が過を補はんためにや有けむ、院主不届よし、さん/″\にのゝしりければ
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おの/\の道を求めて果しのない迷路へと離れ離れに進んで行くのである。
工場の窓より (新字旧仮名) / 葉山嘉樹(著)
榛軒詩存を検するに、「天保十四癸卯歳晩偶成」の七絶、「天保十四癸卯除夜」の七律おの/\一がある。今除夜の七律を此に抄する。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ひろくもないはたけのこらずが一くはれるのでおの/\たがひ邪魔じやまりつゝ人數にんずなかば始終しじうくはつゑいてはつてとほくへくばりつゝわらひさゞめく。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
戦士はおの/\二人の立会人と一人の外科医と五六の親友とを従へて到着した。武器としては双方長い剣をえらんだ。立会人等は協議の上二回迄の対戦を承認した。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
たゞ街道がいだう郷村きやうぞん児童ぢどう年十五八九已上におよものおの/\柳の枝を取り皮を木刀ぼくたう彫成きざみなし、皮を以またほか刀上たうしやうまと用火ひにて焼黒やきくろめ皮をもつて黒白のもやうわかつ、名づけて荷花蘭蜜こばらみといふ。
にんではだい乗溢のりこぼれる。の、あのいきほひでこぼれたには、魔夫人まふじんあふぎもつあふがれたごとく、漂々蕩々へう/\とう/\として、虚空こくうたゞよはねばなるまい。それにおの/\随分ずゐぶんある。くいふわたしにもある。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
此書は蘭軒の文稿を綴輯てつしふしたもので、完書の体を成さない。命題の如きも、巻首及小口書こぐちがき、題簽、巻尾、おの/\相異つてゐる。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
其処そこみかどが白い高張たかはり提灯を二つけた衛士ゑいじ前駆ぜんくにして行幸になり、四十七士の国法を犯した罪をゆるおの/\の忠義を御褒おほめに成ると云ふ筋である。(四月十五日)
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
踊子をどりこれをにしてあわたゞしく木陰こかげかくれる。其處そこにはかならおの/\くちからはつする笑聲わらひごゑかれるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
壽阿彌の生涯は多く暗黒のうちにある。抽齋文庫には秀鶴册子しうかくさうしと劇神仙話とがおの/\二部あつて、そのどれかに抽齋が此人の事を手記して置いたさうである。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
密訴みつそをした平山と父吉見とは取高とりだかまゝ譜代席小普請入ふだいせきこぶしんいりになり、吉見英太郎、河合八十次郎やそじらうおの/\銀五十枚をたまはつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
どうぞ此同舟の会合を最後の団欒だんらんとして、たもとを分つてりくのぼり、おの/\いさぎよく処決してもらひたい。自分等父子ふし最早もはや思ひ置くこともないが、あとには女小供がある。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
次は大井と庄司とでおの/\小筒こづゝを持つ。次に格之助が着込野袴きごみのばかまで、白木綿しろもめん鉢巻はちまきめて行く。下辻村しもつじむら猟師れふし金助きんすけがそれに引き添ふ。次に大筒おほづゝが二挺とやりを持つた雑人ざふにんとが行く。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)