やと)” の例文
始は査官ことを尽して説きさとしけれど、一向に聞入れねば、止むことを得ずして、他の査官をやとひ来りつ、遂に警察署へ送り入れぬ。
鬼心非鬼心:(実聞) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
ともちゃんは、俺たちに理解と同情とを持っていて、モデルもやとえないほど貧乏な俺たちのためにモデルになってくれたのだ。いいか。
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
この男は、いつどこから来たともなく、ここの店頭みせさきに坐って、亭主ともつかずやとい人ともつかず、商いの手伝いなどすることになった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私はなお念の為に、彼がやとったという人力車の宿を聞いて、尋ねて見たところ、送り先が、諸戸の住居のある池袋いけぶくろであったことも分った。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
やとうまで待ってくれと云ったら人足じゃいかん懺悔ざんげの意を表するためにあなたが自身で起さなくては仏の意にそむくと云うんだからね
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
処が当時本邦の学校にやとわれて居た教師連には宣教師が多かったので、先生の進化論講義は彼れ等には非常な恐慌を来たしたものである。
処が当時本邦の学校にやとわれて居た教師連には宣教師が多かったので、先生の進化論講義は彼れ等には非常な恐慌を来たしたものである。
もとより貧乏とて手伝いをやとう身分ではありません。村の人たちが気の毒がって、「さぞお疲れのことでしょう」と慰めました。
益子の絵土瓶 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
勝彦や美奈子の母などとも、たゞ、在来ありきたりの結婚で、給金のらない高等な女中をでも、やとったように考うて、接していたのです。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「お父さんが、あなたにフランス人の女中をやとって下すったのは、あなたにフランス語の勉強を特にさせたいお考えからだと思いますが。」
やとうべき駄馬の背も見つからなかった。従って、当面の必要なもの以外を和船の回漕かいそうゆだねたのもむを得ない事情であった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
それは中古のフォードで、柳澤といふ運転手もそれと一緒にやとはれて、住込むことになつたのである。柳澤ばかりではない。
地獄 (新字旧仮名) / 神西清(著)
されば芝居をつくる処、此役者が家はさらなり、親類しんるゐ縁者えんじや朋友はういうよりも人を出し、あるひは人をやとひ芝居小屋場の地所の雪をたひらかにふみかため
勘次かんじいよ/\やとはれてくとなつたとき收穫とりいれいそいだ。冬至とうじちかづくころにははいふまでもなくはたけいもでも大根だいこでもそれぞれ始末しまつしなくてはならぬ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「そうして、お前は好きな女中をやとうて、その部屋のあるじとなってよいのじゃ、人に使われるお前でなくて、人を使う身分と心得てよいのじゃ」
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何でももう老朽ろうきゅうの英語の先生だそうで、どこでもやとってくれないんだって云いますから、大方暇つぶしに来るんでしょう。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
石田は口入の上さんを呼んで、小女こおんなをもう一人やといたいと云った。上さんが、そんなら内の娘をよこそうと云って帰った。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
屋根は天気を見さだめて一日のうちに葺くから、手伝いもいるし、なわや竹も集めねばならぬが、それだけならばやといも買いもすることができる。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その汽車の中で、けふはポンペイから驢馬などをやとはないでかつた。そうでなかつたら、今ごろは山腹あたりで難儀してゐただらうとおもつた。
ヴエスヴイオ山 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
一、今度大学の土木課を卒業した工学士の内五人だけ米国の会社にやとはれて漢口へ鉄道敷きに行くさうな。世界は広い。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
午前ひるまへに二時間の割でやとつてお出でになるのださうで、まだあと十日くらゐは来てくれなければと青木さんは言はれた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
一滴の涙が大効を奏し数度の戦いに心身を練った武田家の遺臣をやとうことが出来たら、こんなうまい商売はないよ
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
無理無体なことではあるが、かれはこの若者をやとって、仮托してまでも、バイロン卿のえらさを現前したかった。
この僧侶そうりょ別当べっとうとなえ、神主の方はむしろ別当従属の地位にいて坊さんからやとわれていたような有様であった。
だ若いようであった。夫と子供に相ついで死にわかれ、ひとりでいるのを、私の家で見つけて、やとったのである。この乳母は、終始、私を頑強に支持した。
新樹の言葉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
……麻薬の取引にでも加わっているのだろうか? 密輸団は、おそらく、多額の金か恐怖で彼女をやとったのだ。
待っている女 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
大家たいか家夫わかいものを尽して力たらざれば掘夫ほりてやとひ、幾十人の力をあわせて一時に掘尽す。事を急に為すは掘る内にも大雪下れば立地たちどころうずたかく人力におよばざるゆゑなり。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
第二篇の饗庭篁村の『掘出し物』は丁度新店しんみせ見世開みせびらきに隣家となり老舗しにせの番頭をやとって来たようなものであるが、続いて思案の『乙女心おとめごころ』、漣の『妹背貝いもせがい』と
翌日土人一名を案内としてやとい、乗馬にて早発し、細川氏にて休み、三時牧塲に着す。其実况はに。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
アヌンチヤタを見るべからざること五週にわたるべし。彼君はフイレンツエの芝居にやとはれ、斷食日の初にこゝを立つなりとぞ。ベルナルドオは語を繼ぎていはく。
世間への遠慮から、未亡人と丑松とは上の渡し迄歩いて、対岸の休茶屋で別に二台の橇をやとふことにして、軈て一同『御機嫌う』の声に送られ乍ら扇屋を出た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
二た刻ばかり後、今日一日の店を仕舞ひ、借りた物は返し、やとつた人には手當をやつてゐるところへ、ガラツ八の八五郎は濡れ鼠のやうになつて飛込んで來ました。
雷門から円タクをやとって家に帰ると、いつものように顔を洗い髪を掻直した後、すぐさますずりそば香炉こうろに香を焚いた。そして中絶した草稿の末節をよみ返して見る。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
先生のうちにも、大麦小麦を合わせて一反そこらの麦の収納をするが、其れは人をやとうたりして直ぐ片づいてしまう。なぐさみにくるり棒を取った処で、大した事も無い。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
やとひ大勢にて尋ね給へと云れて友次郎はお花の事の心に係ればしばしも落付おちつくは無れども先刻よりの足のつかれに今は一歩も歩行べきやうなければ老女が言葉を幸ひに容を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
柳はしかたなしに界方を置いて帰っていったが、どうも不安でたまらないから、輿をやとって急いで老婆の家へ取りにいった。老婆の家はからになってだれもいなかった。
織成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
ロミオ そりゃまことか?……おのれ、うらめしい運星うんせいめら!……おれ宿やどってゐような。ふでかみとをれて、そして驛馬はやうまをもやとうてくれ。今宵こよひのうちに出發たうわ。
ふまでもなくうまむちぼく頭上づじやうあられの如くちて來た。早速さつそくかねやとはれた其邊そこら舟子ふなこども幾人いくにんうをの如く水底すゐていくゞつて手にれる石といふ石はこと/″\きしひろあげられた。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
その婦人なら申分もうしぶんない料理女だからと云う返事であったので即座にこの女をやとうことにめた。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
危いところでしたな。あなたは命拾いしましたよ。わたしは金儲けのやとわれ兵だから、あなたを
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
彼は昨日は嫂の疎開先である廿日市はつかいち町の方へ寄り、今日は八幡村の方へ交渉して荷馬車をやとって来たのである。そこでその馬車に乗って私達はここを引上げることになった。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
あれがいよいよ取りかかる日には何人いくらやとうそのうちに汝が手下の者も交じろう、必ず猜忌邪曲そねみひがみなど起さぬようにそれらには汝からよく云い含めてやるがよいとの細かいおさと
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
戴十たいじゅうというのはどこの人であるか知らないが、兵乱の後は洛陽の東南にある左家荘さかそうに住んで、人にやとわれて働いていた。いわゆる日傭ひよう取りのたぐいで、甚だ貧しい者であった。
米国のある家庭へやとはれて其処そこ仏蘭西フランスに三年間居るだけの学資を作つて巴里パリイへ来た人なんです。親孝行な人で毎月学資の中から日本へ逆に送金して居ると云ふ噂もありました。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「そんなことを俺が知るものかい。俺もお前と同じように、やとわれている身分だよ。なんでもいいから、お金を下さる御主人さまのいいつけ通りにしていれば間違いはないんだ」
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
やがて家に着いて見ると、家の女たちややとってきた泣き女が、泣きつ叫びつ騒いでいた。
しもわれ等が、古代の啓示の矛盾を指摘し、いずれの啓示も、決して円満えんまん具足ぐそくもって任ずるものでないことを告ぐれば、彼等はドグマだらけの神学者の常套語などをやときたりて
石橋いしばしわたしとがかはる/″\める事にして、べつ会計掛くわいけいがゝりを置き、留守居るすゐを置き、市内しない卸売おろしうりあるく者をやとそのいきほひあさひのぼるがごとしでした、ほかるゐが無かつたのか雑誌もく売れました
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
或る時は雑誌屋にやとわれて飜訳の手伝いをしました。或る時は、活動写真館に傭われてプロを作る役目をひき受けました。かくして私は、東京の隅から隅へとうろつき歩いたのです。
悪魔の弟子 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
しまいには皆が気味悪くなって、もう二度と彼女を追うものさえいなかった。かの女は老婆といっしょに住んでいたが、それから後も忙しい家族の手伝いに次から次へとやとわれていた。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)