そうろう)” の例文
昔は戦略のためにいらざる娘を内室にいたしそうらいしが、今もなお商略のために、娘を売買することを見そうろうまことに罪になることにそうろう
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
「おえいは日々雪のつもる山にくずをほりに行きそうろうみなしてかせぎためろぎん出来そうらえば其身にあいに参り候たのしみいてくれられよ」
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかし天下の事は成敗利鈍りどんをもって相判あいはんそうろうわけにはこれなく、小生は正をもって起こり、正をもってたおるること始めよりの目的にそうろう
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「露国の名誉ある貴族たる閣下に、御遺失なされ候物品を返上致す機会をそうろうは、拙者の最も光栄とする所に有之これありそうろうなお将来共しょうらいとも。」
(新字新仮名) / オシップ・ディモフ(著)
それ故われらは学者でそうろうとの大きな顔をするのが大きらいで、私のこの気分は私に接するお方は誰でもそうお感じになるでしょう。
「そら謡曲の船弁慶ふなべんけいにもあるだろう。——かようにそうろうものは、西塔さいとうかたわら住居すまいする武蔵坊弁慶にて候——弁慶は西塔におったのだ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今般版籍奉還の儀につき、深く時勢を察せられ、広く公議を採らせられ、政令帰一のおぼし召しをもって、言上ごんじょうの通り聞こし召されそうろう事。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
沙汰さたという文字は、すなに石まじり見えざるを、水にて洗えば、石の大小も皆知れて、土は流れそうろう。見え来らざれば洗うべきようもなし。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
暑中の御見舞いを兼ね、いささか老生日頃の愚衷など可申述もうしのぶべくそうろう。老生すこしく思うところ有之これあり、近来ふたたび茶道の稽古にふけり居り候。
不審庵 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「ハハハ、鶴の巣籠を吹いて虚無僧でそうろうも虫がよい、そのくらいならば我々でも吹く、何か面白いものをやれ、俗曲を一つやれ」
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
首尾よく、かちりとくわえてな、スポンと中庭を抜けたはかったが、虹の目玉と云うくだんしろものはどうだ、歯も立たぬ。や、堅いのそうろうの。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
身もかりの身、すこしのあいだにむやくの事を思い、つみをつくり、りんね、もうしゅうの世に、ふたたびかえりたもうまじくそうろう
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
ここにあえて一書を呈して、フランス座へ戯曲一篇を送りたる一文人へ、貴下の御あわれみと御同情とを賜わらんことを懇願仕まつりそうろう
折り入ってお話しいたしたきことこれありそうろうまま、ちょいと、お顔拝借いたしたく、むかし馴染なじみおわすれなされまじくそろ。お高祖頭巾より
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
此度このたび権現様小笠原与八郎を先手におおせ付けられそうろう。与八郎下心に挾む所ありといえども、辞退に及ばずして、姉川にて先手致し勝利を得申し候。
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
老生此度このたび郊外にささやかなる別荘を買求めそうろうについては来る十五日別荘開きの小宴を催したく当日午後一時Sホテルまで御光来を
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「小野派一刀流五点の二位、下段より仕掛け隙を見て肩へ来るを鍔元競り合い、体当りでくだき後は自由、絶妙剣と申しそうろう!」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
子を思う親の心は上下みな一つと存じそうろう。お取り上げこれなきをさらさらお恨みには存ぜずそうらえどもご政道に依怙えこのお沙汰さたあるときは天下乱る。
この度立ちかえりて、父の病いが業病ごうびょうなりしことを知りおどろき、ましてやその姿を由利どのに見られし悲しさは、たとえるものもこれなくそうろう
終りに「最近には感化院の御厄介となり、……次いで裁判所に曝され……終りに断頭台上の人となる事を希望致しおりそうろう
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
「武田殿が御内みうちにて、原美濃守みののかみが三男、仔細なそうろうて、鳴海の東落合に、年ごろわび住居な仕る桑原甚内くわばらじんないともうす者でござる」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かえって心配の種子たねにて我をも其等それらうきたる人々と同じようおぼいずらんかとあんそうろうてはに/\頼み薄く口惜くちおしゅう覚えて、あわれ歳月としつきの早くたてかし
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
拝啓、小生は小鳥類を餌養じようし、籠中ろうちゅうに運動し、余念なく時節につれて囀啼てんていするを見聞し、無上の快事といたしおりそうろう
妖怪報告 (新字新仮名) / 井上円了(著)
このベシイ・マンディ嬢が、ヘンリイ・ウイリアムズ——Henry Wiliams——これも山田太郎的に、変名でそうろうといわんばかりの変名だ。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「なおまた故人の所持したる書籍は遺骸と共に焼き棄て候えども、万一貴下より御貸与ごたいよの書籍もそのうちにまじり居り候せつ不悪あしからず御赦おゆるし下されたくそうろう。」
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
下民を苦しめそうろう諸役人をみな誅伐ちゅうばついたし、ひき続いてきょうに長じ居候市中金持の町人どもを誅戮ちゅうりくに及び申すべく、とか。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
西鶴の『本朝二十不孝』巻二「旅行の暮の僧にてそうろう、熊野に娘優しき草の屋」の一章など、小説ながら当時しばしば聞き及んだ事実にったのだろう。
「明日参上いたすべくそうろうに付、ほかに御用事なくば、御待下されたく候。もっとも当方も用事にては無之これなく候」としてある。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
山男、西根山にしねやまにて紫紺のり、夕景ゆうけいいたりて、ひそかに御城下ごじょうか盛岡もりおか)へ立ちそうろううえ材木町ざいもくちょう生薬商人きぐすりしょうにん近江屋源八おうみやげんぱち一俵いっぴょう二十五もんにて売りそうろう
紫紺染について (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
追而おって来る××日×時、花山祭場に於て仏式を以て告別式を相営み、のち同火葬場に於て荼毘だびに附し申可くそうろう……
火葬国風景 (新字新仮名) / 海野十三(著)
従古いにしえより当路者とうろしゃ古今一世之人物にあらざれば、衆賢之しゅうけんの批評ひひょうに当る者あらず。不計はからず拙老せつろう先年之行為こういに於て御議論ごぎろん数百言すうひゃくげん御指摘ごしてき、実に慙愧ざんきに不[ママ]ず、御深志かたじけなくぞんじそうろう
我儘わがままなわたしは、自分で図書館へ行かずに、かくのごときものがほしくそうろうと書いて手紙を出せば、たちどころに、何の中にかくありましたと、それは明細に
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
いまさらわしが隠居仕事でそうろうのと言って、腰弁当で会社にせよ役所にせよ病院の会計にせよ、五円十円とかせいでみてどうする、わしは長年のお務めを終えて
二老人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
蓮如上人れんにょしょうにん御一代ごいちだい聞書ききがきにいう「御膳おぜんを御覧じても人の食わぬ飯を食うよとおぼしめされそうろうと仰せられ候」と。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
今日、ある人(しひて名をのぞく)から聞けば、君と加藤の妹との間には多少の意義があるとのことに候ふが、それはほんたうか如何いかに、お知らせくだされたくそうろう
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「貴下の撮影にかかる雪の結晶写真の中、側面より撮影されし写真多数を拝見つかまつそうろう如何いかにして雪の結晶を垂直に立てられしや御差支おさしつかえなくば御洩おもら被下度候くだされたくそうろう
雪雑記 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
このたび申合せそうろうものども四十八人にて、斯様かように志を合せ申す儀も、冷光院殿この上の御外聞と存ずることに候。死後御見分のため遺しおき候口上書一通写し進じ候。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
正月七日の夜、某旧識きゅうしきの人の奴僕ぬぼく一人、たちまちに所在を失ひそうろう。二月二日には、御直参ごじきさんの人にて文筆とも当時の英材、某多年の旧識、これも所在を失し、二十八日に帰られ候。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そつ事ながらわたしこと』と、書いてあった、——『叔女として同じ叔女たるあなた様にお手紙まいらせそうろう。この期会にめぐまされ候こと、まことに嬉ばしき限りにて』
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
昔風のそうろうずくめの手紙なら巻紙に筆で書くのがよう似合におうとるけど、言文一致にゃ西洋紙にペンを
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
とある大字のわきに小さく「病畜びょうちく入院にゅういんもとめにおうそうろう」と書いてある。板の新しいだけ、なおさらやすっぽく、尾羽おはらした、糟谷かすやの心のすさみがありありとまれる。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
……お前さんによく似たどこかのわるが、お前さんがこんど小鰭の鮨売の所作を出すということを盗み聞き、三津五郎が鮨売の型をとるために、鮨売になってふれ売りして歩くそうろう
顎十郎捕物帳:22 小鰭の鮨 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
『日本』へ俳句寄稿に相成候あいなりそうろう諸君へ申上候もうしあげそうろう筆硯ひっけん益〻御清適ごせいてきの結果として小生の枕辺ちんぺん玉稿ぎょっこうの山を築きこの冬も大約一万句に達しそうろうこと誠に御出精ごしゅっせいの次第とかつ喜びかつたてまつり候。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
生命いのち知らずの門下を従えて福岡市内を横行したというのだから、デートリッヒやターキーがすべったの、女学生のキミ・ボクが転んだのそうろうといったって断然ダンチの時代遅れである。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
先刻西那須野にしなすのを過ぎて昨年の塩原しおばら行きを想い出すままにこのはがきをしたためそうろう
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
御風邪ごふうじゃの由心配致しをりそうろう蒲柳ほりゅう御身体おからだ時節がらこと御摂生ごせっせい第一に希望致し候。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こんな天気のいい時だとおもい起しそうろうは、小生のいささか意に満たぬ事あれば、いつも綾瀬あやせの土手に参りて、折り敷ける草の上に果は寝転びながら、青きは動かず白きは止まらぬ雲を眺めて
わが師への書 (新字新仮名) / 小山清(著)
文角も鷲郎も、うやうやしく一礼なし、初対面の挨拶あいさつもすめば。黄金丸また文角にむかひて、「さるにても文角ぬしには、怎麼いかなる仔細のそうろうて、今宵此処には来たまひたる」ト、連忙いそがわしく尋ぬれば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
『ほととぎす』落掌、まず体裁のママ外によろしく満足致しそうろう。実は小生は今少しケチな雑誌ならんと存じ「反古籠ほごかご」なども少き方よろしからんとわざと少く致し候ところ甚だ不体裁にて御気毒にぞんじ候。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
しかる処また明朝も同様、大審院の方に止むを得ざる用件出来しゅったいいたしそうろう上、あなた様はじめ、アヴドーチャ・ロマーノヴナの親子兄弟、水入らずの御対面をお妨げ致すも心ぐるしく存じ候につき